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聖女無双  作者: 水無月 黒
第四章 魔王

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魔王城出現

 アルスウィック湾は賑わっていた。

 「こんなに大勢人がいて、大丈夫なのか?」

 大介が呆れ気味なのは、賑わっているを通り越して、お祭り騒ぎになりかかっているからだろう。

 アルスウィック湾に降りて来る浮遊島を一目見ようと場所取りをする人々に、集まった人目当てに商売を始める屋台や路上販売の数々。

 なお、一番いい場所を確保して、多数の画像クリスタルを設置して待ち構えているのは、賢者ラウルとアッカーマン教授の助手達である。彼らは一応公務なので別枠だ。

 「まあ、この場が戦場になるわけではないからね。特に避難指示は出していないんだよ。」

 これまで、世界の危機の現場付近では早くから住民の避難が進み、兵士等の関係者以外誰もいなかった。ここまで観客の多い世界の危機は、大介や優太にとって初めてだった。

 「魔王との戦いは、浮遊島にある魔王城で行われる。魔王と戦う相手は魔王自身が指名するのだけれど、これまでの例から言って勇者様と聖女様は確定。後は聖女様を護衛する騎士が認められることがあるくらいだね。」

 「え? それじゃあ、一緒に来た兵士の皆さんは?」

 アルスウィック湾には、王宮騎士団だけでなく、エルソルディアの国軍の兵士も大勢来ていた。

 「彼らの半分はこの地の警備。残りは魔王の元へ向かう途中で待ち受けている魔族の相手をすることになる。」

 「あ、魔王以外の魔族とも戦うんだ。」

 「魔族との戦いは、魔族が出してくるルールに従って、死人が出ない形で勝負を付けるらしいよ。ただ、全ての魔族を勇者様一人で相手していたらきりがないから、軍が引き受けることになる。」

 「つまり、大介君を温存して、軍が露払いをするわけか。」

 「温存するのはユウタもだけどね。それに重要なのは勇者様が魔王を倒すことだけで、他の魔族との戦いは余興らしい。」

 「それで、魔王を倒せなかった場合に備えて、ここの連中は避難していなくていいのか?」

 優太は改めて周りを見回して言う。魔王との戦いの余波がここまで届く可能性は低いのだろうが、それでも世界の危機なのだ。魔王を倒せなかった場合の備えも必要なはずだった。

 「魔族の破壊活動も目的があってのことだからね。死者の谷近辺には避難指示を出しているよ。」

 「ドラゴンゾンビの歩き回ったあたりは毒が残っているから元より立入禁止サ。今は毒の処理も中断して避難しているヨ。」

 「ペリアーノ岬とリーデア海岸を中心に住民は避難したままです。他国の兵も引き上げてもらったので、完全に無人になっています。」

 それぞれ、危険が想定している場所では避難が進んでいるようだった。 

 「まあそれでもどこまで破壊されるか分からないし、その三ヶ所以外を標的にされたら何処に被害が出るか予想もつかない。ここで魔王を倒して魔族にお帰り願わなければ困るわけだけどね。」


 そうこうするうちに、浮遊島がアルスウィック湾上空に現れた。空に浮かんでいるとゆっくりに見えるが、浮遊島の移動速度は結構速い。王都ソレスから真直ぐにやって来た勇者一行と、大陸を南北に蛇行しながら進んできた浮遊島が大差ない時期にアルスウィック湾に到着しているのである。

 浮遊島はアルスウィック湾の真上まで来ると一旦停止し、そこから静かに降下し着水した。

 「おお~~!」

 歓声が沸き上がった。世界の危機だというのに、一般大衆はすっかりお祭り気分である。

 「それで、すぐに魔王の元に乗り込むのか?」

 お気楽な一般大衆と異なり、大介はこれから命を懸けた戦いに臨むのだ。お祭り騒ぎを横目に、大介は真面目な顔で問う。

 「いや、まずは使者を送る。先方の予定を確認してから行動することになるだろう。魔王からの招待状が届くまではひとまず待機だね。」

 アルベルト王子の答えにがっくりと肩を落とす大介だった。

 「……なんだかあっちで騒いでいる連中の方が正しい気がしてきた。」

 世界の命運をかけた戦いではあるが、そもそも魔族にも魔王にも悪意はない。これは、魔族の破壊活動を止めるための儀式でありイベントなのだ。ある種のお祭りと言ってもよい。

 「それにしても、あんな大きな島が空を飛んでいたんだな。」

 とりあえず急いで戦いになるわけではないと知った優太が、改めて浮遊島を眺める。全ての魔族からクラス場所だけあって、かなり大きな島だった。アルスウィック湾を埋め尽くすサイズである。

 「あの島が飛ぶ原理はいまだに解明されていないのサ。神具かそれに近い神の力が働いていると考えられているネ。」

 アッカーマン教授としては、浮遊島の飛行原理が気になるようである。北方山脈をも越えて自由に空を飛ぶ技術はとても魅力的なのだろう。彼女は神に挑む技術者であった。

 「それで、あの真ん中のごてごてした建物が、魔王城ってやつなのか?」

 優太は浮遊島の中央に建つひときわ大きな建物を見ながら言う。空中を飛んである時は島の下側しか見えなかったが、地上に降りた今、一番目立つのがその建物だった。

 「ごてごてというか、和洋折衷で無節操な感じか?」

 大介も魔王城を眺めながら言う。洋風の城の隣に和風の天守閣があったり、中華風やらイスラム風やら建築様式など無視していろいろなパーツが無節操に寄せ集められていた。

 「魔王城は現れる度に増築されているらしいのである。今回も記録にない構造物が増えているようなのである。内部がどうなっているかは乗り込んでみてのお楽しみである。」

 賢者ラウルは魔王城に乗り込む気満々であった。

 「いずれにしても、魔王からの招待待ちだね。今日の所は宿に行こうか。」


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