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聖女無双  作者: 水無月 黒
第四章 魔王

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魔族と魔王

 浮遊島は大陸の西から現れ、王都ソレスの上空も通り、大陸の各地を彷徨いながら東へと進んだ。

 その進路上では様々な混乱が発生していた。魔族は翼をもち、空を飛ぶことができた。少数だが、浮遊島から地上に降りてくる魔族が見受けられた。

 王都ソレスでも、魔族の目撃情報が飛び交っていた。

 「南の住宅街の公園で、魔族が子供と遊んでいるそうです!」

 「東通りの喫茶店で、魔族に無銭飲食されたと苦情が!」

 「大衆食堂の来々軒で、魔族が店のおばちゃんに説教されています!」

 「全員落ち着け! 魔族はまだ攻撃してこない、落ち着いて対応すれば大丈夫だ!」

 魔族に関する情報は王城に集められていた。

 「子供と遊んでいる魔族には監視を付けろ! 何かあったら子供を連れて逃げろ。絶対にこちらから手を出すんじゃないぞ! 喫茶店には被害額を届けさせろ、国で補填する。説教されている魔族は……おばちゃんに任せておけ。どうせ好き嫌い言って逆鱗に触れたんだろう。下手に介入するとお前たちも説教食らうぞ!」

 王城内に作られた対策本部であるが、対応しているのは王都の衛兵である。優太も大介も今はまだ見ているだけだ。

 「これ、世界の危機なんだよな?」

 魔族の行いのしょうもなさに思わず突っ込む大介だった。

 「まだ魔族は本気ではないのサ。魔族が破壊活動を始めるのはもっと先のことだろうネ。」

 「過去の例でも、魔族が地上に飛来して、たいして害のない行為をして帰っていく様子が見られているのである。地上の様子を視察しているとも云われているが、真偽のほどは不明なのである。」

 今回の危機への対処は、魔族を根絶することではない。世界のシステムに組み込まれた魔族を完全に排除することは不可能だった。

 重要なことは、魔族に何もせずに帰ってもらうこと。今はいたずらに刺激するべきではなかった。

 「それにしても、相変わらず強いな、来々軒のおばちゃん。魔族相手でも容赦なく説教するか。」

 優太も知っている店のようだった。

 「あの店は、食べ物を粗末にすると貴族だろうが王族だろうが遠慮なく説教されるからね。」

 「アルも説教されたことあるのか?」

 「……子供の頃、ちょっとね。」

 「というか、王族も来る大衆食堂かよ。それはそれで凄いな。」

 「例のラーメン店だよ。今度、大介君も行ってみるか?」

 「……行く。」


 エルソルディアだけでなく、魔族は世界各地に現れて、しょーもない騒ぎを起こして行った。

 エルソルディアから各国に対して、いたずらに魔族を刺激しないよう通達を出していたのが功を奏したのか、今のところ大きな被害は発生していない、らしい。

 騒がしい世間は他の人に任せ、勇者一行は浮遊島を追って東へ向かった。

 「浮遊島はこのまま東に進み、大陸東部のアルスウィック湾に着水するはず。それまでは魔族も様子見だね。」

 最後の危機、魔族の襲来は歴史上今回が初めてではない。だから神託の他にも、過去の記録として魔族が情報として存在していた。アルベルト王子が語るのは、エルソルディア王家に伝わる記録に基いた魔族の対応方法である。

 「地上に降りた魔族は、破壊活動を開始する前に一度状況の確認を行うらしい。その時に、魔族を束ねる魔王に対して力を示し、世界の危機を自力で乗り越えたと証明すれば魔族は帰って行くのだそうだ。」

 「力を示せなかったらどうなるんだ?」

 「過去に、世界の危機への対処が長引いて、魔王の前に勇者が来れなかったことがあった。その時は、勇者が抑え込んでいた世界の危機と共に三ヶ国が更地になったそうだ。」

 この更地というのは、比喩でも何でもない言葉通りの状態だった。

 その範囲内にあった草木も建物も、獣も、虫も、鳥も、人も、モンスターも、山も、川も、何もかも。

 全ては魔族に破壊され、整地されたように真っ平らで何もない土地だけが残った。

 世界の危機から避難していた多くの人も巻き込まれて死亡した。世界の危機に対する戦いの被害が出ると想定していた範囲をはるかに超えて、魔族は破壊して行ったのだ。死者数は数千万人を超えると推定されていた。

 滅びた国は、わずかな生き残りと他国からの移民により再建されたが、元通りとはならなかった。元々さほど大きくなかった国がさらに細分化され、情勢不安定な小国が乱立することになった。

 エルソルディアとエルハーベスタの間に反エルソルディアを掲げる小国が多い理由の一端がここにある。

 滅びた国の生き残りは世界の危機への対応に失敗したエルソルディアを恨んだ。逆恨みに近いものもあったが、その恨みの感情が再建された国々に引き継がれた。

 「それでも、魔族がその力を発揮したにしては被害が少ない方らしいけどね。彼らが全力を出せば、大陸そのものが無くなるというから。」

 さすがに魔族がそこまでの全力を出したことはない。しかし、これまでの神託の内容から、魔族にはそれだけの力があると考えられていた。世界を守る力は、同時に世界を滅ぼす力でもあるのだ。

 「今回魔族が活動するとどうなるんだろう? 世界の危機はちゃんと終わらせているけど。」

 「こればっかりは魔族次第だね。死者の谷を周囲の山ごと吹き飛ばすか、ドラゴンゾンビの歩き回った範囲を消し去るか、あるいは飛蝗が侵入した土地を更地にして行くか。」

 「飛蝗の女王のいた西南諸島を海に沈める、で済めばよいのですが。あそこには無人島しかないので。」

 魔族の判断基準は分からないが、フィリップ王子の期待通りになる可能性は低いだろう。

 「北方山脈の一部だけ均してくれれば交通の便が良くなっていいんだけどネ。」

 魔族に土木工事をさせるのは更に無理だろう。

 「いずれにしても、魔族にはおとなしく帰ってもらうのが一番か。魔王に力を示すって、具体的にどうすればいいんだ?」

 「勇者が魔王と戦って倒せばよいそうだ。」

 「……いいのか? 魔族の王様倒しちゃって。」

 「そこは問題ないらしいよ。魔王が死ねば魔族は帰って行くし、次に魔族が現れた時にはちゃんと魔王がいるという話だ。」

 「魔王は過去の勇者との戦いを憶えているらしいのである。魔王は死んでも復活する説と次の魔王に記憶が継承される説が有力なのである。」

 「結局、勇者は勇者らしく魔王を倒せということか。」


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