156. 裁きの場2
「アーリルは一度下がれ。
次に、アーリベ、アーリナ、アーリン、前に。
今のアーリルの言葉に補足することはないか」
ラーリア様の言葉に、今度はアーリベ、アーリナ、アーリンの3人が前に出た。
「3人を代表して、下位グループの時にリーダーであった、私アーリベが答えます。
アーリルの言葉に補足することはなく、その通りであったことを認めますが、一つ間違っている点があったので、訂正させていただきます。
アーリルは私たち3人を巻き込まれただけで何の罪もないと言っていましたが、それは間違いです。
私たちは、アーリルがアーリアに対すると友情と同情心から、甘い判断をしてしまう可能性があることを分かっていましたし、アーリアがあの状況でも命令違反して自分勝手な行動を取る可能性があることを知っていました。
その危険があることを知っていながら、私たちはその危険をミーレア様に進言することをしませんでした。
それは作戦の完全な成功を優先する思考ではなく、アーリルに悔いがない様にさせてやりたいという私情を優先したからです。
ですから、今回の事態を招いてしまった責任は私たち3人にも確実にあり、罪なき身ではなく、ひしひしとその罪を自覚しています。
この点だけははっきりと訂正させていただきます」
「3人の正直な言葉、しっかりと受け取った。
その上で、ミーリア、どうする?」
「はい、この3人は自分たちの犯した罪をしっかりと自覚し深く反省しています。
譴責処分でよろしいかと考えます」
「ラーリアたちはどうだ?」
ラーリア様たちからも異論が出なかった。
「アーリベ、アーリナ、アーリン、お前たちには譴責処分が下った。
その意味をよく噛みしめる様に。
お前たち3人は隊の位置に戻れ」
今はもう他にアーリクとアリトの二人しかいない、アーリアの隊の位置に3人は戻った。
「さて、アーリア、最後に残ったお前の弁明を聞こうか」
前に出たアーリアは、顔の形も分からない程、ボロボロの姿だった。
昨日からアーリクとアリトが冷たい水で冷やして手当てし続けていたのだというが、腫れが酷く、口内もズタズタに切れているので、言葉も不明瞭で聞き取りにくい。
「私に弁明できることなど、何一つもありません。
今回の件だけでなく、ゴブとの戦いでのことについても、全ては私が命令違反をして、勝手なことを行い、仕出かしてしまったことであることは、私自身が一番分かっています。
その上今回は、私はアーリルの友情と同情心さえも利用して、自分勝手な行いをしました。 唾棄すべき所業であることを私は認めます。
今更、何の弁明が出来ましょうか」
不明瞭な言葉を、それでも全員に分からせるためだろうか、ゆっくりと言葉を区切ってアーリアは話をする。
広場は静まりかえっていて、アーリアを罵倒する声もない。
仕出かしたことが大きすぎて、声にならないのだ。
冷たい憎悪と忌避の感情だけが、無言の圧力となってアーリアに向かっている。
「私は里のみんなが私のことをどの様に感じているかも十分理解しています。
私自身も、私を憎悪し、忌避しているのですから、推して知るべしなのは当然でしょう。
ただ、願わくば、破ってしまったミーレア様との約束の一部でも、この場で果たさせていただく機会を与えてください。
それ以外の望みは私にはありません」
「分かった。
この場で今出来ることなら、やってみよ。 私が許そう」
ラーリア様はそう言った。
「ラーリア様、ありがとうございます。
望外の扱いをしていただきました」
アーリアは里のみんなの方を向き、話し出した。
「すでに私の言葉など、何の意味もないことを私も理解しているのだが、ほんの少しでもミーレア様との約束を果たしたいので、時間をください。
アーリアよ、私の様な指揮官のために、ある者は死に、ある者は大怪我をし、ある者は死にかけ、ある者は死より苦しいかもしれない精神的苦痛を味わせてしまった。 すまなかった、この一言さえ私は言えなかった。
エーレアよ、私のせいでしなくて良いはずの戦闘に巻き込み、すんでに死なせてしまうところだった。 すまなかった。
アレア様、およびアーレアよ、私は命を助けて頂いたのに礼を言う勇気もなかった。本当にすまなかった。
ミーレナ様、私などを助けるため、そして私の不始末を補うために大怪我をさせてしまいました。 本当に申し訳ありませんでした」
アーリアは口にした者たちに深々と頭を下げてもいた。
「ミーレア様は、本当は私が一番したいことを理解していて、私にこの行為をする約束を迫ってくれた。
その御心を解っていながら、私は逆のモノを返してしまったが、言われた皆には何の意味もない言葉であったと思うけど、約束を一つだけだけど果たさせてくれて本当にありがとう」
アーリアは元の方に向き直った。
「アーリア、もういいのか?」
「はい、ミーレア様との約束の僅かに残った果たせる部分を果たし終えることが出来ました。 ありがとうございました」
アーリアはラーリア様たちにも深々とお辞儀した。
「さて、それではアーリア、お前にまず裁きを与えねばならない」
「ラーリア様、ちょっとお待ち頂けますか」
アーリアはまた後ろを振り向くと
「エーレアたち、お願いします」と、言った。
エーレアたちは訳がわからないという感じで、アーリアの近くに丸太と小枝を纏めて縛ったかなり大きな束を持っていった。
「エーレアたち、私なんかの願いを聞き届けてくれて、本当にありがとう。
席に戻ってください」
アーリアはエーレアにそう声を掛けると、またラーリア様の方に向き直った。
「ラーリア様、およびラーリアの皆様、ミーリア様、私は私の罪を十分に自覚しています。
罪には罰を下さねばなりませんが、罰を下すのは大きな心労になってしまうことを私は知っています。
私などのためにラーリア様たちが、心を痛める必要はありません。
私への罰は私自身が下します」
そう言うとアーリアは、尻尾を小枝の束に突き刺してボロボロにしたかと思うと、そのボロボロになった尻尾の先を丸太の上に載せて、自分で剣で切り落とし、その切り口をもう一度切った。
広場の方々から悲鳴が上がった。
誰も止める暇も、声を掛ける隙もなかった。
「私には、こうしてのラミアの里からの追放処分が妥当です」
「ナーリア、アーリアの治療を頼む」
ラーリア様の声が響いた。
「レンス、セカン、薬などを取ってきて。
まずはとにかく血を止めるぞ」
僕は視界の片隅にイクス様が倉庫にすでに向かっているのが見えた。
薬や布などはイクス様が用意して、レンスとセカンがすぐに持ってきてくれるだろう。
広場のほとんど全ての目がアーリアに向かっていた時、また悲鳴が一つ上がったかと思ったら、次々と悲鳴が上がった。
多くの目がアーリアに向かっていた隙に、アーリルも同じ様にして尻尾を切っていた。
しかもアーリアより長く切っている。
広場は大騒ぎになった。
僕はレンスとセカンの持ってきた布で切り口の上部を縛って血を止めようとしたが、尻尾の先の方は強靭なため、血が止まり切らない。
とりあえず血止め薬を塗りつけて小さな血管の出血を止め、縛ったり傷口を布で圧迫したりして血の出方を弱めて、エーレアたちにも手伝ってもらって、大急ぎで家に二人を担ぎ込んだ。
アーリアとアーリルの手術は、サーブの時とは違ったモノになった。
まず第一に切った部分をもう一度切っているので、尻尾をくっ付けるということが不可能だったし、噛みついて意識を奪うことは拒否された。
出来ることは多くなかった。
大きな血管は糸で縛り、小さい血管は焼いて潰した。
人間なら皮膚を引っ張って縫合するのだが、ラミアの尻尾の表面は固く、引っ張ることが出来ないから縫合もできない。
これだけのことを行うのでも、意識があるからものすごい苦痛のはずなのだが、二人とも声もあげなかった。
本当に出来たのは血を止めることと、表面を口移しの水で洗い、傷薬を塗ることだけだった。
それでも礼を言われた。
「アレクを始め、ナーリアたち、そしてエーレアたち、治療をしてくれてありがとう。
おかげで私の希望する罰の形になった。
本当にありがとう、私は行く」
「行くって、傷がどうにかなるまでは無理ですよ。 ここにどうにか二人の場所を作りますから、治るまでは居てください」
「いや、それでは罰にならない。 世話になった」
アーリアは出て行こうする、 アーリルもそれに続く。
「アーリル、お前は私と違う。 ここで養生した方がいい」
「もう今更よ。 ここまで来たらあなたと一緒に行くわ」
「馬鹿なことを」
「もう全て遅いわ。 私も自分の罪の重さに里にいることに耐えられないのよ」
「本当にすまない」
「ほら、アーリア、行くよ。 これ以上ナーリアたちに迷惑を掛けれない」
二人は出て行った。
僕が目配せするとレンスがすっと消えた。
———————————————————————
アーリアとアーリルが、ナーリアたちとエーレアたちによって運ばれて行くと、広場はしばらくして落ち着きを取り戻した。
これでこの日の裁きがおしまいかと思うと、裁く側の場所に居たミーリア様が、裁かれる為の広場の中央に出て来た。
「私は自分の過ちを裁かれなくてはなりません」
広場が今度は凍った。
「今回の出来事は、私が先のゴブとの戦いで罪を犯したアーリアの処分を他の都合を考えて厳正に行わなかったことに、根本的な原因があります。
この処置は軍法に照らせば、明らかに不正な行為であり、結果として補うことのできない損失を生みました。
ここで私が罰を受けねば、またしても厳正さが損なわれてしまいます。
処罰をお願いいたします」
「ミーリア、確かにお前の言うことは正しい。
だがそれはお前のみの罪ではない、私を含めたアーリアの処分を決めた者全員の罪である。
全員に処分を言い渡す。
まずミーリア、お前は処分を提案した訳だから罪が重い、自室での謹慎10日を言い渡す。
そしてその場にいて、その処分を賛成したラーリアたちお前たちは謹慎3日だ。
最後に私自身だが、当然ミーリアと同等の罪でしかるべきなので、謹慎10日とする。
以上で今日のこの場を終わる」




