飛蝗対策会議1
作品の評価、ありがとうございました。
「それでは、改めまして飛蝗対策の会議を始めます。」
フィリップ王子が改めて宣言する。後ろの方では、アッカーマン教授と賢者ラウルの助手達が食事中だったりするが、気にしてはいけない。彼等だって、通信具の親機を設置するという非常に重要な仕事をしてきたのである。
「神託にあった飛蝗ですが、調査の結果発生源は西南諸島であることが判明しました。」
当然のことながら、神託が降った後エルハーベスタでは発生するであろう蝗害についての調査を行っていた。神託では、飛蝗は海を越えてやって来るとされていた。
エルハーベスタの南側は海に面している。その海上には大小さまざまな島が存在していた。
いくらモンスターでも小さな昆虫サイズのものが、存在するかも分からない未知の大陸から大海原を超えて飛翔してくるとは思えない。
だから、エルハーベスタ近海の島を中心に調査を行っていた。西南諸島というのは、エルハーベスタ西南の海域で、数多くの小さな無人島が密集する地域のことである。
「ただ、残念ながらどの島かまでは特定できませんでした。既に飛蝗が活動しているようで、木製の船では近付くと喰われます。現在鉄製の船を手配している所です。」
「船まで喰うのかよ。凄まじいな。」
大介がちょっぴり慄く。モンスターとは言え小さな昆虫だし、現代の日本では蝗害を体験する機会もないので、これまであまりその脅威を実感していなかったのだ。
「こちらが、飛蝗の標本です。」
フィリップ王子がこれまでの調査で採取した飛蝗の標本を取り出す。見た目はバッタっぽい虫だが……
「ふむ、確かにこれはモンスターであるな。」
この世界でも、モンスターでない通常の昆虫によって蝗害が引き起こされることもある。だが、やはりモンスターによる蝗害の方が被害が大きくなる傾向にあった。今回、世界の危機レベルの被害が出るとすれば、モンスターによる蝗害であることは予想されていた。
「これは、マイグラトリアの一種である。女王が存在するタイプのモンスターであるな。こいつらは卵を産まないが、女王を倒さない限りいくらでも出て来るのである。」
賢者ラウルも、蝗害を引き起こすモンスターに関てはある程度予習して来ていた。
「バッタかと思ったら、蜂かよ。」
「似たようなものであるな。巨大な女王は巣から動けず、産んだ子に世話をされるのである。子の食い散らかした養分は女王に還元され、新しい子を産むのである。この繰り返しで大量発生した子が飛蝗となるのである。」
この世界でも地球の場合と同様に独立した昆虫や昆虫型のモンスターが群れを成して蝗害を引き起こすこともある。ただ、今回採取されたものは、蜂や蟻のように女王を中心とした社会構造を持つ昆虫型のモンスターであった。
「マイグラトリアも通常は巣の近くの草を程々に食べるだけなのである。しかし、稀に女王が異常成長してより多くの栄養を要求するようになることがあり、そのためにより遠くまで移動できる強い子を産むようになるのである。ここを見るのである。」
賢者ラウルは標本の羽の部分を指さす。
「通常のマイグラトリアよりも翅が長くなっているのである。西南諸島の島から島へ渡るために、飛行に適した翅になっているのである。しかし、これではまだ大陸までは届かないのである。」
西南諸島の島々は狭い範囲に無人島が密集しており、島と島の間の距離は比較的短い。しかし、島から大陸までの距離はかなり離れている。西南諸島が無人島のまま放置されている理由の一つである。
「西南諸島で生まれたマイグラトリア海を越えて来るためには、もう一段翅が大きくなる必要があるのである。おそらく今は西南諸島の草木を食い荒らして、海を越えて大陸まで渡って来る子を産み出している最中であろう。」
今回神託で示された日付は蝗害が発生する、つまり飛蝗がエルハーベスタにやって来る日である。それ以前に、蝗害が発生するのに十分な数の飛蝗が、それを産み出す女王が育っているはずなのだ。
だから、蝗害が発生するずっと前に、飛蝗の数も少なく、女王も育っていないうちに潰してしまえば世界の危機の発生そのものを止めることができる。エルハーベスタではそう考えて早くから飛蝗の発生源を特定しようと調査を行っていたのだが、世界の危機を止めるには至らなかったのだった。
「ただ、この種のモンスターの場合、動けない女王を中心に被害の出る範囲が限定されるのである。これまで知られている例からすると、西南諸島に女王がいるならば、被害の範囲はエルハーベスタの西南部、海岸に近い範囲がせいぜいである。世界の危機というには少々ささやかなのである。」
女王がいるタイプはある程度統制の取れた行動をするし、女王を倒さない限りはいくらでも追加の飛蝗がやって来る。だからこの種の飛蝗に狙われた土地を守り切ることは難しいのだが、逆に動けない女王によって行動範囲が制限されるため被害の範囲は限定されるはずであった。
「それゆえ、変異体になったと思われるのである。飛蝗の到達距離が極端に伸びたか、女王自身が移動能力を持つようになるか、あるいは新たな女王が次々に生まれるのか。考えれるることはこのくらいである。」
モンスターの中には成長するにつれ、特別な能力を身に付けたり特異な行動をするようになるものがいる。このようなモンスターを変異体と呼ぶ。変異体だからと言って必ずしも強くなるわけではない。ただ、稀に予想外の能力を得ることがあるので注意が必要である。
「世界の危機であるからして、放置すれば大陸全土が喰い尽くされてもおかしくはないのである。」
飢饉が発生して多くの人が餓死しました、程度では世界の危機とは呼ばれない。いくらエルハーベスタの重要な穀倉地帯だといっても、大陸の南端の一部だけを食い荒らされてそれで終わるとは考えられなかった。
第一の危機では、大陸中にアンデッドを溢れさせ、人類の生存そのものを脅かすとともに、地脈の魔力を枯渇させる恐れがあった。
第二の危機では、致死性の毒を垂れ流し続け無数の生物を死滅させるとともに、『死者の谷』の脅威を致命的に加速せる危険があった。
ならば、第三の危機では大陸全土の草木を喰い荒らさせるくらいのことはあっても不思議ではなかった。
「現状で言えることは、飛来する飛蝗を撃退すると同時に女王も見つけ出して倒す必要があるということである。女王を倒さない限り蝗害は終わらないのである。飛蝗を防げなければ被害が増すだけではなく、女王も成長してさらに多くの飛蝗を産むのである。」
防御を固めつつ、敵の中心を攻撃する。女王が存在すると分かった時点で、他に選択肢は無いだろう。




