147. 内窓の素材
家に戻ってからも、みんなでどうやったら大鳥を獲ることが出来るか考えたが、良い案は浮かんでこなかった。
ボロボロではあったけど、図書館にあった羽ほうきを作った人は、一体どうやって大鳥の尾羽を手に入れたのだろうか。
次の日の朝、僕たちの家に1番に入ってきたのは、エレオとエレドだった。
「みんな、おはよう」
と、まだ朝食を食べていた僕たちに言うと、
「ナーリア見て。 私たちも脱皮したの。
弓作りに間に合ったわ」
とエレオが言った。
エレオとエレドはナーリアの姉妹だから、自分たちがグループの中で脱皮が一番遅れたのを、ナーリアに愚痴っていたらしい。
「良かったね。 でもほら言った通りじゃん、すぐ脱皮するよって」
「そうだけど、私たちにしてみればやっぱり焦るよ。
特に昨日、鹿を獲った後からは、エーレアとエーレルは弓を作る話ばかりしているのだもの。
脱皮した後じゃないと弓の大きさも決められないから、私たち二人だけ後回しになってしまうのかと、なんて言うか、置いてきぼりになる気分だったよ」
「今朝になったら、二人して脱皮してたから、嬉しくて大急ぎでここに来たのよ」
ナーリアの言葉にエレド、エレオと反応した。
「でもまだ弓は作れない。
準備に時間がかかるし、胸当てが出来ないと使えない」
セカンが冷静なツッコミを入れる。
「それは分かっているけど、まだ作れないというのと、作れる状態になったけど待っているというのでは全然違うよ」
「その気持ちは分からないこともない」
エレドの言葉にレンスがちょっと同意した。
「ま、とにかく焦るなってことさ、物事には順番がある」
サーブがとてもまともな事を言っているが、半分はエーレアに言っているようだ、エーレアは口を出してないが、鼻息が荒い感じだ。
「とにかく、弓を作る準備をまずはしてもらうけど、弓自体は胸当てができるのに合わせて作ることになるから、エーレファの頑張り次第になるかな」
僕はそう言ったのだが、ちょっと失敗だったかもしれない。
エーレアとエーレルがエーレファに詰め寄っている。
森から戻ってきて、弓作りに必要な物を準備する作業をする。
具体的には鹿の筋を煮て、繊維状にほぐしたり、筋や軟骨などを煮て糊つまり膠を作ったり、伐って干してある竹を割り、それを弓を貼り合わせる時に使えるように薄く加工したりだ。
そういった作業は全ての工程をディフィーは分かっているから、ディフィーに任せてしまう。
もう一人の全工程が分かっているセカンは、胸当て用の型作りでエーレファに付ききりだからね。
ナーリア、サーブ、レンスは全工程は分からないし、自分で弓を作ってはいないから、弓作りを教わる気にもなっている。
実はもう一人、途中から来たミーレナさんも、作業に加わっていて、弓作りを覚える気でいるみたいだ。
僕はというと、共同住宅の内窓の問題をどうにか出来ないかと、ちょっと実験をするつもりだ。
エレクが「紙を貼れば良いのだけど」と言った時には、その紙がないし、今現在は作れないという否定的なことばかりに考えが行ってしまったのだけど、書くことを考えなければ、紙っぽい物はもう少し簡単に出来るのではないかと思ったのだ。
具体的に頭に思い浮かんだのは、火種草だ。
火種草を火種にする時には、手のひらでグシャグシャと揉みほぐして、フワフワの繊維状にするのだけれど、丁寧に叩いて、繊維状のモノを取り出す様にしたら、細い繊維が平たく取り出せるのではないかと思ったのだ。
僕は火種草を一枚手に取り、その平たく乾いている形を壊さないように、丁寧に叩いて、火種草の表面を細かく割っていく。
だんだん崩れるようになってきたので、息を吹きかけて、崩れている塵を吹き飛ばす。
するとそこには、予想した通り、細い繊維状のモノが平たいままに残っていた。
想像していた状態とはちょっと違い、そこには少し太い軸のような物も残ってしまっていたが、そういういらないモノをナイフで切り離せば、完全に細い繊維状のものが平たく残った。
良し、やった。 これなら思っていた通りのことが出来ると僕は一人喜んだ。
ただ一枚一枚を手の平の上で繊維状にするのは大変なので、そこで10枚ほどを重ねて、藁細工をする時に藁を柔らかくするために叩くのと同様に、その時使う棒で叩いてみた。
ただ、そのまま叩くとダメにしてしまいそうなので、叩くところに布を置いて、間接的に棒で叩くようにした。
これも結果は大成功で、軸の部分が残ることがかえって好都合で、叩いて軸の部分を持って持ち上げて揺すれば塵が落ちる。
その後で軸を切り離したり、うまく取り切れていない塵を取ったりすることにした。
効率がだいぶ上がった。
藁を叩く道具を持ち出したことに目敏く気がついたレンスが近寄ってきたので、ちょうど良いので、その作業を少しレンスに任せて、僕は板と糊を用意する。
出来た平たい繊維を板に並べていき、板全体をほぼ覆ったら、糊を塗り、またその上に平たい繊維を置いていった。
穴が無いように、全体の厚さが均一になるように気をつけながらその作業を三回繰り返し、僕は内窓の枠を持ってきて、乾かないうちに丁寧に板から剥がして、枠の方に貼り付けた。
そしてそのまま乾くのを待つ。
そろそろ昼時が近くなったので、ミーレナさんを呼んで、ミーレナさんと昼食を作ることにする。
今日ミーレナさんに教えるのは、燻製の作り方だ。
昨日作った鹿のレバーの燻製を見せて、どんな物を作るのかの具体例を見せてあげて、作り方を教える。
ま、肉の燻製作りなんてそんなに難しいものでは無い。
ただ、燻製を作る時には、竃にくべる薪に少し注意して、決して針葉樹の薪はくべないように気をつけることをしっかりと教えた。
針葉樹の煙で燻していまったら、辛くて食べられなくなっちゃうからね。
僕の分の米を炊くのはミーレナさんにやってもらった。
失敗するかもしれないけど、これはもう馴れだからね。
昼食が終わってから、僕は作った内窓の枠をみんなに見せた。
「うわー、アレク、これどうやって作ったの?」
「すごい、大山蛾の繭で作ったものほどではないけど、ちゃんと光を通している」
ナーリアとセカンが即座に反応を返してくれた。
「うん、聞いて驚くなよ。 これ火種草で作ったんだ。 な、レンス」
「信じられないけど、手伝った私が証言する。
これは火種草から作った」
「全くどうやったら火種草がこうなるのか。
アレクは噂に聞く魔法使いのようだな」
「サーブ、魔法使いはおとぎ話。 現実にはいない。
アレクは実在の存在。 全く違う」
「セカン、サーブにそんなこと言ったって意味ないわ。
それにしても、本当にどうやって作ったの?」
ディフィーの問いに、僕は火種草を一枚持ってきて、手の平で叩いて、平たい繊維状にした。
「ほら、こうしたのの太い軸のところは取って、そうして板の上で糊で何枚か貼り合わせたのさ」
「なるほど」
ナーリアたちはそれで納得して、私も作ってみたい、とか話が盛り上がっているが、エーレアたちは一言も喋らない。
「なんて言うか、あきれちゃって言葉も出ないわ。
こんなことを考えつくアレクにも驚いたけど、それを『なるほど』の一言で終わりにして、自分も面白そうだから作ってみると話しているナーリアたちにも驚いたわ」
ミーレナさんがそう言うと、
「もうなんか驚くのが馬鹿馬鹿しくなってきちゃった。
もういいわ。 この家はそういう家なのだと納得してないと、まともな神経で居られないわ。
私たちは私たちのするべきこと、やりたいことをしましょう」
エーレアがなんだかエーレアたちのリーダーっぽいことを言っている。
ま、それはいいや。
「それで午後、僕はこれを奥に見せて来ようと思うのだけど、みんなはどうする?」
「私はエーレファを手伝う必要がある。
用事があるのなら、それ優先だけどそうでないなら、そうする」
セカンは型作り優先だ。
「アレク、用事はそれを見せに行くだけだよね。
それなら私もこれ作ってみたいかな。 貼ってない内窓ってあと4箇所だよね」
「私も悪いがこれを作ってみたいぞ」
「ということは、レンスは作り方を教える必要があるから、ここに残らなければならないから、それじゃ、私がアレクと一緒に行くわ」
「ディフィーも残ってもいいぞ。 一人でもどうということでもないし」
「でもそれじゃあ、行き帰りがつまらないでしょ。
私は作り方が分かったから、別に実際に作らなくても構わないわ。
奥に行くのを付き合うわよ」
「そうか、ありがとう」
僕はディフィーとおしゃべりをしながら奥へと向かう。
「エーレファって、なんていうか、見て来たあの大鳥みたいなところがあるのよね。
エーレルに聞いたのだけど、型作りばかりに頭が一杯になっていて、弓作りのことは完全に忘れていたみたいよ。
『あなたも自分の弓を作らないとね』って言われたら、『弓? 何の話?』って上の空で答えたって笑ってたわ」
「へー、熱中するタイプなんだな。
ま、僕としては助かったから、良いんだけど。
エーレアたち5人の分の型を作らなくちゃいけないのかと思って、実はがっかりしていたんだ」
奥の集合住宅の場所にはエレクとハキしかいなかった。
「あれっ、二人だけかよ」
エレクとハキは二人で糊を作っていた。
「ああ、アレク。 ボブとデイヴとダイクとキースは鍛冶場の修復に行っている。
そろそろ出来上がるみたいだよ」
「ケンはターリアたち連れて、炭焼き用の木を森で切っている。
ヤーレンはいつもと同じにヤーレアたちと畑関係をしている、ギュートもそれに付き合った。
今日はバンジもワーリアたち連れて、来春になれば絶対に使うからと、木を伐ったり、枝打ちしたりに森に入っている。
窓作りに飽きたんじゃないかな」
エレクとハキが答えてくれた。
「なんだバンジも居ないのか」
「で、アレクとディフィーは何しに来たの?」
「私は単なるアレクのお供」
僕が何か言う前に、ディフィーがふざけて、僕の影から飛び出るような格好をしてそう言った。
ちょっとだけハキに受けて、ディフィーは嬉しそうだ。
「これを見せに来たんだよ」
「何これ、内窓?」とハキ。
「ああ、困っていた内窓だけど、これでどうかなと思って」
「アレク、これ紙みたいな感じだけど、どうやって作ったの?」
「エレクが紙があればと言ったのを後で考えてみて、書くわけじゃないのだからと思ったら考えついた。
これ、火種草から作ったんだよ。
丸めて揉むんじゃなくて、平らなまま叩いてみたら、細い繊維の平たいものが出来たんだ。
太い軸が少し残るからそれを取って、あとは並べて糊を塗って重ねた」
「なるほどね。 これ火種草の繊維か」
「確かにこれなら今でも出来るね」
「これ一応置いていくけど、ウチの窓の1つなんだ。 後で返してくれ」
「分かった。 バンジには俺たちが教えておくよ」




