飛蝗の巣発見
「どうやら、動き始めたようであるな。」
賢者ラウルの視線の先、島から島へと海を渡る昆虫の群れがあった。渡った先の島には既に餌となる草木は存在しない。飛蝗がついに大陸に向けて大移動を開始したのだ。
「船長、急いであの飛蝗の飛んで来る元へ向かうのである!」
「了解しました!」
船は飛蝗の流れを逆にたどって進んでいく。と言っても、船を進めるコースを大きく変えることはない。元々向かっていた先、賢者ラウルが女王がいそうだと予想した場所は間違っていなかったようである。
「やはり、飛蝗の死骸が多かった島は、大陸へ渡る通り道になっていたのであるな。」
船上から飛蝗の動きを観察する賢者ラウル。飛蝗の進むルートは、所々枝分かれしつつも、おおよそ飛蝗の死骸の多くあった島を通っていた。
船を進めながら飛蝗の観察をしていると、突然島から島へと渡る飛蝗の群れが途絶えた。
「ん? もう打ち止めか?」
「それは無いのである。群れと群れと間隔があいているだけである。」
大介の楽観的な意見を賢者ラウルはきっぱりと否定する。
「マイグラトリアは一度に生まれた数十匹が群を作り一緒に行動するのである。女王が産卵するにも一定の間隔があるから、動き出した群と群の間に間隔があくのである。女王に近付いたことでそれがはっきりしたのであろう。」
「ふーん、そうなんだ。あ、本当だ、次の群れが来た。」
見ると、船の進行方向にある島に新たな飛蝗の群れが飛来したところだった。一度島に降りた飛蝗はすぐには飛び立たない。
「あんな何もない島で、何をしているんだろうな?」
「おそらくは翅を休めているのである。ふむ、せっかくだから確かめてみるのである。」
次の飛蝗の群れが来るまでに時間が空くだろうということと、進行方向にある島だからということで立ち寄ることにした。このあたり、賢者ラウルの興味本位が入っている。
そこで彼らが見たものは……
「うげっ、こいつら共食いしてやがる!」
あまりな光景に眉を顰める大介。
「なるほど、そういうことであったか。」
一方、賢者ラウルは何やら納得顔である。
「飛蝗の死骸はわざと置かれていたのである。死んだ飛蝗は大陸へ渡るための養分として使用されているのである。」
飛蝗の生態の謎が一つ解けた。
「やはり、焼き払っておけばよかったのでしょうか?」
最初に調査した島で、飛蝗の死骸を焼き払うことを提案した魔導士が自信なさげに聞く。
「いや、それでは多少の時間稼ぎにしかならないのである。おそらく、栄養補給ができずに次の島へ行けない個体が島に残り、死骸となって次の群の栄養になるのである。」
一度焼き払っても、次に来た飛蝗が死骸となって補充されてしまう。つまり、ここで足止めするためには飛来する飛蝗を焼き払い続けなければならないのだった。
「そしてそれは、大陸へ渡った後も同じなのである。力尽きた仲間を糧に、生き残った飛蝗が次の活動を行うのである。」
この発見は、通信具を使用して即座にエルハーベスタへと送られることになる。ペリアーノ岬で飛蝗を念入りに焼いた理由はここにあった。
「これは、通常のマイグラトリアには見られない行動である。変異体が獲得した行動範囲を広げるための特性であろう。しかし、疑問も残るのである。得られる養分と消費する個体の収支が合うとは思えないのである。」
まだまだ疑問の尽きない賢者ラウルをよそに、船は女王へ向かって進んでいく。
「残念ながら、今日はここまでなのである。」
女王の生息する島を発見できないまま、日が暮れようとしていた。船には照明も付いてはいたが、小さな灯りでは島から島へと渡る飛蝗の動きを捉えるには少々心もとなかった。
それに、そもそも飛蝗が夜間に活動するものなのかもわかっていなかった。
夜間に無理に調査を続行するよりも、しっかりと休息を取って翌日頑張った方が良いという判断である。
「今日はこのあたりに停泊するのである。ここからならば飛蝗の動きが良く見えるはずなのである。」
翌日の調査に備えて船を停泊する位置を決め、その日の調査は終了した。
翌日、夜明けと共に行動を開始した。
「観測の結果、このあたりの島よりも向こう側から飛んで来ることはなかったのである。おそらく女王はこの辺りにいるのである。」
賢者ラウルは日の出け前、空が明るくなった時点で観測を始めていた。
「飛蝗は夜間も断続的に移動を繰り返していたのである。かなりの数の飛蝗が大陸へ向かったと考えられるのである。急いだ方が良いであろう。」
賢者ラウルの助手達は交代で夜間も観測を続けていた。ご苦労様である。
「それから、飛蝗の飛んで来るタイミングは、風の影響も受けていることが判明したのである。向かい風では飛ぶのを待ち、追い風の時に一気に移動するのである。」
この情報はエルハーベスタへ送られ、飛蝗の飛来を予測する一助となる。
「それでは、まずこの島へ向かうのである。」
賢者ラウルの示した島へ向かい、船は出発した。
「この島で間違いないのである。」
賢者ラウルはついに女王のいる島を特定した。
「この島から飛び立った飛蝗いるが、この島に飛来した飛蝗はいないのである。間違いなくこの島で飛蝗は生まれているのである。」
そういうことで、一行は女王がいると特定された島に来ていた。現在、島内で女王の居場所を探している所である。
飛蝗が飛び立った場所は、海に突き出た小高い岬の上だった。今も岬の上には風待ちをしている飛蝗の群れが待機していた。
飛蝗の飛び立つ岬から逆にたどって女王のいる巣を見つけなければならない。
「それらしいものは、見当たらないな。」
大介はあたりを見回しながら言う。他の島と同様、草木の一本もないむき出しの大地が続いていた。
「女王は地下にいるのである。マイグラトリアは地面に穴を掘って巣を作るのである。変異体でもそこは変わらない筈なのである。」
賢者ラウルは島の中央に向かって歩き出した。
「巣は女王の成長と共に拡張されるのである。海岸近くに巣を作ると海水が入る恐れがあるのである。なるべく中央に巣を作ろうとする筈なのである。」
何もない島の調査を行った結果、その日の夕方近くになって飛蝗の巣を発見した。
「この先に女王がいるのか。」
「間違いないのである。この穴から飛蝗が出てきているのである。」
島の中央、盛り上がった丘の下に、ぽっかりと横穴が開いていた。奥がどうなっているかは暗くて良く分からないが、人が楽に立って入れるくらいの大きさはある。
「これ、ここから毒弾投げ込んじゃダメか?」
なんだか暗くてジメジメしていて、いまいち入りたくない横穴だった。
「穴が通れないほど狭くなっていたら、最後の手段として毒弾を投げ込むのである。ここから投げ込んでも確実に殺せるとは限らないのである。」
仮にも相手は世界の危機の元凶である。そんなに簡単にはいかなかった。
「ここから投げ込んでも、毒が女王まで届くか分からないのである。それに、別の出入口が存在する可能性もあるのである。」
「まさか、この穴の先は迷路みたいになってるんじゃないだろうな。」
「通常、マイグラトリアの巣穴は一本道なのである。しかし、この穴からは出て行く個体だけで、戻って来る個体が全くないのである。」
「ん? 飛蝗はこれから大陸に向かうんだから出ていく一方じゃないのか?」
「女王は自力では食事もとれないのである。世話係の個体が必要なのである。西南諸島は全島喰い尽くされているとはいえ、たまに海岸に漂着する海藻や流木を喰っている個体も見かけるのである。そいつらが戻ってくるはずなのである。」
「それで別の出入口か。女王に近いならそちらから入る手もあるけど。」
「未発見の上、存在する保証もないのである。見つけた入り口から入るのが確実なのである。」
「まあ、そうだよな。」
「いずれにしても、もう日も暮れるのである。巣に入るのは明日にするのである。」
真っ暗な巣穴に入ってしまえば昼も夜もないのだが、一晩休んで万全を期して女王との対決に向かうことになった。
巣穴のすぐ側であるが、モンスター除けの結界のおかげで虫に邪魔されることもなく、特に問題なく一晩過ごした。
「それじゃあ、行って来る。」
一夜明けて、軽く朝食を取ったのちに大介達は照明用のマジックアイテムを取り出し、巣穴に向かった。
この先に進むのは、勇者大介と王宮騎士団、アラン神殿長、そしてエルハーベスタの魔導士三名である。
ここから先は女王の討伐となるため、調査要員である賢者ラウルとその助手は外で待つことになっていた。
「さて、我々は調査を続けるのである。」
もちろん、賢者ラウルがただ待っているだけのはずがなかった。




