164. 帰宅
夜は干し草の中に入り込んで寝たのだが、もっと寒いかと思ったが、意外に快適だった。
「流石に、日が沈む寸前に飛んで戻った時には寒かったけど、体には暖かさが残っていて、気持ちよく眠れたな」
「もしかすると温泉というのは、普通の風呂より長く体が温まるのかもしれない。
と言っても、風呂自体が最近入り出したのだから、その効果がはっきりしないけど」
デイヴとキースがそんな会話をしている。
僕らはハーピーが残していってくれた、果物で朝の食事をした。
しばらくする事もなく、待ちの態勢でゆっくりしていると、昨日から世話をしてくれているハーピーがやってきた。
「どうだった? 夜は眠れたか?」
「ああ、快適に眠れたぞ」
「それは良かった。 長たちが、お前たちの都合が良ければ、また来て欲しいそうだ。
長たちは、どうやら寝ずに話し合いをしていたようだ」
僕はそのことにちょっと驚いたが、それだけ即座に真剣に考えてくれたことで、良い返事がもらえるのではないかという期待が高まった。
「もちろんすぐに行けるよ。 悪いが僕たちをまた運んでくれ」
「ああ、任せろ」
「朝から呼び出してすまんな。
お前たちは、昨日は緊張して疲れただろうから、今朝はゆっくりさせてあげるのが正しい在り方だと思うのだが、年寄りの私の体力が持ちそうになくてな。
これで私らも休みを取ってからにすると、お前たちを帰すのが明日になってしまう。 それではラミアたちにより心配させることになるだろう」
ハーピーの長は最初にそう言って話しかけてきた。
「色々と配慮していただき、ありがとうございます。
私たちは昨日はあれからとても親身な持て成しをしてもらい、睡眠もしっかりととれました。
今朝はもう声がかかるのを待っていました」
「そうか、それなら良かった。
さて、私たちが夜を徹して話し合っていたことは聞き及んでいると思う。
そのことから推察できるだろうが、お前たちの持ってきた提案は、お前たちのいう通りハーピーにとってもとても重要な物である。
まず結論から言おう、ハーピーは今までの確執を乗り越えて、ラミアと同盟することに決めた。
細かいことはこれから決めねばならないことがたくさんあるだろうが、まずはこの一点をハーピーにもラミアにも明らかにすることが重要だと考える。
お前たちには、この事を即座にラミアに伝えてもらいたい。
ただし、一つ条件がある。
ハーピーとラミアの同盟が正式なものとなったら、次に人間との同盟が出来るように、お前たちには努力してもらいたい。
残念ながらハーピーもラミアも数が少ないから、現実問題として人間を同盟に巻き込めねば、ゴブの大量発生に対処することは不可能だろう。
人間を巻き込むことが出来なかった場合には、ゴブの侵攻があった場合、残念ではあるが我らハーピーは種族を絶やさないために、逃げる事を選択せざる得ない事を先に明言しておく」
「お話は良く分かりました。
条件の件も私も同じ様に考えます。
それでは早急にラミアの里に戻り、この件を伝えます。
詳しい話も今後しなければならないと思うのですが、まずはもう一度私たちがこちらを訪ねさせていただくので宜しいでしょうか?」
「そうだな、それが現実的であろう。
今日、この後もお前たちを送らせるから、その者たちと次の時の打ち合わせをしておけば良いだろう」
「了解しました。 それではこれで失礼させていただきます」
「うむ、ラミアの長によろしく伝えてほしい」
「はい」
僕たちは長をはじめとする集まっているハーピーにお辞儀して、岩室から出た。
外に出ると昨日からの3人が待っていてくれた。
広場までは歩いて行き、そこからはまた腕を掴まれての空の旅で、一番最初にこの3人に会った場所に戻った。
「何度も運んでもらって、どうもありがとう」
「気にするな。 ハーピーにとっては大したことではない。
それで次の時なのだが、またここに来るお前たちを待てば良いか」
「そうしてくれるとありがたい。
とりあえず一日おいて、明後日の昼過ぎに来ることにしよう。
もし、何らかの事情で明後日ハーピーの里に行けない時も、それを伝えるために一度はここに来ることにするよ」
「分かった。 また昨日の様な旗でも振ってくれ。
ま、旗を振らなくても我らは見えるのだが、合図がある方が良いだろう」
「了解だ。 よろしく頼む」
3人のハーピーは僕らに軽く会釈すると、去って行った。
僕たち3人は山を下っていく。
途中木の大きさがある程度になり、身を隠せる辺りまで来た時に、もしかしたらレンスとセカンが待っているかもしれないと思って、僅かな気配でもないかと注意深く窺っていたのだが、何も感じられなかった。
2人に本気で気配を消されると僕には悟れないから、本当に居ないのか、それとも隠れているのか分からずに、ちょっとイライラした。
ほんの一日会ってないだけなのに、早くみんなに会いたい気持ちが芽生えていることに自分でも驚いた。
歩いている道はやっとラミアも使う整備された道になった。
自然と足取りが速くなってしまう。
「おいおい、アレク、何をそんなに急いでいるんだ?」
「だって、イクス様が俺たちの事を心配しているだろうから、なるべく早く報告しなくちゃいけないだろ」
「そんなに急がなくても大丈夫だろ」
「デイヴ、アレクの気持ちも分かってやれよ。
追ってきたラミアって、きっとレンスとセカンで、その2人をイクス様が止めたのだろう。
今回のことはナーリアも知っている訳だから、俺たち2人と違って、アレクは事情を知っていて心配をかけているラミアが多いんだ。
早く安心させたいって思うのは当然だろ。
さっきから2人が居るかもしれないと思って、辺りをちっとも落ち着かずに見回してもいるし、分かるだろ」
僕たちがラミアの集落の入り口まで来ると、きっと見張っていたのだろう、イクス様が即座に近寄って来られた。
「良かった、3人とも無事ね。
それで首尾は?」
「上々です。 ハーピーは・・・。」
「今はいいわ。 夜にゆっくり聞くから。
それよりも早く3人とも戻ってあげて、ナーリアたちは家に、人間ちゃんたちは鍛冶場に居るはずよ」
僕たちはイクス様とほんの少しの会話ですぐに別れた。
禁足地の入り口すぐのところで、僕はデイヴとキースに別れて家に向かう。
走ろうかという思いにとらわれたが、それも何だか照れくさいので、逸る気持ちを抑えて歩いて家に向かった。
家が見えるか見えないかの位置で、もうみんなが全速力で僕に近づいて来た。
レンスが一番に飛びついてきた。
次にセカンが抱きついて来て、ナーリアが続いた。
サーブがディフィーに譲る感じで、ディフィーに抱きつかれ、サーブが最後に僕に抱きついた。
「アレク、心配したぞ」
サーブの言葉をきっかけに僕はみんなに明るく言った。
「ただいま」
「もう、何が『ただいま』よ。 本当に心配したんだから」
ナーリアは泣き出している。
「私とセカンは、山への登り口で待っていようとしたのだけど、お母さんに駄目だと言われて、仕方なく家で待っていた」
「周りには秘密の行動なのだから、普段と違う事をしていては駄目と言われた」
レンスとセカンが、待っていなかった言い訳をしている。
「もう、何で私たちにまで秘密にしているのよ。
最初理由が分からなかったから、余計に不安になったじゃない」
ディフィーが怒っている。
「ま、とにかく、アレクが無事だったから、万々歳だよ」
サーブ、それで良いのか、もっと大事なことがあるだろう。
僕のさっきまでの焦燥感は跡形もなく吹っ飛び、何だか心に幸せな気分が溢れて、笑いが込み上げてきた。
「何笑っているのよ、まったく。
私は心配で夜も眠れなかったというのに」
ナーリアが泣き顔でそう言う。
「ごめん、僕はとても良い気分で熟睡していたよ」
「「「「「えーっ、何それ。」」」」」
5人から非難の声が上がった。
僕たちはギャーギャーと喋りながら家へと向かって進んで行った。
家の前ではエーレアたちが、不審というか、どういう顔をすれば良いのか分からないという顔をして僕たちを見て集まっていた。
「えーと、お帰りなさい、と言えば良いのかしら」
エレオがそう言ってきた。
「ああ、ただいま」
「今朝ここに来たら、アレクは居ないし、ナーリアたちはみんな異様な雰囲気だったし、何かあるとは思ったのだけど」
「聞いてはいけない雰囲気だったから、そのまま黙っていたのだけど」
「とりあえず、アレク、ご苦労様?」
エレド、エーレファ、エーレルが言葉を続けた。
僕もなんて答えて良いか分からなかったのでとりあえず、
「うん、ありがとう」
と答える。
「それで、ナーリアたちの様子から、アレクがとても危険な事をしてきたのは分かるのだけど、何をして来たかは聞いてはいけないのだろうな」
僕が答える前にナーリアが答えた。
「ごめんなさい。
今、あなたたちには話せないの。 ここでのことも誰にも話さないで」
「「「「「うん、やっぱり。 そうじゃないかと思ったよ。」」」」」




