魔王城三階
一夜明けた。
「さて、今日も頑張って魔王城攻略するか。」
優太は今日も元気である。
「俺たちは見ているだけだけどな。」
大介は今日も突っ込みが冴えわたる。
「というか、こんなにのんびりしていていいのか? 一応世界の危機なんだろう?」
昨日は魔王城二階の勝負を一通り終えたところで日が暮れた。続きはまた明日ということになり、魔族に案内されて宿に案内されたのだった。
結構な人数で乗り込んだのだが、そこは巨大な魔王城、余裕をもって全員を収容するだけの宿泊施設が整っていた。のみならず、食事、風呂、ふかふかベッドと魔族のおもてなしはなかなか高レベルだった。
戦っている相手にもてなされてどうする。大介は複雑な心境だった。
「世界の危機は終わっていると、魔族もちゃんと分かっているのだと思うよ。世界の危機が終息しきっていない場合は、その日のうちに魔王との対決になったらしい。」
アルベルト王子が大介に答えた。世界の危機と対峙し続けてきたエルソルディア王家には魔族に対する知見も多く蓄積されていた。
魔族の役割は世界を脅かす存在の破壊である。別に何でもかんでも破壊したいわけではない。その破壊すべき脅威が存在しないから、魔族も急がずにのんびりとした対応になっているのだった。
「世界の危機が差し迫っていない分、じっくりと勝負を楽しんでいるという説が有力なのである。」
いずれにしても、今日も魔族との勝負は続く。
朝食を済ませた後、魔王城三階の最初の部屋にやって来ていた。
「一階は陸上競技、二階はウォータースポーツ。さて、三階は何かな?」
これまでの勝負の内容から、階毎に傾向が変わるのだろうと当たりを付けた優太は、ちょっぴり期待しながら部屋のドアを開けた。
「……こう来たか。」
部屋の中は一面の銀世界。
魔王城三階は、ウインタースポーツのフロアーであった。
「この部屋ではスキージャンプで勝負してもらう!」
出てきた魔族はスキーウェアを着ていた。
「そんなもん、屋内でやるなよ!」
下の階でも散々やらかしているので今更な突込みではあるが、それでも突っ込まずにいられない大介だった。
しかし、他の面々はやる気満々だった。
「ここは我々が出るべきであろう。ヨハン!」
賢者ラウルが助手の一人を指名した。
賢者ラウルやアッカーマン教授の助手達は本来戦闘要員ではなく、勝負にも不参加と考えられていたのだが……本人はやる気らしく、既にスキーウェアに着替えてスタンバっていた。
「みんな着替え速いなぁ。それで、スキーは得意なのか?」
実は聖女の衣のせいで最も着替えの速い優太が賢者ラウルに問う。
「当然である。冬の北方山脈でフィールドワークを行うためには必須の技能である。」
「いや、止めろよ。冬の雪山登山なんて危ないだろう!」
「しっかりと準備をしているから大丈夫なのである。毎年三、四人行方不明になる程度である。」
「犠牲者出てるじゃないか!」
「だいたいが雪洞を作って山籠もりしているから、春には帰って来るのである。そのくらいの装備は持っていくのである。」
エルフィロソフィアの研究者はタフだった。
普通は死ぬので、絶対に真似をしないでください。
さて、大介と賢者ラウルがよそ見をしている間にも勝負は進んで行った。
結果は、ヨハンと呼ばれた賢者ラウルの助手の勝利。
魔族は翼の感覚が強かったのか、両腕を大きく広げて時にバタバタとはばたくように動かしたりしながらジャンプしていた。これが浮力よりも抵抗となったらしい。
対するヨハンは両腕を体にぴったりと付けて跳んでいた。そのためか、魔族よりも飛距離が伸びた。
なお、一階で行われた陸上競技を含め、跳躍系の勝負では魔族の翼と飛行系の魔法は禁止されている。それを許すと勝負にならないからだ。
「ところで、雪山でスキーは分かるが、ジャンプも使うのか?」
「モンスターから逃げる時に便利なのである。」
「……」
くれぐれも普通の人は真似をしないでください。
「スキーの次は、スケートか。」
次の部屋には、大きなスケートリンクが作られていた。氷の表面も滑らかで、滑り易そうだった。
「フィギュアスケートで勝負してもらう。」
それっぽい派手な衣装を着た魔族が、表情を滑って登場した。よく見れば、ブレードの先がギザギザになっているフィギュアスケート用のスケート靴を履いている。
「フィギュア……スケート……だと!?」
アイススケートにもいろいろあるだろうに、何故この競技を選んだ? 大介の魔族に対するイメージの崩壊は留まるところを知らない。
「今回はアタシらの番だネ。アンナ、出番だヨ!」
今度はアッカーマン教授が自分の助手を指名した。
「はい!」
呼ばれた助手は、当然のようにそれっぽいコスチュームに着替え、スケート靴も履いた状態で登場した。
「いや、なんでそんな衣装を用意しているんだよ!」
「こんなこともあろうかと思ってネ。色々と用意してきたヨ。」
勇者の突込みをさらりと躱すアッカーマン教授。一体何をどう考えたらこんなピンポイントな準備ができるのかは不明である。
大介の疑問をよそに、競技が始まった。
「おー、技術高いなぁ。今のは四回転ジャンプか?」
魔法あり、魔族は翼ありなので一概には比べられないが、その魔族は高難度の技を次々に決めて行った。
一方、アッカーマン教授の助手、アンナ女史も負けてはいない。
「こちっちは派手だな~。それに魔法の技術もかなり高い。」
アンナ女史は魔法を演出に使っていた。音楽と自身の動きに合わせて舞い踊る魔法の光。
高度なスケートの技を繰り出しながら、同時に的確に魔法を制御する。物凄い集中力を必要とする高度な技術だった。
「そもそも、男子シングルと女子シングルで対決するのもどうかと思うし。」
大介の突込みはスルーされ、室内は何度も歓声と拍手に包まれた。




