勇者の苦悩
大介は一人、王城内の勇者の間へと来ていた。
勇者の間・第三の部屋は勇者の修行場。時刻は夕刻、大介は王宮騎士団との訓練の後、自分だけの特訓を行っていた。
「オレはまだ弱い。」
第二の危機、ドラゴンゾンビとの戦いを経験しての素直な気持ちであった。
勇者の間から出てきた大介は、ボロボロだった。
勇者の間・第三の部屋には、一つの神具が置かれていた。その神具が動作すると、『勇者の修行場』に転送されると言われている。
『勇者の修行場』が何処にあるのかは誰も知らない。知られていない別の大陸とも、別の世界、あるいは神具の作り出した魔法的な空間ではないかとも言われている。
ただ分かっていることは、勇者が『勇者の修行場』に行くと、その時の勇者の強さに合わせた敵が現れるということ。そして、たとえその敵に敗れたとしても、勇者は死ぬことなく元の場所に返ってこれるということ。
だから、勝っても負けても『勇者の修行場』から返ってきた勇者はボロボロになっているものだった。
「くっ、まだだ!」
ぼろぼろの体を引きずって、大介は再び勇者の間へと向かう。聖女の衣ほどではないが、勇者の鎧にも回復機能は備わっている。それでもかなり無茶な行為である。
「お待ちください、勇者様! せめて怪我の手当てだけでもしませんと。」
その大介を引き止めたのは、マリエラ王女であった。マリエラ王女は自室に戻ってこない大介に気付き、探し回っていたのだ。
「そうですわ、聖女様をお呼びしましょ……」
「呼ぶな! ……呼ばないでくれ。あいつに頼るわけにはいかない。」
大介はここ最近急激に強くなった。今やその実力だけみても彼が勇者であることを疑う者はいないだろう。
だがその陰には優太の尽力があった。特製筋トレに始まり、補助魔法による訓練の効率化、モンスター相手の実戦でのあれやこれや。なんだか酷いことばかりしているようだが、それでも確実に大介の強さに貢献していた。
大介もそのことは良く分かっていた。だからこそ、これ以上優太に頼っていては、優太を越えることはできない。そう思っていた。
「聖女より弱い勇者に、何の意味がある!」
これは多分に大介の思い込みがあった。確かに優太は異様な強さを身に付けている。だが、少なくとも攻撃力に限れば既に大介は優太を上回っていた。
例えば、ドラゴンゾンビ対して優太は有効な攻撃をほとんど入れていない。殴ったり投げ飛ばしたりと派手な動きは多かったが、ダメージを与えたのは武器を犠牲にした一撃くらいである。一方、大介は最初から僅かでもダメージが通っていたし、魔力の刃に覚醒してからは一撃で首を落としている。
その後のキメラゾンビに対しては、防御と雑魚アンデッドに強い聖女の特性が大きく出た。大介は、雑魚の殲滅よりも強大な相手を一点突破で打ち破ることに特化しているのである。
しかし、大介は優太が自分よりも強いと認識してしまっていた。優太はやることが派手だし、訓練中の試合では勇者の強大な攻撃力が発揮されることもない。大介も自分の強さを実感し難いのだろう。
「オレが強くならなければ、皆を守れない!」
自ら望んで勇者になったわけでもないのに、勇者としての使命を全うしようとする。この責任感の強さもまた大介を苦しめていたのだ。
そのまま勇者の修行場へ突入しようとする大介をマリエラ王女が必死に止める。
「そんなことはありません! 力が足りないのならば私の力をお使いください。それで足りなければ他の人の力も。」
マリエラ王子が大介の背中にしがみつく。
「本来この世界の出来事に勇者様は何の責任もないのです。それでもこの世界は勇者様を、いえ、私はダイスケ様を必要としているのです。」
「マリ……エラ……?」
「だから、無理だけはしないでください。」
懸命の説得で、マリエラ王女は大介を止めることに成功した。そして、……
その日大介は男になった、らしい。
翌朝、マリエラ王女は満面の笑顔で優太に話しかけてきた。
「聖女様、聖女様! 私、ついにやりましたわ。ダイスケ様を落としましたわ。みっしょんこんぷりーとですわ!」
「そ、そうか、おめでとう。だがそれをいちいち俺に報告する必要は……」
マリエラ王女の勢いに押されながらも、優太は内心「大介君、ついにマリエラ王女に喰われたか」などと考えていた。
「ダイスケ様もこの世界に残ると言ってくださいましたし、後はアル兄様が聖女様と結ばれるだけですわ。」
「いや、それは絶対にないから!」
勇者ダイスケとマリエラ王女は正式に恋人になった。その話は瞬く間に王城中に広まった。マリエラ王女自身が積極的に言いふらしたからである。
外堀を埋められた形になったが、大介が納得しているので、まあ問題ないのだろう。
同時に、勇者ダイスケがマリエラ王女に押し倒された、という噂も広がっていた。
考えることは皆同じである。
この日、優太の脳内ではマリエラ王女に対して、『肉食系王女』の称号が贈られた。
実は、大介から異議申し立てがあれば、マリエラ王女は窮地に立たされることになります。勇者や聖女に対して既成事実を作って迫るのは御法度なので。
想定していたマリエラ王女の称号(優太脳内)が出そろいましたので、まとめておきます。
・ハニトラ王女
・虫よけ王女
・腐女子王女
・腐界の主
・ショタコン王女
・肉食系王女
また思いついたら追加するかもしれません。




