152. 大鳥
数日の間、僕たちの日常は割と平安だった。
エーレアたちは今は型作りに熱中していて、他のことに気が行かずに大人しい、というか手がかからない。
ラーリア様たちは、壁塗りと窓付けで忙しそうで、僕たちに何かを依頼してくることもない。
そんな訳で平安なというか、突発的な物事がなく過ごせている。
僕らは朝、森を廻り、二日に一度、6人で狩をした。
エーレアたちは今は型作りを優先すると言って、狩には参加しなかった。
でも獲った獲物の解体や、皮の処理などは、技術をきちんと身につけたいからと、請け負ってくれた。
そこで僕らはトンネル復旧工事を始めることにした。
あのトンネルが使えれば冬になっても楽に図書館に通えると思ったからだ。
まずは図書館側の道の復旧から始める。
道に積もった腐葉土を退けて、それを花壇に運ぶ作業になるのだが、前に竹で作った入れ物がどこにあるのか分からなかった。
それでヤーレンに尋ねたら、現在若い子たちと大活躍中だとのことだった。
どうしようかと思ったら、サーブが「それなら新しく作ろう」と言って、喜んで作ってくれた。
何をするのかをヤーレンに話したら、「それなら後で良いものをやるよ」と言うので何だろうと思っていたら、熊手を3つばかりくれた。
ちょっと前に「熾火の台使うぞ」と言っていたので、何か作るのだろうと思ったが、ヤーレアたちと熊手をたくさん作ったのだという。
それで何をしているのかと思ったら、若い子たちと一緒に森の増えてきた落ち葉を集めて、ラミアの下水排出口の近くに、大きな堆肥製造施設を作ったらしい。
前にラミアの里には牛も馬もいないから、堆肥が問題だなと話した時にヤーレンは
「まあ、当てはある。 任せてくれ」
と言っていたが、その答えらしい。
何だかすごく本格的な農業を考えているみたいで、話を聞いただけで僕でもワクワクする。
ヤーレアたちがヤーレンにくっついて作業している気持ちが分かる気がした。
話が逸れた。
トンネルまでの道の復旧作業なのだが、ぶっちゃけ僕はあまり戦力になっていない。
腐葉土を花壇に入れるということがあるからか、ナーリアとレンスがやる気がみなぎっているし、土を退けるという作業は、穴を掘るのとそう変わりがないから、僕が手を出すより、ラミアの尻尾の方が余程速い。
僕が役に立つのは、台車の上の入れ物に入れる程度のことなのだが、それだってそんなに変わる訳が無く、花壇に混ぜ込む時となると、僕だと雑すぎるとナーリアとレンスに怒られて、お役御免となってしまった。
僕はそんな訳で、セカン、ディフィーと共に、作業を手伝ったり、図書館で本を読んだりしている。
セカンとディフィーもトンネル復旧に情熱はあるのだが、ナーリア、サーブ、レンスのノリには付いていけないらしい。
図書館の掃除や、資料の読書を優先している。
僕はこの辺りの地図や、動物の分布や、他種族の分布などを積極的に調べた。
狩人として知りたいということもあるけど、やっぱりゴブの脅威も頭にある。
今のままでは、ゴブの大群が来れば、どうしようもないのは自明のことだから、色々考えなければならない。
大火の前の資料がほとんどだから、現在とは違っていることも多いのだけど、それでも基本的なことは変わらない、とても参考になる。
狩人なのに何考えているのだろう、と思った。
そうだよ、俺、狩人じゃん。
それも一人で森で暮らすために、罠で獲物を捕るプロを目指していた狩人じゃん。
頭の中で閃いた。
「セカン、ディフィー、ちょっと閃いたんだけど、聞いてくれ。
こんな作戦で大鳥獲れないかな」
僕はセカンとディフィーのいる資料室に向かった。
翌日の午前中、エーレアたちにも手伝ってもらって準備をして、翌々日、全員で大鳥を獲りに向かった。
準備が出来てしまえば、何もエーレアたちにも付いて来てもらう必要はなかったのだけど、準備を手伝ったら、その結果を見たいだろうと思って、エーレアたちも一緒に来た。
初めて大鳥を見たエーレアたちは驚いている。
「こんな群の中で、雄だけを狩るって、どうするのよ。
大体どこに雄が居るのかさえわからないじゃない」
エレオがそんなことを言った。
「雄はわかるだろ、群の真ん中に居る姿の違う奴だ。
尾羽が派手派手しいから、すぐ分かるだろ」
「あれなの、これだけ沢山居るのに、10羽いるかどうかじゃない。
群の真ん中にいるのにどうしたら獲れるのよ」
「弓も効かないのよね。 どうしようもないじゃん」
そうだよね、そう思うよね。 だから今まで獲れなかったんだよ。
「そこで昨日の準備が生きるのさ」
ナーリア・サーブ・セカン・レンスが、荷車から昨日作ったモノを下ろして、僕らの居る場所から少し鳥の方に近づき、下ろしたものを草原に広げていく。
鳥たちは何をしているのかと、こちらを見ている。
広げ終わった4人はその近くに潜む。
レンスとセカンは完璧に気配を消してしまうし、ナーリアもそれなりには気配を消した。
サーブは相変わらず、隠れているつもりらしいが、全く隠れられていない。
四人が潜んでから、残りの僕らは少し目立つように動き回った。
鳥の注意が僕たちの方に向いた。
僕らは動くのを止め、作戦行動に移る。
僕は剣鉈の槍を構え、ディフィーに都合の良い場所にいる雄の一羽を射ってもらう。
矢が放たれると、周りを囲んでいた雌の鳥は僕たちの方向から離れて行ったが、狙われた雄は、簡単にディフィーの矢を避けると、猛然と僕らの方に向かって駆け出した。
僕は挑発するために頭の上で剣鉈の槍を振り回した。
頭の色を赤くして、全身の羽を大きく膨らまして、大鳥の雄は僕たちに向かって突進してくる。
僕はディフィーやエーレアたちを少し離れさせ、思いっきり鳥の注意を引きつけた。
鳥は一直線に僕に向かってくる。
僕は槍を構える。
次の瞬間、サーブとナーリアが広げてあった網を持ち上げた。
大鳥は網に足を絡めてしまい、なすすべもなく転んだ。
「今だ。レンス、セカン、頼む」
転んで動けない大鳥にレンスとセカンはスルスルと近づいたかと思うと、プシャーッと毒霧を吐いた。
大鳥はあっさり意識を失った。
「良し、上手くいった。 荷車に乗せて引き揚げよう」
僕は途中で目覚められて暴れられたら面倒なので、大鳥の足を縛り、首にも棒を固定して、振り回せないようにした。
退化した翼も、それでも矢を叩き落とせるくらいなので、胴体に縄を回して広げられない様に固定した。
ま、意識が戻りそうになったら、即座にまた毒霧なので、あくまでもしもの用心だ。
「ま、なんて言うか、簡単だったな」
サーブがそう言った。
「やってみたら、案外簡単だったね」
ナーリアもあっさりそう言った。
「この狩は、アレクのおかげ。 ラミアじゃ、こんなこと思いつかない」
セカンが僕を褒めてくれた。
「見た瞬間、獲れる訳がないと思っちゃった、私の心の傷をどうにかして」
エレオが落ち込んだ声で割り込んだ。
「別に大丈夫、私たちもみんな最初に見た時はそう思っていたから」
レンスがそう慰めた。
「でも、なんでアレクはこんなこと思いついたの?」
ディフィーが尋ねてきた。
「自分は元々罠で獣を獲る狩人を目指していたことを思い出したんだ。
それに、ヒントをくれたのはディフィーだぞ」
「私、何か言った?」
「エーレファは大鳥みたいに、その時のことに集中してしまって、前のことをあっさり忘れる、って言ってたじゃないか。
集中して一つのことしか見えなくなるとか、前のことを即座に忘れるとか、罠をかけるには絶好の相手だなって思ったら、後は簡単だった」
「えっ、何それ。 大鳥は私に似ていたから簡単に獲れたと言ってるの」
エーレファが怒って、みんなで爆笑した。
僕たちは家の近くの川に持ってきてから、大鳥の首を落とした。
その時には大鳥の頭の色も赤くは無くなっていて、獲ってすぐの時にはすごい勢いで上下していた胸もゆっくりとした上下動に変わっていた。
興奮状態ではなくしてから、血抜きをしたつもりだが、さて、どうであろうか。
持ってくる途中、場所の関係で集落の前を通ったが、狩った大鳥を見ることなどないので、集落が大騒ぎになり、みんな大鳥を見たがった。
特に若い子たちは僕たちが獲ったということで、大騒ぎだった。
そんなに難しいことをした訳ではないので、なんだか恥ずかしい様な、くすぐったい様な気持ちだった。
エーレアたちは自分たちがしたことでもないのに注目の的になってしまったと思った様で、真っ赤になって下を向いて歩いていた。
鳥の場合、先に皮を剥ぐという訳にいかないので、血抜きした大鳥を毛抜き場に運ぶ、大きいので全体がお湯に浸かるという訳にいかないので、お湯に浸かった部分を毟っていくという方法で、何度も場所を変えることによって、大鳥を獲った1番の目的である尾羽だけでなく、全ての羽を毟った。
大きな鳥だが、尾羽と退化はしているが普通の羽根の部分を除くと、他の場所の羽はとても柔らかい羽で、それが大量に取れた。
これで僕は考えていたものができるぞと嬉しかった。
羽を毟って裸にした大鳥を、また川に持っていき、今度は肉を身取ってみる。
普通は血生臭くて、とても食べれないとのことだが、本によると興奮状態でなく殺せば、とても美味しい肉になるとあった。
食べれない肉ならば、一生懸命に切り分ける必要もないのだから、川岸に小さな焚き火をして、まずはちょっとだけ切ってみて、軽く焼いて食べてみた。
「なんだこれ、普通の肉とは違うけど、美味しいぞ」
僕が一口食べてみてそういうと、みんな次々と食べてみた。
「脂の旨味がないけど、逆に淡白で、これはこれで美味しい」
「うん、私は結構好きかも」
ナーリアたちにも好評だ。
僕はこれは干し肉にしたら美味いんじゃないかと思った。
食べれる、美味しいということになり、本格的に大鳥の肉を身取ることにした。
倉庫から桶や塩も持ってきて、どんどん切り分けて塩漬けにしていく。
内臓もきちんと食べれるところを選り分けていく。
大きな鳥だから、肝臓も大きくて、これも燻製にしたら獣とは違った味わいかもしれないと思って、僕はちょっと嬉しかった。
羽を抜いた皮はちょっと食べるには硬い感じがする。
革の様に使えるのだろうか、試してみることにする。




