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聖女無双  作者: 水無月 黒
第三章 飛蝗

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飛蝗襲来

 「飛蝗の飛来を確認しました。一時間以内にペリアーノ岬に上陸する模様です。」

 第一報は、海を監視していた兵士ではなく、通信具をもって待機していた通信兵からもたらされた。

 正確には、偵察に出ていた船からの連絡を通信具を介して受けたのである。

 元々船を出して、洋上で飛蝗を監視、あるいは撃退する作戦は早くから考えられていた。しかし、木造船が飛蝗に喰われることが判明したため、船は離れた場所に退避し、陸上で迎撃する作戦に決まったのである。

 ところが、優太のモンスター除けの結界によって、木造船でも作戦に使用できるようになったのである。とはいえ、既に多くの船は遠くに退避済みで呼び戻すには時間がかかった。中途半端に洋上で撃退するよりは陸上に戦力を集中すべきということになり、結界を張った木造船は監視に専念することになった。

 第一報が入ってから三十分ほどして、陸上からも確認できた。

 初めは空の一部が何かもやもやした感じとしか分からなかった。

 それが、大きな塊として見えるようになり、そして……

 「あれが全部飛蝗か。まさに雲霞のごとくと言うやつだな。」

 洋上で監視していた船からは、空一面真っ黒な雲で覆われたようだったという。

 「飛蝗の上陸を確認、……先頭が防風林に取り付きました、今です!」

 「『炎壁(フレイムウォール)』!」

 合図とともに、エドウィン魔導士長が魔法を放つ。すると防風林全体が一気に炎に包まれた。

 エドウィン魔導士長の使用した炎壁(フレイムウォール)は、言ってみれば着火用の種火である。実際に燃えているのは防風林の木々と、そこに大量に用意しておいた薪と油である。ただ、一気に燃え上がらなければ飛蝗を巻き込むことが難しいので、エドウィン魔導士長の強力な火魔法を着火に利用したのである。

 防風林に取り付いた飛蝗はこの攻撃でほぼ燃えただろう。炎に巻かれなかった後続の飛蝗も先へは進めない。海を渡ってきた飛蝗は体力が底をついている。まともな餌にありつけない状態で、炎の壁を飛び越える力はなかった。

 ペリアーノ岬の防風林より先は予め念入りに飛蝗の餌となりそうな草を取り除いてあった。さらに、防風林の炎の壁を避けて左右から回り込まないように、直前に優太がモンスター除けの結界を張っていた。半径百メートルの結界を避けて回り込むのは、体力のない今の飛蝗には無理だろう。

 結果として、飛蝗は大渋滞を引き起こし、ペリアーノ岬の狭い範囲に互いに重なり合うようにして犇めき合った。

 「飛蝗の第一波、ほぼ全て着地しました!」

 「よし、今だ! 攻撃開始!」

 「『火絨毯(ファイアーカーペット)』!」

 複数の魔導士が放った魔法は、広い範囲の地面を火で埋め尽くすというもの。火力は弱く、人間相手ならばせいぜい足先をやけどする程度の致命傷には程遠い威力だ。だが、虫を焼くにはこれでも十分。その魔法をペリアーノ岬の先端全体に放った。

 たまらず飛び上がる飛蝗達。だが、攻撃はこれで終わりではない。

 「逃がさん! 『火雨(ファイアーレイン)』!」

 エドウィン魔導士長が追い打ちで仕掛けた攻撃魔法は、小さな火を広範囲に雨の如く降らせるというもの。こちらも人間相手ならば、直接肌に付けば火傷する程度の火力しかない。しかし飛蝗に対しては効果絶大だった。直撃せずとも、翅に当たれば即飛行不可能になる。

 降り注ぐ火の粉に触れた飛蝗は地面に落ち、炎に焼かれて行った。

 これが、今回魔導士達が考え出した必殺の作戦であった。

 小さな昆虫型のモンスター相手に剣で戦うのが非効率であるのと同様、対人殺傷用の攻撃魔法も飛蝗相手にはオーバーキルであり、魔力の無駄であった。

 そこで、エルハーベスタの魔導士達は、威力が微妙過ぎてほとんど使う者もいない攻撃魔法をわざわざ引っ張り出してきた。そして、戦場となるペリアーノ岬に合わせて威力と範囲を徹底的に調整した。

 さらに優秀な火魔法の使い手であるエドウィン魔導士長が参戦したことと、モンスター除けの結界によって飛蝗の移動を制限できるようになったことで、作戦は一つの完成を見る。

 特筆すべきは、その効率の良さである。威力の低い魔法を最低限の魔力で使用することにより、飛蝗を一匹も逃さない広範囲の魔法にもかかわらず、驚くほど魔力の消費が少ないのである。魔導士を適宜交代して休ませることで、一日中飛蝗を焼き続けることができるほどである。

 「飛蝗の第一波、完全に沈黙しました!」

 防風林の手前側から飛蝗を観測していた兵士と、洋上で船から観測していた兵士からも連絡が入った。

 念のため、その後も十分ほど燃やし続けてから魔法を停止する。

 魔導士達の間から、歓声が沸き上がった。

 飛来した飛蝗はそのほとんどが焼け死んだ。岬の端の方にいた一部は海に落ちた。

 魔導士達は魔力を残しているし、インセクトキラーを構えた兵士達は出番すらなかった。

 緒戦は完勝と言ってよいだろう。

 「すぐに第二波が来るぞ、気を抜くんじゃないぞ!」

 この場の指揮を任されたセルジオ将軍が皆を窘めるが、そういう本人も嬉しそうである。

 だが、セルジオ将軍の言うように、戦いはまだまだ続くのだ。勇者が女王を倒さない限り、飛蝗は何度でもやって来る。

 そして、しばらくして飛蝗の第二波がやって来た。


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