最後の危機
第四章、始めます。
この章は、お気楽な感じで行こうと思います。
勇者一行はエルソルディアに帰還していた。
帰りも船を利用した。ただし、川を上ったのではなく、海路である。
女王の探索にも使用した魔導船に乗って、大陸の東からぐるっと回ってエルソルディア東部の港へと到着した。
距離的には遠回りになるのだが、そこは最新の魔導船、陸路よりもだいぶ早くそして安全にエルソルディアに到着した。
ここのところ破滅的カルトの活動が活発なのでと、エルハーベスタとも協議した結果、魔導船で送ってもらうことになったのだ。本来はエルハーベスタとエルマギカを行き来するための魔導船、その運用テストも兼ねていた。
実を言えば、エルソルディアの国軍五百名と一緒に行動すれば、反エルソルディアのテロリストの攻撃だろうと、破滅的カルトの自爆テロだろうと、小国が突然宣戦布告してこようと切り抜けることは可能だった。ただそこまでやると、他国に対して威圧的になりすぎるので、穏便な方法を取ったのだった。
「いよいよ世界の危機もあと一つか。」
第一の危機から参加している優太が感慨深げに言う。
「そうだね。出来たら最後の危機は発生しないでくれるといいのだけれど。」
アルベルト王子も同じく感慨深げだった。
「ん? 最後の危機は起こらない可能性もあるのか?」
大介がアルベルト王子の発言にふと疑問を覚えた。
女神の神託はかなり正確である。これまで、人々の努力で危機の発生を回避できるという話はあっても、何もせずに世界の危機が自然消滅する可能性に言及した者はいなかった。
「最後の危機、『魔王』は、それまでの世界の危機への対処がうまく行けば、現れない可能性があると云われているのである。」
それに答えたのは賢者ラウルであった。
賢者ラウルは、アッカーマン教授共々、勇者一行に付いてエルソルディアにやって来ていた。
この世界には『魔族』と呼ばれる種族が存在する。
その性質は、一言で言えば「破壊的」である。
魔族がその本領を発揮すれば、目につくものはことごとく破壊され尽くす。
魔族は、個々の能力が高いというだけではない。魔族のみが使うことのできる特殊な魔法は、己の肉体を代償に一定範囲内の全てを消滅させると云われていた。
とても恐ろしく、迷惑な存在に思える魔族であるが、実は邪悪な存在というわけではない。
魔族は神によって創られた、世界を構成するシステムの一部なのである。
その役割は、世界を守る最終防衛装置。いわば世界の免疫なのである。
その破壊の力は、世界を脅かす存在に対して振るわれるものなのである。本来は。
魔族が本気になれば、死者の谷の屍者大行進の魔法陣だろうと、猛毒を振り撒くドラゴンゾンビだろうと、超巨大な飛蝗の女王であろうと何でも破壊してしまう。
何十万体に増殖したアンデッドであっても、大地に染み付いた致死性の猛毒であっても、大陸を埋め尽くすほどの飛蝗の大群であっても、破壊し尽くすことが可能だ。
しかしながら、実際に魔族が世界の防衛のために出動することは滅多にない。魔族の持つ破壊の力は強すぎるのだ。世界の脅威をその周囲の守るべき世界の一部ごと破壊してしまう。本当に最後の手段なのだ。
そして、この魔族を創ったのは創造神であった。女神イシスには魔族を制御しきれなかったのだ。下手をすれば防衛装置の筈の魔族によって世界が滅びてしまう。
女神イシスとしては扱いきれない魔族の活動を封じたかったのだろう。しかし、魔族は世界のシステムの根幹に組み込まれた防衛装置である。世界を掌握しきれていない女神イシスには手が出せない部分だった。
女神イシスにできたことは、魔族が暴走しないための安全装置を強化して、人の手で魔族の破壊活動を止められるようにすることだけだった。
「つまり、オレたちがドラゴンゾンビや飛蝗の女王を倒せなかった場合、代わりに倒してくれるのが魔族で、ちゃんと倒したから現れないということか。」
「そういうことである。しかし、ドラゴンゾンビも飛蝗も一度は出現して被害も出ているのである。魔族が現れないとは言い切れないのである。」
「そうですね。危機が回避されれば神託が降る筈です。それまでは安心できませんね。」
フィリップ王子も会話に加わった。エルハーベスタの王子が何でこんなところにいるのかと言えば、勇者一行に付いてきたのだ。エルハーベスタの王子は、このまま世界の危機の終わりまで見届けるつもりだった。
「まあ、今は神託待ちだね。それに、魔族が現れたらすぐにわかるよ。」
アルベルト王子が話を纏める。しかし、その時伝令の兵が大慌てでやって来た。
「大変です、浮遊島が現れました!」
「なんだって!」
世界の危機レベルの非常時に現れ、全てを破壊して行く魔族。しかし、通常は人々は魔族の姿を見ることはない。
普段、彼らはどこにいるのか?
その答えが、浮遊島である。
空に浮かび、世界のどこかをさまよっていると云われる浮遊島こそが魔族の住処である。
その浮遊島が現れた。それは即ち魔族がやって来たことに他ならない。
最後の危機が始まろうとしていた。




