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聖女無双  作者: 水無月 黒
第三章 飛蝗

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女王討伐2

 小さな島を突き破るようにして下から現れたのは、細く、長く、そして巨大な生き物。イモムシの胴体のような体に足は見当たらない。代わりに触手のような細長いものが無数に生えていた。

 その生き物は、一度島の上に大きく体を伸ばした後、倒れ込むようにして海にその身を投げ出した。

 ――ザッブーン!

 島からだいぶ距離を取っていたというのに、大きな波が押し寄せてきて船を揺らした。

 「うわあ、なんなんだよあれ? どこに隠れてたんだ? 島よりでかいんじゃないか!」

 揺れる船上で、必死に手摺につかまりながら大介が叫ぶ。今海に落ちたらまず助からない。

 「島の地下、もしかすると海底よりも下まで穴を掘ってその中にいたのであろう。あるいは、体の一部を海底にはみ出させていたのである。」

 賢者ラウルが推測する。まあ、そのくらいしか可能性はないだろう。島の地下には大穴が開いていて脆かったのだろう、巨大生物が出てきた衝撃で島そのものが消滅していた。

 「そして、あれが飛蝗の女王なのである。」

 衝撃の事実である。だが、島で魔力の測定を行っていた賢者ラウルは、確信をもって言い切った。

 「……嘘だろ。じゃあ、俺たちが戦ったのは、いったい何だったんだ?」

 賢者ラウルは、ユージン騎士団長が持ち帰った巨大なバッタのような死骸をちらりと見て言う。

 「おそらく、女王の触手の一本なのである。女王の一部であり、女王を守る兵隊であり、そして――」

 ――バシャ!

 その時、女王の隣で小魚がはねた。いや、女王が大きすぎて小魚に見えただけである。

 「あっ、あれはメガロドン!」

 上ずった声で、海兵の一人が指さす。それは、体長三メートルを超えるサメに似たモンスターだった。

 よく見れば、メガロドンは女王の触手に捕らえられていた。

 「――女王が直接食事をするための口である。」

 メガロドンは複数の触手に絡まれ、見る間に喰い尽くされてしまった。

 「女王って自分では食べないんじゃなかったっけ?」

 「普段は巣に籠ったまま食べに出ないだけである。目の前に餌があれば普通に喰うのである。」

 「もしかして、海のモンスターに襲われなかった原因って……」

 「みなあれ(・・)に喰われたのかもしれないのであるな。」

 「あんなの、どうやって倒せばいいんだよ。」

 大介は頭を抱えた。

 そうこうするうちに、女王はゆっくりと身をくねらせて泳ぎだした。

 進行方向にあるのが頭なのだろう。巨大な複眼と口らしきものが確認できるが、バッタっぽい要素は皆無だった。

 ――キキキキキィキキキー!!

 「あっ、本当に女王だ。」

 相変わらずどこから音が出ているのか分からない謎の鳴き声を響かせて女王は進む。

 「あの方向は、大陸に向かっているようであるな。西南諸島に見切りをつけて、大陸に新たに巣を作るつもりなのであろう。」

 これで、飛蝗が世界の危機となる上で考えられていた変異体の能力のうち二つが確認された。飛蝗の移動距離の大幅な向上と、女王自身の移動能力の獲得である。

 「なんか、あの女王が暴れただけで人類くらい滅ぼせそうなんだけど。ドラゴンゾンビよりでかいだろ、あれ。」


 「これより本船は急ぎエルハーベスタに戻ります。危険なので、全員船室に入ってください。」

 女王の様子を見て、船長が軍人として判断を下した。

 「賢明な判断であるな。海上では近付くことも難しいのである。」

 身をくねらせて泳ぐ女王の周囲では波が荒れ狂い、不容易に船で近付けば簡単に転覆してしまうだろう。

 「陸に上がったからと言って容易に近づけるとは限らないけどな。」

 触手の一本だけでも厄介な相手であることは、直接戦った大介達はよく知っていた。

 「本船はこれより緊急加速を行う。総員、衝撃に備えよ!」

 伝声管を伝って、船長の声が船内に響いた。

 「まさか!?」

 大介は、激烈に嫌な予感がした。

 「アフターバーナー点火、緊急加速開始!」

 船内に、船とは思えない強力なGが発生し、船は海上を飛ぶように進んだ。

 「やっぱりかよー!」

 魔導船の開発にはアッカーマン教授が関わっていると大介は確信した。


 ペリアーノ岬近くの臨時司令部では、その場にいるメンバーだけで緊急の会議が開かれていた。

 賢者ラウルにより、飛蝗の女王の情報は次々と送られて来ていた。

 「つまり、飛蝗が突然共喰いを始めたのは、女王が活動するための力を回収するためだったんだろうネ。」

 飛蝗が食べたものは魔力に変換して女王に送られる。そのことは賢者ラウルによって確認されていた。

 たとえ共喰いでも喰った分だけ女王に魔力は送られる。だから女王は自分が動くために飛蝗に共喰いをさせたのだろう。あの共喰いは、女王が自分の子を食べたようのものだった。

 「大陸に着いてどこかに巣を作ったら、また大量の飛蝗を産み出すんだろうネ。」

 これまで飛蝗は西南諸島から海を渡って大陸まで来ていた。このため制限も多く、防衛戦もやり易かった。しかし、大陸側に巣をつ作られてそこから飛蝗が出て来ると蝗害を防ぐことは格段に難しくなる。

 「ならば、大陸に着く前に倒すべきではないのか?」

 セルジオ将軍としては、女王が来ることで飛蝗対策の布陣を大きく変えることはしたくなかった。面倒だから。

 自国の兵だけならばまだしも、他国の兵士は玉石混合。特に小国の兵は形だけの数合わせが多い。碌に訓練も受けていない農民どころか、山賊まがいの者もいる。国民レベルで非常に中の悪い国というのもある。無用なトラブルを避けるため、戦いに支障をきたさないため、どの国の軍にどの地域を担当させるか、細心の注意を払って決めたのだった。

 ここで巨大な女王の襲撃を受けたらどうなるか? 少なくとも飛蝗対策の布陣では対応しきれない。だが、急いで配置を変えようとしても混乱が生じて無駄な犠牲が出るだろう。

 まあ、それでなくても厄介な敵が近くに来て欲しくないというのは誰でも同じだろうが。

 「それができるならば、勇者様がやっているだろうサ。けれども今回は難しいだろうネ。相手が大き過ぎるのだヨ。」

 女王の大きさは、幅二十メートル、長さは最低(・・)でも三百メートルと推定されていた。特に全身を海上に出していないため、本当はどれほど長いか想像もつかなかった。

 「海の上では勇者様も自由に動けないだろうネ。それに、女王の大きさでは身じろぎしただけで近くの船は沈んでしまうサ。海上で戦うのは愚策だヨ。」

 この場における情報担当であるアッカーマン教授は、賢者ラウルの報告から状況をほぼ正確に読み取っていた。

 「そもそも、今の女王は陸上の生物としてはあり得ない大きさなのだヨ。陸に上がれば必ず動きが鈍る筈サ。」

 「せめて、女王がどのあたりに上陸するかが分かれば、兵を動かして待ち構えることができるのだが。」

 あまり陸地の奥まで入り込まれると被害も増えるし、巣を作られたら厄介だ。なるべく水際で食い止めたい。セルジオ将軍は大型生物が上陸できそうな海岸を思い浮かべ、どう兵を配備すべきか思考をめぐらす。

 「おそらく、リーデア海岸だネ。」

 アッカーマン教授はきっぱりと言い切った。

 「どうしてそう思うのでしょうか?」

 ことが重要なだけに、フィリップ王子も鵜呑みにするわけにはいかなかった。

 「大陸で女王が知っている場所は、飛蝗がやって来たペリアーノ岬とリーデア海岸だけサ。ペリアーノ岬は巨大な女王が上陸するには向かないネ。リーデア海岸ならば十分広い上に奥まで整地済みだヨ。」

 アッカーマン教授の意見は、十分に説得力があるように思われた。

 「ま、こっそり偵察の虫を放っていたかもしれないから、油断はできないけどネ。それでも第一候補なのは間違いないだろうサ。」

 「それでは、まずはリーデア海岸に来ると仮定した上で、他の海岸に来た場合も想定して迎撃の準備をしましょう。セルジオ将軍、お願いしますよ。」

 「分かりました。対モンスター用に装備を変更した部隊をリーデア海岸に送り、飛蝗専用の兵は海岸から撤退させましょう。飛蝗の偵察に出した船は女王の監視に回します。」

 セルジオ将軍は通信具で指示を出し始めた。

 「後は、何とかして女王の動きを止めたいね。巨体で暴れられたら、ダイスケ殿でも攻撃を当てることは難しくなるだろう。」

 ドラゴンゾンビ戦を直接見ていたアルベルト王子は、大介の実力を良く分かっていた。剣による近接戦闘を行う大介は敵に接近しなければならない。陸上に上がっても、暴れ回られると接近することが難しくなる。

 「だったらいい手があるヨ。」

 これに答えたのもアッカーマン教授だった。ただし、今回使用するのはアッカーマン教授新作のマジックアイテムではなかった。

 「この女王は大き過ぎるんだヨ。海中ならまだしも、本来陸上では自重で身動きが取れなくなるはずなのサ。おそらく魔力で体を支えているんだろうネ。」

 アッカーマン教授はフィリップ王子を見据えて言う。

 「あるんだロ、反魔法兵器が。」


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