165. 同盟
僕は朝ハーピーの用意してくれた果物しか食べていなかったので、いつもよりかなり早いくらいの時間だったが、すぐに昼食にしてもらった。
ミーレナさんは奥でラーリア様たちの世話をしているので、今日はこの家に来ていない、僕は疲れているだろうからとセカンとナーリアが調理を担当してくれた。
セカンは僕がハーピーの所で果物とウサギの肉を食べたと聞くと、干した魚を切って焼いてくれた。
別になんてことはない、いつもの食事なのだが、僕はみんなで食事するのが嬉しくて仕方なかった。
ハーピーと食事していた時も、色々話したりして楽しいと思っていたのだけど、家でみんなと食事するのは、それとはやっぱり違って、それだけで心が落ち着くというか満たされるのを感じた。
だって、みんな僕が居ることに安心して、微笑んでいるんだよ、幸せな気分にならない訳がない。
午後はとうとうエーレアたちの弓と胸当てを作り始めた。
最初にエーレファが作った型に、鹿の革を濡らして大まかに貼り付けておく。
それがまず第一段階で、少し乾くのを待つ間に森に入って、新しい弓の原型となる今現在の自分の体型に合った長さの木を採ってきてもらう。
そしてまずは作り慣れている木の弓を作らせ、その厚みを普通の1/4くらいまで薄くしてもらう。
午後の時間にそこまで出来る訳もなく、ある程度削ったところで、胸当ての型に戻って、セカンの指導の下に革の形を切ったり、補強用の新たな革を貼り付けたりして、また乾かすことになった。
この日はここまでで、エーレアたちはいつもより少し時間が早いが集落へと戻って行った。
それと入れ替わりにイクス様がやって来た。
「今夜は奥に言って話をするから、私もここで食事をしたいわ。
あなたたちもみんな話に加わりなさい。
あなたたちに秘密にしててもしょうがないし、余計に面倒だわ」
イクス様の言葉で僕たちは夕食も少し早めに取り、日が沈んだら即座に集合住宅に入れる様に時間を合わせて奥に向かった。
僕たちが奥に入ると、友たちも勢揃いして、集合住宅の前で待っていた。
陽が沈んだのを確認して、みんなで集合住宅の中に入る。
ラーリア様たちもみんな二階から降りてきた。
集合住宅の一階は真ん中に炉があるだけの大きな部屋になっているので、流石にこの人数では少し狭いけど十分にみんな入ることができる。
ケンとバンジが炉に火を点けた。
部屋を暖めるためではなく、明かりとするためだろう。
ミーレナさんが自分はもう上位ではないから、この場に居るべきではないだろうと考えたのか、部屋から出て行こうとする。
僕はそのミーレナさんに声を掛ける。
「ミーレナさん、ミーレナさんにも関係しますから、ここに残っていてください」
イクス様とラーリア様がチラッと僕の方を見たが、そのことに何も言わなかったので、ミーレナさんも隅に落ち着いた。
「さて、私は夜になるまで状況が分からなかったが、アレクとデイヴとキースの顔を見て安心したぞ。
とりあえず無事で良かった」
僕とデイヴとキースは頭を下げた。
ラーリア様だけでなく、他のラーリア様たちもホッとした顔をしている。 特にラリオ様とラーリン様は自分が何も知らないうちに、デイヴとキースが命の危険があることをしていた訳で、とても心配だった様だ。
「それで話し合いの結果はどうなったんだ?」
ラーリア様は心配そうな顔で話を急いだ。
「はい、話はとても順調に進み、細かいことは後で考えることにして、根本的なこととしてラミアとハーピーは同盟することに同意が取れました」
部屋にいるみんなが、おおっ、というどよめきをあげた。
ラーリア様たちが涙を零された。
「ラミアの間違った思い込みの故で、非は我らラミアの方にあるとはいえ、私たちラーリアはハーピーとの戦いで死んでいった多くの仲間を覚えている。
それと共に勇敢だったハーピーの戦士もたくさん思い出すことができる。
同盟が成ったと聞き、その亡き者たちを思い出して、つい涙が出てしまった。
だが、この同盟は未来に向けてのことであるな。
これからのことは何か言っていたか」
「いえ、ハーピーからは、とにかく同盟するという回答をまずは早く届けよ、とのことで、細かい話はこれからだと言われて、何も話はできていません。
ただ、一つ条件をつけられました」
ラーリア様の顔が厳しい顔になった。
「この同盟に人間も加える様にする、ということで、人間が加わらなければゴブに対抗するのは不可能だろうから、とのことです」
「それはとても真っ当な意見だな。
ラミアもハーピーも数が少ない。 とてもではないが、ゴブの大攻勢には対抗できないからな」
「はい、その通りだと思います。
何か人間の集落とも話をするきっかけをこれから考えないと駄目だと、僕も思います」
「それで今後のやり取りはどうすることにしたんだ」
「一応、明後日にもう一度僕たちがハーピーの里を訪ねることになっています」
「それではその時に、お前たちと共にラミアを誰か派遣すれば良いということだな」
「それなのですが、それは無理だと思います」
「無理とはどういうことだ」
「ハーピーの里の長たちの所へは、僕たちはハーピーに掴まれて空を飛んで移動しました。
人間は腕をハーピーに掴んでもらって、空を飛ぶことができますが、ラミアでは多分無理じゃないかと思います」
「無理というのはどういうことだ」
「人間は木の枝に腕だけでぶら下がることが出来ますが、ラミアではそれは無理じゃないかと僕は思ったのですが、どうでしょうか。
僕はラミアが尻尾で体を支えるのは良く見ますけど、腕で体を支えているのは見たことがないので」
ラーリア様たちやナーリアたちも互いにヒソヒソと話して確かめているが、誰からも腕で木の枝にぶら下がれるとは言わなかった。
レンスでさえ、そんなことをしているのを見たことがないのだから、僕はハナからそんなことができるラミアはいる訳ないと思っていたのだ。
「それで、ラミアも行きやすい場所で顔を合わせて話をすることも考えたのですが、上空から見た限りハーピー側の場所で都合の良い場所が僕には見つかりませんでした」
ラーリア様たちは成る程という顔と、どうしようもないという顔をしている顔に分かれている。
「それで僕は思うのですが、ハーピーにこちらに出向いてもらう方が簡単だと思うのです。
ただ、ミーレア様のことが有ったばかりですから、集落の方へというのはまだ問題があると思うので、ここか僕たちの家の方に来てもらえば良いのではと思いました」
「分かったわ。 アレクくん、その心算があったからミーレナもここに残る様に言ったのね」
イクス様が口を挟んできた。
「でも、ここに来てもらうにしても、まだちょっと無理ね。 ハーピーが今集落の上を飛んだら大騒ぎになっちゃうわ」
「無理ですか?」
「うん、まだ無理ね。 理屈では分かっていても、感情がどうしてもまだ無理なのよ。 時間を置かないと」
ラーリア様たちもみんな頷いている。
さて、困ったと僕が考えているとイクス様が言った。
「どうせもうすぐラミアは冬ごもりよ。
同盟することはもう決まったのだから、後のことはそんなに急ぐ話じゃない。
みんなが冬ごもりしてから、ゆっくりここに居る者とハーピーで話をすることにすれば良いわ」
家への帰り道、ナーリアは少し怒っていた。
「で、結局アレクはまた明後日、ハーピーのところに行くことになった訳よね」
「ナーリア、今度は安全なのは分かっているし、すぐに戻ってくるから大丈夫だよ」
うん、理屈では分かっているけど、感情が駄目なのね、よく分かりました。
二度目のハーピーの里の訪問の翌朝、僕はボブとダイクとアリファ様と一緒に、アーリア様とアーリル様の元に向かった。
アーリア様とアーリル様はラミアの里から離れた、人間の道の近くにある自然の洞窟をとりあえずの住居にしていた。
「アーリア様、アーリル様、尻尾の具合はいかがですか?
そろそろ傷薬もなくなる頃だと思って持ってきました」
僕がそう言って、ボブとダイクに続いて顔を見せると2人は驚いた顔をした。
「アレクまで物を持ってここまで来てくれたのか。
私たちにそんな価値はない。 来てくれる必要はないのだぞ」
「アーリル様、そんな事言わないでください。
治療をした僕としては、やっぱり傷がどうなったかは気になってしまうのです。
気になったから来た、それで良いじゃないですか」
「本当にすまない」
「とりあえずこれ、傷薬と綺麗な布です」
僕が持ってきた物を渡すと、アーリア様も頭を下げてくれた。
「それで傷の治りはどんな調子ですか?」
「ああ、もう痛みもだいぶ引いたし、血も出ていないから大丈夫だ」
アーリル様は簡単にそう言うと、ダイクが口を挟んだ。
「治りが遅いんだ。 サーブの傷の話を聞いたから、傷を治すためのエネルギーを与えようと思って、俺とボブが精を与えようと思ったのだけど、2人とも頑なに拒むんだ」
「我らは罪人だ。 2人に精を貰って良い立場ではない」
「そんなに頑なにならなくても良いじゃない。 治るって言ったって、尻尾の先が生えてくる訳じゃないわ。 傷口が塞がるだけなんだから」
アリファ様も勧めるのだが、首を縦には振らない。
アーリア様は一言も喋らない。
僕たちの話していることを聞いていない訳ではないし、ボブが何とか少しでも声を出して貰おうと色々話しかけている言葉には、きちんと首を振るなどして応えている。
でも声は出さない。
アーリル様によると、アーリル様に対してさえ、必要最小限の言葉しか発しないそうだ。
僕はアーリア様とアーリル様に、ラミアとハーピーが同盟することになったことを報告した。
急に決まった事ではあるし、2人とも全く想像の範囲外の出来事だったのだろう、とても驚いていた。
僕はハーピーの里に二度目に行った時に聞いた話を2人にした。
「ハーピーもこの同盟の話を受けるかどうか、すごく迷ったという事です。
一番問題になったのは、ラミアは信頼に足るかどうか、という事だったみたいです。
その時に、あの時ミーレア様と戦ったエルシムという名のハーピーがとても強くラミアは信頼できると主張してくれて、同盟をすることに決まったそうです。
つまりミーレア様がこの同盟をもたらしてくれた訳です」
僕のこの言葉を聞くとアーリア様はポロポロと涙を流すと、上を向き胸の前で手を合わせ、震える声を出した。
「天よ、ありがとうございます。
気高きミーレア様の命は無駄にならず、その死でさえラミアに素晴らしき幸をもたらしてくれました」
読んでいただいて、ありがとうございます。
この話で第二章「犠牲の上で」は終わりです。
次の話からは第三章「過去をただす」です。
並矢 美樹




