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聖女無双  作者: 水無月 黒
第三章 飛蝗

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飛蝗防衛戦4

 戦線の崩壊は早かった。

 「こんなの、無理だ―」

 一人が逃げ出すと、次々と武器を捨てて背後に向かって走り出した。

 そして、すぐに止まった。

 「うわぁー」

 最初に逃げ出した兵士が、飛蝗に集られてのたうち回っていた。

 飛蝗の足は速い。ジャンプ力もあるし、翅で飛ぶこともできる。村一つ分の家屋を喰らって元気いっぱいになった今、食べ難い餌にこだわる必要はなかった。

 多くの飛蝗は燃え盛るバリケードを避け、次なる餌場を求めて大移動を開始していた。わざわざ引き返してくることはなかったが、進路上にある餌は喰い尽くして行った。それが草木でも、人であっても。

 振り返れば、エルハーベスタの兵士が黙々と飛蝗を潰し続けていた。現在、バリケードで飛蝗を止めているこの場所が唯一の安全地帯だった。だがそれも時間の問題だろう。

 小国の兵士達がその場にへたり込む。最初から逃げ切れる状況ではなかったのだ。バリケードを作らず、怪我人を見捨てて逃げたとしても、飛蝗の移動速度からすればすぐに追いつかれただろう。

 少しばかりあがいたところでどうなるものでもない――

 その時、突然飛蝗が吹き飛んだ。

 風にあおられたわけでもないのに、凄い勢いで一方に飛んでいく飛蝗。そして

 「到着!」

 彼らの真ん中に飛び込んできた男――優太であった。

 ペリアーノ岬から全力で走って来た優太は、案内もなかったため多少迷いそうになったが、どうにか到着したのであった。

 「何とか間に合ったか?」

 優太は短剣型の発動体を地面に突き刺した。この場で戦っている人を見てモンスター除けの結界を張りながら駆け寄ったのである。飛蝗が吹き飛んだのは、走り寄る優太の結界に押された結果である。

 「けが人はこれだけか? 『範囲回復(エリアヒール)』!」

 優太は、飛蝗に集られて転がっていた者も途中で拾ってきていた。そしてまとめて治療した。優太の回復魔法は強力だ。大概の傷はすぐに完治する。

 しかし、手足の先を齧られて欠損した部分までは普通の回復魔法では戻らない。

 「『再生(リジェネレイト)』!」

 体に欠損を生じた重傷者には一人一人高位の回復魔法をかけて行き、優太は一通りの治療を終えた。

 「結界を張ったのでここは安全です。外には出ないでください。俺は少し飛蝗の数を減らしてきます。」

 そういって優太は結界の外へ出て行った。聖女の衣で守られた優太には、飛蝗程度では歯が立たない。寄って来る飛蝗を撥ね退けながら優太は進む。

 「何だったんだ?」

 ようやく自分が生き延びたことを理解した小国の兵士が呟く。目の前で起こったことがよく理解できていなかった。

 「あれが……噂の聖女様、ですか。」

 エルハーベスタの兵士はさすがに優太のことを知っていた。当然合うのは初めてで、ちょっと呆然としていたが。

 「「「ええっ~~!?」」」

 小国の兵士達がその事実を理解したのは、優太が出て行った後だった。

 優太が到着したことで、この日これ以上の死傷者が出ることはなかった。しかし、それ以前に海岸を偵察しに行った男を始めとして五名の兵士が死亡していた。

 負傷者なら治療できても死者の蘇生は優太にも不可能だ。心停止の直後ならば可能性はあるが、遺体が喰い荒らされた後ではそれも不可能だった。彼らはもう帰らない。


 「さてと、()でよオパール!」

 優太は聖獣を召還した。

 「適当に走り回って飛蝗を蹴散らしといてくれ。それから、負傷者を見つけたら、あそこの結界まで連れて行ってくれ。」

 結構アバウトな指示を出すが、聖獣は優秀なのでどうにかしてくれる。

 「ヒヒーン!」

 ユニコーンは雷を纏うと、雷光と化して駆けて行った。

 防御力の高い聖獣は飛蝗程度のモンスターに喰われることはない。さらに、雷を纏うことで近寄る飛蝗は尽く焼き滅ぼされる。さらに回復魔法も使えるので怪我人の救護もできる。この場ではとても頼りになる相棒だった。

 走り去る相棒(オパール)を見送った優太は、自分も行動を開始した。

 まず、取り出したのが捕虫網(インセクトキラー)である。しかも、三個纏めて紐で縛って扇のような形にしてあった。それが二組。両手に持って優太は走り出した。

 「聖女千手掌!」

 左右に三本ずつ、合わせて六本の捕虫網(インセクトキラー)を広げたその姿は、千手観音というよりは阿修羅である。

 しかしその威力は凄まじかった。優太の強大な魔力のためか、吸引力も強まっているらしい。優太が走り去った後には、飛蝗のいない領域が道のようにできていた。

 だが、いくら優太が三面六臂の活躍をしても、全ての飛蝗を飛蝗を駆逐できるわけではない。

 リーデア海岸には新たな飛蝗が飛来し続けているし、リーデア村を喰い尽くした飛蝗の群れは新たな餌場を求めて移動している。

 優太にしても、全てを自分一人(と相棒の聖獣)だけで片付けるつもりはない。ただ、生存者の確認のついでに少しでも数を減らせればそれでよかった。

 餌を求めて大陸の奥へと向かっていった飛蝗には、装備を整えた軍が動いている。優太が祝福した鎧を身に付けていれば飛蝗に喰われる心配はないし、インセクトキラーや魔導士の魔法があれば効率的に飛蝗を駆除することができる。

 そして、飛蝗がリーデア海岸に現れた原因についても既に判明していた。


 それを発見したのは、飛蝗の監視をするために海に出ていた船の一艘だった。

 偶然、ペリアーノ岬に向かわない飛蝗の群れを発見し、追跡したのだ。そこで見つけたのが、洋上で休息する飛蝗の姿だった。

 どうなっているのかと訝しみ、近寄ってさらに詳しく調べてみると、そこにあったのは海に落ちた飛蝗の死骸が集まってできた小さな浮き島であった。

 この報告に、司令部は騒然となった。この飛蝗の行動を放置しておくと、リーデア海岸だけでなく、どこの海岸に飛蝗が現れてもおかしくはなかった。それでは、ペリアーノ岬に戦力を結集して食い止めるという作戦が根底から崩れることになる。

 大慌てで、予備として取ってあった結界に守られた船を総動員して、飛蝗の浮島を捜索し、見つけ次第破壊して行った。


 各所の努力のかいもあり、リーデア海岸の飛蝗の対処も落ち着いてきた。

 まだ完全に駆除し終わったわけではないが、新たな飛蝗の飛来もなくなり、内陸に向かった飛蝗も装備を整えた兵士達によってその数を減らして行った。もちろん、ペリアーノ岬の戦いには悪影響を与えていない。

 リーデア村近辺は喰い荒らされてしまったし犠牲者も出てしまったが、どうにかこれ以上の被害は防げそうだ。そう思われた時、異変は起こった。

 「なんだ? 飛蝗が共喰いを始めた?」

 リーデア海岸に飛来した飛蝗は、突然移動を止め、仲間同志で食い合いを始めた。

 そして、それはリーデア海岸だけではなかった。ペリアーノ岬でも、飛蝗がそれ以上の前進を止めて共喰いを始めていた。

 「いったい、どうなっているんだ?」


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