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聖女無双  作者: 水無月 黒
第三章 飛蝗

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エルハーベスタへの道

 王城を出た一行は、一路南へ向かった。

 出立式は中止になったため、優太達は要人専用の大型の馬車に乗り込み、民衆に顔を見せないまま王都を出て行った。また、エルハーベスタに派遣される国軍の兵士の内百名ほどが同時に出発し、勇者一行の馬車と共に長い列を作った。なお、国軍の残りの四百名は先行して出発済みである。

 これだけ仰々しく出発すれば、出立式などしなくても勇者一行の旅立ちはすぐに王都中に知れ渡ることになる。しかし、出立式を行う場合は数日前に公表されるから、取りやめることで当日までは出発予定を秘密にできるとも言えた。

 そして、基本弱小組織である破滅的カルトは国で管理している通信用のマジックアイテムなど所有していない。創造神教のネットワークを封じてしまえば、情報伝達の手段は限られることになる。つまり、勇者一行が出発したことを確認した後で王都を出発し、勇者一行を追い越して他国の組織に情報を伝える必要があるのだ。当然情報が伝わった時には勇者一行は目前に迫っているか、コースによっては遠く場所を通過する可能性もある。苦労して伝える価値の薄い情報になるのだ。

 さて、勇者一行と共に出発した国軍の兵士達は、王都を出たところで軍用の馬車に乗り込んだ。ただし、馬車を引くのは馬ではなく、地竜(ランドドラゴン)と呼ばれる生き物ある。(ドラゴン)と呼ばれてはいるが竜種ではなく、でっかいトカゲである。この地竜(ランドドラゴン)、最高速度では馬には及ばないが、馬力とスタミナがあるため長距離移動の馬車を引く場合は馬よりも速かった。エルソルディアからエルハーベスタまでは遠いため、特別に用意されたものであった。

 最初は勇者一行と一緒に進んでいた国軍であるが、道を進むにつれ一隊また一隊と別れて別の道を進んで行った。その際に、兵士たちの乗り込んだ軍用馬車に交じって、勇者一行の乗り込んだ馬車と似たような馬車を一台引き連れて行った。

 勇者一行の乗る馬車と似たような馬車と共に別れて行った国軍は囮である。万一襲われても対応できる兵力で、いかにも勇者や聖女が乗っていそうな馬車と共に、一部の政情不安な国も含めて堂々と通って行くのである。エルソルディアからエルハーベスタへ向かう幾つかの主要な街道を分散して進むことで、破滅的カルトの狙いを絞らせないようにしたのだ。道中通る各国には事前にエルソルディア軍の通過を通告し、了承を受けているが、勇者や聖女がどの軍と共に行動するのかは知らせていなかった。

 そうして国軍と別れた勇者一行は、エルソルディア王国の南端の辺りで馬車を降りた。

 ここから先は、水路――川を下る船の旅である。

 「ずいぶんと、でっかい船だなぁ。」

 船を見上げて素直な感想を漏らす優太。川に浮かべるとは思えないほど大きな船であった。

 「いや、大きすぎるだろ、これ。すれ違えないぞ。」

 こちらは大介の、これも素直な感想である。川幅いっぱいとは言わないが、半分以上を占める巨大な船体だった。同じ船がもう一艘あったらすれ違うことも追い越すこともできない。それ以前に、横幅だけで川の半分以上を占めているのである。一艘だけでも方向転換もできなかった。

 勇者一行はそれなりに人数がいるとはいえ、大きすぎる船だった。

 「本来はもっと下流域で使用する船なんだけどね。今回は無理を言ってここまで迎えに来てもらったんだ。」

 アルベルト王子が説明する。

 今回使用するルートは、北方山脈を水源とし、大陸の南海に注ぐ大河、リーン川を下り、そのままエルハーベスタ入りするというものである。

 エルソルディア国内ではまだまだ上流なので川幅が狭いのだ。それでも大型船を浮かべることができるだけの川幅と深さがあるわけだが、下流になると海と見紛うほどの川幅になる。

 さて、必要以上に大きな船を用意したのには理由がある。一つはその方が安全だからである。破滅的カルト以外にも、商船を襲う盗賊や、川に潜むモンスターなどの危険が存在している。大きくて頑丈な船ならばモンスターに襲われてもそうそう沈まないし、護衛も大勢乗り込むのが普通だから下手な盗賊も襲おうとは思わない。襲われたとしても大きくて安定している分反撃もしやすい。

 そしてもう一つの理由が、同行者にあった。

 「いやー、すまないネ。荷物が大きくて。」

 アッカーマン教授は大きな荷物を持ち込んでいた。第三の危機に向けて開発した新装備だけでなく、第二の危機でも活躍した新型通信具の親機も持って来ていたのである。携帯可能な小型の通信具はその分通信可能な距離が短いため、親機をエルハーベスタに持ち込む必要があったのだ。

 特に通信具の親機は大きくて重いため、下手に小型船に載むと船が不安定になる恐れがあったので、思い切って大型船を手配したのだ。


 船の旅は順調に進んだ。

 最初は方向転換ができないので、後ろ向きのまま川の流れに任せて進み、エルソルディア王国を出国。その後小さな湖になっている所で方向転換して、その後はだいぶ広くなった川を普通に下って行った。

 大型船を利用した甲斐もありモンスターに襲われることもなく、王宮騎士団が甲板で警戒していたこともあり盗賊に襲われることもなかった。

 危惧されていた破滅的カルトや反エルソルディアのテロリストの襲撃にも遭うことなく、のんびりと川を下って行った。もっとも、囮になった国軍の中には小規模な襲撃を受けた部隊もあったらしい。幸い大した被害もなく切り抜けたようだが。

 エルソルディアからエルハーベスタへ陸路で行くには、途中で小国を三、四ヶ国通過する必要がある。中には治安の悪い国もあるし、紛争の絶えない危険な国境もある。慎重に安全なコースを選ぶか、しっかりとした護衛を付けないと厳しい道程である。

 一方、リーン川を下る場合、厳密に言えば途中の小国を通ることはない。橋を架けることも困難な大河を越えて領土を維持することは小国には難しく、エルソルディアやエルハーベスタといった大国以外では国境の川となっているのである。そのため川の中はどの国にも属さない緩衝地帯になっている。

 どの国にも属さない無法地帯で、時には紛争地帯となり、モンスターも出没するとあって、川を利用した移動は旅人には不人気だった。ただ、大量の荷物を運ぶことができるため、モンスターに負けない大型の船舶を所有する豪商が大勢の護衛を雇って利用する貨物の道として活用されていた。

 つまり、通常は移動経路として考慮されないが、大きな船と十分な戦力があれば有用なルートである。また、世界の危機の真っただ中に隣国と紛争するような国はない。あったら後で干される――今回特にエルハーベスタからの食糧供給が減らされる危険性が高いからどの国も迂闊な真似はできない。

 そんなわけで、非常に平和な船旅となった。


 「で、何やってんだ?」

 大介の視線の先には、川面に糸を垂らしている優太がいた。

 「いや、退屈だったんで、川釣りに挑戦してみた。」

 釣竿を手に優太が答える。釣果は無さそうだが優太は気にしていない。

 「私は聖女様のお世話係なので、御一緒させていただいています。」

 隣には、メイド服姿のエリザベス嬢も釣り糸を垂らしていた。

 「最近は姫様が勇者様ばかりかまって、リコリスは暇なのです。」

 更にはちょっぴり恨み言の混じったリコリスもいた。

 「それは見ればわかるが……、なんでそんな格好しているんだ?」

 優太は何故か、いつもの巫女装束ではなく、聖女の衣をメイド服に変えていた。それも、メイド喫茶等の「なんちゃってメイド服」ではなくかなり本格的なものだった。細かいデザインの違いはあれど、隣のエリザベス嬢のメイド服と遜色なかった。

 リコリスと合わせてメイド三連星である。まあ、リコリスはメイドではなく侍女なのだが。

 「巫女服は聖女の衣として有名らしくて、そのまま外に出たら聖女がここにいると教えているようなものだそうだ。仕方がないからメイド服にした。」

 このメイド服は、聖女の衣のデザインの中では巫女装束と並んで露出の少ない衣装の一つである。まあ、それでもメイド服姿の男というのも目立つので、カモフラージュとしてリコリスとエリザベス嬢が側にいるのだった。どこまで効果があるかは分からないが。

 「ん……、来た!」

 そうこうするうちに、優太の釣り竿に反応があった。アタリだ。

 「オリャー! こいつは、大物だ!」

 釣竿が大きくしなる。確かに大物のようだ。

 優太は釣りに関してはど素人だ。技術とか駆け引きとか、そういったものは持ち合わせていない。ただ強引に引っ張っただけだが、偶然うまいこと針が引っかかったらしい。

 「くっくっくっ、針も糸も竿も祝福済みだ。簡単に逃げられると思うなよ。」

 聖女の力の無駄遣いであった。

 「ここだ! 聖女一本釣り!」

 釣りマニアな人がいたら小一時間ほど説教されそうなほどのテキトーさで、しかし無駄に強力な腕力で優太は強引に釣り上げた。

 「これは、……半魚人?」

 優太が釣り上げたのは、魚のような頭部に鱗の生えた人間のような体、水掻きの付いた手足を持つ不思議な生き物だった。

 「サハギンですね。海に棲むと聞いていましたが、川にもいるとは知りませんでした。」

 優太の疑問に律儀に答えるのはエリザベス嬢である。リコリスは我関せずと釣りを続けている。

 「食べれるのか?」

 「どうでしょう? サハギンを食したという話は寡聞にして存じませんわ。」

 「いや、食うなよ! 半魚人だぞ!」

 エリザベス嬢は真面目に答えてしまうので、どうしても突込み力が足りない。必然的に大介が突っ込み役になる。

 大介としては、たとえ食用可能だとしても、人型の生き物を食べるのには抵抗があった。食糧が不足しているわけでもないのに、無用なチャレンジをする気はなかった。

 「そうだな。魚拓だけ取って、キャッチ&リリースするか。」

 優太にしても、どうしても食べたいわけでもないので素直に頷く。

 そして、何故か用意されていた、墨のようなインクと大きな紙を使ってサハギンの魚拓を取る。

 絶対に勝てない相手だと悟ったのか、素直に魚拓を取られているサハギンがシュールだった。


通信用マジックアイテムの大きさい比較。

携帯用……タブレットPCサイズ

従来型……デスクトップPCくらい

携帯用の親機……一部屋使うスーパーコンピューターサイズ


従来型のものでも、通信兵が背負って持ち運ぶか、馬車に搭載すれば戦場近くまで持つ運べます。

通信具の親機は幾つもの部品に分けられて、大型の馬車で持ち込まれました。

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