勇者と聖女と聖女の衣
「大介君、折り入って頼みがある。」
優太が珍しく真面目な顔で大介に頼み事をする。
「何だよ、藪から棒に。」
そんな優太に、大介は怪訝な顔をする。
「マリエラ王女とデートで忙しいところ悪いが、これは勇者にしか頼めないことなんだ。」
「いや、そういうのはいいから、さっさと用件言えよ!」
照れる大介。実にリア充である。
「聖女の衣に男物のデザインを追加したい。協力してくれ。」
「は? どういうことだ?」
優太は端的に答えたが、端的過ぎて大介には通じない。だから、その後優太は詳しい経緯の説明を行った。
聖女の衣の適性が高すぎて他の服を着ることができないこと。
聖女の衣にはデザインを変更する機能があること。
しかし、女物のデザインにしか変更できないこと。
この辺りまでは、以前から判明していたことである。しかし、エルマギカで懇意になった賢者ラウルに相談したところ、新たな事実が判明した。
聖女の衣のデザインは、勇者ならば誰でも新しいものを追加することができる。
元々この機能は、初代勇者が恋人だった初代聖女に対して新しい衣装を贈るために作られた物らしい。聖女の衣のデザインが初代勇者の手によるものだという話はここからきている。
だが、初代勇者でなくても、勇者ならば誰であっても聖女の衣に新しいデザインを登録できるようになっていたらしい。実際に後代の勇者が聖女の衣に新しいデザインを登録したという記録があるそうだ。
当然、初代以外の勇者であっても、聖女の衣に男物の衣装を登録するような真似はしなかった。どの時代の聖女も皆女性だったからである。だから聖女の衣には男物のデザインは存在しなかった。
しかし今、史上初の男聖女と勇者が揃った。聖女の衣に男物のデザインを登録するならば今しかないだろう。
「ふーん、ずっと巫女服でいるのはそんな理由だったんだ。てっきり修行の一環とかそういうのだと思ってた。」
筋トレマニア、修行の鬼な優太を見ている大介としてはそんな発想になるのも当然だろう。
「そんなわけで、頼むよ。」
「分かった。やってみる。」
大介としても拒む理由はない。とりあえず聖女の衣に触れてみる。
「なるほど、思い描いたデザインを登録できるのか……うん、できそうだ。どんなデザインにする?」
「そうだなぁ、楽な格好がしたいから、ジャージで頼む。」
「ジャージね、……こんなもんかな、……よし、これで、……うっ!」
順調に進むかに見えたが、突然大介が苦しそうな顔をして片膝をついた。
「どうした!?」
心配して声をかける優太。だが、大介には回復させるようなダメージや異常は見受けられない。
「拒絶された。」
「へ?」
「聖女の衣に、いや、聖女の衣の中にいる意思に。たぶん、過去に聖女の衣にデザインを登録した勇者たちの思念だ。」
「何だって!」
思わず聖女の衣をまじまじと見てしまう優太。これまでそんな得体のしれないものが潜んでいるとは思わなかった。
「そいつらがオレに言うんだ。より美しく! より可愛らしく! よりエロく!!」
「……なんか、最後のヤツだけやけに力が入っていないか?」
「ああ、一番強烈な思念だった。」
過去の勇者だって男だ。それも、聖女に衣装を贈るような連中だ。その思いは推して知るべし。
「とにかく、ダサいデザインは受け付けられそうにない。」
「うーん、困ったなぁ。」
ここにきて、思わぬ障害だった。
だが、優太としても諦めきれるものではなかった。
「よし、じゃあ方針を変えよう。過去の勇者に拒絶されない形で男物のデザインを入れよう。」
「できるのか、そんなこと?」
「コンセプトは、ずばり『男装の麗人』だ!」
「おお、その手があったか!」
大介は早速試してみることにした。野暮ったい格好は拒否されるだろうから、フォーマルな服装を。それを女性が着た状態をイメージする。大丈夫、美女は何を着ても美しい。
「よし、やるぞ! ……、ぐはぁっ!」
大介は気合を入れて目を見開く――それが失敗だった。優太を直視したため、『男装の麗人』のイメージが崩れて拒絶されてしまったのだ。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ。手ごたえはあった。ちゃんと女性が着ているところをイメージすればできるはずだ。」
「そうか。だっだ目を瞑ったまま、そうだな、マリエラ王女が着ているところを想像してみるといい。」
「……やってみる。」
目を閉じ、再びイメージする。今度はマリエラ王女をイメージしたことで女性像が揺らぐことはなかった。
「これならば、いける! これで、どうだ!?」
聖女の衣に新しいデザインが登録された。だが、最後の最後で雑念が混じってしまっていた。大介はふと思ってしまったのだ。相手が美少女ならば多少だらしない格好でも美しいのではないだろうか、と。
聖女の衣は、登録されたばかりのデザインに変わっていた。
「……大介君、マリエラ王女にこれを着てもらいたいのか?」
それは確かに男物と言ってよいであろう、優太は純白のワイシャツを着ていた。
そして、それしか着ていなかった。
俗に言う『裸ワイシャツ』である。
着用者に合わせて自動的にサイズが変わる聖女の衣なのに、なぜかワイシャツのサイズが大きすぎてぶかぶかだった。
「オレって奴は―!」
混乱して走り去る大介。
それを見送った優太は、慌てず騒がず、聖女の衣を巫女装束に戻した。
実は、聖女の衣には、それを着て人前に出ることができないようなデザインの衣装がいくつも登録されていた。
おそらくは新婚ほやほやの初代勇者が新妻のために贈った、やたらと扇情的な夜の衣装。
一体何のコスプレだというような、趣味に走ったマニアックな衣装。
そのような、歴代聖女も着用したことがあるのか疑わしいようなデザインである。
そんな封印されたデザインがまた一着、聖女の衣に追加された。
インターミッションは世界の危機と直接関わらない、優太や大介やその他の人々の日常を描くようにしてきたのですが、そろそろネタ切れです。
次話から次章へ入ります。
第三章執筆中。ちょっと難航しています。
次の更新は7月入ってからの予定です。




