飛蝗対策会議2
「さて、次はアタシだネ。持ってこれるだけのアイテムを持ってきたヨ。」
知識面でサポートする賢者ラウルに対して、アッカーマン教授は有用なマジックアイテムを持ち込むことで貢献していた。
「まずは携帯用の通信具だネ。数は百個持ってきたヨ。親機を設置したから、エルハーベスタの国内なら大体通じるはずサ。」
今回、携帯用の通信具はエルマギカで使用したものも回収してまとめて持ってきていた。エルハーベスタでの戦いに参加する人数に比べると少ないが、その大半は特定の土地を守るために配置されることになるので、うまく運用すればこれでも十分なはずである。
「それから、開発中のモンスター除けの結界魔法を持ってきたヨ。あとで聖女様に試してもらいたいネ。」
アッカーマン教授は紙束を取り出した。魔法を行使する手順の書かれた資料であった。優太が受け取って読み始める。
「まだ未完成なんで、弱いモンスターにしか効果が無いんだヨ。でも、飛蝗相手なら十分だろうサ。」
未完成の魔法を持ち込んだのは、相手が飛蝗だからである。女王はともかく、飛蝗として飛来する個々の個体は、小さく弱い昆虫型モンスターである。未完成の結界魔法でも十分に防げると考えられた。
「それから、これは奥の手だヨ。ドラゴンゾンビの毒を集めて作った毒弾サ。使うと周囲が汚染されるから気を付けるんだヨ。」
「何て危ないものを作るんだよ!」
代表して大介が突っ込んだが、ドラゴンゾンビ戦に参加した面々は同じ思いだろう。しかし強力な武器になることは間違いなかった。
「土壌が汚染されるようなら、エルハーベスタの農地の近くでは使いたくないですね。」
フィリップ王子が悩ましげに言う。大量の飛蝗をまとめて倒せるだろうが、その代償は大きい。殺虫剤の代わりに毒ガス兵器を使うようなものである。優太が頑張れば浄化できるだろうが、一度汚染された土地から取れた作物を積極的に食べたいとは思わないだろう。
「これは女王用の切り札にするしかないかな。ドラゴンゾンビの毒ならば、勇者様か聖女様でないと耐えられない。」
アルベルト王子は一度その毒を食らっているだけに、その強力さと危険性をよく理解していた。
「いや、さすがに避毒のアミュレットで防げる毒しか入っていないヨ。まあ、持ってきた避毒のアミュレットの数にも限りがあるがネ。」
避毒のアミュレットで防げない毒はそもそも採取することも困難だった。また、エルマギカではいまだにドラゴンゾンビの毒の処理が続いているため、多量の避毒のアミュレットを持ってくることもできなかったのだ。
まあ、いずれにしてもドラゴンゾンビの毒は気楽に使えるものではなかった。
「最後に、飛蝗に特化した武器を作ってきたヨ。インセクトキラーと名付けたネ。これが千個。飛蝗が多く来そうなところに重点的に配備すると良いサ。」
飛蝗はモンスターではあるが、個々は小さな昆虫サイズでかなり弱い。剣を振り回して一匹ずつ倒していくのは非常に効率が悪かった。範囲魔法でまとめて倒してしまうのが手っ取り早いのだが、それができる魔導士の人数にも魔力にも限度がある。だから、アッカーマン教授は少しでも効率的に飛蝗を倒せる武器を開発していた。ただし、実戦で使われるのは今回が初めてである。
「西南諸島で大量発生した飛蝗は、まずこのあたりの海岸に飛来すると思われます。ペリアーノ岬がエルハーベスタで最も西南諸島に近い場所になります。」
フィリップ王子が、地図を示しながら説明する。
フィリップ王子が示した海岸は、西南諸島から最も近い場所である。小さな虫サイズで海を越えるのだ、最短距離でやって来ると考えられた。
「この付近の農地は収穫できるものは早めに収穫し、収穫が間に合わないものは最初から作付けを諦めてもらっています。」
農家にとっては迷惑な話だが、作物が残っていても喰われるだけだし、それで飛蝗の勢力が増してしまったら目も当てられない。
「この海岸線には防風林が植わっているのですが、飛蝗の飛来に合わせて焼き払う予定です。」
潮風から農地や建物を守ってくれる防風林を失うのは惜しいが、放置すればどのみち喰い荒らされる。どうせなら飛蝗の栄養となるよりも、焼き払うついでにやって来た飛蝗を巻き込んで退治しようという作戦である。
「手配していた鉄製の船ですが、既に完成しています。あとは艤装と試験航海を済ませるだけです。飛蝗がやって来る前に出航できるでしょう。」
この世界の船は木造船が主流だった。部分的に金属を使用した船は存在したが、木材を全く使用しない船はこれまで作られなかった。そこで今回特注で作っていたために時間がかかってしまったのだ。
「先ほどのモンスター除けの結界が有効ならば、守って欲しい施設などもありますが、そこは実際に結界を確認してからですね。」
妥当な判断であろう。モンスター除けの結界の性能はまだ未知数であり、効果の範囲やどの程度防ぎきれるかなど検証しなければならないことは多かった。だが、船が喰われたことで木製の建築物なども被害に遭うことが判明しため、守れるものなら守りたい設備も存在していた。
「基本方針としては、勇者様が鉄製の船で飛蝗の女王を討伐に向かい、その間に聖女様と各国の軍でやって来る飛蝗を迎え撃つというということでよろしいでしょうか。」
フィリップ王子が話を総括した。今回は、優太と大介は別行動になるようだ。




