110. 串焼き
朝から森にも行かず、昼の串焼きの準備をする。
自分たち6人の分に加え、友たち10人分というのには慣れているが、それに若い子30人にターリア、ワーリア、ヤーレアの15人合わせて61人分だ。
いや、イクス様も参加する様なことを言っていたから、62人分を用意しなければならない訳だ。
ゴブの騒動以来、ほとんど狩に行かずに、用意する食事の量が多かったので、ストックしてある肉もほとんど底をついてきている。
狩に行かなくちゃ、他の目的もあるしね。
とりあえず僕たちは荷車に、塩漬けの肉と、矢作りの時に使った熾火を乗せる台をありったけと、串の材料の竹、そして主食の命の実と鍋、そして食器などをどんどん積み込む。
量が多いので、かなりの重さになってしまい、6人で引いたり押したりして運んで行く。
集落の広場に着くと、もう他の連中も集まっていた。
「来たわね。 もうみんな揃っているわよ。
直ぐに行って、今日で作業を終わらせましょう」
イクス様の号令でみんな動いて行く。
ボブたちが用意した荷車も、莚や食器などが満載されていて、かなり重そうだ。
田んぼに着くとイクス様は
「それじゃあ、ナーリアちゃんたちと人間ちゃんたちは食事の準備を主にお願い。
それ以外は収穫を頑張ってね」
と割り振りをした。
僕はボブたちと話し、柴刈りは彼らに任せることにした。
僕はセカンに手伝ってもらって、肉を川の水に浸けて塩出ししたり、鍋に水を張って命の実を浸したりした。
ナーリアたちには香草などを採ってきてもらう。
ナーリアたちが戻ってきて直ぐにボブたちも戻ってきた。
かなりの量の薪が集められているので、これなら間に合うだろうと思った。
イクス様はそれを見てうなづくと
「はーい、みんな、ちょっと休憩してこっちに集まって」
と収穫しているラミアたちに声をかけた。
「集まったわね。
みんな、昨日ナーリアたちが火を使っているのを見たよね。
それで、どう思った」
イクス様がど真ん中の直球で話を始めた。
「あ、やっぱりナーリアさんたちは火が使えるんだ、って思った。
アレクさんだけだったら、私たちの分の食事まで一人で作るのとても大変だろうと思っていたから、きっと使えるのかなと思っていたから」
「それから、やっぱり火が使えるのは、ちょっとカッコいいなと思った」
「うーん、若い子ちゃんたちはよく観察しているし、色々と鋭いわね。
それじゃあ、ナーリアが火を使ったことには驚かなかったのね」
「はい、きっと使えると思っていたから、それが確認できただけ」
「あなたたちはどう?」
イクス様はターリア、ワーリア、ヤーレアの方を向いて尋ねる。
「私はラミアが火を使うなんてこと考えたこともなかったので、とても驚きました」
ターリアが率直に驚きを口にした。
「ラミアにとって火は禁忌ではなかったのですか?
それをナーリアたちが普通になんの躊躇いもなく使っているので、何故なんだろうと疑問で一杯です」
ワーリアも驚きを口にする。
「私はナーリアたちが火を使うということを知っていましたから、若い子たちと同じ様に、やっぱりなと思っただけです」
ヤーレアがそう答えるとワーリアから横槍が入った。
「えー、なんでヤーレアたちは知っていたのよ」
「ほら、私たちは戦いの時、食料を運ぶ係だったじゃん。
その時にアレクさんとボブさんやエレクさんが話しているのを横で聞いていたから、その会話の中身から推測できたというか」
ああ、僕たちはそんな時からダメダメだったんだ。
ちょっと落ち込んだが、ボブやエレクも同じ顔をしている。
「まあ人間にとって火を使うのはとても当たり前のことだから、どうしても意識せずに火を使って何かする話は出ちゃうのよ。
多分今言われるまで、そんなこと完全に覚えてもいなかったと思うわよ」
イクス様はちらっと僕らの方を見てそう言うと、ちょっと一呼吸置いて
「それじゃあ、今から一つ良い事をあなたたちに教えるわ、若い子ちゃんたちもよく聴いてね。
ラミアに火は禁忌でもなんでもありません。
ラミアも普通に火は使います」
ワーリアの一人が手を挙げてイクス様に質問した。
「イクス様、ラミアにとって火は弱点ではないのですか?」
「確かに弱点ね。 でもそれはラミアに限らない。
人間にとっても、ゴブにとっても、他のどんな生物にとっても火は弱点だわ」
「ラミアの皮膚は人間より火に弱いと私は聞いたことがあるのですが」
そのワーリアの一人はなお食いついた。
「良く知っているわね、確かにその通りよ。
でもね、それは対抗する手段がラミアにはあるの。
今日はここに居るみんなに、その対抗手段を覚えてもらうわ。
でもまず最初にラミアは普通に火を使えることを、ちゃんとみんなに見てもらう為に、今日は私が火を点けるわ」
イクス様はそう言うと、前日作った簡易の竃に薪を少し組んだり、小枝をその上に置いたり準備をして、火種草を揉んでそれに火打石で火を点け、竃に移し、あっという間に大きな火にしてしまった。
「ほらね、私でも簡単に出来たでしょ。
ラミアでも火は使えるのよ」
「あの、イクス様、他にも火が使えるラミアはいるのですか?」
ヤーレアが質問した。
「もちろん居るわよ。
ラーリアたちは前から使えるし、ミーリアたちもアレクくんに教わって使えるわ。
他にも何人かはいるわね」
へぇ、他にも何人か居るんだと僕は思ったが、ふと、この大勢の前でイクス様がラーリア様たちやミーリア様たちを様無しで呼んだことに気がついた。
僕はレンスに聞いてみた
「イクス様、ラーリア様たち、ミーリア様たちを様抜きで呼んだし、普通にイクス様って呼ばれているけど、良いのかな?」
「うん、戦いの時にミーリア様が『イクス様』って呼んだのを多くの人に聞かれちゃって、その後広場に戻った時に、つい立場を隠すのを忘れて、みんなに命令しちゃたから、全体に知れちゃたみたい。
で、隠すのを諦めた」
「そうか、イクス様でも焦って忘れることあるんだ」
「いや、あの人、結構抜けているから。 娘としては頭が痛い。
私のことも隠す気が無くなったみたいで、困っている」
レンスとしては珍しく感情がモロに表に出た苦い顔で教えてくれた。
「はい、お昼まではまだちょっと時間がかかるから、もう少し収穫を頑張っちゃおう。
ナーリアたちは食事の準備を進めて、他は収穫」
僕は燠を沢山作る様にナーリアたちに指示をして、後、人間の分の命の実を煮るのも頼む。
そして、セカンと一緒に大急ぎで川に塩抜きの為に沈めておいた肉を取りに行く。
川では大きな魚が跳ねたりしている。
もうこんな時期になったのだと、改めて季節の流れを感じた。
とりあえずみんなに手伝ってもらって、竹串を作り、それに小さく切った肉を刺していく。
一串に一つ、間に香草を挟んだ肉も刺して、少し味に変化を加えた。
ラミアたちには一串づつ、人間には三串づつで行き渡る量の串を作った。
作り終わったところで、イクス様に声を掛けられた。
「アレクくん、そろそろ準備はいい?」
「はい大丈夫です。 準備できました」
「人間ちゃんたち、手伝って。 燠火を運んで」
僕たちは燠を台に乗せ、ボブたちがそれをそれぞれの場所に運んでいった。
「はい、みんな集まって。
それぞれのグループで一つの燠火に集まってね。
ナーリアちゃんたち、それぞれのところで、まずは腕に火を当てさせて、水を吹き掛けて治すのを教えて」
ナーリアたちは以前ラーリア様に教わったのと同じ方法で、燠火にまず腕をかざして少しヒリヒリさせたところで、ヒリヒリしたところに霧を吹きかけるのを実演して見せて、一人一人に試させている。
若い子たちはキャッキャと喜んで試しているが、ターリア、ワーリア、ヤーレアはみんな恐る恐るという感じだ。
「みんな分かったかな。 今のがラミアが火に対抗する手段の一つよ。
人間ちゃんたち、串を配って挙げて、配り終えたら串を焼くのを実演して見せてあげて」
ボブたちは串をラミアに配り終わると、燠火でそれを焼いて見せた。
「良く見てたかな、そんな感じで串を焼くのだけど、ラミアだとちょっとコツが必要なのね。
ナーリアちゃんたち、やって見せてあげて」
ナーリアたちは串を燠火で焼きながら、火に近い自分の手に時々霧を吹く。
「分かったかな。
霧を吹き掛けながらやれば、ラミアでも人間と同じ様に出来るのよ。
順番に練習してみてね。
ナーリアちゃんたち、しっかり指導して」
これも若い子の方がためらわずにやってみるせいか、すぐにコツを掴んで出来る様になっていった。
ターリアたちは恐る恐るだし、失敗も多い。
酷いのは霧と言っているのに、水を燠にそのまま吹き掛けて、盛大に水蒸気と灰を巻き上げて消してしまったりなんてしている。
串を取り落とすのは何人もいる。 こっちは本当に大騒ぎだ。
何とかみんな焼き上がり、食事となった。
「どう、自分で焼いた肉の味は?」
イクス様がそういうと、若い子が
「とっても美味しいけど、やっぱりアレクさんが焼いたヤツの方が美味しい」
「そうね。 みんなもアレクくんに負けない味で焼ける様になろうね」
そう言っているイクス様はちゃっかり僕が焼いた串を食べているのだけどね。
若い子の何人かは、真っ黒にしてしまい、エレクたちが自分の分の串を一本分けてあげて、もう一度やり直しさせていた。
ターリア、ワーリア、ヤーレアたちはダメにする率が高くて、仕方ないからまだ少し余っていた肉を串に刺して、新たな串を渡してやってどうにかなった。
「ほら、みんなも分かったでしょ。
こういう風にすれば、ラミアも人間と同じ様に火を使えるのよ。
私が最初にした様に火を点けたりするのは、またそのうちアレクくんや、ナーリアちゃんたちが教えてくれるからね。
今日はここまでよ」
えっ、まだ上位ラミアもミーリア様たちだけしか火の使い方教えてないのだけど、良いのかな。
それにしてもこの人数に火の使い方教えるのも、僕たちの仕事にサラッとなった気がしたのだけど。
ナーリアたちも気がついたみたいだけど、具体的にどうするのかがまだ何もわからないから、何も言えずに黙っているみたい。
さてさて、どうなるのか。
「ところでアレクくん。
この干した命の実はどうするの?」
イクス様はサラッと話題を変えてきた。
「天気にもよるのですけど、10日から二週間干したら、今度は持って行って、実と藁に分けて貯蔵します。
その時までに貯蔵用の俵も編んだりしなければならないから忙しいですよ」
「そうなの、それもアレクくんたちが中心になってやってくれるかな」
「僕らはもう肉のストックがないので、狩をしないとならないですし、炭焼きなんかも考えないとです。
とりあえずはボブたちが俵作りなんかは教えてくれると思いますよ」
「そうね、肉のストックが流石にもう切れちゃうのね、仕方ないわね、それは。
それじゃあ、人間ちゃんたち、若い子に教えて頑張ってね」
「アレク、お前、俺たちに押し付けたな」
「デイヴ、何言ってるんだ。 肉が無くても良いのか?」
「くそっ、反論のしようがない」
僕は何だかとても気分が良かった。
ラミアの独り言ep.6「搦め手」が、この時期の裏話です。 良かったら、そちらも。




