107. 薪と炭とキノコ鍋
風呂を教え終わると、イクス様はあっさりと集落に戻って行かれた。
内心、風呂に入っていくのかと思ってドキドキしていたのだが、ちょっと肩透かしを食らった感じ。
「どうする? せっかくだから風呂を入れてみる?」
僕も興味を感じていたので、みんなに聞いてみる。
「こっちの小さい方に溜めた水を温めるのだと思うけど、それでも結構な量。
それだけの水を温めるのは時間がかかる。 今日だと遅くなり過ぎる」
セカンの冷静な反論で、今日のところはまだ試さないことになった。
「でも、冬もここで過ごすことを考えると、もしかして大量の薪が必要なんじゃないかしら。
私、寒い中森で柴刈りなんて嫌よ」
ディフィーが鋭い所に気がついた様だ。
「うん、それだから人間の家では、秋のうちにたくさんの薪を用意して、小屋の中や家の周りに積み上げておくんだ。
それで冬を乗り切れる様に。
レンスはここに住んでいたなら、そういう光景を覚えていないか?」
「無理、私は小さすぎたから、ここでの子供の頃の記憶は断片的にしかない」
「どちらにしろ、たくさんの薪を集めなければならないということだな」
サーブが結論を急いで言った。
「そうなんだけど、イクス様は炭も焼くという様なことも言っていたからな、もっと大量に必要になるかもしれない」
「アレク、炭って何なの?」
ナーリアが根本的なことを質問してきた。
「そうか、みんなは炭を知らないのか。
竃で火を燃していて、途中で火が要らなくなると、燃えている薪を灰に埋めて消すでしょ。
その時に火の消えた薪が灰の中で黒くなって残っている、それを消し炭っていうのだけど、そういうのを意図的にもっとたくさん作ったのを炭っていうんだ。
消し炭は燃え残りだけど、炭は最初からその状態を目指す訳」
「何でそんな面倒なことをするの? 薪をそのまま燃やせば良いだけのことじゃん」
ディフィーが疑問を述べる。
「いくつか理由があるんだけど、1番の理由は炭は燃える時にほとんど煙や炎を出さないんだ。
色々やってみれば分かるけど、煙や炎が出ないと火というか熱源として、とても使いやすくなる。
熾火をもっと使いやすくした感じかな。
次に、火力が強い。
炭を使えば、鉄を溶かすことも出来るから、鍛治には欠かせないんだ。
他にも保存性が良かったり、有用な副産物が取れたりもするけど、それはまあおいおい」
「それで、その炭を作るのって難しかったり、大変だったりするの?」
セカンが具体的なことを聞いてきた。
「うん、かなり大変。
まず炭を焼くための装置を作らないとダメだし、焼くのは一回に一週間くらいかかる」
「そんなに時間がかかるのか?
焼くというからには、その間、火を燃やしているということなのか?」
サーブが驚いた様に声を出した。
「燃やしている時間は半分くらいだけどね。
どちらにしろ、炭にする分と燃やす分で大量に薪が要る」
「そんなに沢山の薪を森から拾って来ないとダメなの?」
「うーん、拾ってくるだけだと間に合わないかも。
木を選んで、切って来る必要があると思うな」
僕がナーリアの疑問に答えると、余計に突っ込まれた。
「切っちゃったりしたら、どんどん森が無くなっちゃうじゃない。
それじゃ、ダメじゃないの?」
「うん、無計画に切ったら、そうなっちゃうかも知れない。
だけど、木によっては切り方で、切っても次の年には切った所から新しい枝が出て、また大きな木になる木もあるんだ。
そういう木を選んで切ったり、そういう木を森に少し増やす様にするんだ」
「なる程、色々考えてあるんだね」
セカンが感心した様に言ってくれた。
翌日は朝から、とりあえず柴刈りをみんなで頑張った。
まずはせっかくだから風呂に入ってみたいと思ったのだ。
サーブもすっかり復調し、以前と同じ様に仕事をこなしている。
かなり大量に薪を集め、そろそろ昼の準備をしなければという時になって、早々に友たちがやって来た。
「お前ら、こんなに早くやって来ても、飯は無いぞ」
「アレク、そんなの分かっているよ。
アレクが昼飯の支度を始める前に間に合う様に来たんだよ」
エレクがそう言ってニコニコしている。
「アレク、見て驚け、そして俺たちに感謝を捧げろ」
デイヴが勿体ぶって袋を渡して来た。
中を覗くと、キノコがぎっしり詰まっていた。
「おおっ、すごいなこれは。
どうしたんだ、これ」
「アレク、感謝を捧げる気になっただろう」
「おお、感謝でも何でも捧げるぜ」
「昨日僕たちも若い子たちと森に入ったんだ。
そうしたら、ハキが見つけたって訳さ」
エレクが説明してくれた。
「感謝を捧げる相手はデイヴ、お前じゃないじゃないか。
ハキ、お前に多大な感謝を捧げる」
「何、随分大げさだな」
ハキは照れ臭そうにそう言ったが、嬉しそうだ。
「よし、お前らも飯作り手伝え。
俺はイノシシの肉を用意するから、お前らはそのキノコの下準備をしてくれ、肉とキノコを煮込んで食おうぜ」
「おーっ!!」
僕たちはハイテンションで準備を進めていく。
ナーリアたちは僕たちのハイテンションについていけず、呆れ顔で眺めている。
「キノコは、ラミアは食べないか。
秋の森の恵みだよ、煮込んで食うと本当に美味いんだ」
僕はナーリアたちに説明するけど、これは食べてみないとわからないよね。
僕は大鍋を二つ竃にかけて、もう一箇所で切った肉を軽く浅い鍋に脂を落として焼いて、軽く焼けたモノからどんどん鍋の中に入れていく。
そして友たちが土と汚れを取って、適当な大きさに裂いたキノコも鍋に入れた。
あとはちょっと香り付けというか隠し味に辛い実をちぎって入れ、浮いて来たアクは丁寧に掬い取った。
最後に塩で味を整えれば出来上がりだ。
「おおっ、何だこれ、美味いな」 サーブが驚きの声をあげた。
「本当に美味しい。 こんな味初めて」 ナーリアも目を丸くしている。
「なんて言うか、汁がすごく複雑な味なんだけど、すごく美味しい」
セカンが少し分析気味に褒めてくれる。
「ラミアにとってエネルギーにはならないけど、美味しいのは本当だわ」
ディフィーかちょっと憎まれ口をたたきながらも、おかわりをしている。
「私、キノコなんて今まで見ても、尻尾の先で蹴飛ばしたりしてたよ。
もったいなかったなぁ」
レンス、今更そんなこと言っても、今度はしないでくれ。
「ところで、お前らの中でさ、鍛治が出来る奴っていたっけ?」
「鍛治って、トンテンカンってヤツか? 」
ボブが反応して来た。
「そう、その鍛治。
この間の戦いで、ラミアは奮戦したからな。
みんな武器が傷んでしまって困っているんだ。
それで俺に鍛治が出来ないかと聞いて来たのだけど、俺でもナイフや鎌くらいなら作れるけど、剣や槍とかになるとちょっとな」
「俺、出来ることは出来るけど、鍛冶屋だからな家が。
でも俺、鍛冶屋になるのが嫌だから、狩人学校に通ってたんだけどなぁ」
「そうか、でも頼めないかな。
ラーリア様たち、本当に困っているんだ。
ボブ、ラーリア様にちょっと話聞いてやってくれよ」
「うーん、そうだな。
世話にはなってるものな、ラミアに」
「って、言うか、俺たち完全にこのラミアの集落の一員だぜ、今では」
ケンが話に混ざってきた。
「アレク、鍛治をやるとしたら、大量に炭が必要になるぞ。
そっちは大丈夫なのか?」
「いや、それも頭が痛いんだ。
炭焼きは俺がやるにしても、時間を取られるからなぁ」
「よし、そっちは俺に任せろ。
炭は俺が焼いてやるぜ」
「本当か、すげぇ助かるよ」
「お前ら、俺に鍛治やらす気、満々だろ」
「「いや、断れないだろう」」
僕はキノコの様な今までラミアが食べたことのない食材を食べているのだから、きっとラーリア様かミーリア様かイクス様辺りがやって来て、食べさせろと騒ぐと思っていたのだけど、今回は誰も珍しく現れなかった。
僕は台車にもう一つの鍋を載せて、デイブに言う。
「お前、もう食うなよ。
これは若い子たちの分だからな。
どうせ採るのは手伝ってもらったんだろ、若い子たちだけ食べれないんじゃ不公平だ。
持って行って、食わしてやって、明日、鍋と台車はちゃんと持って来い」




