166. 開通
ここのところ、ハーピーの里を訪ねたり、アーリア様とアーリル様に補充の薬を届けたりと、みんなから離れ1人違う行動をしている時間が多かった。
その上、家に居る昼間の時間は、やっと弓と胸当てを作ることが出来るようになったエーレアたちが、その作業を急いでいて、ひっきりなしにアドバイスを求められる。
「もうすぐ冬ごもりだから、それまでに作って試射するくらいまではしたいから」
と言われれば、その気持ちは分かるから僕たちもそれに付き合わざる得ない。
まだラーリア様とミーリア様が謹慎中で、ラーリア様が何らかの仕事を持ち込んだり、ミーリア様が家に来てないことが救いというか、少しだけ楽になっている。
それで今日は久々の休日なのだが、例によって午前中は誰かしら来ている。
今日はワーリアたちが来ている。
もうとっくの昔に彼女たちも火の扱いは完全に覚えているし、僕以外の人間とも普段頻繁に一緒している訳で、何かを改めて教えることもないと思うのに、何故来たのか疑問だ。
「ワーリア、お前たち、今日なんでここに来たの?」
「私も疑問、今、私たちがあなたに教えることなんてないよ」
ナーリアも同じ様に思っていたようだ。
「うん、まぁ一番はエーレアたちの見学かな。
今、弓と胸当てを作っているんでしょ。
集落に戻ってきても、興奮してその話をしているから、やっぱりちょっと興味を持っちゃって。
それに私たちも全員脱皮しているから、作りたいという気持ちもあるから」
「ただ、エーレアたちから話を聞いたところによると、胸当て用の型作りに時間が掛かるのだろ。
それだと冬ごもりまでに、もう作るのは間に合いそうにないから、とりあえずはどんな感じに作るのか知っておこうと思って」
ワーリアとワーリオが答えてくれた。
僕はちょっと考えた。
「そんなに新しい弓が欲しいのかな」
「そりゃ欲しいに決まっている。
あれだけお前らナーリアたちの活躍を聞かされれば、当然だよ。
今日だって、ヤーレアたちとの勝負に勝って、私たちは来ているんだから」
「えっ、ヤーレアたちも欲しがっているということ?」
「アレク、私たちの姉妹たちだけじゃないよ。
上位の人たちはみんな欲しがっているよ。
まあ、ラーリア様たちは鹿が戻ってきたら、ボブたちと一緒に早速作ったみたいだけど」
うん、それは僕も気がついていた。
ボブたちが自分たちが使う弓を作ろうとしてたら、ラーリア様たちもそれに便乗して作っていた。
そこでちょっと僕はワーリアたちに提案した。
「あのさ、ワーリアたち、ちょっと聞いてくれないかな。
普通の弓も良いとは思うのだけど、別の物も試してみたくないかな。
狩に使うにはちょっと使いにくいけど、胸当てを必要とはしないから、作ればそんなに時間がかからないで使えるよ」
僕は頭の中でディフィーに最初作ろうかと思ったけど、狩に使いにくいということで諦めたクロスボウを考えながら話した。
「うーん、どんな物か分からないと返事のしようがないよ」
ワーリアの意見はもっともだ。
「分かった。 一つ試し用を作ってみるよ。
出来たら声掛けるから、そうしたら検討してくれ」
「わぁ、楽しみ」
ワーリアたちから歓声が上がった。 逆にナーリアたちからは、また何しているの、という感じのちょっと冷たい視線を感じた。
エーレアたちの弓作りは、もう貼り合わせの最後の工程で、貼り合わせた弓に蔓を巻き、楔を打って乾かす時の曲がりを矯正していた。 弓の完成までもう一息だ。
昼までにそこまでの工程を終えて、またそれを見学して、エーレアとワーリアは集落へと戻っていった。
昼食を終え、僕は久しぶりに今日ゆっくりしようと、みんなに提案しようと思っていたら
「アレクはゆっくりしたいという顔をしているけど、今日はこれからトンネルのこちら側の崩れた土砂を退ける作業をすることに決まっているんだ」
とサーブに先を越されて言われてしまった。
「図書館側の整備はどうなっているの、そっちが終わってなければ仕方ないし」
「アレクが1人で色々している間に、そっちはもう綺麗にしちゃったよ」
ナーリアが褒めてほしそうな顔をしてそう言った。
僕はこれは褒めないといけないのだなと思って、なんて言おうかちょっと考えていたら
「そんな事はいい、早く行って作業をする」
「開通すれば、冬でもきっと楽に図書館に通えるようになる」
セカンとディフィーに即座に動き出されてしまって、言いそびれてしまった。
あ、まずい、ナーリアが不満顔だ。
作業はまずは土を掘らなくてはならない訳で、そういう事はサーブの独壇場だ。
セカンとナーリアも交代で土を掘っているが、サーブは交代もせずに土を掘っている。
僕は土を掘ることではラミアに全く敵わないので、掘った土砂を別の場所に運ぶために、例の竹の箱に入れることを頑張った。
ディフィーとレンスは台車でそれを運んで邪魔にならない別の場所にこぼして来ることを担当した。
大きなトンネルではないし、入り口が上から流れてきた土に埋まっただけで、幸いなことに木が生えてもいなかったので、割と簡単に掘り出すことができた。
「反対側でも思ったのだけど、なんだか中が臭いよね」
ナーリアがそういうとセカンが
「きっと中はコウモリなんかの巣になっているのだと思う」
と言った。
僕は風向きから丁度良いと思って、トンネルの入り口で焚き火をして、わざと乾いていない枝葉などをのせて煙を出し、トンネル内に流し込んだ。
煙を流し込み始めてほんの少しで、すごい勢いでコウモリが飛び出してきた。
「うわぁ、こっちにこれだけ出てきたという事は、反対側はもっとたくさん飛び出しただろうなぁ。 トンネルの中はコウモリの糞できっと大変なことになっているよ。 掃除が大変だな」
みんな嫌な顔をしている。
「でもまあ、コウモリの糞はとても良い肥料にもなるのだけどね」
僕がそう付け加えると、ナーリアとレンスが興味を示した。
「それ、花壇に入れれば、すごく良いってこと?」
レンスが聞いてきた。
「うん、ま、そういう事だな」
「ナーリア、炭を取り出した時のような格好をして、鼻と口を布で塞いで、向こう側から掃除をしよう」
「うん、レンス、それしかないね」
レンスとナーリアの2人は花壇のこととなると、万難を排しても押し進めるという気概を見せる。 セカンとディフィーはトンネルで1番の恩恵を受けるはずなのだが、この2人のノリには、ちょっと腰が引けている。
「とにかく一度トンネルの中に入ってみないか?」
サーブがそう提案してきたのだが、僕はコウモリの様子からちょっと躊躇した。
「煙の動きからして、トンネルは向こう側まで通っていると思うのだけど、とりあえず少し間を置かないか。 風が通れば少しは臭いも減るだろうし。
あと、反対側からも燻したりとかしないと、今出て行ったコウモリもすぐ戻ってきちゃうだろ」
「そんなに真剣に奥まで入ろうと思っている訳じゃないんだ。
反対側の出口からの光が見えないかな、と思っているだけだから。
とりあえず私が入ってみよう」
サーブの熱意に負けて、とりあえず棒の先に小枝を蔓でくくり付けて、簡単な松明を作り、それに火を点けて、入り口で燃やしていた焚き火は消して撤去した。
少なくとも僕には暗くて中が良く見えないので、その松明の火を中に投げ込んでみた。
埋もれた入り口の隙間から中に入り込んだ蛇が、内部を巣にしていたのだろうか、松明の火に驚いたのか、蛇が何匹もこちらに向かって逃げてきた。
「うわっ、蛇だ!!」
サーブが一目散に逃げた。
僕はちょっと呆気にとられた。 サーブを追って、みんなのところに戻って
「サーブ、ラミアが蛇見て逃げるなよ」
「アレク、それは違うぞ。 嫌いなものは嫌いなんだ。
ラミアの尻尾と蛇が似ているとはいっても、それとこれは話が別だ。
熊だって足で立ち上がるが、普通、人間は逃げるだろ」
「そりゃ、クマは危険だから逃げるけど、あのくらいの蛇はどうってことないだろ」
「そんな事はない。 蛇は噛み付いてくるから怖い」
「それに蛇にはラミアみたいに手はないわ」
「手だけじゃない、体もない」
「舌の先が分かれていて気持ち悪いし」
みんな次々とサーブに加勢してくる。
「つまり、みんな蛇が嫌いなの?」
「アレク、蛇が好きなラミアなんていないよ、きっと」
ナーリアがそうまとめた。
「で、どうする? 中入ってみる?」
「いや、もう少し間を置こう。 それからコウモリや蛇の対策を考えてからにしよう」
サーブがあっさりと前言を翻し、慎重路線に切り替えた。
みんな異存はないようだ。
トンネルはそれから何度か図書館側からも、家側からも燻して中にいるコウモリや虫などを追い払った。
トンネル内のコウモリの糞は、ナーリアとレンスが根性を出して掃除した。 これは最初は大変だったが、少し綺麗になってくるとどんどん臭気は薄まっていき、想像よりは楽だった。 とはいっても最初はほんの少しの作業で逃げるほどだったのだが。
家の方のトンネルの入り口は、ダイクに頼んで、崩れない様に石で補修し、トンネル入り口の上部の崩れそうな土砂は撤去した。
一番の問題はやっぱりコウモリで、巣になっていたからか、追い出してもすぐに舞い戻ってきてしまう。 そこで仕方なくバンジに頼んで、トンネルの入り口に扉を付けて、普段は扉を閉めておくようにした。 トンネルの中で小さく火を焚きコウモリを追い出して扉を閉めて、やっとコウモリを完全に追い出した。
しかし扉を付けたことにより、ただでさえ明かりがあまり入らずに暗かったトンネルが完全に闇に閉ざされ、松明などの明かりを持たないと入れなくなってしまった。元々暗すぎて、明かりを持たねば良く見えなかった僕は、松明を持って中を歩くのは普通に感じていたのだが、ラミアは火を持って歩くということが最初とても不安そうだったが、セカンとディフィーはすぐに慣れ、ナーリアたちも徐々に慣れた。
ただ、トンネルに入るのに、入り口のところでいちいち松明に火を付けねばならないのは、とてもめんどくさいのだが、今のところまだ上手い対処法は考えついていない。 松明を用意するのも地味だけどちょっと大変だったりするのだ。
とはいえ、家と図書館の間は今までと比べると、とても簡単に行き来ができるようになった。
元々、このトンネルを使っていたのだろう父祖様は、このトンネルの闇をどうやって克服していたのだろう。




