聖女の未解決問題
ここからは終章です。
世界の危機は終わったので、優太の個人的な問題になります。
世界の危機は無事終息した。
場所によっては戦いの爪痕が残っていたり、直接戦いに巻き込まれなくても色々と影響を受けた人や場所もある。世界の危機とは関係ない問題だってたくさんある。
だがそれでも世界の危機は去ったのだ。この先は純粋に人の問題。神託や勇者や聖女に頼らずとも解決できる問題であるし、神の力に頼らずに解決しなければならない問題ばかりだ。
だから、今一時くらいは浮かれていても良いだろう。
王都ソレスは祝賀ムードに溢れていた。
直接戦禍に晒されたわけでなくても、別の意味で大きな影響を受けたのが世界の危機に対応する本部となったエルソルディアの王都である。
兵士の出入りは激しくなり、街中の取り締まりは強化され、いくつかの行事は中止または延期された。
兵糧を中心に軍需物資の消費が増え、一部商人が大儲けしたが、全体的に物価が上がったりもした。
それら全てが元に戻ったわけではないが、その元凶が無くなったのだ。今まで我慢していた分浮かれようというものだった。
王都に凱旋した大介と優太を馬車の上に立て、王城までの道でパレードを行い、世界の危機の終結を知らしめた。
その後、延期されていた幾つかの公式行事と共に世界の危機の終息を祝う式典が開かれ、それに合わせて民間のイベントも多数行われた。
勇者大介とマリエラ王女の婚約も正式に発表され、より一層めでたい雰囲気を強めることとなった。
ロベルト王子の策略で誤認逮捕された人も無事釈放され、また些細な罪で別件逮捕された人も恩赦が実施され戻って来た。彼等もまためでたいことの一部として街の喧騒に入って行く。
そんなお祭り騒ぎが数日間続いた。
「それで、ユウタはどうするんだい? 元の世界に帰るのならば、準備に半月くらいかかるから早めに申し出てほしい。」
公式行事が一段落し、王都のお祭り騒ぎも収まってきたころ、アルベルト王子は優太に聞いた。
世界の危機が終わった以上、何時までもこの世界に引き留めておくことはできない。
もちろんこの世界に留まってくれるのならば大歓迎だが、優太は最初から帰還を希望していた。
聖女として十分以上の働きをした優太の希望には全力で応なければならなかった。
「それなんだが、俺は今気になっていることが一つある。この件がはっきりするまでは帰るわけにはいかない。」
「気になっていること?」
珍しく真剣な顔で言う優太にアルベルト王子が聞き返す。少なくとも世界の危機は終わったのだから、世界が滅びるような大ごとではないはずだ。
「俺が元の世界に帰った場合、聖女の衣はどうなるんだろう?」
そんなことか、と思うかもしれないが、優太にとっては非常に重要なことだった。
優太は最初、元の世界に帰ればもう聖女ではないのだから聖女の衣ともおさらばできると思っていた。
だが、本当にそうだろうかと疑問を覚えたのだ。
きっかけは、破滅的カルトの罠にかかって夢の世界に閉じ込められた時のことだ。夢の中で優太は日本にいるにもかかわらず聖女の衣を着ていた。
もちろんそれはただの夢でしかない。しかし、現実に日本に帰っても聖女の衣のままだとしたら?
優太は日本でも巫女服で暮らしていくつもりはなかった。
「それはもちろん……!?」
そこでアルベルト王子は明確な答えが無いことに気が付いた。
優太は色々な意味で史上初なのだ。
男性の聖女という時点で史上初なのだが、それだけではない。
召喚された聖女が元の世界に帰ったこともこれまでなかった。こちらの世界に居ついて腐教活動に勤しむ人物を地球側の女神が厳選した結果だった。
そしてまた、聖女の衣との親和性がここまで高く、聖女の衣以外の衣服を着用できない聖女というのもこれまでいなかった。
アルベルト王子は少し考えてみた。
召喚時も送還時も、召喚者は着の身着のまま、その時着ていた衣服で世界を渡る。だから、元の世界に帰った過去の勇者達も、召喚時に着ていた衣服を着用して送還の儀式に臨んでいる。
優太や大介が着ていた衣服も丁寧に保管されていた。
しかし、現状優太は聖女の衣以外の衣服を身に付けることはできない。つまり、聖女の衣を着たままか、あるいは素っ裸で送還の儀式を行うしかない。どちらにしても、最初に着ていた服は荷物として手に持って帰ってもらうことになる。
また、聖女の衣を着用した状態で送還された場合にどうなるかも不明だった。聖女の衣を着た状態で元の世界に戻るのか、あるいはこの世界を離れた時点で聖女ではなくなるので聖女の衣だけこちらの世界に残るのか。
なんだかこのままだと、日本に帰り着いた時点で優太は全裸の可能性が高そうだった。次点は巫女服。帰る時は、人目につかない所に出られたらいいね。
また、聖女の衣を着たまま優太が元の世界に戻った場合、もう一つ問題が発生する。聖女の衣はこちらの世界に戻って来るのか?
聖女の衣は聖女を守る唯一無二のアーティファクト。将来の聖女となる人物のことを考えると失いたくはなかった。
「この件は、私一人では手に余るね。もっと色々な人に相談してみよう。」
この件は識者に相談することになった。
識者その1 アラン神殿長
「分かりました。女神様に御伺いを立ててみましょう。」
一部の神官の持つ能力に、女神イシスに対して御伺いを立てるというものがある。これは神託の逆で、女神に対して知りたいことを伝えるというものだ。
一見便利そうに思えるが、答えが返って来るかどうかは女神次第であり、確実に回答が返って来る保証はない。また、女神からの回答も神託という形になり、何時返事が返って来るのかも確かではなかった。
最初に優太が召喚された時に女神に御伺いを立てようとしなかったのも、聖女の召喚に関わる重大な問題が発生したのならば、御伺いを立てるまでもなく神託が降る筈だからであった。
今回は、聖女の帰還に関わる重大案件と言える。女神の都合で一方的に召喚され、見事にその大役を果たした優太の今後の人生がかかっているのである。回答が得られる可能性は高かった。
ただし、少々時間がかかるのは致し方ないことである。
識者その2 賢者ラウル
「分かったのである。本国に連絡して調べさせるのである。」
賢者ラウルはアッカーマン教授共々いまだに王都ソレスに滞在していた。北方山脈を越える街道は、雪深い冬季には使えないのだ。春になるまではエルソルディアで足止めされることになる。
直接の行き来はできないが、マジックアイテムを使用すれば連絡くらいは付けられるので、エルフィロソフィアの人を動かして過去の記録を調べようとしていた。
「なに、若い連中が大図書館の使い方を勉強する良い題材なのである。」
識者その3 アッカーマン教授
「なるほどネ。いいよ、調べてみるヨ。」
賢者ラウルと同様春まで帰れないアッカーマン教授である。彼女も快く協力を約束した。
「エルマギカでは昔から勇者の鎧や聖女の衣の研究は行われてきたからネ。記録を調べれば役に立つ情報もあるだろうサ。」
アーティファクトとしての聖書の衣の機能から調べてみるというアプローチであった。こちらも実際に調べるのはエルマギカにいる人にやらせるようだが。
識者その4 アルベルト王子
「私も王家に伝わる記録を調べてみるよ。」
エルソルディア王家は代々の勇者や聖女に確実に関わってきた家系である。その中には外部に非公開のものもある。詳しく調べれば何か新事実が出てくる可能性はあった。
識者その5 マリエラ王女
「聖女様がアル兄様と結ばれてこの世界に残ればすべて解決ですわ!」
「いや、それは無いから!」
腐女子の専門家は優太の役には立たなかった。




