149. ミーレア様たち
エレオが宣言したとおり、エーレアたちが朝早く来ることはなかったので、ちょっとだけ、遅くまで寝ていた。
うん、それだけでちょっと嬉しい。
でも大急ぎで森を最低限回ってくる。
レンスとセカンが
「私たち二人で回ればずっと早い」
とは言ってくれるけど、狩人として仕掛けた罠は自分で見て回りたい。
そうしないと自分の立ち位置を勘違いしちゃいそうなんだよ。
僕はただの狩人で、自活できることを望んでいただけで、今のこの状況はとても恵まれたものなんだということを、当たり前の環境と間違えたくない。
家に戻った時、もうエーレアたちが来ていた。
「私たちが来てから回ることにすれば良かったのに。
そうすればもっと朝寝が出来たでしょ」
エレドがそう言ってくれたが、僕はそれは断った。
「いや、いいんだ。 僕が仕掛けた罠だからね、僕が見て回らなくちゃ。」
「でも、私もここに来る様になったから分かったけど、ナーリアたち、特にアレクは忙し過ぎでしょ。
絶対にもっと休みをとるべきよ。
忙しくさせちゃっている1つの原因の私たちが言うのも変だけど」
「私も常々そう思っている。
アレクはナーリアとしての活動をした上に、かなりの量の人間としての活動もしている。
明らかに忙しすぎる」
セカンまで話に加わって、僕に休めと言う。
他のみんなも少し心配そうな顔をして、セカンの言葉に同意だと意思表示している。
心配されてるのが嬉しいけど、今は正直休んではいられない。
ラミアは冬越えの大変さを知らないから、僕たち人間が焦っていることが実感できていないからだと思う。
「もうすぐ冬になるだろ。 そうしたらラミアのほとんどは冬籠りしちゃうから必然的に暇になるさ。
そしたら春を待ちながらゆっくりするよ。
きっとナーリアたちも家から出たくないってことになると思うしさ」
そんなことを家の前で話していたら、ミーレア様たちがやって来た。
「おはようございます、ミーレアの皆様。
今日はミーレア様たちだったのですか、誰がいらっしゃるか聞いてなくて」
ナーリアが代表して挨拶した。
「ナーリアたち、おはよー。
あら、今日はエーレアたちもいるのね。 エーレアたちは休みじゃないの?」
ミーレア様の質問にエーレアが答えた。
「私たちやっている作業が終わらなくて、今日は特別に昼までの時間を邪魔しない範囲で作業することを許してもらったんです」
「そうなの、作業って、何してるの?」
「はい、弓を作る前段階の材料の準備作業です」
「弓を作るのね。 うわー、私もそれ興味あるわ。
ね、みんなも興味あるよね」
ミーレア様は他の4人のミーレア様たちに声を掛けた。
「作ることも興味があるけど、今日はその弓を見せてもらいに来たのだろ。
まずは目的を果たそうよ」
ミーレド様がミーレア様にそう言った。
「そういうことなのよ、ナーリア。
今日はまずあなたたちの弓の練習を見せてくれない。
話には沢山聞いたのだけど、私たちは戦いの時は見えない場所だったし、その後も機会がなかったのよね。
エーレア、すごいのでしょ」
「はい、私も話に聞いていただけで、初めて見た時はびっくりしました。
そして戦いでのナーリアたちの活躍に納得もしました」
「そうかあ、私も楽しみだな。
それで、お願いその1。
ナーリアたちの練習を見た後で、弓を貸して。
私もその弓を打ってみたい」
「はい、それは構いませんが、それでは準備があるので、ちょっと待っていてください」
「了解よー。 それに私たちも着替えるから」
みんなが家に入り胸当てを着けたりしている間に、僕はいつもの様に倉庫から的を出してくる。
倉庫から出てくると、ミーレア様たちは家の前で着替えをしていた。
結構大きな荷物を持ってきたなと思ったが、やっぱり思った通り皮鎧だった。
着替えているミーレア様に呼ばれた。
「アレク、ちょっと来て」
呼ばれたので、的をとりあえず下に置いて、ミーレア様のもとに行く。
ミーレア様は鎧を半分着けた半裸の格好で待っている。
「アレク、ちょっと分かるかな。 これでこの鎧の前の部分を付けるのだけど、どうもこれを付けると苦しいのよね。
着け方とか、どこか調整すれば楽になるか分からないかしら」
僕はミーレア様に鎧を着けてもらった。
原因は明らかだった。
「うーん、調整でどうなるってモノではないですね。
鎧の胸の部分の形がミーレア様に合ってないんです」
ちょうどセカンが家から出てきたので、セカンの胸当てを見てもらう。
「このセカンの胸当てですけど、セカンの体の形に合わせて作っているんです。
見て分かると思うのですが、体に綺麗に合っていると思います。
ミーレア様の鎧は、ミーレア様の体型に全く合ってないんで苦しくなるんです」
「そうかぁ、どうすれば良くなるのかな?」
「ミーレア様の体型の型を作って、それで鎧の形を矯正すれば良くなると思います」
「今、エーレファが型作りしてますから、後で見てみていただくと理解しやすいかもしれないです」
セカンも言葉を添えた。
ミーレナ様たちは僕たちの弓の練習には、やはり驚いていたが、自分たちが射ってみることになってからは流石だった。
弓はそれぞれ持ったり引いたりしてみて、サーブの弓を借りるのが3人、ナーリアの弓を借りるのが2人となった。
レンスの弓は速射専用だから対象外、ディフィーの弓は特殊過ぎて興味はあるけど除外という感じで、あとはナーリアの弓にするかセカンの弓にするかで迷ったみたいだが、セカンは速射もして見せたので、ナーリアの弓の方が普通に見えた様だ。
意外だったのは誰も僕の弓を使いたいと言わなかったことだ。
確かに僕の弓の方がサーブの弓より少し強いが、ラーリア様の弓ほどではない。
ミーレア様たちなら引けると思ったのだが、誰も使いたいと言わなかった。
ミーレア様たちは鎧を持って来たことでもそうではないかと思ったのだが、弓を射るのに僕たちと同じようにしっかりと右肩まで引いていた。
自分たちの弓では左肩までしか引いてなかったはずだから、僕らの射方を単純に真似したという訳ではなく、きちんと事前に情報を仕入れて対応してきたのだと感じた。
そして最初は少し僕らよりも近めで射ってみていたが、すぐに距離を伸ばして、僕たちがそれぞれの弓で射つ位置で射つ様になった。
弓に慣れていないし、僕たちのようにそれぞれの専用の矢で射っている訳ではないから、僕たちと比べると少し矢の当たる位置がバラけるが、ちゃんと的に当たっていて、どんどん修正されていっている。
流石だなぁ、と僕たちが感心していたら、ミーレファ様が言った。
「流石なのは私たちじゃなくて、この弓と矢よ。
矢については戦いの時にも使ったから分かっていたけど、この弓は何。
強さにもびっくりしたけど、この精度の良さは何なの。
誰が調整したのこれ」
あっ、やっぱりサーブとレンスの調整って凄いんだ。
僕が思っただけじゃないんで良かった。
ちょっと自信なくしてたんだよね、2人の調整が上手すぎて。
そうこうしているうちにミーレナさんがやって来た。
「あら、今日はミーレア様たちですか?」
「ミーレナ、様って何よ。 気持ち悪いわね」
「私、上位じゃなくなったから、けじめはつけないと」
「やめなさいよ。 気持ち悪いから」
うん、なんとなく覚えがあるなぁ、こういうやり取り。
そんなことを思っていたらミーレア様が言った。
「ナーリア、いやこれはアレクの方がいいのかな。
お願いその2なんだけどいいかな。
これミーリアさんには禁止されているのを分かっているのだけど、今日はここでお昼食べさせて。
エーレアたちがいるし、ミーレナもいる。
ちょうどいいわ、私は話があるの、一緒に食事しながら話をさせて」
僕とナーリアは目を合わせて意思統一をした。
何か訳ありのようだから拒否する理由はない。
「構いません。 エーレアたちが休日にここに居ることはあまりないですし、みんなで食事しましょう」
ナーリアがミーレナ様に答えた。
「異議あり。
ミーレア、お前1人だけは狡いぞ。 私たちも参加を要求する」
「えー、あなたたちは用ないじゃん。
ミーリアさんに怒られるよ」
「ナーリア、私たちも構わないと言ってくれ」
ミーレド様の言葉があまりに真剣だったので、ナーリアは笑いながら言った。
「私たちは全然構いませんが」
「ほら、ミーレア、ナーリアはこう言っているぞ。 問題はない」
「仕方ないわね。 ミーリアさんに怒られても知らないから」
僕はミーレナさんと相談して、ミーレナさんが作った普通の鹿肉の燻製と、僕の作ったレバーの燻製の二種類を出すことにして、昼食の準備をミーレナさんに任せた。
そして僕たちは作業をしているエーレナたちを見に、ミーレア様たちを連れていった。
ミーレア様は型作りを見て、前に僕が作ったナーリアたちの型をも見て、ちょっとカルチャーショックを受けたみたいだ。
これだけ手間暇かけないとそれぞれに合った防具が作れないということが、全くの想像外のことだったようだ。
ミーレア様たちは鹿の筋の繊維をほぐしているところなども真剣に見て、1つの決意をしたみたいだ。
「私たちも自分で新たな弓を作ることにしよう。
できればエーレアたちと一緒に教わりたいが、なかなか時間が許さないだろうから、私たちはエーレアたちから教わることにしよう。
それでわからない所だけナーリアたちに聞きにくれば良いだろう」




