女王討伐3
翌日、リーデア海岸に多くの兵士が集まっていた。
「どうやら、アッカーマン教授の予想は正しかったようですね。」
「はい、監視している魔導船からも、真直ぐにこちらへ向かっていると連絡が入っています。」
フィリップ王子とセルジオ将軍は胸をなでおろした。一応女王が他の場所に向かっても対応できるように考えて準備を進めていたのだが、女王の移動速度が速すぎてリーデア海岸に兵を集めるだけでぎりぎりだった。
一度エルハーベスタに戻って大介達を下した魔導船が、女王の監視についているのも、女王の泳ぐ速度について行ける船が他になかったからだった。
「それでは、このままリーデア海岸で迎撃の準備を進めてください。」
「ハッ!」
セルジオ将軍は、フィリップ王子に敬礼して、戦いの準備に戻って行った。
――キキキキギギギキキィキィー!!
そしてついに女王がその姿を現した。
女王は巨大だか、その体は縦に長く伸びており、正面から見ればそこまでの大きさは見えない。
だがそれは、全長に比べれば少ししか見えていないというだけで、それだけでも十分に大きい。女王の進行方向正面に立ったら、押し寄せる圧倒的な質量に生きた心地がしないだろう。
女王はリーデア海岸に近付くと、一度頭を持ち上げ、そのまま陸に乗り上げた。
――ズズズズズズズズズー
やはり陸上では海中ほど自由に動けなくなるらしい。胴体の後ろの方はまだ海の中だったが、女王はそこで一度動きを止めた。
この瞬間を待っていた。
「今だ! マナ・スマッシャーを撃ち込め!」
セルジオ将軍の命令に従い、投石器を撃ち放つ。ただし、放たれたのは石ではなく、樽くらいの大きさの人工物。
これが、マナ・スマッシャーと呼ばれるもの。アッカーマン教授が言っていた反魔法兵器である。
反魔法兵器。
それは、一定範囲内から魔力を排除することで、その場に働く魔法を消滅させる特殊な兵器である。
魔力を根こそぎ奪い去るため、発動中の魔法は全て跡形もなく消え去る。体内の魔力も奪われるため、新たな魔法を発動することもできない。さらには空間に存在する魔力もなくなるため魔力も回復しなくなるという魔導士殺しの兵器である。
ついでに、マジックアイテムや魔法薬も無効化されてしまう。
回復魔法や治療用の魔法薬も使えなくなるため、国際条約によって戦争での使用が禁止されている非人道的兵器であった。
この使用が禁じられた兵器をエルハーベスタ他の大国が保有しているのは、ドラゴンや他の強力なモンスターが現れた時に備えて、というのが表向きの理由である。
そう、まさに今がその時であった。
投石器によって射出された反魔法兵器、マナ・スマッシャーは放物線を描いて宙を舞い、女王の頭上を越えて海上に落ちた。
誤射ではない。いまだ海中にある女王の胴体の残りを巻き込み、後方に待機した魔導士と神官を効果範囲に巻き込まないように狙ったものだ。
海上に落ちたマナ・スマッシャーはそこで静かにはじけた。閃光も、爆風も、爆音もない。だがその効果は爆発的に広がった。
――ギギギギギギギャアー!!
女王の頭が地に落ちた。魔力を失って、自重を支えきれなくなったのだ。
ここから先、魔法もマジックアイテムも使えない。己の肉体に頼った物理攻撃のみである。
ただし、例外もある。
「『身体強化』!」
優太は兵士達に強化魔法をかけた。
反魔法兵器の効果範囲内であっても、勇者と聖女はその力を失わなかった。そして、勇者や聖女の魔力によって動作するアーティファクト、勇者の鎧や聖女の衣も問題なく使用できた。
「総員、攻撃開始!!」
「「「オォー!!」」」
セルジオ将軍の号令の下、優太に強化された兵士達が女王に向かって行く。
「オパール、みんなのサポートだ!」
「ヒヒーン!」
聖獣もまた、反魔法兵器の影響を受けていなかった。
ただし、周囲の空間に魔力が存在しない状態では消費した魔力が回復しないことは同じだった。マナ・スマッシャーの効果が続く時間にも限りがあることから、短期決戦で挑むことが決まっていた。
巣穴を作って籠られたら、もう一度同じ作戦は使えない。実質的にこれが最終決戦になるだろう。
動けない女王に殺到する兵士達。だが女王は攻撃能力を失ったわけではなかった。
女王の胴体から生えている無数の触手。それらはかなりの長さがあるのだが、女王本体に比べればはるかに軽く、魔力を失った今でも動かすことができていた。
兵士達に対して大量の触手が向かって行った。
一本だけでも勇者がそれなりにてこずった触手が大量に。しかし、こちらもエルハーベスタとエルソルディアの精鋭の兵士達である。果敢に挑んで行った。
女王の頭の少し手前で触手と兵士達が激突した。
「やはり以前より動きが鈍い。酸に注意しつつ押し込め!」
ユージン騎士団長は触手の攻撃を盾で受け止めながら、巣穴で戦った時よりも弱いと感じていた。触手も魔力で強化されていたらしかった。
「以前よりも柔らかいです。それに再生もしません!」
同じく前回戦った王宮騎士団員からも報告が上がる。前回は勇者の剣も受け止めた脚を切り飛ばし、触手の胴部分を深く切り裂いても再生する様子はなかった。
触手相手ならば、兵士達でも問題なく戦える。それを確信した兵士達は、さらにどんどん攻め込んで行った。
反魔法兵器でも、触手の動きまでは封じきれないことは最初から予想されていた。この場に集められた兵士達は、最初から触手の相手をする作戦だった。
ユージン騎士団長から報告を受け、触手の戦い方は兵士達に周知してあった。そして簡単な攻略法も考えられていた。
攻撃を正面から盾で受け、その間に他の者が触手を切断して先端のバッタのような部分を切り離す。時間も情報も限られていたので、この程度の単純な作戦である。
触手は先端のバッタのような部分が無くなると、攻撃手段が体当たりくらいしか残らなかった。やってみると意外と有効な戦法だった。
この作戦のために、兵士の多く優太が祝福した頑丈な盾を持っていた。また、武器として戦斧を持つ兵もいた。巣穴で戦った経験が活かされていた。
兵士達を援護するため、投石器と大型弩砲による攻撃も加えられた。女王の本体を狙った攻撃は、ほとんどが触手によって撃ち落されたが、その分兵士に向かう触手が減るから問題ない。
戦いは概ね兵士達の優勢のまま進んだ。
たまに負傷する兵士がいても、最前線を駆け回る優太とユニコーンによってすぐさま回復して行った。
「『防御強化』! 『回復』! 『魔法盾』!」
魔力の節約はしているはずだが、優太は途切れることなく的確な支援を行っていった。聖女の本領発揮であった。
だがそれは、あくまで触手相手の戦いに対してである。女王の本体には全く攻撃は届いていなかった。
もとより、女王の巨体に対して兵士達の武器はあまり有効ではない。剣で斬ろうが、槍で突こうが、巨大な体のごく浅いところまでしか届かない。
このような巨大なモンスターを倒す場合は、貫通力の高い強力な魔法撃ち込む方が効果が高いのだが、反魔法兵器の効果が続いている間は魔法攻撃はできない。マナ・スマッシャーの効果範囲外に退避した魔導士達が大魔法の準備をしているのだが、これは女王討伐に失敗した場合の保険である。
そんなわけで、いまだに女王に有効なダメージはないのだが、それは問題ない。女王を倒す切り札は別にある。
兵士達は、触手を押し込むように進みながら、次第に左右に分かれて行った。最初から予定されていた行動である。理由は二つあった。
一つは、女王の正面を避けるため。中央には女王の頭がある。今は動けない女王の本体だが、あまり近付けばその口からどのような攻撃が飛んで来るか分からない。
もう一つは、女王の正面から触手を遠ざけるため。無数に生えている触手の内、頭より前に伸ばせるものは全て兵士達と戦い左右に分かれて行った。
今、女王の正面に邪魔な触手は一本もなかった。
「今だ、大介君!」
「応!!」
優太の声が聞こえたのか、ここで大介が女王に向かって一直線に走り出す。
手にした勇者の剣には、うっすらと魔力の刃が顕現しかかっている。神具である勇者の剣もまた反魔法兵器の影響を受けなかった。
彼こそが女王討伐の切り札。巨大なドラゴンゾンビさえ切刻んだ勇者の剣ならば、女王の巨体であっても切り裂くだろう。
兵士達は全てそのための露払い。近接戦闘専用の勇者を、その間合いまで送り届けることが作戦の全てだった。
巨大な女王からすれば豆粒にも満たない小さな人間が一人。真正面から突っ込んでくる大介に、それでも脅威を感じたのか、女王が触手の一本を強引に大介に向けて振るう。
「てい!」
しかし、優太に蹴飛ばされて、触手は大介まで届かない。優太はそのまま大介に並走し、守りを固めた。
――ギギギギギギギギギィー!!
止められない大介に更に危機感を強めたか、女王が強引な手段に出る。
兵士達を無視して触手を一斉に振り上げ、地面に叩きつける。そしてその反動で無理矢理に頭を持ち上げた。
持ち上がったのは長い女王の体の一部分のみ。だがそれでも女王の頭は地上から百メートル以上の高さにあった。このまま地面に叩きつけるだけで、巻き込まれれば大惨事だろう。
だが、大介は臆することなく走り続ける。そして――
「行け! 『身体強化』百倍!」
優太の強力な身体強化の魔法を受けて、大介は大きく跳び上がる。そして、女王の頭に近い場所まで跳び上がったところで、勇者の剣を大きく振りかぶった。
「おおおおおおおおおおおおおお!」
勇者の剣に魔力の刃が顕現する。魔力の刃は斬る相手に合わせて姿を変える。相手の弱点となる火属性の魔力により、女王の巨体に合わせた超巨大な刀身が生まれた。
大介はその巨大刃を全力で、振り下ろした。
――斬
女王の体を縦に真っ二つに切り裂き、魔力の刃はそのまま海を割った。
――バン!
一拍遅れて衝撃波が来た。水蒸気爆発が起こったのだ。
こうして飛蝗の女王は討伐され、第三の危機は終息した。
女王の体は頭から縦に真っ二つに裂け、海中にあった部分は水蒸気爆発で粉々に砕けた。
女王の正確な体長は不明のまま終わったが、顕現した魔力の刃の長さから、一キロメートル以上あったのではないかと推測されている。
本章はこれで終了です。
次章が最後の戦いとなります。インターミッションはありません。
掲載再開までしばらくお待ちください。




