113. 川遊び その2
「あら、柴刈り組が戻ってきた様ね。
アレクくん、この後はどうするの?」
「まずは鍋を掛けたり、石板を焼いたりする場所を作らないと」
「それは、アレクくんたちと人間ちゃんたちに任せれば良いわね。
少しはターリア、ワーリア、ヤーレアも楽しませてあげないとね」
そう言うと、イクス様はナーリアたちの姉妹たちの方に向かって行った。
「今若い子たちは魚を捕って、その処理をすることをしているの。
あなたたちも一人1匹は体験して、ちゃんと覚えておきなさい」
そして若い子たちに大声で声を掛けた。
「若い子ちゃんたち、ターリアとワーリアとヤーレアのお姉さんたちが戻ってきたよ。
このお姉さんたちに魚の捕り方と、捌いて処理する方法を教えてあげて」
「はーい、前に命の実の収穫の仕方を教えた時みたいに教えれば良いですか?」
「そうね、同じ様にみんなで教えてあげて頂戴」
「はーい」
若い子たちは一斉にターリアたちに向かって行った。
前に二人一組で教えてあげてとディフィーが言ったのを忠実に守って、それぞれ3人づつになると、「早く脱いで、脱いで」とターリアたちを急かしている。
どうも一番最初に競争で収穫させたのが癖になったのか、若い子たちはすぐに競争で物事に取り組むところがある。
ターリアたちも、ワーリアたちも、ヤーレアたちも訳も分からず若い子たちに毟り取られる様に服を脱がされ、裸にされている。
ま、わあわあ、きゃあきゃあと楽しそうだから、別に良いか。
「ダイク、石板は何枚用意できたんだ?」
「重いからな、5枚だけだ」
「十分だ。 石板を焼く場所作りはお前たちに頼んで良いかな。
俺たちは鍋の方を作るよ」
「わかった。 任せてくれ」
「ハキ、お茶になるモノは採ってきてくれたかな」
「ああ、ヤーレンがハイク草を見つけたから採ってきたぞ」
「ハイク草って、ちょっとツンとした感じの香りがするヤツだったっけ」
「ああ、それ。 濃くしちゃうと辛くなっちゃうけど、スッキリする風味があるから今日なんかは良いんじゃないか」
「若い子が多いから薄めにしないとな。
お茶の用意は、任せて良いか」
「任された。 薄めにして用意するよ」
「それにしても今気づいたけど、ヤーレンて、ラミアみたいな名前だな」
「そう言われてみるとそうだね。
前から普通に呼んでいたから何も感じなかったけど、ヤーレアのグループに居そうな名前だな」
「ラーリア様たちや、ミーリア様たちの様に10人のグループだったら、きっと居ただろうな。
グループで10番目は最後が『ン』になるだろ」
「確かにそうだけど、ヤーレアたちは5人グループだから居ないよね。
あれ、上位グループって訳じゃないから、その命名法に縛られていないから、あり得るか」
「お前ら、何、人の名前で話盛り上がっているんだよ」
本人のヤーレンが話に加わってきた。
「いや、ヤーレンて名前、ラミアに居そうじゃん」
「いねぇよ」
「そうなのか、良く知ってるな」
「俺も自分でちょっと気になってな、ヤーレアたちに聞いたんだ」
あれっ、これっていじるとちょっと面白くないか。
「それはすげぇな。 なんて言って聞いたんだ?」
「僕、ヤーレンて言うんだけど、君たちの中にもヤーレンて居るのかな、って聞いたんだよ」
顔を真っ赤にしてヤーレンが答えたので、僕と友たちはみんな大爆笑した。
「何、そこで喋って大笑いしているの?」
ナーリアが作業をサボるなという感じで、そう言ってやって来た。
「いや、ヤーレンがヤーレアたちに、『ヤーレアたちの中に同じヤーレンていう名前のラミア居ますか?』て尋ねたっていうから、ちょっと可笑しくて」
「え、そんなの居ないわよ」
「ナーリア、詳しいな」
「姉妹たちの名前だもの、知っていて当たり前でしょ」
「そうか、そりゃそうだな」
「でも、ヤーレンがわざわざそれを聞きにヤーレアたちのところに行った場面を想像すると、ちょっと可笑しいかも」
レンスがそう言った途端、僕たち人間はまた爆笑してしまった。
当然、ヤーレンは苦い顔だ。
僕たちは河原の石を積んで、石板を焼く炉と鍋をかける簡単な竃を作ろうとしていたのだが、僕とセカンは、そこら中の若い子たちから呼ばれる羽目になった。
「アレクさん、助けて。 どう教えたら良いのか分からない」
「セカンさん、早く来て。 グチャグチャになっちゃって、どうして良いか分からない」
今まで若い子たちだけがやっていた時には、一度も呼ばれずに上手に作業していたのに、何故年上のラミアが加わったらこの騒ぎになるのか。
「あーん、教わって自分でやるのは簡単だけど、教えるのって難しい。
どうしてこうなっちゃうのか、まるで分からない」
若い子たちはオロオロしている。
見かねたイクス様が全体に声を掛けた。
「ターリア、ワーリア、ヤーレア、あなたたちはこの作業はもういいわ。
とりあえず服を着なさい。
若い子ちゃんたちは、さっきみたいに普通にこの作業を進めてね。
失敗したのは、アレクくんにどうにかしてもらうから、そのままにしておいていいわ」
ターリアたちは流石にシュンとして、いそいそと服を身に着けていた。
「ま、良いわ、元々この娘たちにさせようと思っていたのは別のことだから。
ナーリアちゃんたち、人間ちゃんたち、ちょっとこっちに来て」
イクス様に呼ばれて、みんな集まった。
「人間ちゃんたちと、ナーリアちゃんたちでアレクくんを抜くと丁度15人。
今から、ターリア、ワーリア、ヤーレアたちに一対一で、火の点け方を教えてあげて」
「あの、イクス様、私たちそんな準備はしてこなかったので、火種草もそんな量持って来てないですし、火打ち石なんかも1セットしか持って来てないのですけど」
ナーリアが躊躇いがちに反論した。
「大丈夫よ、そういった物はみんな持って来たから。
エレクくん、みんなに配って」
僕は火打ち石のセットはともかく、乾いた火種草もこんなにあることにちょっと驚いた。
「ボブ、火種草とか、集落によくこんなにあったな」
「ああ、イクス様に言われて、若い子たちと取りに行って来たからな。
干し網もサーブが作ったのと同じ様なのを俺たちが作って、干したんだ」
「イクス様、前からこういう機会を狙っていたんだな」
「ああ、かなり前から計画していたんだと思うぞ」
僕はこの場はみんなに任せて、失敗した魚の処理に向かった。
ターリア、ワーリア、ヤーリアの戦績は、8匹はまあ成功だが、7匹は失敗というか、若い子たちに指示した方法では処理できない状態になっていた。
三分の一くらいかと思っていたけど、半分というのは成績が悪いな。
僕は卵や白子や肝の使えるところは別に分け、身の部分は貯蔵用に処理するのは諦めて、三枚に下ろすことにした。
流石にこの場で焼いて食べるにしても7匹は多すぎる、5匹が限度かな、なんて考えながら作業しているとセカンがやって来た。
「どう、手伝う?」
「ああ、助かる。 そっちは大丈夫?」
「火種草に火打ち石で火を点けるのは全員体験した。
あとは火を大きくしたり、薪を足していく作業だから、一対一でなくても教えられるから、ナーリアがこっちを手伝えって」
「大丈夫なら、ほんと助かるよ。 この惨状だから」
「ほんと、酷いね。
これを見ると、サーブでさえ器用な方なのかと勘違いしちゃいそう」
セカンが来てくれたので、作業が捗った。
一人でしていると嫌になってくるが、二人だとなんとなく楽しい気分で作業できる。
若い子たちは、もう生け簀の様になっているところには魚がいないので、川の中に入って魚を探している、というか遊んでいる。
中には結構深いところを泳いで、魚を抱きしめる様にして捕ってくるなかなか器用な子もいる。
処理して積み上げてある魚を見てみると、もう十分だと思われる量になっていたので、そろそろもう魚捕りはお終いと声をかけようかと思った。
あ、不味い、やばい。
僕は服と靴を脱ぎ散らかしながら、川に向かって走った。
近くにいた人間にも大声で声を掛ける。
「ボブ、エレク、デイヴも来てくれ、急げ!!」
僕は川に飛び込んだ。
溺れていた若い子を一人抱えて、その子をボブとデイヴに託す。
「エレク、もう一人溺れていたはずだ、探してくれ!」
僕は川の淵の様になったところを潜って探す。
「アレク、居た。 こっちだ」
エレクが先に見つけた。
僕たちは溺れた子を抱えて岸のみんなのところに戻った。
岸まで来て、溺れてた子をしっかり観察すると、やばい息していない。
僕とエレクの二人で、頭を下にして抱えあげて、無理やり水を吐かせた。
そして鼻をつまんで口から息を何度か吹き込んでやると、数度の後、もう一回今度は自分で水を吐くと、息を吹き返した。
「良かった。 驚いたけど、なんとか間に合ったみたいだな」
「ほんと良かったよ、息を吹き返して」
僕とエレクは急に力が抜けて、その場にへたり込んだ。
「アレク、エレク、大丈夫か?」
サーブがそんな僕らを見て、心配して声を掛けてきた。
「ああ、大丈夫だ。
安心したら気が抜けて、ちょっとへたり込んだだけだから」
イクス様が若い子たちの人数を確認して、全員いるのを確かめてから話をした。
「若い子ちゃんたち、よーく聞いて。
ラミアは変温動物だから、体が冷えると急に動けなくなっちゃうことがあるの。
今回は人間のお兄さんたちが居たから、助けてもらえたけど、普通だと死んじゃってもおかしくないことなのよ。
先に注意しておかなかった私も悪いけど、みんなもこれを教訓にして、もうこういう失敗をしない様に注意してね」
「はーい」
若い子たちはとても真剣な表情で返事をした。
ハキがお茶をみんなに配っている。
体を温めて、落ち着かせようというのだろう。
僕自身もちょとしたら落ち着いたので、やるべきことを思い出した。
丁度裸だから都合が良い。
「エレク、もう一つ手伝ってくれ」
僕はエレクを連れてもう一度川に入り、川の中に作った魚を誘導する仕掛けの一部を壊してきた。
それを見ていた若い子の一人が質問してきた。
「アレクさん、何故せっかく作った仕掛けを壊したの?」
「うん、あれがあると魚がここから上流に行けないだろ。
そうすると、あの魚たちは産卵できないんだ。
あの魚たちはもう少し上流で産卵して、産まれたら川を下って海に行き、大きくなって、またこの川に戻ってくるんだ。
だから、ここで行き止まりにずっとしちゃうと、この魚はいなくなっちゃうんだよ。
それで通れる様に壊したのさ」
「ふーん、そうなのか。 色々理由があるんだね。
でも、海ってなあに?」
そうか、ラミアはこの森だけで暮らしているから、海は知らないのか。
「海っていうのは、とっても広い水がたくさんあるところさ」
「湖とは違うの?」
「うん、もっとずっと広いし、水が塩っぱいんだぞ」
「水に初めから味がついているの?」
「うーん、味が付いているというか。
塩っていうのは、普通は海の水から作るものなんだ。
ラミアが使っている岩塩というのは珍しいものなのさ」
「へーっ、そうなの。
海か、見てみたいな」
「そうだな、そのうちみんなで見に行けたら良いな」
「うん」
その後、卵や白子を食べたり、魚の身やキノコを石の上で焼いて食べたり、火を使って目の前で料理するのも珍しいので、大きく盛り上がって、今回の川遊びは終わった。




