激突!勇者vs魔王1
「最初に言っておく。世界の危機は収まったようじゃが、ワシは手加減はせぬ。世界を守りたくば全力でかかって来ることじゃ。さもなくば……死ぬぞ。」
最後の言葉に凄みを利かせた魔王の台詞で、戦いは始まった。
そしてすぐに膠着状態となった。
「とりゃあー!」
大介が斬りかかる。
「ハッ!」
魔王が魔力弾を放つ。
「うわぁっ。」
大介、直撃を受けて吹っ飛ぶ。
「『回復』!」
優太が回復する。
以上、ここまでがワンセット。
先ほどからこの繰り返しであった。
「魔王様、頑張れ~」
「勇者様、負けるな~!」
戦いが長引くにつれ、いつの間にか観客も増えていた。人間だけでなく魔族も多数観戦している。
人間側の観客も増えているようだ。魔族との勝負を続けていた者達もやって来ていた。魔族との勝負に勝ったのか、あるいは相手の魔族も魔王の戦いを見に来たためか。
魔族も人間も、この戦いには参加できなかった。アドバイスすることならばギリギリ可なのだが、この戦いにアドバイスを送れる者はいなかった。
観客にできることは、ただ見守り、声援を送ることだけだった。
ここに至っては魔族も人間も関係ない。勇者と魔王の死闘をただ静かに見守るだけだった。
ただ静かに……静かに……って、なんか喧しいぞ。
勇者や魔王に対する声援はあるがそれだけではない。皆興奮しているのか、おとなしく観戦していなかった。
そこ! 声援はいいが、ヤジを飛ばすなヤジを。真面目に戦っている勇者や魔王に失礼だろう!
何で室内で屋台が出ているんだ? 魔族ならばともかく、売り子はアッカーマン教授の助手じゃないか。商魂たくましすぎるぞ。
こっちでは宴会が始まっているよ。誰だ、酒を持ち込んだのは?
魔族だけならまだしも、騎士が酒飲んでていいのか? というか、騎士と魔族が入り混じって仲良く宴会しているんですけど。
大丈夫か、これ?
観客の騒動はともかくとして、勇者と魔王の死闘は続いていた。
「くそー、近付けない。」
大介は剣士だ。勇者としての力は剣に特化している。だから剣の間合いまで近づかなければ攻撃ができない。
しかし、魔王の強力な魔法攻撃によってその接近を阻まれていた。
「ワシの攻撃は魔法中心じゃからな。そう易々と近付けはせぬぞ。」
大介としてもただ無策に突っ込んているわけではない。
魔王の魔法を躱したり、勇者の剣で受け流してみたりと色々と工夫を重ねていた。
しかし、剣で受けてもその威力に押し戻され、魔法を避けても追いかけてきたり、至近距離で破裂したり、躱したと思ったらフェイントで本命の一撃を食らったりと、魔王の攻撃は甘くは無かった。
剣特化の勇者だけに、剣の間合いにさえ持ち込めば大介は勝てるだろう。勇者の剣ならばたとえ魔王だろうと切り裂ける。しかし、その魔王までの距離が遠かった。
「しかし、このままでは埒が明かぬのぉ。」
一方で魔王もまた攻めあぐねていた。
一見すると大介を剣の間合いに入れず、魔法の間合いで一方的に攻め続けている魔王は圧倒的に有利に見える。
しかし、これだけ魔法攻撃を当てていても、大介の動きは全く鈍らない。致命傷どころか、大きなダメージを入れることもできていなかった。
これ以上攻撃力の高い大魔法を放とうとすれば発動までに時間がかかる。その隙を大介は逃さないだろう。
かといって、僅かばかりのダメージをいくら与えても、優太が聖女の力ですぐに回復してしまう。
魔王は莫大な魔力を秘めており、このまま攻撃を続けていても簡単に魔力切れになることはない。だがそれは聖女である優太も同じこと。魔力切れを狙った長期戦はあまり有効な手段とは思えなかった。
勇者と魔王の力が拮抗している今、勝負の行方は聖女である優太が握っていた。
「ならばここは、セオリー通り回復役から潰すべきかの。」
魔王はここで方針を転換した。大介に対しては小さな魔法を大量に打ち込んで足止めし、本命の魔力弾を優太に向けて放った。
本来ならば、ここは慌てるところである。回復役である聖女がリタイアすれば拮抗していた戦いは魔王側に傾く。そして、非力な聖女を狙うという行為は、戦術上正しいと分かっていても看過できない卑劣な手段である。
しかし、今の聖女は非力とは縁遠い優太である。
「フン!」
優太は裏拳一発、魔力弾を明後日の方向へと弾き飛ばしてしまった。
――シーン
室内は静まり返った。
大介も魔王も動かない。
さっきまで騒がしかった観客たちも、動きを止めて見入っていた。
人も魔族も関係なく言葉を失っていた。
エルソルディアの一部の人は理解していたが、特に魔族にとっては初めて目にする優太の非常識である。インパクトはあっただろう。
驚く者達を代表して魔王が言葉を発した。
「もう、お前が勇者でいいんじゃね?」
「いや、俺はあくまで聖女だから。聖女の能力に攻撃用のものは無いから。」
これは事実である。聖女の能力は、回復、防御、強化等の支援魔法が中心である。アンデッド以外の敵に対しては、せいぜい弱体化や阻害系の魔法しか存在しなかった。
「いやいやいや、100tハンマー振り回している時点で十分に攻撃力あるじゃろうが!」
そう、本日の優太の武器は、大きなハンマーであった。
「ああ、これ? 『100t』は単なるデザインで、実際は八十キロくらいしかないんだ。」
そういう問題ではない。
「本当に百トンあるハンマーだと、身体強化無しでは使えないし、どうしてもハンマーに振り回されるんだよな。試しに振り下ろしてみ見たら、体の方が持ち上がっちゃってだいぶ威力が落ちたよ。」
「実際に作ったのかよ、本物の100tハンマー。そんで、本当に振り回したのかよ。何て非常識な奴じゃ!」
優太は十分に攻撃力をもっている。今の話だけでもとんでもない脅威であることは分かるだろう。だが優太の言葉も嘘ではない。その攻撃力は肉体の物理的な力であり、聖女の能力ではないのだ。
「あの時は地面に十メートルくらいのクレーターができてたよな。下手な攻城兵器よりも威力があったんじゃないか。」
大介がしみじみと語った。後ろでアルベルト王子と一部の王宮騎士団員がうんうんと頷いている。100tハンマーの実験に立ち会ったメンバーらしい。
「聖女、恐えー!」
魔族の中で、聖女が恐ろしい存在であるとの共通認識が生まれた。
今後魔族が地上に遊びに来ることがあっても、聖女に逆らうような真似はしないだろう。後、食堂のおばちゃんにも。
観客はともかく、大介と魔王は真剣に戦っています。
次回、様子見をしていた優太が本気を出します。




