第106話:公爵家がきました。誰のせい?
西城瑠璃子:西城公爵家の次女。姉の他兄が1人、弟が1人いる。主人公と同じく1年。【剣聖】のレア称号持ち
信濃海斗:瑠璃子付の護衛、信濃伯爵家の4男。表の顔はさえないおっさんだが、かなりの実力者
琴子:瑠璃子の侍女。皆川、長谷川、美々と心配事が絶えない日々。
宗谷廸子:前世は間宮廸子。小町の妹
西城久子:西城家当主。瑠璃子の母親
西城翡翠:瑠璃子の姉
西城赤鉄:瑠璃子、翡翠の兄。瑠璃子ラブ
「それは本当なの?」(久子)
「はいっ。御前試合の瑠璃子様をご覧になってすぐとのことです」(信濃悦子)
「……はぁ……やっぱり」(久子)
「父上とは行き違いになってしまったのね……」(翡翠)
「あの子は本当にもう」(久子)
「久子様の昔そっくりです。久子様も昔はだんな様のために」(悦子)
「信濃、詳しく」(翡翠)
「信濃!」(久子)
………
「行ってしまったか……」(南雲)
「さっきから何度目ですか」
「じゃがのう、廸子がぁ、廸子がぁ」
「はぁ……午後の会議までにはいつもの調子に戻ってくださいよ」
「廸子ぉ……」
………
昼下がり、2台の車が日華の道を走っている。日常的な光景に見えるが、日華は日中は車両通行禁止だ。
だが、それを止めようとする人はいない。通常禁止されているということは、それが許されるだけの権力を持つ人ということになる。
「……」
「西城家?」(廸子)
「はい」
おかしい。西城家が車を走らせる事も珍しいが、まるで先導するかのように同じ道を進んでいる。同じ目的ということはないだろう。
「どうしますか、帰りますか?」
「……いえ、そのまま行きましょう。ただでさえおじい様に迷惑をかけているのに、西城家に臆したなどと風評が立つのはよろしくないでしょう」
「……わかりました」
大丈夫、私は冷静だ。
「本当に行きたいのか?」(南雲)
「はい。どうしてもです」(廸子)
「考え直さんか? だいたいなんの意味がある?」
「行きたい! 行きたい! 行きたい! 行かせてくれないおじい様なんてだいっ「行って良し!」
「但し、護衛は必ずつかせること。よいな。あと車も使うことじゃ」
※廸子は20才超えています。
………
「南雲か?」(西城)
「はい。赤鉄様」
「追尾……ということは無いな」
「はい。ありえません」
日本ならわかるが、車を出す事自体滅多にない日華において車で追尾などありえない。しかし、後ろの車は尾行するかのようにぴったりとついてくる。
それに車両通行許可を得たのは昨日だ。うちですらこんな短時間で情報を得ることはできないだろう。
大丈夫、俺は冷静だ。瑠璃子が楽しそうに、それもF組の生徒と一緒に御前試合をしている。その映像を見ただけで動いた。冷静だ。
別にF組寮を視察するくらい普通だ。前例がないだけだ。別にセスナをチャーターするくらい普通だ。断られたら新幹線に変えたしな。
※3回程断れています。
「どうしますか?」
「このまま行け。南雲に道をゆずるなどありえん」
「……わかりました」
* * *
庭に決闘フィールドが張られ、黒田が大剣を瑠璃子が紅雀を構えている。
最近F組の寮も大分変わってきた。毎週1年が全員で掃除をしている。最近は村田の友人達も手伝うようになってきた。
村田は相変わらずどうしているかわからない。あの一件以来、ロストが明けても一人でなにかやっているようだ。
たとえ1週間に1回だとしても、ただでさえ人数が多いF組だ、「戦いは数だよ」と昔の偉い人は言った通りあっというまに終わってしまう。
手持無ち沙汰になった人の目が向いたのが未整備の2,3年の領土だ。相手が放棄しているのをいいことに領土侵攻が始まったのだ。
なにせF組とはいえ探索者だ、一般人の頃なら腰のあたりまで育った草など、根も丈夫でどんなに力を込めようとも抜けない。
だが、探索者となれば話は別だ。レベル3で人間卒業なのだ、面白いようにボコっと草が抜ける。
「ついむしゃくしゃして抜いた。後悔はしていない。やだえろい」(白雪)
「いや、白雪は1本たりとも抜いていないじゃないか」(加藤)
「そんな、抜くだなんて、女の子だもの」
「やめろ。いかがわしい方向に解釈するな」
なお、もうすぐレベル6になろうかという白雪だが、いまだ一般人のステータスに達していない。魔術補正値2.0は伊達じゃない。
* * *
黒田は大剣を正眼に構え、瑠璃子は紅雀を鞘に納めたままだ。だが、片手は鞘を、片手は柄を持っている。いつでも抜き放てる体勢だ。
じりじりと互いに距離を詰める。
最初に動いたのは黒田だ。大股に踏み出すと大剣のリーチを活かした両手による突きを放つ。瑠璃子は特に焦った感じもなく後ろへ下がってその突きを躱す。
瑠璃子も躱した後は特に反撃はしない。黒田が本気で放っていないことはわかっているし、一撃の鋭さだけで戦って損は無い相手ということもわかった。
「君たちもなんだけど、なんか対人戦馴れてない? 瑠璃子様を前に全くビビッてないんだけど」(信濃)
「そうかな?」
「さぁ?」
とぼける皆川達に信濃は胡散臭い視線を送るのだった。
実際対人経験の豊富さでいえば、ミーナに次いで黒田、加藤は高い。皆川は対人よりは対モンスターの経験が高い。千鶴やメリッサなんかも対モンスター側だ。白雪は案外対人よりのプレイヤーだ。
美々は他と比べるまでもない。ゲームでも、現実でも。
再び黒田が距離を詰める。今度は大剣を担ぎ背負い投げをするように振り下ろす。金属音が響き、いつのまにか抜き放たれた刀で黒田の大剣は受け止められていた。
しかし、黒田はその重さで圧し切ろうとなおも力を込める。瑠璃子は刀を捻り力を逃がすと一気に距離を詰める。
「【スラッシュ】」(黒田)
とっさに黒田はスキルを発動し横に切る。
不利を悟った瑠璃子は体勢を屈めるように低くし、大剣を上に通す。瑠璃子が立ち上がったときには黒田も振り抜いた大剣を手元に戻していた。
(乗ってこねえな。ゲームだったら一直線に来るのに)(黒田)
DRDでの瑠璃子は猪突猛進型だ、素早く近づき、素早く剣をふる。レベルもプレイヤーの2.1倍であるため、初戦ではかなり苦戦することになるだろう。
おまけにHPが減って来ると得意の【縮地】を使ってくる。
だが、行動は直線的で遠距離攻撃もしてこない。タイミングの合わせ方さえわかってしまえば、あっさりと勝てたりする。
(重いわね。信濃並みかしら……)(瑠璃子)
瑠璃子は信濃並みと評しているが、実際信濃は手加減している。まだまだ下に見ているということだが、皆川、長谷川と模擬戦をするようになってから瑠璃子はハイスピードで成長している。
彼らは手加減しないし、皆川は少しでも隙を見せれば攻めてくるし、苦手な攻撃ばかりで追いつめ、こちらが攻めようとすると長谷川が刺してくる。信濃とは別の威圧感のある戦いだ。
今度は瑠璃子が距離を詰める。主導権を取っていきたいようだ。体勢を低く抜刀を維持しつつも速い。
「うお!」(黒田)
黒田が近寄らせまいと【ストーンブレット】で行く手を遮る。しかし、瑠璃子も鞘に入れたままの紅雀で全て弾いて肉薄する。
「なんで!?」(黒田)
「遥と戦っているからね」(瑠璃子)
何とか瑠璃子の攻撃を大剣を盾にして防ぐ。
「はせがわー」(黒田)
「えー濡れ衣だよー」(長谷川)
「そういうあなたもよく私の抜刀を防げたわね」(瑠璃子)
剣聖の称号の恩恵は素晴らしく、達人のごとく剣を扱える。居合もまた同様だ、達人の抜刀は「抜く」ではなく、「生える」と表現される。
スローモーションですら、「生える」としか表現できないほど速い。バネ仕掛けを疑うほどの速度で攻撃が放たれる。
美々との戦闘は相手が悪かった。美々もまた高速で攻撃できる達人であり、その達人との経験も豊富だった。
「えー気のせいだよー」(黒田)
「なにがよ!」(瑠璃子)
黒田が防げたのは、美々のような理由ではなく単にDRDで同様の攻撃をしてくるからだ。直進して高速で突き攻撃をしてくる。必ず体の中心を狙うため知っていれば防ぐことは容易い。
「まあいいわ」(瑠璃子)
瑠璃子が獰猛な笑みを浮かべると、刀身が赤熱し炎が噴き出す。慌てて黒田がうしろへ飛びのくが、瑠璃子は一旦納刀してから抜刀する。
「喰らいなさい!」(瑠璃子)
空に赤い線が走った。
「させるか!!」(黒田)
しかし、黒田も大剣から一気に振り下ろすと、赤い線が空中で爆発する。
「ちょっと! 相殺されたわよ! Ⅱが強いんじゃないの?」(瑠璃子)
瑠璃子が放ったのは【エアスラッシュⅡ】空気の塊ではなく、斬撃を飛ばす技だ。さらに紅雀の炎が乗っている。
対して黒田が放ったのは【エアスラッシュ】だ。大抵はエアスラッシュⅡの方がエアスラッシュを消して相手に到達する。
「説明しよう!」(白雪)
「そういや今日は実況してないんだ」(皆川)
「エアスラッシュには剣の攻撃力が威力に上乗せされるからね、相殺されない威力を上げたのでしょう。ただ、私の計算だと相殺にはちょっと足りないかな~?」(白雪)
「説明してないっすね」(陽子)
「へっへっへ【兜割】を入れたんだよ」(黒田)
「おお~エアスラッシュの振り下ろしに兜割でさらなる振り下ろしをまぜたのか」(白雪)
「それ関係するっすか」(陽子)
ちなみに意味はない。兜割自体に攻撃力アップがあるため、それが上乗せされただけだ。
「仕切り直しだな」(黒田)
「そうね」(瑠璃子)
二人して再び武器を構え。今度は同時に走り出す。
同時に武器を構え――
「瑠璃子様!!」
切羽詰まった琴子の声で黒田と瑠璃子、両方の動きがとまった。
「ちょっと琴子!」
「すみません、ですがそれどころじゃないです!」
「なんなのよ……」
「赤鉄様がF組の寮に……「瑠璃子!」
「お兄様!?」




