146. 少し欲張ってみる
エーレアたちの鹿を獲りたいという無言の圧力が凄くて、朝一で鹿を獲ることになった。
バンジが冬越しの準備にとても焦っているのだが、僕も友たちも、だんだんとその気持ちが乗り移ってきて、色々することに焦っている。
僕は今日は今までみたいに一匹を狙うのではなく、一度に何匹か狙おうと提案した。
そんなに鹿狩りに時間を掛けたく無いのだ。
エーレアたちもいるから、獲った鹿を運ぶことも楽になるし。
僕たちは結局3匹を一度に狙うことにした。
単純に長距離組が3人だから、その人数に合わせただけだ。
戻ってきた鹿は前と同じ場所に今回も集まっているのは、前日のレンスとセカンの偵察で分かっている。
僕たちはその群れを確認して、狙う鹿を決める。
サーブとナーリア、僕とセカン、ディフィーとレンスが組になり、一匹づつ狙うことにする。
エーレアたちは以前の僕のように、見学兼囮り役だ。
いつも通り、レンス、セカン、ナーリアが気配を消して近づいて、ディフィーに合わせて、矢を放った。
しくじっても鹿だから、熊の時のような危険はないと考えての同時複数狙いだが、何の問題もなく、三匹が倒れた。
エーレアたちは、僕たちの弓矢による狩に、目を見開いて驚いている。
「私たちも、こんなことが出来るようになるのかしら」
もう何度目か、エーレルが心配そうな声で呟いた。
僕らはエーレアたちに手伝わせるというか、教えながら手早く3匹の血抜きをする。
僕たちが一度に運べるのは1匹づつなので、一匹は木に吊るしたままにしておき、一度戻ってからもう一度取りに来ることにした。
僕たちは鹿1匹を運ぶのは慣れているから、どうということもなく運ぶのだが、エーレアたちはまだエレオとエレドが脱皮していないからか、ちょっと苦労していた。
人数的に僕は余るので、エーレアたちを手伝おうかとしたら、ナーリアに止められた、一応訓練なのだから、彼女たちに任せる方が良いと。
川まで鹿を運んできて、僕らはすぐに解体にかかる。
エーレアたちにはすぐにUターンしてもう一匹を持ってきてもらうことにした。
「鹿を解体するのを教えてもらってから、取りに行くのではダメなの?」
エーレファが即座に取りに戻されることに文句を言ってきた。
「今持ってきた鹿も、1匹はまず皮を剥ぐために吊るさせたけど、もう1匹は水の中に沈めているだろ。
獣は獲ったらなるべく早めに冷やした方が良いんだ。
だから先に取りに行ってもらうのさ」
「ふうん、ちゃんとした理由があるんだ」
サーブとセカンとナーリアに、皮剥ぎと内臓の処理などを始めていてくれと頼み、僕はディフィーとレンスを連れて、鹿を処理する時に必要となる、塩や、桶などを倉庫に取りに戻った。
3匹分だから量も多くなるので、それらの物を台車に載せていると、ミーレナさんがやって来て、一緒に戻った。
僕は鹿の処理をしている3人に加わる。
2匹目の鹿の皮をサーブが剥ごうとしていたから、僕はちょっと止める。
「サーブ、2匹目はエーレアたちに見せながらにしてやれよ」
「皮を剥ぐくらいはエーレアも出来るぞ」
「いや、お前の皮剥ぎは名人級だと思うから、見せた方が良いよ」
サーブは僕の言葉に妙に照れた。
「アレク、随分と細かく色々と分けるのね。 それに血をとても丁寧に流すのね」
「はい、ミーレナさん。 場所によって利用する事柄が違うんですよ。
それが混ざっていると良い品質の物が出来ないんです。
血は綺麗に流さないと、肉に臭みが残って美味しくないんです」
「なるほどね。 私の知らない事ばかりだわ。 とても勉強になるわ」
そうこうしているうちに、エーレアたちが残りの1匹を持って帰ってきた。
早速サーブが2匹目の皮剥ぎにかかった。
僕はみんなに声を掛ける。
「ここは任してしまっていいかな、良ければ僕は違うことの準備をしたい」
「アレク、何するの?」
ナーリアが皮の裏の筋を取る作業をしながら聞いてきた。
「型作りの準備をしようかと思って」
「確かに型を作って胸当てを作らないと弓の練習ができない」
セカンが肉を身取りしながら言う。
「いいんじゃない。 ここはそれぞれに教えられるし」
ディフィーが糊を作るための部位を選別しながら答える。
「構わない」
レンスがセカンの渡す肉に塩を擦り込み樽に漬けながら簡潔に言う。
慣れた作業なので、僕は何の心配もなく、みんなに任せてしまう。
それぞれの作業をしっかりとエーレアたちに教えてくれることだろう。
僕は前の日に切ってきた丸太の皮をとりあえず剥がすことにした。
5人分となると丸太の皮をノミを使って剥がすのも結構時間を食って、5個剥がし終わる前に鹿の処理が終わったみんなが戻ってきた。
皮を剥がした丸太を見て、エーレファが興味を示した。
「こんな丸太を何に使うの?」
「お前らの胸当てを作る型を、これを彫って作るんだ」
「何それ、どんな物なの?」
「エーレファ、見てみれば良い。 きっと驚く」
セカンがエーレファを倉庫の奥に連れて行き、普段は仕舞ってある型を取り出して見せている。
「えっ、型って、こんなにリアルに作るの?」
「そう、ここに私たち全員の型がある。
これが一番最初に作った私の、こっちがナーリア、こっちがサーブ・・・」
「一人一人別々に、全員のを作るの?」
「そうでないと、私たちが使っている胸当ては作れない。
だから、脱皮する前は作れないと言った。 すごく手間がかかるから」
エーレファはしげしげと型を眺めていたが、ふと言った。
「私、この型を作るのやってみたい。 面白そう」
「エーレファが作るの? その発想はなかった。 アレクに聞いてみるといい。
もしエーレファが作ることになったら、私がアドバイスする。
アレクも最初は何回も失敗した」
話を聞いた僕は、即座に了解した。
また5人分の型を作らなければならないかとウンザリしていたところだから、本当に渡りに舟だった。
ノミの使い方を簡単に教えるが、これは実際にやってみて覚えるしかないと思う。
ぜひ、頑張って5人分作ってくれ。
昼食はミーレナさんと一緒に作り、作り方を覚えてもらう。
今日は鹿肉がたくさんあるので、とりあえず薄く切った肉を浅い鍋で表面を焼いて食べるという、一番シンプルな食べ方とした。
最初から複雑なことをしても良くないしね。
二、三枚僕が焼くのを見せて、あとはミーレナさんに焼いでもらう。
ナーリアが隣についているから大丈夫だろう。
僕は鹿のレバーに塩を振り、竃の燻製を作るところに入れておく。
好きずきはあるけど、僕はレバーの燻製は大好きだ。
昼からは大鳥の居そうな場所にみんなで行ってみることにした。
一応図書館で知識は得たが、実際に見てみないと実感が湧かないし、そもそも居るかどうかもわからない。
でも、行く前に奥で働いている友たちのところに寄っていく。
鹿から取った糊の材料を、とりあえず一匹分置いていく為だ。
今、友たちはバンジを手伝って、集合住宅の窓を作っている。
雨風を防ぐための木の開閉窓だが、数が多いからなかなか大変だ。
それが終わり、出入り口の扉を付けて、雨風を確実に防げるようになったら、中の壁などを白く塗ることになる。
その時のための糊の材料だ。
「とりあえず、一匹分の筋や骨、軟骨なんかを持ってきたぞ、作るのは適当にやってくれ」
「お、良いのか。 俺たちも鹿を獲りに行くか、と話していたところだ」
デイヴが手を休めて対応してきた。
「ああ、食料確保の意味でも行ってくれ。 ま、とりあえずだ。
ディフィーが取り分けてくれたのだから、礼はディフィーに言ってあげてくれ」
「ディフィー、ありがとな」
「どういたしまして」
一番忙しくしているバンジがわざわざ手を止めて近づいてきた。
「アレク、お前の家の内側の窓に使っているのは、何なんだ?
まだあるか?」
「ああ、あれは大山蛾の繭を引き伸ばした物なんだ。
残念ながらもう一つもない、というより俺の家の分も足りてないんだ」
「そうなのか。 あれは良いアイデアだなと思ってな。
冬になって外窓を閉めちゃうと、家の中が真っ暗になっちゃうだろ。
あれならば風は防いで光は通すからな」
「何か他にあんな感じになるものないかな。
俺も足りない分用に欲しいし、見つけたら教えてくれ。
俺も考えるよ」
「ああ、頼む」
「本当は紙があると良いんだけどね」
エレクが口を挟んだ。
「紙って、そんなことにも使えるの?」
「ああ、厚さを薄く梳いた紙なら、十分同じ感じに使えるぞ」
と僕はディフィーに答える。
「紙の材料なら森の中にたくさんあるってラーリド様が言ってたわ」
「そうなの。 そうかもしれないけど、紙は作るのに結構手間暇がかかるんだよね。とりあえず今の役には立たないよ。
都合の良い紙をどこかから手に入れられれば別だけど」
エレクがディフィーの言葉に今現在はそれは無理だと伝える。
「そっか、ラーリド様は将来的には私とセカンが中心になって紙を作るようにしなさい、と言われたけど、なかなか大変なのね」
ディフィーはため息をついた。
つい先日のゴブと戦った場所を越えて、僕たちは地図で見当を付けた大鳥の居そうな場所にむかった。
ゴブとの戦いなどの影響で逃げてしまって見つからないことも覚悟していたのだが、探すまでもなかった。
沢山の大鳥が戦いの場から一つ丘を越えただけの草原にたむろしていた。
こんなに沢山いて、どうして食い物が足りるのだろうと考えてしまう程だ。
獲る方法が考えついていない僕たちは、ただその大集団を見ているだけだ。
大鳥も僕らに気づき、最初は警戒するように首を伸ばして僕らを見たが、僕らが敵意を見せなかったら、すぐに警戒心を忘れて、普通に過ごしている。
僕たちはゆっくりと大鳥を観察し、図書館で調べたことと違いがないかを考えるのだが、全く違いは見えてこない。
やはり図書館の本の記述は正確だ。
サーブが観察に飽きたのかソワソワしだす。
その動きを変化と捉えたのか、大鳥がまた警戒した感じになるが、すぐに忘れて同じに戻る。
レンスも、もう見てても何も変わらないと、日当たりの良い気持ちの良い場所に移動して、休み始める。
その場所が大鳥からは見えない場所だったので、大鳥はまた警戒したみたいだが、すぐに元に戻る。
雄の大鳥は10匹くらいいるから、3匹獲るのは全く問題なさそうなのだが、結局何もできず、その場から帰った。




