112. 川遊び その1
その日の昼食は、最初諦めていた時とは違い、微妙に豪華な感じになった。
魚の卵と白子はナーリアたちがモノも言わず全部食べてしまったが、いつもの命の実に、炒った木ノ実、そして塩を振って焼いた魚がついたのだった。
「おおっ、アレク、今日は肉じゃなくて、魚か。
たまには魚も良いな。 なかなか食べれないからな」
「ちょうど今、魚が遡ってきている時期だからな、特別だぞ。
それに今、肉がないんだよ」
「魚は嬉しいけど、肉がないって、どうしたんだ?
今までのストックを食い切ったというのは分かるけど、獲りに行ってないのか?
俺たちも狩に行こうか?」
「いや、こないだまでの騒ぎで獲物がこの森から逃げちゃって、まったく居ないんだ」
食いしん坊デイヴと話していたら、ボブも加わってきた。
「あの数のゴブが入ってきて、あれだけの大騒ぎをすれば、そりゃ鹿も猪も逃げるだろうな。
しばらくは肉なしを覚悟しなくちゃならないのは仕方ないな」
デイヴの元気が見る見る萎んでいった。
「ま、鹿や猪は戻って来るまでダメだろうけど、ウサギはそんなに逃げないだろうから、まったく肉が食えなくなる訳じゃないだろうと思うぞ。
今朝、罠を仕掛けておいたから、そのうち獲れるだろう」
僕はデイヴがあまりに塩垂れているので、ちょっと可哀想に思って、少し希望を持たしてやった。
「そうだな、ウサギはそんなに逃げれないから、大丈夫だな。
全然肉が食えない訳じゃないよな。
あー、良かった」
「ま、それでも前の様にがっつり肉を食うという訳にはいかないだろうね」
エレクが真面目なツッコミを入れたら、またデイヴの元気が無くなった。
あー、めんどくさい、もういいや、放っておこう。
「ということで、鹿や猪はしばらく獲れないだろうから、今捕れる魚を捕りたいと思うんだ。
それでその手伝いをお前らにも頼みたいんだが、頼まれてくれるか?」
「もちろんだぜ。 俺たちの食生活もかかっているからな」
ボブが請け負ってくれた。
僕たちと友たちで、川にセカンとレンスに話した仕掛けを作るのだ。
それに加えて、僕はダイクとハキに声を掛けた。
「ダイク、どこかにある程度の大きさの石の板ってないかな?」
「そんなモノ何に使うんだよ」
「石の板を焼いて、その上で魚や、キノコとかを焼いて食ったら美味いかなと思って」
「おっ、それは良いなあ。
あっちの山裾の岩が、多分良い調子で剥がれると思うぞ」
「それ頼めるかな。 明日の魚採りに若い子たちも招待して楽しませてやれたらと思うんだ。
俺たちもだけど、お前たちも若い子たちには世話になっているだろ。
たまには楽しい事をして、遊ばせてやりたいと思うんだ」
「それ良いな、俺も大賛成だよ。
石の板は俺が用意するよ。
ま、それも若い子に手伝ってもらってになるけどな」
「僕は何をすれば良いんだい、アレク」
「ハキには森でキノコとお茶になるモノを探してきて欲しいんだ。
キノコを焼いても美味いだろ。
そして水に入るから、体が冷えるだろうから暖かいお茶を出してやりたい」
「なるほどね。 アレクは気が利くなぁ。
それは任せてくれ、ただ一人じゃ無理がありそうだから、ヤーレンも連れて行って良いか? あいつも詳しいから」
「そうなのか、構わないぞ」
「そうそう、そのヤーレンだけど、アレクと何か話したいって言ってたぞ。
後で話を聞いてやってくれ」
「了解した」
食事の後、3人はすぐに一度集落に戻り、若い子たちを連れてのそれぞれの役目を果たしに行き、残りの人間と僕たちは川に、朝取ってきた竹を打ち込んだり結んだり、石を動かしたりして仕掛けを作った。
出来上がった仕掛けに満足した僕は、エレクに明日の食器や木鉢や莚などと、多量の塩といった荷物の事を頼んでおいた。
翌日、僕たちは朝食を取ると、命の実や鍋や木鉢などを台車に載せて、早めに川に行ってみた。
実は魚が目論見通りに誘導されて、生け簀の様に仕切った場所に集まっているかが心配だったのだ。
せっかく若い子たちを楽しみませてやろうとしても、魚が居ないことには話にならない。
川に近づくと、大丈夫だ見る前に音だけで分かる、たくさん居る。
生け簀の様に仕切った場所には、僕が想像していたよりもたくさんの魚が跳ねていた。
跳ね損なって、岸辺に打ち上がってしまっている魚までいる始末だ。
良かった、これなら楽しめると安心した。
そうこうしているうちに、友たちと共に若い子たちもやって来た。
予定より人数が多い。
「アレクくん、私に言わないで楽しいことしようなんて酷いじゃない、私も参加して良いわよね」
「もちろんです。 イクス様はもちろん予定に入ってますよ。
若い子たちを引率して来てくれるだろうと思っていました」
「それでなんであなたたちまで一緒に来ているのよ」
ナーリアが若い子たちの後ろにいるターリア・ワーリア・ヤーレアを軽く睨みながら言った。
「いや、若い子たちがナーリアたちと人間たちの招きで遊びに行くとはしゃいでいるのを聞いて、一緒に命の実収穫をした仲だからな、私たちも参加しようかと思って」
「あのねぇ、今回は私たちは若い子たちに色々と世話になっているから、そのお礼として企画したの。
私たちあなたたちに世話になってないじゃん。
収穫の時だって、あなたたちは世話になっていた方でしょ。
ボブたちも、何連れて来てるのよ」
ナーリアの怒りのとばっちりを受けて、ボブも狼狽えている。
「いや、『私たちも参加したい、参加したい』と詰め寄られてな。
あの調子で詰め寄られたら、断れないよ、なぁ、エレク」
「ナーリア、悪かったと思うけど、そんなに怒らないで。
アレク、ちょっと何か言ってよ」
エレクもナーリアの怒りに困っている。
ナーリアも自分たちの姉妹だから、遠慮なく怒っているよな。
「ナーリア、まあ今回は思った以上に魚が入っているみたいだから、そのくらいで良いんじゃないか。
若い子たちがちょっと引いてるぞ。
氷のナーリアとか言われるぞ」
「アレク、茶化さないでよ。
私はミーリア様じゃないんだから、『氷の』なんて言われる訳ないでしょ」
「いや、この調子ならあるかもしれないぞ」
サーブがそう言うと、
「うんうん、あるかも、あるかも」
と、セカン、ディフィー、レンスも合いの手を入れた。
イクス様が吹き出した。
「ナーリアちゃん、もうその辺で良いんじゃない。
ナーリアちゃんの言っていることが正論だけど、楽しいことは人数が多い方が良いわ。
それにナーリアちゃんもミーリアの専売特許を奪う気はないでしょ」
「はい、イクス様がそうおっしゃるなら」
「その代わり、連れて来ちゃった人間ちゃんたちと、勝手に付いてきたターリア・ワーリア・ヤーレアには、しっかりと柴刈りをしてもらいましょう。
ダイクくんがあの運んできた石を焼くと言ってたから、結構大量に薪がいるよね。
それでどうかな、ナーリアちゃん」
「はい、それでしたら」
「おい、お前ら、しっかりと柴刈りの仕方を教えてやれよ」
僕は友たちに言った。
「ああ、それは大丈夫だ。
彼女らも柴刈りはしっかり経験があるから」
え、何時、知らなかったよ。
友たちとナーリアたちの姉妹たちは森へと入って行った。
「それで私たちは何をするの?」
若い子たちはやる気満々だ。
「今日は、魚を捕って、みんなで食べるぞ。
それから保存のための魚の処理の仕方も、みんなにも覚えてもらう。
まずは何人か服を脱いで、川に入って魚を2・3匹捕ってきてくれないかな」
川に近い方に居たグループの5人が服を脱いで、魚を捕りに川に入って行った。
魚を手づかみで捕ろうとして、悪戦苦闘しているが、わあわあ、きゃあきゃあと、とても楽しそうだ。
それを見た他の子たちも我慢できずに、みんな服を脱いで、川へと向かって行った。
魚を捕まえようとしたり、単純に水遊びになっていたりで、とても楽しそうなのだが、これでは話も進まないし、目的が達成できない。
「こらあ、まだ説明の途中だぞ。
早く2・3匹だけ捕って、こっちに戻って来い」
ちょっと残念そうな感じで、若い子たちは渋々戻ってきた。
まだ跳ねて逃れようとする魚を3匹持ってきた。
僕はナイフを抜き、魚を受け取って
「こうやって生きていると、流石に処理できないから、魚の頭のところのここにナイフを突き刺す。
ほら、こうすると簡単に魚が死んで静かになるだろ。
そしてここを刺すと一気に血が出るから、それはしっかりと川の水で洗い流すこと」
若い子たちは真剣な顔をして、僕のすることを見ている。
「そうしたら、今度はナイフの背中で魚の鱗を引っ掻いて落とす。
そうしたらもう一回水で流して、ここが重要だから、良く見てね。
ナイフの先があまり中に入らない様に気をつけて、魚のお腹の部分が開く様に表面を切っていく。
切れたら、そこを開いてお腹の中のモノを外に出していく。
ほら、これが卵で、後でみんなで食べるぞ。
それからこれは肝で、これも美味しいのだけど、まだみんなには早いかな。
この二つは取り分けて、木鉢に入れておいてくれ。
あとはいらない部分だから捨てて、もう一つこの鰓の部分もいらないから、これはちょっと切るのが大変かもしれないけど、切り離す。
そうしたら、もう一回、魚の内も外も綺麗に水で洗って、そうしたら塩をたくさん魚に擦りつけるんだ。
内も外もだよ。 これで出来上がり、そっちの莚の上に置いておいてね」
若い子たちは手順を思い出しながら確認しているみたいだ。
僕は今度はオスと思われる方の魚を手に取った。
「もう一度やって見せるから、見ていて」
腹を裂くところまできて、中身を外に出すと、今度は白子が出てきた。
「さっきは卵が出てきたけど、今度のは白子だね。
これも食べれるから、別の木鉢に取っておこう」
僕は2匹目の処理を終えて若い子たちに言った。
「最初はグループで1匹捕って、それをみんなで処理してみれば良いと思うぞ。
分かんなくなったら、僕かセカンを呼んでね。
さあ、始め!」
若い子たちは一斉に川へと突進して行った。
セカンは昨日の時点で、すでに魚の処理の仕方をもう覚えている。
ナーリア、サーブ、ディフィー、レンスとイクス様は、若い子が捕ってきたもう1匹を既に集まって捌いていた。
「イクス様、この卵が美味しいんです」
「あら本当。 美味しいし、エネルギーも沢山あるのね」
「これは卵ですけど、白子もなかなか美味しいんですよ」
「私は白子の方が好みだな」
「サーブはアレクの精を思い出して、そっちが良いんでしょ」
「いや、単に好みの問題だ」
「あやしい」
こらこらそこ、若い子たちの前で堂々とつまみ食いをしない様に。




