激突!勇者vs魔王2
ブックマーク登録ありがとうございます。
周囲がドン引きする中、優太はマイペースに自分の話を続けた。
「しかし、今のでよくわかった。大介君に足りないものが。」
「オレに足りないもの……?」
「それは、身長と体重だ!」
「ドチュクショウーー」
激昂した大介は、ものすごい勢いで魔王に向かって突っ込んで行った。
「ハッ!」
だがそこはさすがに魔王。慌てず騒がず魔法で迎え撃つ。大きな魔法を用意する暇はないとみて、小さな魔法弾を連射した。
――ダダダダダダダッ!
大介は、その小さな魔法弾を無視して強引に突き進んでいった。しかし、一発一発の威力は低くても数が多い。次第に大介の突進は遅くなり、そして――
「うわぁっ。」
苦し紛れに振り下ろした剣は空を切り、大介は後方に大きく吹き飛ばされた。
「惜しい、あと十センチメートル。『回復』」
そう、あと十センチ。強引に突き進んでも届かないこの距離こそが大介に足りないリーチである。小柄な大介は、低い身長に相応して、腕の長さも短い。それが剣の間合いの短さに繋がっていた。
さてそれでは、もう一つのウエイトが足りないとはどういうことだろう。確かに小柄な大介はその分体重も軽い。それが戦いにどう影響するのかと言えば、
「さっき俺は魔王の魔法を弾いたが、同じ防御魔法を大介君にもかけている。念のため回復をかけているけど大介君に魔法のダメージはほとんどない。ただ、体が軽いから踏ん張りがきかずに吹っ飛ばされているだけだ。」
つまり、大介の体重が足りないためにノックバックが発生して魔王に近付けないのである。
「だが、原因が分かればやりようはある。身長は無理だが、体重ならば魔法でどうにかなるからな。」
自信たっぷりに言い放つ優太。即座に魔法を発動した。
「『重力領域』!」
補助魔法、重力領域は一定の範囲内の重力を強めたり弱めたりすることのできる魔法である。
優太が行ったことは、広い部屋のほぼ全域に対して、重力を数倍に強めたのである。
「ぐへぇ」
ノックバックを防ぐ目的ならば、重量化だろうと油断していた兵士や魔族達が次々と潰れて行く。
優太は遠慮容赦なく観客を巻き込んだ。もしかしたら不真面目な態度で観戦している連中に内心腹を立てていたのかもしれない。
既にこの場で立っている者は少なくなっていた。
この高重力の中、魔王は平然と立っていた。魔法主体とはいえ、そこは魔族の王である。
大介と優太は当然無事だ。この程度でどうにかなるほどやわな鍛え方はしていない。
王宮騎士団と魔族の一部が耐えているが、下の階でスポーツ勝負を行ったアスリートな兵士や魔族も多くが地に伏せている。
賢者ラウルが平然としているのは、まあそういうものだ。今更だれも驚かない。
意外なことに、アッカーマン教授とその助手が平然と立っていた。さては、高G加速に慣れているな。
高重力の中、勢いよく倒れ込む者もいたが、怪我人は出ていない。優太がちゃんと個別に防御魔法や軽量化の魔法や回復魔法でフォローしているからだ。
聖女の力、大盤振る舞いである。
マッチポンプとも言う。
「それで、なんで範囲魔法にしたんだ?」
「重くなる分動きが鈍るだろ。どうせなら相手も巻き込んだ方がお得じゃん。」
大介の問いに、気楽に答える優太。相手の魔王だけでなく観客全員巻き込んでいるが全く気にしていない。
「それもそうか。それじゃあ、第二ラウンドと行きますか。」
大介は改めて魔王に向き直り、勇者の剣を構えた。
「なるほどこう来たか。ならばこちらもそれなりに対応するだけじゃ。」
魔王はこれまで左手に持っていた杖を右手に持ち直し、構えた。
「まずは、小手調べじゃ。」
魔王は、大介に向かって魔力弾を放つ。先ほどは何度も大介を吹き飛ばした魔法だ。
大介はこれを真正面から勇者の剣で受け、そして弾き飛ばした。
「よし、行ける!」
高重力によって、大介が吹き飛ばされなくなったことを確認した。ならば、進むだけだ。
「『身体強化』! 行ってこい!」
「応!」
優太の魔法を受け、大介が走り出した。
対する魔王は呪文の詠唱に入った。大介を押し戻すことのできない魔力弾は諦めて、より威力の高い魔法を使うことにしたらしい。
もちろん終わるまで待ってやる義理は無い。大介は一気に間合いを詰め、勇者の剣で斬りかかる。
「ハアッ!」
――ガキーン!
大介の振り下ろした剣は、魔王の杖で受け止められていた。大介の勢いに押されながらも、勇者の剣で斬られることを防いで見せた。
これが魔王の接近戦対策である。手にした杖で攻撃を受け止め、魔法を発動するための時間を稼ぐ。当然呪文の詠唱は途切れていなかった。
「喰らうがいい、『火炎柱』!」
「!」
突如足下から湧き上がってきた炎に、慌てて飛び退く大介。
「『魔法盾』! 『火属性防御』!」
優太の援護もあり、無事に炎から逃れた大介。しかし、魔王との距離は空いてしまった。大介と魔王の間には、直径三メートルにも及ぶ炎の柱が出現していた。
炎はすぐに収まったが、その頃には魔王は次の魔法の準備を終えていた。
「剣で水は斬れまい。『水流刃』!」
高圧水流の刃が横薙ぎに放たれた。
「くっ!」
「『魔法盾』!」
再び飛び退いて避ける大介。幸い水流の射程はそれほど長くないが、至近距離では魔法の盾すら切り裂かれてしまった。これでは迂闊に近づけない。
「まだまだ行くぞ。『渦巻く障壁』!」
魔王の周囲に風が渦巻いた。それはすぐに竜巻のような強さになり、魔王に近付くものを拒んだ。
「なるほど、こうやって身を守って時間を稼ぎ、その間に呪文を詠唱して強力な魔法で攻撃するわけか。」
優太が冷静に魔王の行動を分析する。
「ならば、強引にでもその守りを突破するのみ! 『魔法盾』! 『魔法盾』! 『魔法盾』!」
優太の周囲の床に、半ば埋まるようにして無数の魔法盾が出現した。自分の身体を固定した優太は、次の魔法を発動する。
「『魔法盾』!」
使用したのは同じく魔法盾。ただしその大きさは、人がすっぽりと隠れられるほど大きく、その出現場所は渦巻く竜巻の中。
竜巻の渦巻く暴風を遮るように出現した魔法盾は、通常ならば術者ごと吹き飛ばされるだけだろう。だが床にがっちりと固定された優太は耐えきった。
「なんじゃと!」
竜巻の防御に、穴が開いた。
「とりゃあー!」
すかさず大介が斬り込んだ。
「くうっ!」
魔王は慌てて杖で勇者の剣を受け止めると同時に竜巻の防御を解除した。下手に押し込まれると自分が竜巻に巻き込まれる恐れがあったからだ。
さすがに唱えていた呪文も中断してしまっていた。中断していなくても、鍔迫り合いをしている状態で強力な攻撃魔法を使うわけにはいかない。密着した相手に大魔法を放てば、自分も巻き込まれる。
魔王は、とにかく一旦距離を取ろうと、剣に押される形で後ろに飛び退――
その瞬間、優太が動いた。周囲に展開していた魔法盾と重力領域を解除し、新たな魔法を発動した。
「『身体強化』千倍!」
「な――」
一瞬しか保たない超強力な身体強化を魔王に対してかけたのだ。
「え?」
強力な重力から解放された魔族や兵士達が、きょろきょろと周囲を見回す。
勇者と戦っていた魔王が、突如として消えたのだ。何が起こったのか理解が追い付かなかった。
「上だ!」
一人が魔王を発見した。天井に頭をめり込ませてぶら下がっている魔王の姿を。
優太が行ったことは、後ろに飛び退こうとした瞬間の魔王に強力過ぎる身体強化の魔法をかけたのだ。
軽く地面を蹴った魔王は、一瞬で天井まで跳び上がり、そのまま天井に頭部を埋めることになった。
皆が天井にぶら下がった魔王を見上げると、
「ヤァーッ!」
ちょうど跳び上がった大介が、横一閃、魔王の首を刎ねるところだった。
――ドサリ
魔王の首なし死体が落ちてきた。
「ウオー」
歓声が上がった。
魔族も一緒になって歓声を上げているけど、いいのか?
しばらく間を置いて、天井に埋まった魔王の頭部も落ちてきた。
その魔王の首を、床に落ちる前にキャッチしたのは――頭を失った魔王の身体だった。
「おいおい、この状態でまだ生きているのかよ。」
慌てて戦闘態勢を取る大介と優太だったが、
「安心せい、お前らの勝ちじゃ。魔族はこのまま何もせずに去ろう。」
魔王の首が、そう言って勇者の勝利を認めた。首だけになってどうやって発声しているのかは不明だ。
「既に浮遊島は動き出しておる。それでは、さらばじゃ!」
「え? それはいったい――」
魔王の言葉に疑問を挟む暇もなく、部屋の床が消滅した。
「のわぁ~~~」
「あ~れ~~~」
「何しやがる~~~」
悲鳴を上げながら、人々が落ちて行く。
だが、空を飛べる魔族はその場に留まった。
魔王の部屋の床下に存在した大穴は、魔王城を貫き、浮遊島すら貫通してその下まで続いていた。
魔王の言った通り既に動き出していた浮遊島は、いつの間にかかなりの高さにまで浮かび上がっていた。
魔王城を攻略していた人々は全員、空高く浮かぶ浮遊島から放り出され、アルスウィック湾めがけて真っ逆さまに落下していた。
「『軽量化』! 『防御強化』! 『落下緩衝』! 『魔法盾』!」
優太が次々に魔法を発する。全員を超巨大な魔法盾の上に乗せて落下速度を緩め、着水の衝撃に備えて防御力も強化した。
同行していた魔導士達も協力して上昇気流を発生させ、さらに落下速度を殺して行った結果、どうにか無事にアルスウィック湾に着水した。
そこにすかさず救援にやって来た船に引き上げられて、全員無事に帰還を果たした。
見上げれば、上空高く上がった浮遊島は東の空へと去って行くところだった。
こうして、世界の危機は全て終了した。
戦闘は以上で全て終了です。
本章は後一話続きます。




