162. ハーピーとの交渉
少し時間をもらったお陰で、僕たちは普通に立って歩けるまで、体というか気持ちが回復した。
待っている3人のハーピーに声をかけて、ハーピーの長たちの元に案内してもらう。
「ハーピーの里はあまり地を歩いて移動する様に出来ていない、足元に気をつけて付いてきてくれ」
ハーピーは歩くというよりは、半分飛び移るという感じで先に行く。
その後を一歩一歩確かめながら僕たち3人は歩いていく。
ほぼ山の峰の岩場の様な場所を歩いているのだ、踏み外せば転落するし、ほとんどの場所は歩かれていないから、浮いてる石もある。
羽があれば怖くも何ともないのかもしれないが、人間にとっては慎重にならざるえない道のりだ。
「ほら、ここだ。 遠くはなかっただろ」
そうは言われたが、僕たちはもうしっかり汗をかいていた。
「長、人間3人を連れてきました」
1人が岩室の中に声をかけた。
「よし、入ってもらえ」
中からの声に、僕たち3人は入っていった。
中には10人程のハーピーが待っていた。
「ようこそ、ハーピーの里へ。 私がこの里の長のハルオンだ。
本当はハーピーとしての長たらしい名前があるのだが、そんなものを聞いても人間は覚えられないだろうし、わしも面倒じゃ。
ハルオンとだけ覚えてくれれば良い」
「まったく長がそれでは私たちもきちんとした名前を名乗れないではないですか。
私のことはシロシュウメとお呼びください」
長の左の女性がそう名乗った。
「私のことはエルシムと」
簡潔に右側の人も名乗った。 他は黙っているので、名乗るつもりはないのだろう。
「私はアレクと言います」
「私はデイヴと言います」
「キースです。」
僕たちも簡潔に名乗る。
「さて、ハーピーが里をこの地に移してから、人間がハーピーの里を訪れることは絶えてなかった。
随分と久しぶりのことなので、人間のための調度と呼べる物もここにはない。
よってすまないが、自由に寛いだ態度をとってくれ給え。
我らハーピーにとっては、今のこの格好が寛いだ姿勢なのでな」
「それでは私たちは地に座らせてもらいます」
僕たちはその場で座った。
「それでは話を聞こうか。
お前たちは人間というだけでなく、ラミアの使者としてこの地を訪れたと聞く。
まず話を聞こう」
「はい、ありがとうございます」
僕は今回の目的を話し出す。
「まず第一に、今回の件に関して、ラミアの里として公式に謝罪すると伝えてくれ、と私は託されてきました。
また穏便にことを収めていただいたことに感謝していることも伝えてくれと言われています」
エルシムと名乗ったハーピーが答えた
「先の件はあの時に、命で贖った謝罪を受けた。
あの謝罪が真摯なものであったことは、私が一番良く分かっている。
謝罪を繰り返す必要はない」
僕はきっとこのハーピーがミーレア様と戦ったハーピーだなと思った。
「ありがとうございます。 謝罪したラミアもその言葉を嬉しく思うことでしょう」
「一つ私は先の件で残念に思っている。
それはそのラミアの名を先に聞かなかったことだ。
良かったら、そのラミアの名を教えてくれないだろうか」
「そのラミアの名はミーレアといいました」
「ありがとう。 一言申し添えさせてもらう。
私は、そのミーレアというラミアを武人として、死ぬまで敬意を持ち続けるであろう」
「私だけでなく、ラミアの里の者全てが、今の言葉に感謝することと思います」
僕が頭を下げるのと同時に、デイヴとキースも頭を下げた。
そして僕は話を続けた。
「そして今までのこの様な事態を引き起こした根本的な理由が、ラミアの間違った知識であったことが判明しました。
ですから、今後今回の様な過ちは二度と起こらないと伝える様に言われています」
「間違った知識とは、どういったものだったのですか?」
シロシュウメと名乗った女性のハーピーが興味を示した。
「はい、ラミアの間ではハーピーの卵は子供を授かる特別な力があると信じられていました」
「はい? なんなのですか、それは。 その様なことがあるのですか?」
「あの、ハーピーの方々は子枯れ病という病を知っていますでしょうか?」
「いえ、私は知りません」
「いや、私は古い記憶にある気がするぞ。
確か風邪の様な症状だが、男が罹ると数年子が出来なくなる病だったな」
長は年長ゆえ知っていた様だ。
「その通りです。
ハーピーの間では流行ったことはありませんか」
「ハーピーは最初に言った通り人間との交流が絶えていたからな。
何十年とその患者は出ていないな」
「そうですか。 人間の社会では少し前に二度ほど流行ったのです。
しかし、ラミアは女性形だけの種族ですので、その知識が絶えていたらしくて、子供ができない理由がわからなかったのです。
その時にハーピーの卵を手に入れた後で子供ができるという偶然があったらしく、そういった間違った知識が生まれてしまった様なのです」
「それで、執拗に我らの卵をラミアは欲したのですね」
「はい、そういうことの様です」
「ハーピーだけでなく、ラミアも最低限しか人間との交流を持たなかった弊害じゃな」
長がそう言った。
「その知識が間違ったものであったことが分かったので、ラミアはもうハーピーの卵を狙うということはありません」
「なるほど理解した。
とすれば我らもラミアを警戒する必要は無くなったということだな」
「はい、そう思っていただいて構わないかと」
会見の場に少しほっとした様な、和んだ雰囲気が出来た。
きっとハーピーにとってもラミアとの抗争は大きな負担となっていたのだろう。
一息ついたところで、ハーピーの長は次の話を促した。
「次に、我らハーピーとラミアに関わる重大な提案を持ってきたとのことだが、その話を聞こうか」
「はい。
きっと見ておられたと思うのですが、つい最近ラミアはゴブとの間に大規模な戦闘を行いました」
「確かに我らはそのことを知っているが、何故お前が我らがその戦闘を見ていただろうと判断したかを知りたい。
人間やラミアの目で、我らが見ていたことを知ることなど出来ぬ筈なのだが」
「私ら人間やラミアが、ハーピーが見ていることに気づいた訳ではありません。
ただ、当然見ていただろうと推察しただけです」
「その推察した理由をはっきりと述べてみよ」
「そんなに難しいことではありません。
ラミアにとって多数の武装したゴブが現れることが脅威であるのと同じ様に、ハーピーにとっても脅威であることは明らかです。
それで人間やラミアにしてみれば驚異的な視覚を持っているハーピーが、あれだけの数のゴブの侵攻に気がつかないはずがありません。
だとしたら、その状況を常に監視しているのは当然のことだと考えました」
「なるほど、確かに極めて論理的な思考だな。
確かにその方の言う通り、我らはゴブの侵攻に気が付いて、それを監視し、ラミアが撃破することを見ていた。
それがこれからの話に関連する訳だな」
「はい。
私たちとラミアは、今回の戦いの後の分析で、今回のゴブはもっと大きな集団の先遣隊というか、偵察部隊の様なものだろうと判断しました」
場に緊張が走った。 今の言葉の意味は明白だ。
「その判断に至った理由を聞こう」
「まず第一に、集団の数に対して戦闘員の数が多すぎました。
今回総数で250を超えるゴブを討ち取りましたが、その内戦闘員のゴブが200を超えていました。 この構成は一つの種族の集団としてあり得ません。
第二にその戦闘員の装備が整い過ぎてしました。
ゴブは知っての通り、剣や防具などの装備を自分たちで作れる訳ではありません。 それなのに今回のゴブの戦闘員は皆、剣などの金属製の武器を装備し、皮胴などの防具もつけていました。 中には防具にも金属の補強がされている者も多数発見されました。
数こそが力のゴブが、あれだけの装備を得るために犠牲を出しながら移動してきたとすると、総数に無理があります。
つまり今回のゴブは全体ではなく、ゴブの集団の一部だと判断しました。
そして一部であれだけの規模であれば、その本体の規模はとても大きな物だろうとラミアでは考えています」
ハーピーは皆黙って深く考えている。
「ラミアはゴブの大量発生の可能性を考えている訳だな。
そしてそれはほぼ確定事項だと判断した訳か」
「はい、ラミアはそう判断しました」
「今の情報から考えて、我もその判断は正しいと考える」
「それで、私はラミアに提案をしました。
今はとにかくゴブへの対処を考えなくてはなりませんが、ラミアだけで対処できないのが明白である今、その脅威に曝される者は互いに力を合わせるべきだと。
同様の提案をここでもさせて頂きたいのです」
「つまり、我らとラミアで同盟を結びたいということだな」
「はい、その通りです」
「もう一つ聞くが、その方らは人間だが、ラミアと人間の間でももうその同盟は結ばれたという事か」
「いえ、私たちは極少数のラミアに保護されている人間で、種族としての人間を代表している訳ではありません。
人間もその同盟に加えたいと私は考えていますが、その為にも先にラミアとハーピーが同盟している方が有利に働くと考えています」
また、この会見の場のハーピーたちは黙考している。
ハーピーの長が左右のシロシュウメとエルシムと名乗ったハーピーと少し相談してから言った。
「その方らの提案は理解した。
とはいえ、今ここで簡単に決められることではないのも分かってもらえよう。
今日はもう時間も遅くなって、夜目の利かぬ人間であるその方らがハーピーの里を退去するのも難しかろう、場所を用意する故、今宵はこのハーピーの里に泊まって行くが良い。
また明日、話をしよう」
僕たちは最初に飛んで連れて来られた広場に戻った。
最初の3人が僕たちの相手をしてくれる。
「ちょっとここで待っていてくれ。
今、お前たちのための場所を用意している」
「人間用の場所なんて、ハーピーの里にあるのか?」
デイヴがあっけらかんとした感じでハーピーに尋ねた。
「さっきハーピーは人間とも交わると話しただろ。
里をこの場に移す前にはハーピーも人間と共存していたんだ。
だから里を移した時にも人間は少しは居た。
その頃に使われていた場所は、人間が居なくなっても使っているから、そこを片付けて用意している」
「なるほど、手間をかけるな。 ありがとう」
「礼を言われることではない。
お前たちはハーピーの里の客扱いと決まったから、客をもてなすのは当然のことだ」
僕たちはとりあえずハーピーの客という扱いに決まったようだ。
敵対している者という扱いにならなくて良かった。




