148. 点線の穴
家に戻ると、そんなに時間が経っていないと思ったが、3人だと仕事が早く進むのだろう、残り4枚の内窓の格子にすでに火種草で作った紙もどきが貼られて干してあった。
これで寒くなっても雨でさえなければ、外窓を開けても中は明るく風は入らない。
うん、1つ冬の用意が進んだ。
「あ、アレク、ディフィー、おかえり」
ナーリアとレンスが後片付けをしている。
「随分と早く終わったんだな」
「ミーレナさんも手伝ってくれたから、人手が多かったから」
「あら、サーブはどこにいるの?」
ディフィーが聞いた、ほんとだサーブがいない。
「サーブは散歩に行った。 何か気になるらしい」
レンスが答えたが、ナーリアが捕捉した。
「サーブは地図の点線部分がとても気になるみたいで、その場所を見に行ったみたい」
僕とディフィーが戻ってきた時点でエーレアたちもやっていた仕事を切り上げたみたいだ。
一応昼までは僕たちと一緒に活動して、午後はそれぞれでという原則だから、今日は少し長くやっていた訳である。
エーレアたちが言う。
「明日は休日なのだけど、午前中はここに来て今日の仕事の続きをしてもいいかな。
私たちがやっている方もまだ終わっていないし、型はまだ1つもできてないから、エーレファを手伝って、私たちも粗彫りまでなら出来るかなって思って」
ナーリアは僕らみんなを見回して、目で了解を取ってから答えた。
「わかったわ。 午前中はどうせ誰かしら来ているから、その間仕事してても構わないよ。
でも誰が来るかによるけど、私たちはエーレアたちに構っている暇はないかもしないよ」
「うん、それは分かっている。
ありがとう。 明日はちゃんと遅めに来るよ」
エレオが意味ありげにナーリアにウインクしてそう言って戻って行った。
エーレファは最後までセカンに、彫っている型について意見を聞いていた。
ミーレナさんはこれから奥に向かうという。
エーレアたちとミーレナさんと入れ替わりみたいに、イクス様がやって来た。
「お母さん、今日は何しに来たの?」
最近レンスはイクス様のことはほとんどの場合「お母さん」呼びだ。
「何、その嫌そうな声。
お母さんだって、時々はアレクくんに会いに来るよ」
イクス様もレンスと話している時は、普段の威厳はカケラもない。
普通に親子の会話というか口喧嘩をしている。
僕たちも最初のうちはちょっと違和感があったのだが、最近は慣れた。
もう日常の風景になっていて、誰も気に留めない。
ちょっとほのぼのとした気持ちで眺めている。
そうやって口喧嘩できているのが、ちょっとだけ羨ましく感じるけどね。
サーブが戻って来たのだが、随分遠くから僕を呼ぶ。
「アレク、アレク」
「サーブ、どうした。 何かあったか?」
僕も大声で返す。
「アレクも、みんなもこっちに来てくれ。
あ、イクス様。 すみません、大声出して」
サーブはイクス様もいることに気づいて、ちょっと恐縮した言い方になった。
僕たちと共にイクス様もサーブの方に向かって行った。
サーブに何事か聞く。
「みんな、聞いてくれ。
あの点線の場所だが、どうやら穴があるみたいだ」
僕たちはみんな驚いた顔をした。
話の分からないイクス様が僕に聞いてきた。
「アレクくん、どういうこと、説明して」
僕はことの経緯、大鳥を獲るために図書館で地図を調べていた時に、謎の点線を地図に見つけたことをイクス様に伝えた。
興味深そうに聞いていたイクス様は
「とにかくサーブちゃんが見つけたその場所に行ってみましょう」
と提案した。
サーブがその場所に案内しながら、僕たちに注意を促す。
「穴を見つけてから、家に戻る時に気がついたのだが、よく下を見てくれ。
草や落ち葉、そして土に覆われている部分がほとんどなのだが、どうやらここ には道が作ってあったみたいなんだ」
サーブが指し示す辺りを見ると、確かに細いけどラミアの作る石を綺麗に敷き詰めた道の跡が見える。
「本当だ。 これ、草を抜いて、落ち葉や土を退ければ、ちゃんとした道が出てくるんじゃないかしら」
ディフィーがその場所を良く観察してから言った。
「今はとにかく、先に行ってみよう」
サーブが向かったのは、ちょっと先の森というより林の中だった。
その斜面の他とちょっと違い、丈の低い潅木の中に石が見える、そこにサーブは僕たちを案内した。
「地図の場所はこの辺りだと思って来たのだが、この通り何もなかった。
無駄骨だったと思って少し休もうとしてこの石のところに来た。
そしたの石の下に小さい穴があり、よく見ると石が自然の物ではないことに気がついたんだ。
それでちょっと気になり、掘ってみたんだが、そしたらこうなった」
サーブが見せたのは、明らかに人工的にアーチ状に組んだ石の最上部と、その下の穴だ。
僕たちはそれぞれにサーブの見つけた石と穴をよく観察した。
「もう少し掘ってみるか?」
と僕が提案したら、セカンに止められた。
「やめた方がいい。
周りが崩れて穴が埋まったのだと思うけど、このままで穴のところだけ広げると、雨が降った時、奥に流れ込む可能性が高まる」
「それって、ここがトンネルの出入り口だと思っているということよね」
ディフィーがそう念を押した。
「私はその可能性が一番高いと思っている。
みんなはどう思う」
「私もそう思う」即座にディフィーが答える。
「私は良く分からないわ。 地図もその点線を良く見てないから」
ナーリアがそう言うとレンスも、「私も見ていない。」と答える。
「私に聞かれても困るぞ。 そういう判断はみんなに任せる」
うん、サーブらしい。
「僕もトンネルの出入り口だと思う。
付け加えると、見えてる石のアーチの円の大きさから、小さなトンネルだと思う」
「うん、そう、たぶん一人か二人が並んで通れる程度」
セカンが付け足した。
「まだ判断を下すのは早計だわ。
何かを保管するための単なる横穴なんて可能性もある。
その判断をある程度確実にするには、地図に描いてあったという点線の反対側も調べてみないとね。
それと、トンネルだとしたら、何らかの記録がないのは不自然だわ。
図書館の記録も調べましょう」
イクス様は流石に確実な判断をする。
さっきまでのレンスと口喧嘩をしていた雰囲気はまるでなく、風格を感じさせるような落ち着いた堅実な態度だ。
僕たちは近くに生えていた熊笹を刈り、穴の上に被せて雨が降った時に、穴の中になるべく水や土が入り込まないようにしておいた。
「こんなことなら剣鉈を持ってくるんだったよ。
笹を刈るのも小さなナイフだとなかなか大変になっちゃうな」
「そうね。 そう考えるとやっぱり剣鉈って便利な道具ね」
ナーリアの中で剣鉈の価値がいくらか上がったかもしれない。
戻る途中で来る時に見た道の跡の周りを少し掘ってみた。
とは言っても、道具を持って来ていない僕は見ているだけで、尻尾の先で穴を掘ることのできるみんなが働くのを眺めていただけなのだけど。
「やっぱり、確実に道になっているわね。
それに逆に埋まっていたからかもしれないけど、埋まっていた部分はほとんど痛んでいない。
これなら掘り出して掃除すれば、すぐに使いやすい道になるわ」
「エーレアたちも含めて、みんなでやればすぐに復元できるんじゃないか、このくらいの距離ならば」
サーブがそう言うとイクス様に止められた。
「サーブちゃん、それはちょっと待ってね。
この事は少し秘密にしましょう。
まだ分からないけど、トンネルだとしたら、どうするかを決めなくちゃならないわ。
ここにいるだけの人数で決めて良いことではないかもしれないでしょ」
「はい、すみません。 考えが足りてなくて」
サーブはしょぼんとした感じでイクス様に答えた。
「謝るほどのことではないわ。 発見が嬉しくて、先走ってしまう気持ちはわかるわ。
そこを止めたり、慎重にさせたりするのは、私のような年長者の役目なのよ」
イクス様は家に戻りがてら少し語ってくれた。
「あなたたちの今住んでいる家は、私とレンスも以前レンスの父親と一緒に住んでいたことがあるのは、あなたたちも知っていることだけど、私たちが住む前はずっとただあるだけの存在だったの」
何だかイクス様の言い方が変だなと僕は思った。
空き家だったとか、荒れていたとかという言い方なら普通だと思うのだけど。
「あの家はね、一番最初は父祖様が住む為に作られて、父祖様があそこで暮らしていたのよ」
僕はちょっと驚いただけだったが、ナーリアたちは腰を抜かさんばかりに驚いていた。
顔色も白くなり、口が開いたままで、声が出ていない。
「父祖様が暮らしていた家を自分たちが使っていると初めて知ったら、みんなそうなっちゃうわよね、その気持ちは分かるわ。
私も最初暮らした時は、家の中に入るのに尻尾が震えてなかなか中に入れなかったわ。
アレクくんには、ちょっと分からないかな」
イクス様でもそうだったと聞き、みんなの様子が普通なのだと思った。
「私たちがあの家に住む前は、代々のラーリアが父祖様の住んでいた場所だからということで、綺麗に手入れだけはしていたのよ、何十年もね。
だから、今日見つけた穴は、私もトンネルの入り口の可能性が高いと思うのよね。
父祖様が図書館に通うための通路だった可能性が一番高いと私は思うわ」




