6 入れ食い
ガシャン!
劉帆様が振り下ろす刀をプラスチック製の魚つかみで受け止めた。
「くっ……!」
重い。男性の、しかも戦うために鍛えている人の一撃は一般女性のわたしには重すぎた。魚つかみは壊れなかったものの、なんとか刀の方向を逸らすので精一杯だ。
しかも今の衝撃で右手首がズキズキする。とにかく劉帆様の間合いから外れるように動く。
「隠し通路の鍵をあなたにやったのは雪瑛ですか」
劉帆様が吐き捨てるように言う。
「暗殺もこなせないどころか、裏切るとは……出来損ないの妹を持つ身は辛いですね……」
大袈裟にため息をついてみせ、劉帆様は刀をぶらぶらと振る。
「雪瑛様は出来損ないなんかじゃないです」
「あなたは身内じゃないからわからないんですよ。昔から要領の悪い娘でした、親族の言うことも聞かずに私に歯向かってきて……首を絞めたらようやく大人しくなったこともありましたね」
懐かしい思い出話みたいに恐ろしいことを言う劉帆様。
「今回の件でも帰ったら折檻をしないといけませんが……あぁ、もう死刑になるからどうでもいいですね」
どうしてそんな酷い仕打ちができるのだろう。
同じ家に、兄妹として育ってきて、どうして。
サバの塩焼きを美味しく食べてくれた雪瑛様を、幽霊がいると言って遠回しに助けてくれようとした雪瑛様を。
あんなに可憐で優しく、強かさを持った、魅力的な彼女を。
「許せない……!」
気づけば歯を食いしばっていた。劉帆様を睨みつけるが、彼はどこ吹く風であった。
「女に許しなど請いませんよ、勝手に怒っていてください。どうせすぐあの世ですから」
「あなたは適切な罰を受けるべきです」
「罰など受けません。罪を犯していないのですから」
「いいえ。皇帝暗殺未遂の罪です」
「皇帝? 次の皇帝は私ですよ」
天璟様に後継はいない。劉帆様は天璟様を暗殺したのち、自分が皇帝の座につくつもりなんだ。
劉帆様が刀を掲げ、軽く振り下ろしてきた。わたしは魚つかみで受け流す。
「ほら、ほら、ほら」
「ぐっ……!」
一撃が重い……!
劉帆様は遊ぶように刀を振っているのに、わたしはそれをどうにか逸らす。
ガシャ、ガシャと魚つかみがどんどんボロボロになっていく。
「もうおしまいですか?」
わたしは釣り具が並べられている横に追い詰められ、ようやく気づく。出入り口から遠ざけるために劉帆様は刀を振っていたのだ。
膝をついて、わたしは大声を出した。
「待ってください! 命だけは!」
「命乞いとは見苦しい……」
四つん這いのまま、背中を向けて逃げるフリをして、大量の釣り具の中から必死に“アレ”を探す。
パッと見はないが、絶対にあるはず。
……あれ、あれ、あれ!
釣り竿、バケツ、ハサミ、紙製のメジャー、ワーム、ルアー、仕掛け──あった!
わたしはそれを手に取り、キャップを外して中身を右の手のひらに出した。拳を握り、手の中に隠す。右手首が痛むが無視するしかない。
「それでは、あの世で後悔してくださいね」
振り向くと、劉帆様は両手で刀を振りかぶっていた。本気で殺そうとする構えだ。
「愚かな自分を」
刀が振り下ろされる寸前に、わたしは手の中のものを、劉帆様の両目に目掛けて投げつけた。
「うわっ!?」
劉帆様の視界は粘着性のある、臭い“それ”に奪われた。
「アミコマセの味はいかがですか!?」
小さなエビが集まったジェルは一度引っ付いたらなかなか取れない。釣り場でも落ちたアミコマセは海水などで流すのがマナーだ。それでも落ちないこともある。
ここが海の中だったら入れ食い状態だぞ!
劉帆様の動きが止まった隙を見て、わたしは扉へと駆け出した。
わたしは生きたい。
月瑤と雪瑛様と、一緒に釣りがしたい──!
「うっ!」
扉に手をかけるが、右手首に激痛が走る。そのせいで扉がうまく開かない。
「ぐ、うぅぅ!」
必死の思いで扉を開けると、曇天が出迎えてくれる。
後宮へ戻ろう、天璟様の元へ。
外へ足を踏み出そうとした瞬間、背後から首根っこを掴まれた。
「待て」
読んでくださり、ありがとうございます!
ぜひ☆やリアクションをポチッとよろしくお願いします!
感想やレビュー、励みになります!




