160. 単独行にはならなかった
ミーレア様の葬儀が終わり、さて僕はどうやってナーリアたちから離れようかと考えていた。
ナーリアが心配から挙動不審になっているのだが、僕が離れてしまえば、もう少ししっかりするのではないかと思う。
イクス様もナーリアも心配しすぎだと思う。
僕の身に何かある可能性はかなり低いと僕自身は考えているのだ。
「アレク、ちょっと俺たちに付き合え。
ナーリアたち、ちょっと人間だけの話し合いだ。 悪いけど、アレクを連れて行くぜ」
「何だよボブ。 俺はちょっと忙しいんだ」
「いいから来いって」
デイヴとケンに左右の腕を掴まれ、ほぼ連行される形で僕は連れ出された。
「ナーリアたちは家に帰っていていいぞ」
とボブは言って、どんどん行動を進めている。
仕方ない、ちょっと付き合うか、丁度ナーリアたちから離れるのに都合も良い。
それからボブは人間全員を連れて、ラミアの里から少しだけ離れた森の空き地に行った。
僕は真ん中に座らされ、周りを友たちに囲まれた。
「アレク、ネタは上がっている。 これから何をしようとしていたかを白状しろ」
ボブにそう言われたが、何のことだかわからない。
「アレク、もうバレているんだよ。 やろうとしていることの詳細を聞かせろって、みんなは言っているんだよ」
エレクの言葉でおおよその見当がついた。
「ナーリアがボブにバラしたってことか?」
「そういうことだ。 ナーリアはとても心配していたぞ。
これはラミアには相談できないからな」
「仕方ない、説明するよ」
僕は昨晩ラーリア様の部屋でした話を、友たちにも仕方がないからすることにする。
「アーリア様がハーピーと問題を起こして、ミーレア様が自分の命で事を大きくしないで納めてくれた。
このことはラーリア様がさっき語っていたようにとても悲劇的なことだったけど、俺はこれをきっかけにして一つの案が浮かんだんだ。
それはこれをきっかけにして、ラミアとハーピーでゴブに対しての同盟が結べないかということなんだ」
「随分、唐突な話だな、それは」
ケンがそう言った。
「俺はそうでもないと思っている。
ハーピーが、今回のラミアとゴブの戦いを見ていない訳がないんだ」
「何でアレクはそう思うの?」
エレクが聞いてきた。
「俺、図書館でこの辺りの地理や異種族の分布とかを調べたんだ。
もちろん昔の資料だから、今と違っている部分も多いのだけど、それでも大体の傾向は分かったし、それだけではなくて、異種族の特徴とか、能力なんていうのにも詳しくなった。
例えばラミアなら夜目が利くこととか、ラミアの毒ではほとんど死ぬことはないとか、そんな風に他の種族のことも書かれていたんだけど、ハーピーの特徴として、とても目が良いというのがあるんだ。
人間やラミアでは到底見ることのできない遠い距離からでも、かなり詳細に観察することが出来るらしいんだ。
多数のゴブの脅威というのは、人間やラミアに限らず、ハーピーにとっても大きな脅威のはずなんだ。
ラミアとの戦いで、種族の存続が危ぶまれるから双方で手を引いたというのだから、ハーピーも今回のゴブのことを絶対に脅威に感じていたと思うんだ。
それなら戦いを見ていなかった訳がないと思うんだ」
「確かに理屈は通っているな」
ボブがそう評価した。
「それからもう一つハーピーの特徴に、とても理知的で、本来は対話を重んじる種族とあったんだ。
それなら、対話して同盟を組んで味方になってもらえるんじゃないかと考えたのさ」
「なるほど、アレクは次のゴブの侵攻を考えて、味方を増やそうと考えた訳だね」
エレクが僕の意図を読んで話を進めた。
「ま、そういうこと。
戦に参加した俺の感想としては、今回はよくぞたったあれだけの被害でゴブを壊滅することが出来たというものだ。
一歩間違えたら、本当にラミアの方が壊滅しかねない危ないものだった。
だから、それを引き起こしかけたアーリア様があれだけ非難されることとなった。
これでゴブの数がもっと増えたら、ラーリア様も言う通り、ラミアだけでは手も足も出ない」
「そんなに危なかったのか。 俺たちには実感がないのだが」
ケンが聞いてきた。
「ああ、危なかったな。 戦いの前にはラーリア様たちとアーレア様たちは全滅を覚悟していたということだったし、ミーリア様たちや、ミーレア様たちにしても指一本でも動けば戦う覚悟だったと言ってたしな。
そんな覚悟をして臨むほど危なかった」
直接戦いの場に出なかったみんなには、その辺の戦いに出たラミアの覚悟や、危うい状況はきちんと伝わっていなかったようだ。
みんな、そこまでかと息をのんでいた。
「もしもの時は、死に物狂いで若い子たちなどを守ってやってくれ、というのは本気の言葉だったのか!!」
僕はちょっと口調を変えた。
「俺さ、ラミアに捕まる前は、一人で森で暮らすことしか考えてなかったんだ。
だからお前たちとも親しくなろうなんて全然考えてなくて。
でも、ラミアに捕まって、ラミアと接して、お前らとも親しくなって、前に自分で考えていた生活より、今はずっと幸せなんだ。
ナーリアたちは俺のこと大事にしてくれるしな。
そしたら柄にもないけど、何とかこのラミアの里を守れないかと考えるようになっちゃったって訳さ」
僕はみんなに笑われるかと思っていたが、誰も笑わなかった。
「そんなの僕たちも一緒さ。 ここを守りたいよ」
エレクがそう言った。
「で、アレクはハーピーと交渉をしに行こうという訳だな」
「ああ、人間の俺なら、ラミアではないから、ハーピーも即座に攻撃してくることはないと思うんだ」
「なるほどな、でも一人じゃ行かせられねぇ。 俺も一緒に行こう」
ボブがそう言ったが、僕は即座に反対した。
「それは駄目だ。 お前にもしものことがあると、鍛治が出来る奴がいなくなって、ラミアが武装に困る」
それから誰が僕と一緒に行くかで、もめた。
「だからもうみんなそれぞれに必要とされているのだから、俺一人で行くって」
僕がそう言うと、「それが一番駄目なんだ」と反対された。
そして今現在直接的な担当が決まっていないということで、デイヴとギュートとキースが残ったが、ギュートはいくらなんでもそういうキャラではないと外され、デイヴとキースが僕に付き合うことになってしまった。
「お前らも物好きだな」
「いや、ハーピーと話してみるなんて、ちょっとワクワクするじゃんか。
なあ、キース」
「ワクワクはともかくとして、デイヴが途中で腹が減ったと言いださないかが一番不安だよ」
そんなノリで良いのかと思ったが、デイヴの楽天的なところは、何となくちょっと気分を軽くしてくれて助かる気がした。
————————————————————————————-
「ナーリア、ごめん。 ちょっと私たちも寄るところあるから、少し遅れて家に戻るから」
私はそう言って、レンスと共にナーリアの返事も聞かずに気配を消して人間たちを追って行った。
私とレンスがどんな行動をするかはバレバレだろうけど、それを直接言葉にしてナーリアを困らす訳にはいかない。
ディフィーが私たちの顔を見て、「頼んだわよ」という顔をした。
とても真剣な顔だった。
完全に気配を消して、アレクたちが話している場所に近づく。
話している内容を聞いて、私は唖然とした。
驚いて声が出そうになるのを必死に我慢した。
レンスも大きく目を見開いている。
ナーリアとイクス様の態度がおかしかったのも当然だ。 こんな事を知っていたら、私だってとても平然とはしていられない。
自分の顔色が青ざめているのが分かる。
ハーピーは有精卵をアーリア様に取られて、返されはしたが、とても気が立っている事だろう。
そのような場所に、なんの手札も無く、護衛もなしに、アレクたちは向かって行こうとしているのだ。
話からすると武装もしていかないみたいだ。
死地に飛び込むというよりは、もうほとんど自殺行為に思える。
そんな事をするのを人間たちは競って自分が行くと争っている。
それも自分たちの為ではなく、ラミアの里を救うための算段だ。
私は涙が出るのを堪えることができなかった。
レンスの目からも涙が流れている。
アレクとデイヴとキースが最終的に行くことになり、最初にイクス様の所に何故か行った。
近づくとイクス様にバレてしまうので、私とレンスはかなり遠い位置から見守っていた。
イクス様のところを出ると、3人はもう他のことに目もくれず、目的地に向かうみたいだ。
山の高い方に向かう道を3人は進んでいく、途中まではラミアも使う道なのだが、ラミアが使う手入れがされた道は山の低い位置で終わってしまい、そこからは荒れた未整備の道を行かねばならない。
木の高さも低くなり、密度も疎らになっていく、身を隠すところが少なくなり、3人との距離を開けざる得ない。
上から見て、体が隠れ無くなる位置まで来た時、アレクは少し長い木の棒に、ちょっと大きめの白い布を括り付けて、それを振りかざしながら道を登り始めた。
私たちも少し離れてそれを追おうとした時、不意に肩を掴まれた。
「二人ともここまでよ。 これ以上はあなたたちは登っては駄目」
イクス様が私たちの肩を掴んでいた。
「お母さん、どうして?」
「マピ、あなたの気持ちは分かるけど、これ以上は駄目。
これより上はハーピーの世界よ。 ラミアは基本立ち入り禁止なの。
付いていけるなら私だって付いていきたいわ。 でも我慢して」
イクス様の辛そうな顔を見て、私はレンスと違い、何も言えなかった。
——————————————————————————————
「ナーリア、もうそろそろいいんじゃない。
どういうことか教えてよ。
アレクは何をしようとしているの? 人間たちはどうしてアレクを連れて行ったの?」
「ディフィー、私にもボブたちが何でアレクを連れて行ったのかは分からない」
「でも、アレクが何かしようとしているのはわかっているのでしょ。
とても危険なんでしょ、あなたを見てるとそのくらい想像がつくよ」
「ディフィー、どういうことなんだ? 私にも分かるように説明してくれ」
「サーブも、ナーリアが昨日の晩から様子がおかしいのには気づいていたでしょ。
ナーリアだけじゃないわ、イクス様も様子がおかしかった。
今のナーリアは隠そうとしているけどバレバレなのよ。
アレクが心配でたまらないんでしょ、分かるわよ、それくらい。
だから、セカンとレンスはアレクを尾行しに行ったのよ」
「それで二人は急にいなくなったのか。
で、どういうことなんだ、ナーリア」
「私の口からは話せない。
それにセカンとレンスはすぐに戻ってくるわ。
イクス様にきっと止められてしまうから」
ナーリアはそれから何も言わずに、ただ待っていた。
ナーリアの言った通り、それから少しして、セカンとレンスは戻ってきた。
戻ってきた二人は顔色が真っ青だった。
二人から、私たちは話を聞いた。
私とサーブは話を聞いて二人と同じ様に顔を青くした。
すでに顔色の悪かったナーリアはもっと青白くなっている。
とにかく3人の無事を祈った。




