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聖女無双  作者: 水無月 黒
第三章 飛蝗

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女王を探して

8/4 一部用語が統一されていなかったので修正しました。

 大介達を乗せた船は、海のモンスターに襲われることもなく順調に進み、予定通り翌日には西南諸島近辺までやって来ていた。

 「西南諸島近くまで沖に出れば、海のモンスターの一匹や二匹に襲われるものですが、今日は幸先が良いです。」

 とは船長の談である。

 「見えました、西南諸島です!」

 見張りをしていた海兵の声が響いた。

 「手前に見える島が、西南諸島で最も大陸に近い島です。」

 「では、最初にあの島に向かうのである。」

 船長と相談していた賢者ラウルが行き先を決めた。今回、賢者ラウルは飛蝗の調査とその女王の探索の責任者である。

 西南諸島は多数の無人島が密集した海域である。大陸に一番近い島の後ろにも幾つもの島影が見え始めていた。この中から飛蝗の女王のいる島を見つけるのは至難の業である。

 賢者ラウルもいきなり見つかるとは思っていない。

 「大陸に飛来する飛蝗は、一度あの島に集結して翅を休めるはずなのである。だから、予め調査しておくのである。」

 賢者ラウルは女王の位置の特定だけでなく、飛蝗の生態や行動の調査も行おうとしていた。興味本位な側面もあるが、飛蝗対策で役に立つ情報が得られるかも知れない、ということで容認されている。

 船はゆっくりと島に近付き、少し離れた位置で停泊した。無人島なので大型船が停泊できるような港はない。この先はボートに乗って上陸する。

 このボートも特注の鉄製で、魔導船の技術を流用した推進装置も付いていた。さらに優太によるモンスター除けの結界も張られていた。モンスター除けの結界同氏は特に干渉しないことも確認済みなので、船全体を覆う結界の中に、同じ結界を張ったボートを格納しても問題なかった。

 島の砂浜にボートで乗り上げるようにして上陸を果たした。

 調査任務なので、賢者ラウルとその弟子が中心で、大介と王宮騎士団がその護衛になる。エルハーベスタの海兵は船に残り、またここまでボートを操縦した海兵一名もそのままボートで留守番である。

 「見事に喰い尽くされているであるな。」

 島は見渡す限り、草の一本も生えていなかった。

 「代わりに虫がごろごろいるんだが、こいつが飛蝗ってやつか?」

 大介の視線の先には、バッタのような虫が大量に転がっていた。

 「そうである。しかし、少々妙であるな。」

 賢者ラウルは無造作に飛蝗を拾い上げた。拾い上げられた飛蝗も、その周囲の飛蝗もまったく動かない。

 「死んでいるのか?」

 大介の質問は、どちらかと言えば確認だった。今回、船やボートだけでなく、上陸したメンバー全員にモンスター除けの結界を持たされていた。優太が魔力を込めて半径一メートルの結界を張った短剣型の発動体である。

 手に取って拾い上げることができた時点で、生きた飛蝗ではあり得なかった。

 「そのようであるな。翅の長さから言って、大陸まで飛ぶ能力は無いのである。おそらくエルハーベスタへ向かう前の世代、この島の草木を喰い尽くした飛蝗であろう。」

 島一つ分の草木を喰い尽くし、役目を終えた飛蝗の成れの果てだった。

 「だが、妙なのである。こ奴らの役目は食べた養分を女王に与えることなのである。女王の元に戻らない死骸が多すぎるのである。」

 疑問を持ちつつも、助手と共にてきぱきと調べて行く賢者ラウル。

 「それで、この飛蝗の死骸はどうします? 焼き払いますか?」

 「いや、下手に刺激すると何が起こるか分からないのである。理由が判明するまではこのままにするのである。」

 護衛として付いてきた魔導士の問に答える賢者ラウルは慎重だった。

 「なあ、大陸に渡る飛蝗がここに集まるんだったら、ここに毒をばらまいておけばいいんじゃないか?」

 大介が少々過激な意見を言う。毒弾を使えば小さな島なら大部分を毒で汚染することができるだろう。

 「その場合、隣の島に集結するだけである。それに、毒に塗れた飛蝗が海に落ちれば、海が毒に汚染されかねないのである。やはり毒弾は最後の手段として取っておくのである。」

 十分な兵力を送り込めたならば、西南諸島で飛蝗の数を減らす作戦もあり得ただろう。だが、鉄製の船もできたばかりの一艘のみで、優太によるモンスター除けの結界も検証が終わったばかりである。西南諸島に兵を送り込むには色々と準備が足りなかった。

 いずれにしても、大介達の役割は女王の討伐である。今は調査に集中することにした。


 「もう少し奥の島を調べるのである。」

 ボートに乗って近隣の島を三つほど調べた後、一度船に戻ってから賢者ラウルはそう言った。

 「本当なら、全ての島を調べたいところであるが、それでは時間がかかりすぎるのである。そこで、まずはここと、ここ、それからここの島を調べるのである。あとは調査結果次第である。」

 西南諸島は特に有望な資源もなく、特に利用価値もないため無人島のまま放置されている。ただ、詳細な調査は行われており、かなり正確な海図が作られていた。

 賢者ラウルはその海図から幾つかの島をピックアップして印をつけた。

 「了解しました。それでは次の島へ向かいます。」

 こうして、賢者ラウルは幾つもの島を調べて行った。


 「それにしても、どの島も代り映えしないな。」

 賢者ラウルと共に各島に上陸した大介だったが、調査に関しては素人であるためか島も大差ないように見えた。

 どの島も草木の一本も生えておらず、むき出しの地面に飛蝗の死骸が転がっているだけだった。

 「そうでもないのである。例えば、島によって飛蝗の翅の長さが違うのである。」

 現在は、船内で調査結果のデータ整理を行っていた。

 「翅が長い個体ほど長距離を飛ぶことができるのである。逆に翅の短いものは巣から遠くへ離れられないのである。」

 「そうか! 翅の短い方へたどって行けば、そこに女王がいるのか。」

 「その通りである。それからもう一つ。飛蝗の死骸の多い島が、最初に調査した大陸に一番近い島からほぼ一直線に並んでいるのである。これは大陸に渡るために重要な場所だから多くの飛蝗が飛来したと考えられるのである。これらのことを考え合わせると……」

 賢者ラウルは海図の一部を丸で囲った。

 「女王はこの範囲にいる可能性が高いのである。」

 囲った範囲にはまだ十近い島があるが、それでもかなり絞り込むことができた。

 「このくらいの範囲ならば、虱潰しに探して行けるな。」

 女王との対決は近い。大介は改めて気を引き締めた。

 「そうであるが、あいにくと時間切れなのである。そろそろ、大陸に向けて飛蝗が動き出す頃合いなのである。」

 西南諸島は狭い範囲に密集しているし、彼らの船は高速の魔導船である。賢者ラウル達の手際の良さもあり、調査はサクサクと進んで行ったが、それでも島の数が多いためここまで数日かかっている。神託に記された期日にはまだ早いが、飛蝗の移動時間を考えるとそろそろ動き出してもおかしくなかった。

 「それに、もう一つ気になることもあるのである。これまで調べた島では、草木だけでなく、虫や動物もまるで見かけていないのである。」

 「た、確かに。」

 思い返してみると、どの島も草木のなくなった見晴らしの良い大地に、動かない飛蝗の死骸ばかりで、生きているものは何も見当たらなかった。

 「もともと小さな島であるからして、大型の動物は生息していなかったのである。しかし、虫や鳥、ネズミなどの小型の動物は生息していたのである。それが、死骸すら見当たらないのである。」

 大介は、ゴクリとつばを飲み込む。あの生き物の気配のない島の状態が大陸全土に広がると考えると、予想以上に深刻な事態に思えてきた。

 「以上のことから考えられるのは、飛蝗が食べるのは草木だけではないということであろう。」


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