魔王城二階
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昼休憩を挟んで、一行は魔王城の二階に上がって来ていた。
「いやー、一階を通り抜けるだけで半日かかるとは思わなかった。魔王城は広いなぁ。」
勝負には全く参加しなかった、まさに通り抜けただけの優太の感想である。
「いや、勝負の回数が多いんだよ。魔族はどんだけ勝負が好きなんだよ。」
こちらも勝負は見ていただけの大介の感想である。
どちらも正しい。
魔族との勝負そのものは、最初の百メートル走のようにすぐに決着のつくものも多かった。ただ、勝負の回数が多く、そのたびに部屋を移動していたので時間がかかっていたのだ。
そして、本来屋外でやるような競技ができる部屋が幾つもある魔王城が無茶苦茶巨大なのもまた事実であった。
もっとも、順路を巧みに調整して同じ部屋を何度か使い回しているのだが、そんなことはマッピングを行っていない優太や大介には分からない。
「同じ部屋を三回くらい使っていたようであるな。まあ、入らなかった部屋も多くあるし、魔王城が非常に大きいことは間違いないのである。」
「勝負の内容に応じて置かれた器具を変更したり、白線を書き直したりしているようだネ。廊下も通った後で通行止めの場所を変更したりと、なかなかに凝った趣向だヨ。」
マッピングしている人、いました。
「そ、そうだったのか。似たような部屋が多いと思ったけど、全然気が付かなかった。」
そして一行は、魔王城二階の最初の部屋へと到着した。
そこで待っていたものは――
「屋内プールだと! それも二階にかよ!」
結構大きめなプールがそこにあった。
そして待ち受ける魔族の選手が七名。
「ここでは、水球で勝負してもらう!」
一階と同様に陸上競技っぽい勝負を想像していた優太と大介は完全に意表を突かれた。
「ここは我々に任せてもらおう!」
だがそこで、皆の前に進み出た者達がいた。エルハーベスタからやって来た海兵達である。
「その勝負、我等エルハーベスタ海軍シンクロナイズドスイミング部が受けよう!」
「水球部じゃないのかよ、おい!」
思わず味方に突っ込む大介だった。
「大丈夫、シンクロナイズドスイミングの練習の一環として、水球も嗜んでいる。」
少々不安が残る人選ではあるが、他にまともな勝負ができる者がいないならば仕方がない。
シンクロナイズドスイミング部の海兵達は、一瞬で軍服を脱ぎ捨てると水着姿になった。
「おお、凄い早着替えだ。」
「お前ら、軍服の下にずっと海パン履いていたのかよ。」
素直に感心する優太と反射的に突っ込む大介が対照的であった。
ちなみに、季節は既に冬。彼らが何を考えて水着を着こんでいたのかは謎である。
試合は白熱した。
「なあ、優太。水球のルール知ってるか?」
「よく知らない。とりあえず、ボールをゴールにぶち込めばいいんじゃね。」
動きが派手なので見ている方も盛り上がっているが、他の観戦者も似たようなものだった。
ルールをちゃんと把握しているのは、試合を行っている当事者とレフェリーを引き受けた魔族ぐらいだろう。
ついでに言うと、観客の中には魔族の姿もあった。一階で勝負していた時もちらほらといたのだが、二階に来てから魔族の観客が増えていた。一階で敗退した魔族が観客に回っているのだろう。
「それに、地球の水球とは別物と思った方がいいかもしれない。」
翼を使って水上に大きく飛び出た魔族に、魔法で盛り上げた水面に出て対抗している様子が見られた。
どうやら魔族の翼は体が水から離れなければ使用可、魔法は相手やボールに作用させなければOKといったルールになっているようだった。
「……確かにこっちのローカルルールまで含めると余計に訳が分からないな。」
むしろ、普段交流の無い魔族と人間の間でちゃんとルールを擦り合わせて試合ができていることの方が不思議であった。
「お、さすがはシンクロナイズドスイミング部だ!」
ボールを持った魔族の前に突如水中から三人六本の脚が同時に飛び出してきてブロックした。
「いや、普通に水球やれよ。」
だが、その華麗な動きは観客には受けていた。観客だけでなく、対戦相手の魔族も興味深そうに見ている。
「そのうち、魔族の間でシンクロナイズド水球が流行るかもな。」
水球対決は僅差で魔族に軍配が上がった。
勝った魔族も、敗れたエルハーベスタ海軍シンクロナイズドスイミング部員も妙に嬉しそうに再戦に向かうのを尻目に、一行は次の部屋を目指す。
どうやら魔族にも気に入られたらしく、魔族の観客の多くは水球の試合にそのまま残ったようだった。
「で、またプールか。」
次の部屋にも大きなプールがあった。ただし、先ほどのプールとは一つ違うことがあった。
水がうねっていた。
どういう仕組みか、水面に大きな波を起こすことのできる、波のプールだった。
そして、出迎えた魔族は大きな板を手にしていた。
「サーフィンで勝負だ!」
まさかのプールでサーフィンだった。
「プールでサーフィンするか!?」
思わず突っ込む大介。造波装置付きでサーフィンも楽しめる波のプールというものは実在する。しかしそれが魔王城の中にあるとはだれが予想できようか。
「どうやらここは俺の出番のようだな。」
しかし、ここでも進み出る男がいた。
「この勝負、俺が引き受けよう。エルソルディア陸軍・陸サーファー部部長の俺がな!」
「何だその不安しかない部活は!!」
今日の勇者の突込みは冴えまくっていた。
この世界でもサーフィンは存在する。どこの勇者が持ち込んだのかは不明だが、若者に人気のマリンスポーツである。
エルソルディア王国でも海に面した東部の地方ではサーフィンに興じる若者が大勢いる。
しかし、内陸部の王都ソレスからは容易に海に行くことはできず、サーフィンを体験したくてもできない若者が数多くいた。
そんな中、エルソルディア陸軍内の有志が集まってできたのが、陸サーファー部である。
その目的は、内陸部である王都ソレス在住の彼らが、どうにかしてサーフィンを楽しむこと。
幸いにして、軍事大国であるエルソルディアの軍には武門の貴族や軍と繋がりのある大商人の子息なども多数在籍していた。ぶっちゃけ金持ちの軍人も多いのだ。
目的に向かって一致団結した彼らは、王都ソレスの郊外に一つの施設を作り出した。人工的に波を作り出し、サーフィンを楽しむことができる波のプールを。
エルソルディア陸軍・陸サーファー部とは、海のない内陸部でもサーフィンを楽しんでしまおうという部活なのである。
「つまり、プールでサーフィンすることにかけては、俺たちの右に出る者はいないのだ!」
こうして、なし崩し的にサーフィン勝負が始まった。
「ところで、サーフィン勝負って、何を見て勝敗を決めたんだ?」
「さあ? どっちが格好良く波に乗ったかとかじゃないか。まあ、勝ったんだからいいじゃないか。」
オリンピックの競技にもなっているサーフィンは審査員がテクニックを採点して勝敗を決めるのだが、こちらの世界での勝敗基準は不明。ただ、両者とも納得しているようなので問題はない。
「まあ、終わったことはいいから、さっさと次に行こう。なんだかこのままプールが続きそうな気がする。」
優太の予想通り、この後は競泳やら飛び込みやら、水関連の競技の勝負が続くことになった。
真面目に考えると一階を半日で終わらないくらいの勝負をしていそうなのですが、そこは気にしないことにしました。




