150. ミーレア様の話
ミーレア様たちは弓作りに燃えているが、鎧の矯正についても気になるようだ。
もう一度型を見たいと言って、倉庫の中に入って、みんなの型を眺めている。
それぞれが当たり前だが全部違っていて、ナーリアたちの体型をほぼ忠実に再現していることに興味が集中している。
ナーリアたちに裸になってもらって、型と見比べたりもしている。
「少し胸の形が違っていないか?」
ミーレド様が目敏く、裸と型の違いを指摘した。
「それは水に入って、胸が少し浮いている時の形になるように、ワザと作っているんです。
その方が防具を着けた時に、胸が圧迫されなくて楽なんです」
セカンが説明している。
「型についての説明は分かったが、この型をどういう風に使うのかをまだ教えてもらってない」
ミーレア様の言葉に、セカンが脱いだ胸当てを持ってきて、それを自分の型に着せた。
「この様な形で型を使うのですけど、最初はこの型に水で濡らして柔らかくした革を被せて、型に密着させるんです。
その後で完全に密着させるために切り込みを入れたり、補強のために別の革を重ねたり、留め具を付けたりとなり、最後に形が崩れない様に、樹脂を塗ります」
セカンが説明に合わせて、それぞれの作業した箇所や、作業跡を1つ1つ指で示しながら説明すると、ミーレナ様たちはとても熱心に聞いていた。
「ここまでしないと、身体に合った物は作れないのね。
矯正するとしたら、型を作って合わせ直すという訳だな」
倉庫から出てきたら、エーレアたちが今までよりも、ちょっと緊張している。
音で気がついたのか、ミーレナさんが家から出てきて、説明してくれた。
「お昼ご飯の人数がもう2人増えちゃいました。
イクス様とミーリア様がいらっしゃいました」
ミーレア様たちに緊張が走ったのが分かった。
ミーレナさんの後ろから、ミーリア様も出てきた。
「ミーレア、私は休日のここでの昼食は無しとすると通達したと思うのだが」
「ミーリアさん、今日は私が特別に頼んだんですよぉ。
ここに来たら、ちょうどエーレアたちもミーレナも居るから、話がしたいから特別にお願いって」
「話って、ああ、そういうことか。 ま、それなら仕方ないか。
だが、ミーレオ、お前たちは関係ないではないか」
ミーレオ様以下の4人は、これはダメだとシュンとしている。
「ミーリア、ミーレアが食べていくのだもの、ミーレオたちも一緒したいと思っても仕方ないわ。
ナーリアが承知したのでしょ。 許してやったら?」
最後に出てきたイクス様がとりなしてくれた。
ミーレオ様たちはイクス様に感謝の眼差しを送っている。
「イクス様がそうおっしゃるので、お前たち今回は特別だぞ。
これを許してしまうと、ナーリアたちの負担が増しすぎてしまうからな」
ミーリア様はそう言って、今回は許した。
ミーリア様の厳しさが際立つ形だが、僕らのことを思ってのわざわざの行動なので、僕たちにとってはとてもありがたい。
「さ、ナーリアたち、エーレアたち、人数が多いから、作業場の方に席を作って食べましょう。
倉庫から机や敷き皮を出して用意して、もう外では涼しいわ」
イクス様の号令で昼食の準備が始まった。
「で、アレク、今日のお昼は何が出てくるの?」
「ミーリア様、今日の昼は僕は作ってないんです。
作った人に聞いてください」
僕がちょうど片手でお盆を持って入ってきたミーレナさんを見ると、ミーレナさんも話に気が付いて答えた。
「ミーリア様、今日は燻製肉二種類の食べ比べなんですよ。
片方は普通の鹿肉を燻製した物で、私が作り方をアレクに教えてもらって作りました。
もう片方は鹿のレバーの燻製で、そっちはアレクが作った物です」
「ミーレナが作ったものとアレクの作ったものの食べ比べなのね。
それは楽しみだわ」
「僕の作ったレバーの燻製は癖がありますから、人によって好き嫌いの差が激しいと思いますけど」
レバーの燻製はやはり好き嫌いが激しかった。
一番気に入ってくれたのはイクス様で、ミーリア様はダメ、ミーレア様たちではミーレオ様は気に入り、ミーレファ様はダメ、あとは可も不可も無し。
僕らではサーブとレンスは気に入り、ナーリアとディフィーはダメ、セカンは可も不可も無し。
エーレアたちは食べれなくはないけどレベルでほとんどダメという感じ。
作った僕は、もちろん大好きです。
ミーレア様がミーレナさんに話しかけた。
「それでミーレナは最近はどうなの?
ミーレアを辞めてからの生活はどうなの?」
ミーレア様はミーレナさんのことを心配しているみたいだ。
「ミーレア、私は大丈夫よ。 楽しくやっているわ。
最初は片手使えなくてどうしようかと、ちょっと悩んだけど、今はこうしてアレクに人間の食べ物の作り方を教えてもらったりしていて楽しいわ。
それにここなら話してもいいのかな、奥には私とバンジとラーリナ様の家が作られているのよ。
他のラーリア様たちや人間は共同住宅なんだけど、私たちだけはバンジの仕事の都合で、別に家を持つことになったの、バンジの作業場兼なんだけどね。
今から楽しみでしょうがないの、早くそこで暮らし始めたいわ。
バンジもラーリナ様も、そして他の人も優しくしてくれるし」
ミーレナさんの言葉を聞いて、ミーレア様だけでなく、他のミーレア様たちもみんな嬉しそうな顔をしている。
「私たちも奥に入る許可が出るようになったら、まず一番にミーレナの家を訪ねてみたいな」
「その頃には、ミーレナとバンジの子供もいるのね」
「それはちょっと、ではなく、かなり羨ましい光景だわ」
ミーレア様たちはおしゃべりが盛り上がってきた。
イクス様とミーリア様も嬉しそうな顔でそれを見ている。
イクス様が冗談口をかけた。
「その時には私も共同住宅の方に居るからよろしくね」
「イクス様も共同住宅にいらっしゃるのですか?」
「うん、ラーリアが子供を集めておく方針なのよ」
「ということはイクス様も子供を産まれるのですか?」
「そうよ」
「誰との子供を産まれるですか?」
「やーねー、アレクくんに決まっているじゃない。
ナーリアちゃんたちがまだ産めないから、アレクくんだけ人間の中で子供がいないと可哀想でしょ。
それで私が産むのよ」
イクス様、そのドヤ顔やめてください。
なんか僕は居たたまれないし、レンスが苦い顔しているので。
「ミーレア、話を」
ミーリア様がミーレア様を促した。
「ミーレナとエーレアたちが居るからと私が言った時点で、きっとあなたたちもどういう話かの見当はついていたと思うから、率直に聞くわ。
あなたたち、まだアーリアを許せないかしら?」
沈黙が場を支配した。
「私はエーレアたちにアーリアを許して、彼女の指揮下に入れと言いに来た訳ではないの。
そんなことが出来ないことは、みんな分かっている。
それ以前に、エーレアたちにもはっきり言ってしまうけど、アーリアは指揮官として不適だとはっきり烙印が押されている。
アーリアが指揮官に戻ることはあり得ないの」
エーレアたちは驚いた顔をして、僕たちの顔を見た。
目が「あなたたちは知っていたの?」と言っていた。
ミーリア様がそれに気づいて僕たちに代って答えてくれた。
「ええ、ナーリアたちは知っていたわ。
ラーリア・ミーリア・ミーレアは、当然知っている、もちろんイクス様も。
あとはアーリルは知っているし、本人のアーリアも知っている。
それだけよ、後のアーリア・アーレア・アーロアは知らないわ」
ミーレア様が話を元に戻して続けられる。
「私はアーリアがあなたたちに謝ったり、礼を言ったりもしていないことも知っている。
それはあなたたちだけでなく、アーリアを命がけで引きずって逃げてくれたアーリク、アリトにも、そしてアーレアたちにも一言の礼も言っていないことも知っている。
だから、あなたたちの気持ちが許す方向にむかわないのは、十分理解できている」
ここでミーレア様は一呼吸置いた。
「しかし、私にはもう少し分かっていることがあるのよ。
それは反対にアーリアの気持ちなの。
アーリアも自分の命令でしてしまったことを理解している。
自分に指揮官の資格がもうないことも分かっている。
自分の指揮のせいでエーレアたちを予定外に戦わせたり、ミーレナの片手を奪う結果になったことを悔いてもいる。
自分が謝ったり、礼を言わねばならないことも自覚している。
でも自分がしでかしてしまったことが大き過ぎて、今のアーリアは許しを請う為に差出せる物が何もなくて、それも出来ない状態なのよ。
自分から上位を辞めるという辞表さえ、今の彼女は出せない状況なの。
その気持ちをいくらかでも分かってあげて欲しい、というのが、私の今日の話なの。
私がきっと、何かきっかけを作って、アーリアがあなたたちに謝れるようにするわ。
だから、今は怒りを収めて、その時を待って欲しいのよ」
ミーレア様は頭を下げた。
「私からもお願いするわ。
アーリアは自業自得ではあるのだけれど、上位の中に居場所もないけど辞めることも出来ない八方塞がりの状態なのよ。
仕方がないから、時間をあげて欲しいの」
ミーリア様は、ミーレア様とは違い同情心は見せずに、淡々と言った。
「ミーレア、あなたが頭を下げる必要はないわ。
私はアーリアを怒ってもいないし、恨んでもいない。
私が怪我をしたのは、私が焦って、ゴブに不覚をとっただけで、私が未熟だっただけのことで、他人のせいにすることではないわ。
それに私は今の境遇は何の問題もなく幸せで、誰かを怒ったり、恨んだりする暇なんてないわ」
ミーレナさんはあっさりとそう言った。
強い女性だ、と僕は思った。
「私は、ミーレナさんのように、あっさりと許せる心を持てないのですが、アーリア様の気持ちは少し分かる気がするんです」
エーレアが話し出した。
「私つい最近、自分の考えなしの行動で、ここにいるナーリアたちとエーレアたちを危険な目にあわせてしまったんです。
アレクが命懸けで守ってくれたから、事なきを得たのですけど、そのせいでアレクに怪我を負わせてしまいました。
その時にエーレアのみんなに責められたのですけど、本当に言われることが全てその通りだと自分でも思うことばかりで、落ち込むばかりでした。
そして、あまりに申し訳なくて、アレクに、みんなに何と言って謝ろうかと思ったのですけど、声も出なかったんです。
その状態をアレクやナーリアたちはすぐに察してくれて、私がまだ一言も謝ってさえいないのに許してくれた上、自分たちも悪かった点がたくさんあった、と慰めてくれたんです。
アーリア様の起こしてしまったことは、比較することではないと思うのですけど、私より大きなことなので、謝ろうと思っても、私よりももっと声にならなかったのかもしれないと、私は今では思っています。
それに、私の時にアレクやナーリアがあげてくれた自分たちも悪かったという点よりも、あの時の私たち自身が悪かった点の方がずっと大きいことは、アレア様に以前指摘されて、良く分かっています。
ですから私は自分の経験を鑑みても、今までと同じ様にアーリア様を非難することは出来ません。
ここでアーリア様を許すことができなかったら、せっかくミーリア様がここで学ぶようにとくれた機会を、何も活かせていないということだと思います。
私はアレクやナーリアたちが私にしてくれた様に、私もアーリア様のことをもう許したいと思います」
エーレアの他の4人もその言葉に頷いた。
僕たちもエーレアの言葉に驚いたが、イクス様、ミーリア様は驚嘆していた。
ミーレア様は涙を流していた。




