↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の釣り姫  作者: よこすか なみ
第2章 坊主でもそばにいる
PR
14/19

1 試練


 天璟《てんけい》様の後ろに立って控えていた劉帆《りゅうほ》様が一歩前に出る。


「力自慢の武官がいます。彼と戦えば、その女官の強さがわかるでしょう」

「その女官、などではなく、月瑤《げつよう》です、むぐ」


 わたしが訂正すると、月瑤が「いいって!」とわたしの口を塞いだ。無用な争いは避けたいのだろう。


 ……だからといって、月瑤の扱いがぞんざいなのは気に食わない。


「月瑤」

 わたしと月瑤のやり取りに笑いを堪えながら、天璟《てんけい》様が説明を続ける。


「お前が武官で一番の腕自慢に勝利すれば、すなわち、ここで最も強い女官ということになる。そうでなくては清蘭《せいらん》を守れない。もちろん、命に関わるような危険な試合はさせない。いたずらに家臣が減るのは、私も反対だからな」


「では、どういった試合内容を?」

 月瑤が真剣な表情で質問する。それには劉帆様が答えた。


「円の中から出たら敗北、もしくは負けを宣言したら決着と見なします。武官の間では、強さを計るためによくやる簡単な試合形式です」


 確かにシンプルで、なんだか相撲みたい。体型が大きく体重が重いほうが有利そうなルールだ。

 わたしがぼんやり考えている間にも、月瑤は質問を続ける。


「武器の使用は?」

「禁止です。素手のみで、相手を場外に出すか屈服させて見せてください」


 範囲が決まっている中で、素手でタイマンか。月瑤は動きやすそうだが、相手が巨漢であれば、難しいかもしれない。


 まぁ、負ける心配はしていないけれど。


「……殺すのは?」

「……ほう」


 物騒なことを言い出す月瑤に、わたしは目を見張る。

 ルール聞いてました? 素手ですわよ? 武器なしですわよ?


「もちろん、禁止です。どちらかが死にそうになったら、私が試合を中断させます」

「相手が規則を無視してアタシを殺そうとしてきたら?」

「……反撃を認めます」

「承知しました」


 なんておっかない確認なんだ。万が一でも、殺し殺されそうになる事態に陥ってほしくない。


「質問は以上でいいか。三日後の正午に、武場《ぶじょう》で試合を執り行う」

 武場は朝廷内にある武官たちの訓練場だ。後宮よりも南側に位置する。


「清蘭」

 天璟様がわたしを見つめて言う。


「この勝負で月瑤が敗北すれば、お前は海月宮《くらげきゅう》に行けないどころか、釣りも今後禁止とする」

「えっ!? 釣りもですか!?」

「当たり前だ。暗殺者がいるのに悠長に釣りなどさせられるか」


 なんということ……!?

 衝撃のあまり、月瑤の肩をがしっと掴む。


「月瑤! 絶対勝ってくださいね!!」

「は、はい……」


 わたしの必死さに少々引き気味の返事が返ってきた。そこは一緒に「えいえいおー」ってしてくれないと! 後宮にそんな文化はないが。


「そもそも試合などせず、海月宮を諦めろ。護衛付きで近場の釣りを短時間だけなら許可してもいい」


 天璟様に釣りの許可だけを頂ける選択肢を提示されてしまった。


 天璟様はよっぽどわたしに、ハイリスクハイリターンな選択をしてほしくないみたいだ。


「どうする?」

「そっちのほうがいいんじゃないですか? 清蘭様。釣りがしたいんですよね? わざわざ賭けに出なくても……」


 月瑤も天璟様の案に賛成らしい。わたしの釣り欲を慮ってくれている。


 わたしは両条件を天秤にかけてみた。

 試合を辞退したら、近場でちょっとだけ釣りができる。

 試合に挑み、勝ったら海月宮で釣り三昧、負けたら釣り禁止。


 ……あれ?


「護衛は月瑤になりますか?」

「その限りではない。武官も複数人護衛につけるつもりだ」


 天璟様の答えに、わたしはもう一つ質問を重ねる。


「それなら、月瑤が武官に昇格する話は白紙になってしまいますよね?」

 わたしが確認すると、月瑤はぎくりと肩を揺らした。

 天璟様は当たり前のようにうなずく。


「そうだ。月瑤が武官になれる機会はなくなる」

「では、やはり、月瑤に試合をしてほしいですわ」


 わたしが単体で海月宮に行き、危険に身を晒してこそ月瑤の護衛が評価されるもの。


 釣りもできるし、釣り道具がたっぷりありそうな海月宮に住めるし、一石三鳥レベルだ。


「ふっ、面白いな。わざわざ危険を冒すなど」

「危険ではありません」


 わたしは首を横に振って断言した。


「月瑤は強いですから」

「……っ!」


 月瑤が拳をぎゅっと握りしめる。

 ね、と月瑤に笑いかけると、彼女は顔を隠すように拱手《こうしゅ》する。


「ご期待に添えるよう努力いたします」

「ふふ、期待していますよ」

「わかった。じゃあ三日後の正午に、武場へ来てくれ」


 話がまとまったので天璟様が立ち上がる。わたしたちも退室するために腰を上げた。


 退出前に拝礼をしたところで、劉帆様が一言付け加えた。


「くれぐれも気をつけてくださいね。危ないと思ったら、早めに負けを宣言してください」


 彼も心配してくれているようだが、今の月瑤にとってそれは失礼だ。こちらとしては煽りにしか聞こえない。


 劉帆様より身分が低い月瑤は何も言い返さない。無表情のまま、彼女はずっと大人の対応を続けている。


 わかっている。

 今だって、そうしたほうがいい──だが、わたしは違う。

 煽り耐性が低いのだ。


「拝ませてくださいまし」


 月瑤が開けてくれる扉に向かいながら、首だけで劉帆様に振り返る。

「吠え面」


 言うと同時に扉が閉まり、わたしたちは四夫人《よんふじん》にそれぞれ与えられている宮殿へ戻った。




***




「聞いたか、劉帆! 吠え面かかせてやるって言ったぞ!」

 清蘭と月瑤が執務室から去ったあと、天璟は腹を抱えて笑い転げていた。


「聞きました……あの自信はいったいどこから湧いてくるんでしょうか」

 笑いが収まらない天璟を横目で見ながら、劉帆は相槌を打つ。


「あー笑った」

 天璟は涙を指で拭いながら、長椅子に座り直した。劉帆にも向かい側の長椅子に座るよう指し示すと、彼は素直に腰を下ろした。


「試合をせずに済む有利な条件を出しても、月瑤が武官になれる機会を選んだ。月瑤はいったい何者なんだ?」

 首をひねる天璟に劉帆は言う。


「まあどんなに自信があろうと勝つのは武官ですよ」

「ほう? その力自慢の武官とやらはそんなに強いのか?」

「はい。彼は虎三匹と一人で戦い勝利した前例があります」

「虎三匹!?」


 天璟は思わず長椅子から身を乗り出した。


「以前、地方の領地に遠征へ行った際、虎の群れに襲われたのだとか。虎の首を持って、自慢してまわっていました」

「それは……申し訳ないが、彼女たちに勝つ未来はないな」

 天璟は頭をかく。


「いえ、別に死ぬわけではないですし、現実を知らないと何も守れないですから」

「うーん……」

「ですから、天璟様の判断は間違っていないですよ」


 劉帆はそう断言して、天璟の執務室を後にした。

読んでくださり、ありがとうございます!

ぜひ☆やリアクションをポチッとよろしくお願いします!

感想やレビュー、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。