襲撃
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パレードは滞りなく進んだ。
優太と大介を乗せた馬車は、人が歩くくらいの速度でゆっくりと大通りを進んで行った。
通りは多くの人々で溢れていた。通りに配置された警備の兵士は、押し寄せた大衆が馬車の通行の邪魔になるところまではみ出ないように、そして興奮のあまり暴徒化しないように抑える役割も担っていた。
王都に直接の被害はないとはいえ今は世界の危機の真っただ中、物価が上がったり物流が滞ったりと景気の悪い話が多かった。そんな中、勇者と聖女のお披露目は久しぶりに明るい話題であった。王都の人々は少々浮かれていた。
「それにしても、全然人波が切れないな。そろそろ笑顔で手を振るのにも疲れてきたんだが。」
こういうのに慣れていない優太は、ちょっと気疲れしてきた。大介共々笑顔が強張っている。
「ハハハ、王城に戻るまでの辛抱だよ。」
一方、王族であるアルベルト王子とマリエラ王女は手慣れた様子だった。ごく自然な仕草で笑顔を振りまいていた。
「ん?」
パレードも半ばと言ったところで、優太はふと何かの気配を感じて空を見上げた。
そこには、落下してくる握り拳大の何か。
「『魔法盾』!」
ロベルト王子から襲撃の可能性は聞いていた。優太は油断することなく即座に魔法盾を展開した。
――コツン
落下してきた物体が、魔法盾に受け止められる。次の瞬間、
――ドッガーン!!
強烈な閃光と共に轟音が鳴り響いた。
「スタングレネードって奴か!?」
強力な光と音で対象を無力化する。マジックアイテムではあるが、その効果や目的は同じであった。
半透明の魔法盾では光と音は防げない。直視してしまった優太は一時的に視界を奪われた。
だが、優太の目が眩んだのも一瞬だけ。聖女の衣の回復能力で即座に回復した優太の視界には、上空から飛び降りてきた男の姿が映っていた。
男は通りに面した建物の屋根から飛び降りてきたのだ。勇者や聖女を一目見ようと押しかけて来た人々の中には、路上の混雑を避けて建物の屋根の上に登って見ている者も大勢いた。その中に紛れ込んでいた刺客であった。
「覚悟!!」
男の手には大きな斧が握られていた。落下の勢いを加えて振られる重量武器。必殺の一撃であった。
これだけの勢いで落ちれば、襲撃に成功しようと失敗しようと、自身もダメージを受けるし下手をすれば死ぬ。そんなこともお構いなしに襲ってくるあたりが破滅的カルトの恐ろしさである。
だが、この時ばかりは相手が悪かった。優太は軽く斧を躱すと、
「聖女アッパー!」
「ぐわぁー」
落ちてきた男を下から打ち上げた。
「これで死なないというのもある意味凄いね。」
気を失った襲撃者をひもで縛って拘束しながらアルベルト王子が呟く。
建物の屋根から飛び降りた刺客をカウンターで打ち返しておきながら殺すこともなく、骨折どころか傷らしい傷もない。聖女の力を操る優太の戦い方は、そういう面でも異質だった。襲撃犯の背後関係を調べて芋づる式に潰してしまいたいロベルト王子にしてみれば、大助かりであった。
「しかし、周囲に被害も出さずに済んでほっとしたよ。」
アルベルト王子は胸をなでおろす。最初の光と音で目や耳を押さえている者もいるが、じきに回復するだろう。
だが、安心するのは早かった。
――ボフ!
間の抜けた音とともに、しかしものすごい勢いで馬車の前方から煙が押し寄せてきた。
「何だ、煙幕か?」
突然の出来事に大介が慌てる。襲撃者は一人ではなかったのだ。
「いや、毒だ!」
馬車の周囲にいた人々が苦しみだすのを見て、優太は馬車を飛び降りる。そして煙の出ている中心付近までくると魔法を発動した。
「『領域浄化』! 『解毒』!」
だがそれが襲撃者の狙いだった。
「食らえー!」
煙を突き抜け、妖しく輝く短剣を手にした男が飛び込んできた。予め解毒薬を飲んでいたのであろう、毒で苦しんでいる様子はない。
「聖女キーック!」
「ぐはぁっ」
だが、この程度でどうにかなる優太ではない。解毒の魔法を止めることもなく、男を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた男はまだ意識があったが、持っていた短剣はとこかに吹き飛び、本人も立ち上がれない様子だ。
「くそっ、こうなったら!」
それでも男は諦めなかった。懐から何やら取り出した。手のひらサイズの四角い物体は、武器には見えなかったが、マジックアイテムらしく強い魔力を纏っていた。男の様子に自爆テロでもしそうな不気味さを感じた優太はとりあえず邪魔をすることにした。
「『魔法解除』!」
主に強化魔法や阻害魔法といった支援魔法を無効化すると思われている魔法解除だが、実はその気になれば色々な魔法を解除することができる。しかし、一般的にはマジックアイテムを無効化するようなことはできない。
「な、何故だ!?」
だから、動作しなくなったマジックアイテムを見て男は唖然とした。
もしこのマジックアイテムが、使用者の魔力を使用する通常の物だったら優太の魔法解除の影響を受けなかっただろう。しかし、男の取り出したマジックアイテムは強力な魔力を内包し、常時魔法が作動していることで機能を維持していた。優太はそのマジックアイテム内で動作している魔法の効果を打ち消すことでマジックアイテムを無効化したのだった。
「とりあえず、お前は寝ていろ! 『睡眠』!」
男は崩れ落ちた。
こうして二人目の襲撃者も無効化された。
優太が馬車を飛び出して毒の対処を始めた時、大介は馬車の上に残り周囲の警戒を始めた。
勇者や聖女のこの程度の毒が効かないことくらい敵だってわかっているだろう。次の手が来るはずだった。
優太に対して接近戦を仕掛けて来た馬鹿は無視した。優太だったら片手間であしらえるだろう。
問題は遠距離攻撃を仕掛けられた場合だ。毒にやられた大衆を纏めて治療している優太は、終わるまではあの場を動けない。今遠距離から攻撃されたら、優太には反撃する手段が無かった。
大介は、煙で視界の悪い中目を凝らし、この時のために用意しておいた投げナイフを手に取る。
だが、大介は一つ見落としていた。狙われているのが優太だけではないということを。
「ダイスケ様危ない!」
マリエラ王女の叫び声に後ろを振り向くと、そこには大介を庇って飛んで来る矢をその身に受けるマリエラ王女の姿が!
「マリー! クソッ、そこか!」
受けた矢の勢いに押されて大介に向かって倒れ込むマリエラ王女を受け止め、その向こうで第二射を放とうとしている人影に向かいナイフを投擲する大介。
「大丈夫か、マリー!」
大慌てでマリエラ王女の様子を確認する大介であったが、
「だ、大丈夫ですわ、ダイスケ様。アッカーマン教授にいただいた防御用のマジックアイテムがうまく働きましたわ。」
よく見ればマリエラ王女に矢は刺さっていなかった。
マリエラ王女は個人的にアッカーマン教授から最新のマジックアイテムの試作品をいくつか譲り受けていた。その一つが今回身に付けていた、危機に際して自動的に魔法盾を展開するマジックアイテムである。
マリエラ王女は今回、大介の盾になる覚悟を決めていた。
「よ、よかった~」
安堵して、大きく息を吐き出す大介。
そうこうするうちに、優太の行っていた治療も終わり、煙も晴れた。
第三の襲撃者は大介のナイフを受けてクロスボウを取り落とし、替わりに短剣を構えていたが既に警部の兵に囲まれていた。
襲撃者にとっての誤算は、パレードの馬車に随伴していた警備兵全員が避毒のアミュレットを装備していたことだろう。優太と大介だけでなく、馬車に乗っていた者、随伴した者全員、毒は無効だったのである。
優太が眠らせた襲撃者を引きずって戻って来ると、第三の襲撃者の男も作戦が完全に失敗したことを悟った。
「ここまでか。ぐっ!」
そして手にした短剣を自らの胸に突き立てた。
自害して組織の情報を守ろうとしたのだろう。しかし、
「『浄化』! 『解呪』! 『解毒』! 『回復』! 聖女の目の前で簡単に死ねると思うなよ!」
優太は短剣を引き抜くと、あっさりと男を治療してしまった。
「バカな! これは聖女を殺す毒だぞ!」
男は驚愕した。
「神経毒と出血毒のブレンドに、回復と解毒を妨害する呪い、その上に神聖魔法を妨害するための瘴気を込めた短剣か。ドラゴンゾンビの猛毒に比べたらたいしたことないな。」
もはや優太を毒殺することは不可能であると悟り、がっくりとうなだれる襲撃者であった。
その後は追加の襲撃もなく、一行は無事王城まで戻って来た。
「うー、やっと終わった。」
そう言って、大介は耳栓を取り外した。
そう、この耳栓こそが今回の秘策であった。ちょっとやそっとの特訓で克服できるほど大介のコンプレックスは甘くなかった。
耳栓をしても近くの人の声は聞こえるし、一般人をそこまで近付けることはしない。音量を絞って周囲の雑音を不明瞭にすれば十分であった。
実は一人目の襲撃者と、二人目と三人目の襲撃者は別口です。偶然襲撃場所が重なっただけです。
二人目と三人目の襲撃者が創造神教の過激派で、勇者や聖女の情報を元に念入りに計画してきました。
一人目は別口の弱小組織の者で、不意打ちの一発勝負でした。毒対策をしていないので、拘束されたまま毒にやられています。




