154. 集合住宅の完成と
朝大急ぎで森を廻って、禁断の地の入り口の門へと向かうと、もう友たちや、ナーリアの姉妹グルーフが集まって、打ち合わせをしていた。
急いでそこに向かう。
「おはよう。 遅れたかな」
「いや、大丈夫だ」
今日はボブが仕切っている。
「今日はこっちと一緒だって?」
「うん、私たちも奥には入れないから」
ワーリアにエレオが答えている。
「奥にここから持っていくのは俺たちとナーリアだけだから、他のみんなはそんなに一生懸命運んで来なくても良いぞ、ゆっくりやってくれ。
持ってくる藁の量はエレクが計算してくれたから、エレクの指揮に従ってくれ。
エレクはここにずっといて、運ぶ量の管理をしてくれ」
ここから奥に少し運べば、そこからはラーリア様たちが運んでくれる。
もういい加減いいんじゃないかと思うのだが、まだラーリア様たちも今までの慣習から踏み出しきれないらしい。
若い子たちとは違い、ナーリアの姉妹たちはこちらの都合を考えて、そんなに急いで運んで来ないから大忙しという訳ではないのだが、それなりに忙しい。
エレクは持ってきた藁の量を薄い木の板にメモして管理している。
「エレク、その筆記具は?」
「ラーリド様が分けてくれた。 石板を持ち歩くのも大変でしょ、ってさ。
でも、その代わりに、ラーリド様の仕事は手伝わされることになった」
「それじゃあお前も図書館通いだな」
「そうなるのかな」
「アレク、次が来た。 運ぶよ」
エレクが計算した運ぶ量の半分を過ぎた頃、ボブが声を掛けてきた。
「アレク、お前たちはそろそろ運ぶのではなく、床作りの作業に入ってくれ」
「わかった。 これを持って行ったら、そのまま作業に入るよ」
藁床なんて、そんなに難しい作業ではない。
それぞれの個室のドアのところにはもうすでにバンジの手で藁床の分の段差が作られている。
その厚みに合わせて、藁を束ねて先ずは敷き詰めていくだけだ。
それを終えたら、凹凸がなくなるように藁を足していくだけだ。
ラーリア様たちはすぐに要領を覚え、どんどん作業を進めていく。
僕たちは一応イクス様の部屋となる部屋を見本も兼ねて、最初に作ったがその後はラーリア様たちを手伝う。
バンジの家は、ラーリナ様とミーレナさんが協力して作業して、一番早く作業が終わった。
その辺りで僕たちは作業はラーリア様たちに任せて、藁運びに戻った。
「ボブ、もうすぐ共同住宅の方の床の作業が終わるから、一度見に行って来いよ。
この後、敷き皮や個人荷物を運んだりもするのだろ」
「ああ、じゃあ、そうさせてもらうかな。
みんな、一度奥に行くぞ」
「アレク、もう次に集落から持ってくる分が終われば、それで足りるはずだ。
ターリア、ワーリア、ナーリア、エーレアには順次終わりだと言ってあげてくれ」
「エレク、了解」
それからすぐに次々と最後の回を持ってきたので、終わりを告げた。
僕たちは、初めから入り口に残っていた一台分と合わせて、荷車5台分をまだ運ばねばならなかった。
それも鍛冶場と、炭焼き場に運ぶので、一回ごとの時間も共同住宅の時よりもかかる。
結局その日は、夕暮れまで、僕らは最後の藁運びを、ラーリア様と友たちは集落からの引越しにかかってしまい、鍛冶場と炭焼き場のところの床作りまでは終わらなかった。
「鍛冶場と炭焼き場のところの床まで終わらなかったな。
明日、そっちをやるか。」
と僕がボブに話していたら、ラーリド様が割って入ってきた。
「床作りはそんなに人手はいらないわ。
鍛冶場はボブとラーリア、炭焼き場はケンとラリファに任せればいいわ。
明日は天気が良さそうだから、他はみんな総出で、羽ほうきが揃ったのだから、図書館の本を干すわよ」
あ、そうだった、それも早急に片付けねばならない作業だった。
なんだか忙しいなあ。
ラーリド様の絶対に逃さないわよ、という感じの気迫に誰からも異論は出ないで、翌日の方針が決まった。
それでもラーリア様たちはみんな、どことなく機嫌が良い。
集落の方の自分の部屋も残してあるはずなのだが、今日からはもう慣れるためにこちらの共同住宅で夜も過ごすことにしたからだろう。
まあ、使ってみないと、何かしらの問題点があったとしても分からないから、早めに使い始めるのは必要なことでもあるのだけど。
僕の友たちはどうするのかな、と思ったけど僕はあえて聞かなかった。
冬ごもりになれば、こちらで暮らすのは決まっているのだが、それまではどうするのだろう。
今日はこっちに泊まることが決まっているみたいだけど、明日からはどうするのかな。
そういえば僕は自分のことが手一杯で、友たちがどういう風にして順番を守っているのかをよく知らないんだけど。
うん、この話は地雷な感じがするな。
少なくとも人間だけのところですることにしようと僕は思った。
次の日も朝急いで森を廻る。
エーレアたちにナーリアが「今日も朝から奥に行くから」と伝えると、エーレアたちは型の仕上げをすると言うので、その自主性に任せることにする。
そんな話をしている最中に、ミーリア様がやって来た。
「共同住宅が出来上がって、ラーリア様たちは昨夕はウキウキと出て行かれたけど、今日の予定はどうなっているのかしら。
私、昨日聞きそびれてしまったのよ。
ちょっと今朝は尋ねにくいから、ここに聞きに来たわ」
やっぱりラーリア様たちウキウキだったんだな、ミーリア様も気を使っているんだな、と僕は思った。
「今日は、ラーリア様は鍛冶場で、ラリファ様は炭焼き場で最初は作業しますけど、後はみんな図書館ですし、お二人もそこに合流すると思います」
「これから天気が良ければ最低3日くらいは図書館だと思います」
ナーリアとセカンがミーリア様にそう答えた。
「了解したわ。 それじゃあ、私はその間どっちからも連絡を受けやすいように、昼間はここで仕事しているわ」
ミーリア様は堂々とそう言ったので、僕は少しふざけて尋ねた。
「ミーリア様、理由はそれだけですか?」
ミーリア様もにっこり微笑んで、答えてくれた。
「集落にいると、なんでも私に聞きに来るのよ。
そんな面倒な場所からは離れているに限るでしょ」
僕たちはみんなクスッと笑った。
エーレアたちはどういう顔をして良いのか困っている。
まだエーレアたちは、僕たちとミーリア様のこういった冗談半分の会話には慣れないらしい。
図書館の本を干すという作業は思っていたよりも、ずっと過酷な作業だった。
ラーリベ様にあるだけの綺麗な筵を持って来てと言われていたので、何に使うのかと思ったら、図書館前の広場にその筵を広げ、その上に本を並べるためだった。
まず、本を動かすのがこんなに大変だとは思わなかった。
一冊一冊は大したことないが、何冊もの本を動かすのはなかなかの力仕事だ。
上から順にということで、3階の本から干していく。
図書館から外に出したら本に付いている埃を、作った羽ほうきで丁寧に払い、莚の上に並べていくのだが、どこの棚の本だかをきっちり標をつけておかなければならない。
そうして3階の全ての本を外に出したら、3階の大掃除をする。
棚から壁から、掛かっている絵の額縁などを羽ほうきや布で丁寧に埃を払ったり拭いたりし、最後に床掃除と、2階から3階への階段の掃除をする。
それが終わったら、干しておいた本を元に戻していく。
これだけ人数をかけて、一日に1階分を終わらすのがやっとだった。
二日目、2階は3階よりも本の量があり、最初から4人人数が多かった訳だが、余計に大変だった。
「エレク、ラーリド様が気合を入れるのが分かるな。
この作業大変過ぎて、ああいう風に気合を入れられないと続けられないよ」
「全くこんなに大変な作業だとは思わなかったぜ。
もうクタクタだよ」
デイヴの泣きが入っている。
「そう言うなよ。 ラーリア様たちは毎年これをしてきたんだから。
今年は去年までの倍以上の人数でやっているから、とても楽だと喜んでいるんだよ。
もうあと1階が残っているだけだ、明日一日頑張ってやろうぜ」
ラーリド様をかばって、エレクが言った。
「本当に去年までこれをラーリア様たちだけでやっていたんだからな。
今回俺たちが音を上げていたんじゃ、格好がつかないからな」
ボブがみんなに発破をかけた。 やっぱりボブがリーダーだな。
三日目、朝一にボブが気合を入れる。
「やるぞ、今日が最後だ。 頑張っていくぞ」
「「おお〜っ!!」」
友たちだけでなく、ナーリアたちもその声に応えている。
ナーリアたちも実は結構この作業は堪えているみたいだ。
僕たち人間よりも、ラーリア様たちの手前、その気持ちを表に表すのに躊躇いがあるのだろう、あまり辛いとか、もう嫌だという態度は見せていなかったのだけどね。
ラーリア様たちはちょっとニヤニヤして、僕らの気合入れを見ていた。
三日目の作業が始まって、1/3くらいの本を外に出した時だった。
アレア様がゴブの巣を見つけた時と同じ勢いで、図書館に向かって来た。
「良かった。 道は間違えてなかった。
ラーリア様はどこにいらっしゃいますか?」
アレア様は大声で呼びかけて来た。
図書館内にいたラーリア様が大急ぎで外に出て来た。
「アレアか、どうした?」
アレア様は本来なら禁足地の奥まで入る許可は出ていない。
それが入って来たということは緊急事態だということだ。
ラーリア様の声も緊迫感が溢れている。
「はい、ミーリア様に特別に禁足地の奥に立ち入ることを許され来ました。
ミーリア様より、大至急集落にお戻りくださいとの伝令です」
「何が起こった。 またゴブが見つかったか?」
「いえ、ゴブではありません。
私の口からは状況説明ができません。 大急ぎでお戻りください」
「ラーリアたち、即座に集落に戻る。
ナーリア、人間たちも、出した本を戻したら、お前たちも集落に来い」
ラーリア様たちは大急ぎで行動を始める。
「アレア、武装の必要はあるか?」
「とりあえず、必要ないと思います」
立ち去りながらラーリド様がセカンとディフィーに声を掛けた。
「本をきちんと戻して図書館を守るのも重要よ。 頼むわ」




