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聖女無双  作者: 水無月 黒
第三章 飛蝗

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出航

 その後、着々と準備は進み、西南諸島に向かい船が出航する日がやって来た。

 予定通り試験航海を終えた鉄製の船に必要な物資が詰め込まれ、出航の準備が進められていた。

 その予定に追加されたこともある。

 「ここが船の中心だヨ。聖女様、お願いしますネ。」

 「『対魔物結界(アンチモンスターバリアー)』!」

 優太の手により、モンスター除けの結界が張られることになった。

 検証の結果、優太の張ったモンスター除けの結界は、昆虫サイズの小さなモンスターならば防げること、また移動型の結界を生み出す術式も正しく機能していることが確認された。

 鉄製の船ならば、船体を喰われることはない。しかし、船内に飛蝗が入り込んだ場合、持ち込んだ食糧が喰い荒らされる危険はあった。

 そこで、飛蝗の侵入を防ぐ目処が立ったことと、船と共に移動して結界を張り続けられることが確認できたことで、船全体をモンスター除けの結界で守ることが決まったのだった。

 「うん、過不足なく船体を覆っているネ。この大きさならば、結界は最低十日は持つだろうネ。」

 優太とアッカーマン教授は船を降りると結界の具合を確認していた。

 優太の張ったモンスター除けの結界は大きさによって維持できる時間が変わることが分かっていた。

 半径一キロメートルの巨大な結界は一時間半ほどで消滅したが、半径百メートルほどのものは六日近く保った。

 船を覆う半径十メートル程度のものは、十日経った今でも健在で、何時まで有効か現在も継続して検証中である。

 「この魔導船ならば、一日あれば西南諸島に着くだろうサ。その後の調査と討伐まで、十分に船を守ってくれるだろうネ。」

 この鉄製の船は、元々はエルハーベスタとエルマギカの共同開発による魔導船だった。

 食の宝庫エルハーベスタと最新マジックアイテムを開発するエルマギカは互いに求めるものがあるにもかかわらず、大陸の南端と北端という距離と北方山脈に阻まれて、直接の交易はほとんど行われてこなかった。

 多量の物資を素早く運ぶ高速船の開発は長年の両国の夢だった。

 その完成間近の魔導船を、世界の危機に際してエルハーベスタは接収した。

 風の影響を受けずに高速航行できる魔導機関はそのままに、本来貨物用だった船体に武装と装甲を追加し、また一部の貨物室を改装して船室を増やしている。

 元々エルハーベスタとエルマギカを往来することを想定していただけあって、西南諸島くらい楽に行き来できる。

 「問題は、西南諸島に到着した後、女王の居場所の特定であるな。」

 船外から結界を張る様子を見ていた賢者ラウルも会話に加わった。

 「西南諸島の各島は、既に飛蝗の群れに喰い尽くされた後と思われるのである。その中から女王のいる島を見つけるだけで一苦労なのである。」

 西南諸島には百近い無人島が存在していた。飛蝗が活動を始めた初期の頃ならば、被害を受けた地の中心に女王がいると判断できるが、既に全島喰い尽くされた後ではその手も使えなかった。

 「飛蝗の大群がエルハーベスタに向かって大移動を始めればすぐに見つかるだろうサ。出来たらその前に女王を倒してほしいものだがネ。」

 飛蝗の大規模な侵攻が始まれば、その流れを逆にたどれば女王の元に行きつくだろう。全ての飛蝗は女王が産み出しているのだ。だが、それはエルハーベスタで蝗害が発生するということでもある。頑張って防衛しても被害をゼロに抑えることは難しいだろう。

 勇者以下、女王退治に向かう者達は、なるべく早急に女王の位置を突き止め、これを倒すことが求められていた。


 今回、船に乗り込んで女王退治に向かうのは以下の者達である。

 まずは、攻撃の中心となる勇者大介。

 エルソルディアの王宮騎士団からユージン騎士団長以下十名。

 回復要員として、アラン神殿長。

 賢者ラウルとその助手五名。現地で女王の位置を特定するための調査要員である。

 エルハーベスタからは海軍を中心に兵士が十五名。基本的に操船要員であり、海上でのモンスターとの戦いには参加するが、女王討伐には参加しない。

 エルハーベスタの魔導士が三名。最初はエドウィン魔導士長が参戦する予定だったが、その強力な火力はエルハーベスタの防衛戦で必要とされ、代わりにエルハーベス方ら派遣された魔導士である。

 以上、基本的に勇者を中心とした少数精鋭である。

 優太が結界を張ったことで出港準備の整った船に、以上の面々が乗り込んで行った。

 食糧に水、観測機材にその他の必要な物資は既に積み込み済みだった。

 「勇者様~、お気を付けて~。無事討伐して来てください~!」

 「エルハーベスタの守りは任せたぞ~!」

 関係者に見送られ、勇者を乗せた船は無事出航した。


 さて、勇者を乗せた船は出航したが、優太の仕事はまだまだ続く。

 本来、後方支援である聖女の仕事は、戦いが始まる前の準備や後の片付け作業方が多いものである。

 今回、船に結界を張ったが、モンスター除けの結界の有効性が確認されたため、他にもいくつかの施設を結界で守って欲しいと言われていた。どこにどのような結界を張るか、エルハーベスタ内でぎりぎりまで調整している所である。

 この、モンスター除けの結界は聖女専用というわけではないのだが、優太以外の者が使用すると性能や持続時間がかなり落ちるのである。そういったことも含めて、まだまだ未完成の魔法であった。

 また、優太は装備の祝福を行っていた。今回の相手アンデッドではないため、武器に祝福を施しても特攻にはならない。祝福の対象は主に防具である。

 金属製の鎧などは問題はないが、木製の盾などは喰われる危険があった。また、綿や麻などの植物性の生地で作られた衣服も喰われる恐れがあった。さらにこの世界の蝗害の場合、相手はモンスターなので革製品まで喰い荒らされたことがあるらしい。

 祝福を施して強化すことである程度は飛蝗に喰われることを防げるのである。

 なお、勇者と共に女王討伐に向かったメンバーに対する祝福には、毒弾を使用した際の毒からの防御の意味もあった。

 優太以外も着々と準備を進めて行った。

 飛蝗の飛来が予想される海岸では、飛蝗に真っ先に狙われるであろう防風林に大量の薪や油が用意されていた。やって来た飛蝗ごと防風林を焼き払い、また飛蝗を足止めするための炎の壁を作るためである。海に突き出た岬の根元に細長く作られた防風林は、飛蝗を防ぐ壁としてもちょうどいい位置にあった。

 防風林の後ろにはエルハーベスタと一部エルソルディアの兵士と魔導士が待ち構えることになる。実質的に、ここが対飛蝗防衛戦の主戦力になる。

 小さな昆虫サイズのモンスターが大量にいる状況では、魔導士による範囲魔法で一気に焼き払ってしまえば手っ取り早い。しかし、魔導士の魔力にも限りがあり、効率的に戦わなければ飛蝗の物量に負ける恐れがあった。

 防風林を燃やすのも効率よく戦う作戦の一環である。物理的に燃やすことで魔力を節約するとともに、炎で足止めして海に突き出した岬の先端という狭い範囲に飛蝗をまとめて一気に叩こうという作戦である。

 他にも、威力が低く魔力の消費が少ない範囲魔法を活用する方法や、地形を利用して効率よく倒す方法などが魔導士達の間で検討されていた。

 防風林を燃やした炎と魔導士による魔法攻撃をすり抜けてきた飛蝗を待ち受けるのが、エルハーベスタとエルソルディアの兵士達である。魔法攻撃が成功していれば、ここまで来る飛蝗は魔法による攻撃が非効率になる程度にはばらけていると予想される。そこで、多くの兵士による人海戦術で叩くのである。

 この兵士達のために開発されたのが、アッカーマン教授が用意したインセクトキラーである。兵士達はインセクトキラーの訓練を始めていた。

 さて、兵士達の攻撃を掻い潜り、ペリアーノ岬を抜けて大陸内部に入り込まれてしまうと、飛蝗の行動は予測が難しくなってくる。早めに収穫して空けてしまった畑はともかく、飛蝗の餌となる草木は大陸中どこにでもあるのだ。

 そこでペリアーノ岬を囲むようにして兵を配備する。ここからはもう純粋に人海戦術である。続々と集結しつつある各国の援軍はこのあたりに割り当てられる。

 アッカーマン教授のインセクトキラーには数に限りがあるため、周辺に配備される軍には提供されない。各国各軍で工夫することになっていた。

 世界有数の軍事大国であり世界の危機への対応のプロフェッショナルであるエルソルディアのような国はともかくとして、他の小国の軍は戦力としてたいして期待されていなかった。

 主戦力はあくまでペリアーノ岬に集めた兵士と魔導士であり、他はその取りこぼしを処理するための人手以上のことは期待していなかった。

 とはいえ、世界の危機が始まってしまえば何が起こるか分からない。何かあった場合に連絡を取り合い、連携できるように念入りに打ち合わせが行われた。


 こうして、色々な人が様々な準備を整え、そして神託で示された世界の危機の発生日がやって来た。


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