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後宮の釣り姫  作者: よこすか なみ
第1章 魚嫌いに魚を食わせる
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4 執務室に残された者たち

 嵐のように清蘭《せいらん》が去ったあと。


 天璟《てんけい》の執務室に残された宦官《かんがん》と、金髪の宮女《きゅうじょ》──月瑤《げつよう》は、呆気に取られたまま立ち尽くしていた。


「それで、お前たちはどうした?」

 天璟の呼びかけで、宦官はハッとする。釣り竿を持ってくるはずが清蘭に奪い取られてしまった。


「実は、先ほどの釣り竿の処分について、いかようにすべきかお尋ねしに参ったのですが……」

「では用事が済んでしまったようだな」

「そうなりますね……」

 宦官は苦笑した。


「ああは言ったが、私の妃には変わりない。清蘭に何かあったら、私の面目が潰れてしまう。彼女に護衛を付けてやってくれ」

 天璟に言われ、宦官は月瑤を見やった。


「そういえば、月瑤は武術の心得があるんだったよな?」

「ずっと前から武道が得意だと言ってるじゃないですか、アタシは武官希望だって。いい加減、武官に推薦してくれません? 元々、師匠が朝廷に武官として推薦してくれてたのに、女だからって勝手に洗濯係の宮女にされて」

「わかったわかった」


 月瑤の訴えに被せ、宦官は雑にうなずいた。


「よし、賢妃様の護衛をして、成果が出せたら考えてやる」

「厄介払いしてるだけですよね? そう言われたら、やらざるを得ないですけど」

 護衛の成果なんて、出ないほうが平和なのだが──月瑤はその言葉を飲み込んだ。


「では、天璟様、我々はこれで失礼します」

「ああ」

 月瑤と宦官は、拝礼をして執務室から退室して行く。


 バタンと閉まった扉を見つめて、天璟はようやく「ふぅ」と息を吐いた。


「人がいると緊張する……」


 そう言って、天を向き、両手で顔を覆った。

 天璟はなりたくて皇帝になったわけではない。


 前皇帝である父親が、突然死んでしまったのだ。


 父の死は暗殺も疑われたが、過労という判断が下された。真面目な父らしい終わり方だと思った。


 故に、何も心の準備ができていないまま、いきなり位が与えられた。


 後宮も、家臣から「この中から後宮入りする女を選んでください」と言われ、適当に選んだに過ぎない。


 誰でもいいから、と選んだ女たちと、いきなり子作りをする気には到底なれず、形だけの後宮となってしまっていた。


「いけない、誰が聞いてるかもわからないからな……」


 小さく独り言を呟いてから、天璟は仏頂面を作り直し、背筋を伸ばす。


 母は父より先に他界していた。

 急に政界へ放り出された天璟は、誰が味方で誰が敵かも判別できていなかった。


 まだ若い天璟を利用しようとする輩は大勢いる。その悪意を見定めなければいけない。

 それができないなら、誰も信用はできない。


 ──「誰も信用するな」


 それが、父が亡くなる直前に残した言葉だった。


 天璟は、自分の身を守るため、王として振る舞うため、隙を見せないように、表情を一貫して引き締めて生きてきた。


 そんな中、ふと、破顔してしまったことを思い出す。


 絶対に美味しい魚を食わせてやる、と豪語した清蘭。


 今の天璟に、そうやって何かを成し遂げると断言できるだけの自信は、まだない。


「あんな自信を、俺も持ってみたいものだな……」

読んでくださり、ありがとうございます!

評判が良かったら長編化するつもりなので、ぜひ☆やリアクションをポチッとよろしくお願いします!

感想を頂けたら舞います。

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― 新着の感想 ―
後宮✕釣り というのは異色な組み合わせに見えて、雰囲気から外れているという事はなく絶妙な塩梅だと思いました。 清蘭の釣りバカぶりもキャラが立っていて好ましく、作者様の魚愛が文中からよく伝わってきます。…
Xで気になり思わず見に来てしまいました。姫が釣りをする事になるなんて異色だと思いながらも、全く違和感なく読めてしまいました。ハゼ、美味しいですよね。また食べたいなぁ。 これから話がどの様に進んでいくの…
清蘭の釣り愛が皇帝の心を動かす展開が最高でした!ハゼ料理の描写も美味しそうで、月瑤との絆や陰謀の伏線も盛り上がって続きが楽しみです。
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