167. もうちょっと居ない間に
僕たちはラーリア様とミーリア様がまだ謹慎中の間、図書館へのトンネルに掛かりっきりだった訳ではない。
ボブたちに頼まれて、大鳥狩にも2回行った。
ボブたちとラーリアたちで大鳥が取れない訳ではないのだが、僕らが加わることで、一度に5羽を獲ろうという算段なのだ。
大鳥のオスを前と同じに僕たちが狙って獲ろうすると、雄と反対方向に雌たちが逃げていく、その逃げていく雌たちも罠を作って一度に獲ろうという訳だ。
そして今回はエーレアたちもその一翼を担うことにしたのだ。
僕たちは前と同じ仕掛けを使うのだが、人間とラーリアたちは、もっと簡単に網ではなくロープを輪にして引っかかったら締まる形の仕掛けを作った。
ボブたちが仕掛けを担当して、大鳥が引っかかったら締めて転ばせるのを担当するから、まあ、問題なく出来ることだろう。
問題はエーレアたちで、エーレアたちはそれでは不安だと言うので、僕たちが使っている網と同じものをもう一つ作って用意した。
さて本番になり、僕たちは前と同じように正面からオスの大鳥を狙うことにする。
エーレアたちは、友たちとラーリアたちと共に、大鳥の群の背後に大回りして向かって行った。
エーレアたちは不安な顔をしているが、ボブたちに頼んでおいたから、まあ大丈夫だろう。
僕は背後に回った方の準備が終わったのを確認してから、前と同じ様にディフィーに矢を放ってもらった。
僕たちはもう手慣れた感じで、オスの大鳥を手に入れた。
友たちとラーリア様の方も、あっさりと3羽を確保していて、エーレアたちは多少バタバタしたけど大丈夫だった。 1羽確保している。
「少しバタバタしていたみたいだけど、大丈夫? 怪我なんかしてない?」
ナーリアがエーレアたちに声を掛けた。
「大丈夫、誰も怪我していない」
エーレアが答えた。
「あんなにたくさんの大鳥が私たちの方に向かってくるなんて反則よ。
踏み潰されてしまうかと一瞬思ったわ」
エーレルが怖かったと言っている。
「でも、言われた通り、大鳥の方で勝手に避けて行ったじゃない。
危険はなかったわ」
エレドがそう言って状況を説明してくれた。
「まあ、あなたたちも獲れたんだから、良かったじゃない。
集落で騒がれても、今度は自分たちで獲ったのだと胸を張っていられるわよ」
そう言ったディフィーの言葉とおりに、5羽もの大鳥を一度に運んで行くと、集落は騒ぎになった。
僕たちはこの後の大鳥の処理の準備のため、集落を素早く抜けてしまい、また流石にラーリアの方たちにまとわり付くのは気がひけるのか、騒ぎの中心はエーレアたちになってしまった。
僕らは獲ってきた大鳥をドンドン処理していく。
川辺で血抜きをした後は、どんどん毛を毟っていく。 毛抜き場が今日は大忙しだ。
お湯に浸けては羽を毟っていく。
オスの大鳥の尾羽はセカンとディフィーが予備の羽ぼうきを作るために別に集めたが、雌の小さな尾羽や普通の羽は今のところ使い道がない。
大鳥の体の羽毛は、それが一番の目的だから丁寧に集められた。
その後はまた川に持っていき、皮を剥き、肉は塩漬けにされていく。
僕たちは一匹分くらいの肉を貰い、他は奥に運んでもらう。
「一応塩漬けにしてるけど、肉をどう食うかはミーレナさんと相談して決めるよ」
エレクがそう言った。
ちなみに今日はミーレナさんは家の方には来ていない。
奥にラーリア様が一人になってしまうので、奥で留守番をしてくれているのだ。
午前中に大鳥の狩に行ったのに、遅れて戻ってきたエーレアたちの大鳥まで処理するのに、途中で食事を挟んで、しっかりと夕方まで掛かってしまった。
これを二日続けて、イクス様とミーレナさんの分も含めて、12枚の羽毛が中に入った布団を作ることが出来る様になった。
ま、布の袋を縫うのはそれぞれにお任せだ。
「私、ミーレナさんは片手では難しいかと思い、お手伝いしようと思っていたのですけど、全く必要がなかったですね。
というより、それご自分の分じゃないですよね」
セカンがミーレナさんと話している。
「ま、片手でもどうにかなるものよ。
それに私片手といっても、左は手が動かないだけで腕の部分は動くから、尻尾と合わせれば、結構どうにかなると最近分かったのよ。
それで、これはラーリナ様の分。
ラーリナ様、私が縫った袋見たら、急にやる気を失って、お願いされちゃった」
「私、何となくラーリナ様の気持ちが分かる」
ナーリアがそう言った。
エーレアたち待望の弓も、もう最終段階に来ている。
燠火を作って、蔓で巻いて楔で形を整えて乾かした弓を持ってくる。
まずは楔と蔓を外して、弓を燠火で炙って、上下の先端部を少しだけ体から離れる方向に曲げるのを行う。
実は弓はミーレナさんもエーレアたちと一緒に作っている。
ミーレナさんもその作業をしようとしたのだが、これだけは片手では上手くいかないみたいで、僕が手伝った。
それが終わると、みんな弦を張ってみて弓の調整を始めたのだが、ミーレナさんはディフィーとセカンに手伝ってもらって、弓の持ち手のところに別の棒状のモノを取り付けている。
その棒状のモノを取り付け終わり、弦を張るとミーレナさんはその棒状のモノに取り付けられている革のバンドで、棒状の部分を左腕に括り付けた。
そうするとミーレナさんは弓の弦を右手で引いて見せた。
そして何度か引いて調子を確かめると、さすがに一々バンドを外して弓を取り外すのは面倒なのか、セカンに指示して、弓を削って調整している。
エーレアたちの弓は、まず自分で調整してから、それをレンスとサーブが調整し直して仕上げている。
エーレアたちの弓の仕上げが終わり、レンスとサーブもやって来た。
「大体の調整はこれで良いと思うけど、見てみてね」
ミーレナさんはバンドを外し、弓をサーブとレンスに預けた。
二人は驚いた顔をした。
「ミーレナさん、流石です。 私には直すところなんてありません」
「ん、私も完璧な調整だと思う」
サーブとレンスがそう言うと
「やーね、弓の調整は二人の方が上手よ。 遠慮しないで、ちゃんと指摘してね」
「いえ、本当に私たちには完璧に思えます」
サーブが重ねて言った。
それから重ね合わせている部分に、防水のためのタールを塗ったり、要所要所に薄く削った竹紐を巻いて補強したり、持ち手に革を巻いたりして弓を仕上げた。
これで乾けば、弓の完成だ。
結局、完成したのはラーリア様とミーリア様の謹慎明けの日だった。
朝、森から戻ってくると、ミーレナさんと一緒にラーリア様もやって来ていた。
そして少し遅れてミーリア様もやって来た。
まあ、部屋に10日も籠っていたのだから、謹慎が終わったら僕らの家に遊びに来る気持ちは分からなくはない。
でもどうしてか、ミーレナさんだけでなく、ラーリア様も弓と鎧を持参していて、ミーリア様も鎧を持ってきている。
僕はちょっと意地悪してラーリア様とミーリア様を無視して、ミーレナさんに話しかけた。
「ミーレナさんは弓は作るのに、胸当てには興味を示さなかったのは、鎧があるからだったんですね」
「もう上位じゃないから、鎧も誰かにあげようと思って、アレアに声をかけたんだけど、『体型が違いすぎるので無理です』と断られちゃって、そのまま私が持っているのよ」
ラーリア様が待ちきれずに僕たちに声を掛けてきた。
「エーレアの弓が出来上がって、今日は試してみるそうだな。
私も混ぜてくれ」
ミーリア様も声を出した。
「私も運動不足なのよ。 ナーリア、弓貸して。
アレク、何で私の弓を作っておいてくれないのよ」
胸当てに着替えて出てきたエーレアたちは、出来上がった弓のせっかくの初めての試し射ちなのに、急にラーリア様とミーリア様も飛び入り参加することになり、久しぶりに固まっている。
「ラーリア様、ミーリア様、運動不足の解消に弓を射るのは良いと思います。
ミーリア様には弓もお貸しします。
でも今日は出来上がった弓をエーレアたちとミーレナさんが試すのが一番の目的ですから、それがとりあえず終わるまでは、静かに見守ってくださいね」
ナーリアが二人に釘を刺している。
二人ともちょっとシュンとしている。
ナーリア強くなったなぁ、普通にラーリア様とミーリア様を諌めてるよ。
エーレアたちは的に近い位置から確かめるように矢を射っている。
徐々に距離を伸ばしていったが、エーレファ、エーレルはレンスが射る位置で止まり、エレオ、エレドはナーリアとセカンの位置の少し手前で止まった。
エーレアはサーブの姉妹だからサーブと同じくらいまで行くかと思ったのだが、ナーリアたちの位置を少し超えた辺りで止まった。
ミーレナさんは流石で、僕とサーブとディフィーが練習している位置で、楽々と射っている。
それに命中率も、僕たちと変わらない、もしかしたら上かもしれない。
一応、試射にエーレアたちも満足したので、ラーリア様とミーリア様に加え僕たちもみんな弓の練習に混ざった。
さっきの試射の時のミーレナさんにラーリア様は刺激を受けたようで、ミーレナさんに弓の勝負を挑んでいた。
ミーレナさんは困っていたのだが、
「遊びなのだから、良いのではないですか」
とナーリアが言って、勝負することになった。
そしたら、僅かな差だがミーレナさんが勝ってしまった。
「サーブ、レンス、ちょっとこの前の激戦で、弓に狂いが出てしまったようだ。 調整し直してくれ」
ラーリア様が負け惜しみでそう言って、サーブが
「ラーリア様、ミーレナさんの弓はご自分で調整された物で、私たちは手を出していません」
と答えると、ラーリア様はグッと詰まった。
見ていたエーレアたちが、ちょっとボヤいた。
「ミーレナさんはあれだけの実力があるのに、上位を引退したっていう。
私たちは、こんな実力で上位にしてもらっている。
本当にどうしたらいいのか分からない気分になるわ」
それを聞いたミーリア様が言う。
「ミーレナ、あなた、やっぱり上位に戻りなさいな。
左手のハンデなんて全く感じないじゃない」
「そうだな、この実力で上位でないのは、逆に不自然だな」
ラーリア様もそんなことを言う。
ミーレナさんは笑って言った。
「いいえ、私はこのままで十分です。
私は様付けで呼ばれるより、今のさん付けで呼ばれる方がよっぽど楽しいですから」




