第三の危機
大変お待たせしました。第三章の掲載を始めます。
大陸の南には一つの大国が存在する。
その国の名は、エルハーベスタ。神代五聖が一人、初代聖王によって建てられた五聖国の一角にして世界最古の王国である。聖王が治める国として、聖王国と呼ばれることも多い。
この世界で最大の国土と人口を有するこの国の主要産業は農業である。
たかが農業と侮ることなかれ。確かにどの国でも農業は行われているが、この国は規模が違う。
温暖な気候と肥沃な大地を利用した大規模農業により、食料自給率は実に500%。一説では全世界の食料の半分を生産しているとも言われている。
農産物の量だけでなく、種類も豊富だ。広大な国土を活かし、主食となる穀物以外にも土地に合わせて様々な農産物を栽培しているし、畜産業も盛んだ。海に面しているので漁業や塩の生産も行われている。
エルハーベスタで農業が盛んな理由は、その建国当初まで遡る。
初代聖王は他の五聖国に先駆けて聖王国、エルハーベスタを建国した。
元の世界の知識も活用し、行政機関である政府を作り、法を整備し、軍を組織し、様々な制度を創設したり、公共事業を行ったりした。初代聖王の建国したエルハーベスタはその後に誕生する多くの国家の雛型となった。
そして、初代聖王がもっちも力を入れたのが、食糧問題の解決である。
神代の五聖がいかに優れていても、所詮は個人である。手の届く範囲は限られていたし、永遠に人々の庇護を行うこともできない。
神代の混沌を払い、真に人の世の中を作るためには、神与の特別な力を持たない一般の人々が、この世界の自然の脅威と対峙し生き延びるだけの力を付ける必要があった。そのように導くことが初代聖王の役割であった。
力無き大衆の持つ力、それは数の力である。多種多様な人々が大勢いれば、その中には様々な方面で優れた才能を持つ者が必ずいる。多種多様な優れた能力を結集すれば、どのような問題でも解決できる力となる。
それ故、初代聖王は国を作り、なるべく多くの人が安定して暮らせる社会を目指した。
そのために最優先だったのが食糧の確保である。食糧生産の上限が人口の上限を決めてしまうのだ。
最初は農耕に適した土地を探して、主食となる穀物の栽培を始めた。
農耕に向かなかった土地でも、肥料を工夫したり、土壌の改良を試みたり、その土地に会った農作物を探したりした。
狩猟だけでは肉の確保が安定しないので、畜産や酪農も行われるようになった。
海では漁だけでなく、貝や海藻の養殖も行われた。
そのままでは食べにくい食材を料理するために、調味料の開発やハーブや香辛料となる植物の栽培も盛んに行われた。
そうして得られた食料を人々に届けるため、保存食の開発や交通網の整備が行われた。
そういった努力は、初代聖王亡き後も続けられた。その結果、エルハーベスタには多種多様な食材に豊富な調味料、そしてそれらを組み合わせて作られた様々な料理が発展して行った。
今ではエルハーベスタは、世界の台所とか美食の大国などの異名も持つ、食の大国である。
神託によれば、第三の世界の危機はこのエルハーベスタで発生する。
危機の内容は蝗害である。
蝗害と言うのは、地球上でも世界各地で発生してきた災害である。
蝗と言う字は日本ではイナゴのことだが、実際には飛蝗というはバッタのことである。大量発生したバッタが群れを成して飛んできて、短期間であらゆる草木を食べ尽くす。農作物を根こそぎ食い荒らされ、そのまま飢饉が発生することも多い。それが蝗害と言われる災害である。
その蝗害が農業大国エルハーベスタで発生すればどれほど恐ろしい被害が出るかは想像に難くない。なにしろ、エルハーベスタから食料を購入していない国はないのだ。量的には自国分の食糧生産ができている国であっても、自国には無い珍味や調味料、家畜の飼料等を聖王国から輸入してるのである。
第一の危機の『死者の谷』も第二の危機の『ドラゴンゾンビ』も所詮は他の国の出来事とお気楽に考えていた国であっても、この第三の危機だけは他人事ではいられなかった。
神託が知られると同時に食料品が値上がりを始めた国もあったらしい。
ロベルト王子が懸念していた、エルソルディア王国に敵対的で、破滅的カルトを多く抱えている国であっても、第三の危機が終わるまでは勇者や聖女に手を出さないように必死になって国内を押さえていた。食糧不足になった時、真っ先にエルハーベスタからの輸出量が減らされるのは、世界の危機への対処を妨害した国になるであろうことは想像に難くない。
第三の危機を語るに際して、注意すべき点がある。
この世界の飛蝗は地球とは異なりバッタではない。
昆虫型のモンスターである。地球のバッタとは生態が異なるし、対応方法も異なる。
そしてもうひ一つ。
この世界では昆虫型のモンスターによる蝗害が何度も発生している。時には飢饉が発生して、大勢の人が死んだこともある。
しかし、世界の危機として神託が降ったことはなかった。
今回の蝗害は、これまでに経験したことのない深刻なものである。
それが今回の蝗害に対する識者の一致した意見である。
どうにか第三章も最後まで形になったので再開します。
途中、半分気晴らして書いた短編が、ポイントであっさりと抜き去りました。
自分は短編を書く方が向いているのではないかと思う今日この頃です。
短編を読んでいただいた方、評価してくださった方、ありがとうございました。
本作も、何とか最後まで書き上げたいと思います。




