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聖女無双  作者: 水無月 黒
第四章 魔王

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魔王城一階

 やがて最初の部屋に着いた。

 「勝負はここから同時に走り出して、先に向こう側に着いた方の勝ち。魔法あり、妨害無しだ。簡単だろう?」

 部屋の中には白線で百メートル程のコースが作られていた。その先にはゴールを示すテープが張られている。

 要するに、百メートル走だった。

 「なるほど。ここは俺に任せろ!」

 「いや、だから、ユウタは勝負受けちゃだめだから。」

 突然しゃしゃり出てくる優太を慌てて止めるアルベルト王子。しかし、そこは優太もちゃんとわかっていた。

 「いや、俺が勝負を受けるわけじゃない。俺の相棒だ。()でよ、オパール!」

 聖獣ユニコーンが現れた。

 「おいおい、いいのかよ?」

 思わず魔族の方を見る大介だった。

 「な、ユニコーンだと! いや、相手にとって不足はない。いいだろう、勝負しよう!」

 いいらしい。

 馬よりも速いユニコーンの登場に一瞬焦った魔族だったが、すぐに気を取り直した。

 彼には勝算があった。

 足の速いユニコーンではあるが、その体は人間や魔族と比べて大きい。体が重い分、最大速度まで加速するには時間がかかる筈だった。それに、ユニコーンが短距離走の練習をしたことがあるとは思えない。

 だから、スタートダッシュで引き離し、速度が出る前に逃げ切ればよい。

 その魔族はそう考えた。

 ――On your marks.

 魔族とユニコーンはスタートラインに着いた。魔族は地面に手をついてクラウチングスタートの体勢だ。スターティングブロックまでおかれていた。

 「『速力上昇(クイック)』!」

 更に自身に補助魔法をかける。走り出してからはそんな暇はない。

 ――Set.

 「ヒヒーン!」

 ユニコーンも雷光を身に纏う。こちらも本気だ。

 ――Start!

 合図と同時に魔族は走り出した。

 (よし!)

 それは魔族にとっても完璧なスタートダッシュだった。

 (このまま引き離して――なにぃ!!)

 その時、魔族は見た。自分の隣を一条の雷光となって走り抜ける、純白のユニコーンの姿を。

 瞬きする間もない一瞬のはずなのに、まるで時間がゆっくりになったように、その姿、その動きが鮮明に魔族の目に映った。

 (待て、待ってくれー!)

 しかし、追いつけない。引き延ばされた時間の中を必死に藻掻くが、纏わり付く空気は泥のように重く、体は悪夢のように動かない。

 それでもあきらめきれず、魔族は必死に体を動かす。もはや勝負のことは頭になかった。ただ一歩でもその光に近付きたくて、永遠にも思える一瞬を突き進む。そして――

 勝負あった。

 ゴールした瞬間に魔族は倒れ込んでしまった。

 6.93秒。

 魔族は自己ベストを更新していた。

 破壊活動を始める前の魔族の身体能力は、空を飛べること以外人間と大差ない。魔法で強化したとはいえ、かなりの好タイムだ。まともにやれば、優太の超強力な補助魔法なしに勝つのは難しかったかもしれない。

 しかし、今回は相手が悪かった。

 雷光と化したユニコーンのタイムは0.02秒。

 まともな方法では勝負にならないだろう。

 それを承知で聖獣(オパール)を呼び出した優太に、大介がドン引きしていた。

 やがて立ち上がった魔族は、意外にもすっきりとした顔をしていた。

 「完敗だったぜ。またやろう、今度は負けねえからな。」

 「ヒヒーン!」

 負けた魔族をねぎらうかのように、一声高く嘶いてユニコーンは還って行った。

 魔族とユニコーン。種を超えた友情が芽生えたのかは、当人だけが知ることである。


 その後もいくつもの部屋を回り、魔族との勝負を続けて行った。

 「なんだか勝負の内容は陸上競技が多いな、屋内なのに。」

 優太の言う通り、トラック競技やフィールド競技が多かった。最初の百メートル走のような短距離走、幅跳びや高跳び等の跳躍競技、砲丸投げや槍投げ等投擲競技など、屋内で行う者とは思えない競技が多数あった。

 さすがに時間のかかるフルマラソンは無かった。

 「陸上競技というより、運動会じゃないか?」

 大介がそう言うのは、二人三脚やムカデ競争、パン食い競争まであったからだろう。

 魔族との勝負への参加を禁止された二人はかなり暇だった。

 「走る競技には全部オパールを出そうか?」という優太の血も涙もない提案は、さすがに却下された。兵士達にも色々と経験を積ませるという意味もあり、その後聖獣の出番はなかった。これは無理に勝つ必要のない勝負なのだ。

 魔族に負けて足止めを食らう兵士もぼつぼつ出始めたが、想定の範囲内なので問題ない。

 「おっ、次は綱引きか。」

 次の部屋で待っていたのは、体格のいい魔族の選手が八名と、長くて丈夫そうなロープが一本だった。

 地球における競技としての綱引きならば、選手の体重合計で階級が分かれる。試合をするには同じ階級内に入るようにメンバーの体重を調整する必要がある。

 しかし、ここでの勝負ではそんな細かい取り決めは無かった。それどころか、重たいプレートメイルを着こんだ王宮騎士団員が次々と選手に選ばれて行った。

 「あれ、なんで神殿長が混ざっているんだ」

 よく見ると、重装備の騎士達に混じって、アラン神殿長がメンバーに選ばれていた。しかも最後尾、アンカーマンである。

 「ああ、アラン神殿長は魔法要員だな。」

 この競技でも魔法の使用が認められていた。もちろん制限はあり、ロープや相手選手に対して魔法を行使することは禁止されていたが、自メンバーに補助魔法をかけることは問題なかった。

 当然選手以外の者が試合中に魔法をかけるのは反則行為であり、優太が魔法で支援することはできない。そこでメンバーとして優れた補助魔法の使い手としてアラン神殿長が加わっているのである。

 「しかし、アラン神殿長を投入したということは、この勝負本気で勝つ気だな!」

 魔族との勝負は負けても良いとはいえ、できたら勝っておきたい。負け続けて勇者や聖女が魔王の元へたどり着けない、などという事態はさすがにないだろうが、魔王と戦う勇者と聖女をバックアップする人員は余裕をもってなるべく多く送り込みたかった。

 勝てそうもない勝負の場合は、あえて兵士の中でも実力の低い者に任せることもあった。逆にアラン神殿長程の実力者になると確実に勝ちに行く場合でなければ出せなかった。

 「『重量化(ヘビーウエイト)』! 『身体強化(フィジカルブースト)』!」

 開始直前に両陣営とも補助魔法をかける。

 そして、開始の合図と共に一斉にロープを引き始めた。

 「オーエス! オーエス!」

 「あ、掛け声も一緒なんだ。」

 「過去の勇者が伝えたとかじゃね。」

 大介と優太は相変わらず見ているだけだ。

 試合は白熱した。

 技術や駆け引きでは魔族の方が上だった。この日のために練習を重ねてきたのだろう、魔族側に大きく引きずられ、危うい場面が何度かあった。

 しかし、アラン神殿長を投入したのは伊達ではない。補助魔法による強化を含めた地力では人間側が魔族を上回っていた。魔族側に大きく引き込まれても、そのたびにじわじわと引き戻して行った。

 一進一退の攻防を続けているうちに、王宮騎士団員達の呼吸が合ってきた。ここで、アラン神殿長が勝負をかけた。

 「『魔法盾(マジックシールド)』! 今です、一気に畳みかけます!」

 多量の魔法盾が周囲の地面に半ば埋まるようにして突き立った。

 「おお、これは!」

 観戦していた王宮騎士団員の中から歓声が上がる。これは、優太がドラゴンゾンビを投げ飛ばした時の戦法だった。

 アラン神殿長は、魔族がどれだけ引いても動かない、不動のアンカーマンとなった。

 「オーエス! オーエス! オーエス!」

 勢い付いた王宮騎士団員達は、ここぞとばかりに引きまくる。ここで大勢は決した。

 「よし、勝った!」

 人類は、また一勝を魔族からもぎ取った。


馬がどのくらいの速さで走るのか検索してみたところ、競馬で77km/h、短距離走で88km/hとか出てきました。200mを10秒台で走るらしいです。

魔族の身体能力を人間と大差ないという設定にしてしまったので、馬より速いユニコーンと競争するのはかなり無謀です。普通に走ってもオパールが勝ったでしょう。浮遊島に馬はいないので、魔族にその辺りの知識はあまりないのです。

補助魔法による強化の効果は通常せいぜい二割増しなので、この魔族は素でも100mを10秒切ります。オリンピック選手レベルで速いです。

ユニコーンに走って勝てる優太が異常なのです。

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