12 口封じ
「入れ」
「天璟様!」
天璟様が許可するや否や血相を変えた劉帆様が転がり込んできた。
「犯人の姫を捕まえました! 天璟様が仰ったように九嬪の女でした。牢に入れて尋問する予定です」
九嬪は四夫人の一つ下の位の姫たちだ。
「しかし……」
劉帆様の視線が、天璟様からわたしに移る。
「しかし?」
「賢妃様を襲った男については、何も知らないとのことです!」
えっ!?
「ということは、清蘭様を狙った犯人は別にいる……!?」
月瑤が目を見開いて言った。
その犯人が後宮の中にいるのか、外部の人間なのかはわからない。
「その男は何と言ってるんだ?」
「それが……」
天璟様の問いに、劉帆様は息をのんでから告げた。
「確認しに行った武官によると、すでに死んでいたそうです」
「死んでいた!?」
わたしと月瑤は同時に大きな声を出してしまった。
「そんな! 殺してはいないし、数時間は意識を取り戻さないはずです! そう加減しました!」
「落ち着け。お前が殺したとは疑っていない。おそらく、口封じだろう」
抗議する月瑤を、天璟様が片手で制した。
重い沈黙が執務室を覆っていく。
……なんだか、マズい流れだぞ?
海月宮への移住に好意的だった風向きが変わってきた気配がする。
「清蘭を狙った人間がまだいる以上、一人で後宮から出すわけにいかないな」
やっぱり……!
嫌な予感が的中して冷や汗がダラダラ垂れるわたしを、天璟様が見据える。
「悪いが、犯人が捕まるまで海月宮は諦めてくれ」
うわああああああ!!
いやだああああ!!
本来なら床に仰向けになってバタバタ暴れ回って拒絶したいところだが、
「嫌です」
前世はアラサーなので、そんな下品な真似はせず、キッパリと笑顔で拒絶した。
「嫌って……お前なぁ」
劉帆様が一歩前へ出る。
「天璟様は心配してらっしゃるのですよ」
「よせ、劉帆」
天璟様は劉帆様を制止してから、わたしを見る。
「私はお前が気に入ったんだ」
天璟様の手がわたしの髪に伸び、ちゅ、と唇を髪に落とした。
な、な、なんてキザな!
一気に体の温度が上がっていくのを感じる。
しかもそれがサマになってしまう、圧倒的な天璟様のご尊顔。
日本では考えられないが、ここは後宮。こういうことも普通なのだろう。わたしはぺこりと拱手した。
「身に余る光栄でございます」
「……そうじゃないんだが」
わたしの完璧な振る舞いに、天璟様はどこか不服そうな顔をした。
「あ〜伝わってないですね、これは……」
横にいる月瑤まで呆れたように言う。
なんのことやらわかっていないわたしに、天璟様は咳払いをした。
「だから、わざわざ危険に晒して、お前に死んでほしくないんだ」
天璟様の言葉に、うんうん、と月瑤も首を縦に振った。
なるほど。
危険に晒されなければいい、と。
「では、一人でなければいいですか?」
ちら、ちら。
わたしは月瑤に“可愛らしい”視線を送る。
「え? え? ……え〜?」
月瑤はわたしの意図に気づいたのか、己の顔を人差し指で示す。わたしは何も言わずにうなずく。
彼女は軽く息を吐いてから背筋を伸ばした。
「天璟様」
「なんだ」
「アタシも女官として付き添うので、海月宮への移住を許可してもらえないでしょうか?」
両膝を床について、月瑤は拱手する。
「あぁ、確か、名は月瑤だったか。しかも、武官を志望しているだとか?」
「そうなんです! 月瑤はわたしを襲ってきた暴漢を一瞬で成敗してくれました! 実力は折り紙つきです!」
「清蘭様……!」
ふむ、と天璟様は顎に手を当てて、考えるようにわたしと月瑤を見ていたが、すぐに、「いいだろう」と了承した。
「此度の犯人が捕まるまで、無事に清蘭を守り抜けたら武官に任命しよう」
「……ありがとうございます!」
良かった、月瑤……!
これはつまり、わたしが無傷で犯人を捕まえれば、月瑤は武官になれるというわけだ。
わたしが囮になって犯人をおびき寄せる……!
名付けて泳がせ釣り作戦!
「いや、泳がせの魚は無傷で済まないから、ちょっと違うか……」
「おい、お前、今よくないことを考えたろう」
天璟様に釘を刺され、わたしは笑って誤魔化す。
誤魔化されてくれたかはわからないが、天璟様は軽くため息をついてから、人差し指を立てた。
「ただし、一つ条件がある」
条件?
わたしと月瑤は首を傾げる。
「月瑤、劉帆が推薦する武官に勝利しろ」
天璟様は劉帆様を親指で示した。
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