王族会議
夜、王城の一室に王族が集まっていた。
「お前から招集がかかるとは珍しいな、ロベルト。何か動きがあったか?」
ヘンリー王がロベルト王子に問う。何についてかはあえて言わない。ロベルト王子が担当している重要案件で緊急性のあるものは唯一つだった。
「創造神教の過激派が動いている。王都で何かやらかすかもしれない。」
「そうか。」
ロベルト王子の端的な報告に、ヘンリー王は頷く。ロベルト王子から呼び出された時点で予想していたことだった。
ロベルト王子は破滅的カルト対策を幾つか行っていた。
疑わしい者を片端から逮捕して行ったのもその一環。
金のためならば何でもする小悪党を潰したのもその一つ。
その潰した小悪党に偽装した配下の者を放ち、接触してくる破滅的カルトを見つけ出すトラップなども仕掛けていた。
基本的に破滅的カルトは弱小組織なので、こうして取り締まりを強化すれば、その多くは身動きが取れなくなった。
「連中は創造神教の正規のネットワークを利用しているから、準破滅的カルトを監視していても引っかからない。だが、間違いなく何か企んでいやがる。」
準破滅的カルトと言うのは、破滅的カルトと同じような主張をしているが、非合法な行為に手を出さないために捕まらない連中のことである。捕まらないから、好き放題に勇者や聖女や女神イシスを非難する発言を繰り返して世間から白い目で見られている。
合法的な活動しか行わない準破滅的カルトであるが、その裏では複数の破滅的カルトと繋がりがあり、それぞれの組織が協力するための仲介をしているという疑惑が以前からあった。本来なら主義主張も異なる狂信者たちが同じ目的のために団結し、一大勢力となって一斉蜂起するというのはなかなかに悪夢である。
そこでロベルト王子は、元々準破滅的カルトが破滅的カルトに昇格することを警戒して行っている監視を強化し、準破滅的カルトに接触する者を徹底的に洗い出すようにしていた。まだそれで摘発された破滅的カルトはなかったが、警戒させるだけでも破滅的カルトの連携を防ぐ効果はあった。
しかしこの方法では創造神教内の破滅的カルトに対しては通用しなかった。創造神教徒の人数が多いため、そこに含まれる過激派の人数もそれなりにいた。そして、メンバー同士の連絡も創造神教内のネットワークを利用しているため外部には洩れない。外部の勢力の力を借りることなく、創造神教の過激派だけで事を起こせる可能性が高かった。
大規模な破滅的カルトは目立つからそのほとんどが摘発され、消滅していた。だが、より人数の多い創造神教に潜り込んだものを見つけるのは難しかった。そして、創造神教徒を全員拘束するような真似も不可能だった。
「まずは、こいつを見てくれ。捕まえた創造神教の過激派から押収した資料の内容だ。」
「これは!」
ロベルト王子から渡された資料を読んで、アルベルト王子とマリエラ王女が驚く。
「勇者様と聖女様の私生活は詳しいですが、機密情報はありませんね。」
エドワード王子が冷静に資料を評価する。
「それもあてにはならないぜ、持っていたのはうっかり捕まるような下っ端だ。重要な情報は与えられていないだろう。」
「いずれにしても、情報源は王城内部と言うことか。」
ヘンリー王が話を纏める。重要な点はそこであった。
「城内の者は身元の確かな者ばかりですが、創造神教徒もいます。機密でなければ漏れることもあるでしょう。緘口令を敷きましょうか?」
エドワード王子は城内の防諜にも関わっていた。
「いや、それよりもこいつらとはさっさと決着をつけたい。次は聖王国だろう? 往き帰りの道中で他国の勢力と連携して何かやられたら面倒だ。」
五聖国は女神イシスへの信仰の篤い国だ。破滅的カルトの人数も少ないし、活動もかなり制限されている。だが、国によっては破滅的カルトが簡単には潰せないほどの大きな勢力になっている場合もある。
だから、ロベルト王子は勇者や聖女が国外へ出たところで襲われることを懸念していた。
第一の危機、『死者の谷』はエルソルディア国内だった。国内の不穏分子はロベルト王子の尽力もあって抑え切った。
第二の危機、『ドラゴンゾンビ』はエルマギカ、五聖国の一角である。現地に着いてからはさほど心配なかった。途中の北方山脈を越える街道は襲われると被害が大きいが待ち伏せには不向きな場所であった。
次なる世界の危機は聖王国――エルハーベスタもまた五聖国の一角であった。しかし、南の大国エルハーベスタまでの道中には治安に不安のある国も通ることになる。
もちろん王宮騎士団も護衛に就くし、移動経路の秘匿などの対策も行う。しかし、王都の創造神教の過激派が他国の破滅的カルトに情報を流したり、王都を出発する一行に何か小細工をされたりすると面倒なことになる。
ロベルト王子としては、勇者と聖女が王都を出発する前に創造神教内の破滅的カルトを一掃しておきたかった。
「誘い出すつもりか? だがどうやって?」
さすがに王城の警備を緩めるような真似はできなかった。偽情報を流すだけでも、破滅的カルト以外の不心得者まで呼び込みかねない。ヘンリー王としてもそれは許可できなかった。
「ちょうどいいイベントがあるじゃないか。まだやってないんだろ、認定式。」
「確かに勇者様も聖女様もまだ正式なお披露目はしていませんね。聖王国に向けての出立式に合わせてお披露目する計画はありますが。」
「そのお披露目だけを先にやってくれ。出立式を変に妨害をされても困るだろ。」
「分かりました。その方向で調整しましょう。罠の方は任せましたよ。」
こうして王族内で方針が決められていった。真面目なエドワード王子と問題児のロベルト王子。実は意外と気が合う二人だった。
「あの~、エド兄様、ロブ兄様。その件で一つ問題があるのですが。」
そこでマリエラ王女が一つの問題を提起した。
翌日。王城の一室で勇者大介が特訓を行っていた。
「きゃ~、ダイスケ様可愛い~!」
「うっ……」
マリエラ王女の黄色い声に、大介のこめかみがピクリと動く。
「勇者様、可愛いです!」
「うぐっ……」
リコリスの追撃に、さらに顔を歪ませる大介。
「おい、そこのチビ!」
「誰が映画館で『大人一枚』と言ったのに子供料金しか受け取ってもらえなかった男だ! オレだよ! ドチュクショー!」
優太の一言で大介が切れた。
「落ち着け、落ち着け。笑顔でスルーだ!」
「そうです、我慢です! ……ああ、でも怒っているダイスケ様も可愛らしい。」
何をやっているのやら、と思うかもしれないがこれが特訓なのである。
後日、勇者と聖女を国民に披露するイベントが行われる。聖女優太は王都の人々にもだいぶ馴染んでいるが、勇者大介を見たことがあるものはかなり限られている。
一般大衆に事情を周知して配慮を求めるというのも難しい。マリエラ王女のように遠慮なく「可愛い」発言をする者や、背の低さを揶揄する者も出るだろう。だが、公式行事でブチ切れる勇者というのも外聞が悪い。
だからこその特訓である。何を言われても笑顔で流す。それが目標だった。
「……戦闘訓練よりつらいぞ、これ。」
先は長そうである。




