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聖女無双  作者: 水無月 黒
インターミッション

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53/96

フラグクラッシャー・優太

機能の話の掲載時刻がずれていました。すみません、設定ミスです。他意はありません。

 エルソルディアの王城に戻って来た優太を待っていたのは、

 「私、本日より聖女様付きのメイドになりました、エリザベス=ウォルトンです。」

 新しいメイドさんであった。


 「なあ、アル。宰相さんの娘さんがメイドになっていたんだが?」

 「ああ、リズに限らず、王城にいるメイドは皆貴族の令嬢だよ。」

 これは事実である。王城に暮らす王族や王城に宿泊するような要人、その身の回りの世話をするメイドにどこの誰とも知れぬものを雇うわけにはいかない。出自のはっきりした貴族の令嬢が雇用されていた。

 ただし、メイドとして働くのは主に下級の貧乏貴族である。宰相の令嬢ともなると、もっと重要な役割が割り振られるものである。エリザベス嬢の場合、それがアルベルト王子の婚約者(フィアンセ)だった。さすがに元とは言え王族の婚約者(フィアンセ)であり宰相の娘に下働き(メイド)はさせられない。

 もちろんそんな事情は勇太の知るところではない。すっとぼけていればバレない筈なのだが、思わず目をそらしてしまったアルベルト王子は修行が足りない。

 「ア~ル~?」

 ジト目の優太に詰め寄られ、アルベルト王子はあっさりと白状した。

 「彼女はユウタ用の『虫よけ』だよ。ユウタが聖女様だということは、だいぶ知れ渡ってきたからね。」

 本来、聖女の虫よけ役はアルベルト王子だった。王子が聖女をガードしていると知れば、考えなしに聖女を取り込もうとする小物貴族は諦める。その後、聖女が男だという情報が出回っても俄かには信じられなかっただろう。

 しかし、世界の危機も二回終わらせた今、優太についての正確な情報も色々と出回っている筈である。手ごろな娘がいたら、優太を取り込もうと画策する者も出てくるかもしれない。

 「でも、なんでメイドなんだ?」

 「聖女様の随員は私がやっているから、身の回りの世話係になったんだ。だから、王城のメイドではなく、聖女様付き、ユウタ専用のメイドだよ。あと、召喚されてきた男性にはメイド服を着ていると好かれるというジンクスがあって……」

 過去にメイド萌えな勇者がいたらしい。

 「その気があるなら、手を出しても構わないよ。リズも覚悟はできているはずだ。」

 「いや、俺はこの世界で生涯聖女やる気はないからな。全て終わったら元の世界に帰らせてもらう。」

 「そうか。」

 アルベルト王子がどことなくほっとした表情で言う。優太の答えからは、遊び半分で女を抱く気はないという優太の意思を読み取ることができた。アルベルト王子としても、別に元婚約者に未練があるわけではないが、エリザベス嬢とは幼馴染でもある。あまり不幸な目に遭って欲しくはなかった。

 「リズは真面目だからね、色々とやらかすかもしれないけど、悪く思わないでほしい。」

 「?」

 優太がアルベルト王子の言葉の意味を知るのは翌日のことである。


 翌朝のことである。

 優太が王城の廊下を歩いていると、その先の曲がり角でエリザベス嬢がスタンバっていた。

 「?」

 本人は隠れているつもりらしいが、ちらちらと角の向こう側から優太を覗き見ているので、優太からも丸見えであった。

 怪訝に思いながらも優太がその角に近付くと、エリザベス嬢が突然飛び出して来た。

 「遅刻、遅刻ー」

 器用にも口にはパンをくわえたまま、棒読みの台詞を叫びながら、優太に向かって跳びかかるように走ってきた。

 「ハッ!」

 優太は華麗に躱した!

 ズザザザザザーーー

 優太を見失ったエリザベス嬢は廊下に倒れ込み、滑って行った。

 「おーい、大丈夫か?」

 とりあえず優太は、エリザベス嬢を助け起こした。ざっと見たところ外傷はなし。さすがに顔面は庇ったようだ、くわえていたパンも無事だった。

 「し、失礼しましたわ~~~」

 エリザベス嬢は、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。最後までパンをくわえたままだった。

 「何だったんだ?」

 首をひねる優太だった。


 昼食後、優太は王城の図書室へ来ていた。

 勇者をも超える身体能力ばかりが目立っているが、優太の本職は聖女、神聖魔法を操る魔法使いである。

 神殿における修業が終わった後も、優太は自主的に魔法の勉強を続けていた。王城の図書室は魔法関係の資料も充実していた。

 そんな優太の後ろをこそこそとつけて歩くメイドが一人。エリザベス嬢である。優太は気付いていたが、とりあえず放置していた。

 そして、目的の本を見つけた優太が手を伸ばすと、近くまで忍び寄っていたエリザベス嬢もすかさず手を伸ばした。

 同じ本に向かって伸ばされた手と手が触れ……なかった。本棚の高い位置にあったため、身長の差でエリザベス嬢には届かなかったのだ。

 「ん? 読むか?」

 優太が手に取った本の表紙を見せる。それは魔法に関する高度な専門書であった。

 意外に思うかもしれないが、優太は決して脳筋ではない。実践派であることは確かなのだが、座学も疎かにはしていなかった。その気になれば、魔法の理論についてエドウィン魔導士長と語り合うことだってできるのだ。

 ここで、優太とその専門書についての話題で盛り上がることができればまた違った展開もあっただろう。だが、エリザベス嬢は本のタイトルを見ただけで挫折した。

 「し、失礼しましたわ~~~」

 エリザベス嬢は、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

 「図書室では静かにな~」

 走り去るエリザベス嬢の背中に小声で注意する優太だった。


 夕刻、優太が自室に戻るため王城内を歩いていると、廊下の隅で蹲る一人のメイド――エリザベス嬢がいた。

 「うう、持病の癪が……」

 エリザベス嬢が、相変わらずの棒読みで台詞を言う。この人、役者には向いていない。

 「『回復(ヒール)』! 『治癒(キュア)』! 聖女に仮病は通じない!」

 優太は容赦がなかった。

 「し、失礼しましたわ~~~」

 エリザベス嬢は、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。


 王城のとある部屋にて。

 「どうしましょう、マリー。作戦が悉く失敗してしまいましたわ。」

 「さすがは聖女様、手強いですね。こうなっては、『お風呂でどっきり作戦』を決行するしかありませんわ!」

 「は、破廉恥ですわ!」

 「そして最後は、『夜這い』ですわ! 既成事実さえ作ってしまえばこちらのものですわ!」

 「!!!~!」

 エリザベス嬢は真っ赤になって言葉も出ない。


 その後、この二人の計画は発覚し、マリエラ王女ともどもエリザベス嬢はこってりと叱られることになる。

 どうやらエリザベス嬢は、優太の恋人に納まらなければならないと思い込んでいたようである。そして、マリエラ王女がそれら更に煽っていたのである。

 なお、自由恋愛はOKだし、支障をきたさない範囲でアプローチすることは問題ない。エリザベス嬢はメイドの仕事はそつなくこなし、優太の時間に余裕のある時を狙って行動していたので、失敗に終わった作戦の数々は特に問題なかった。

 ただし、既成事実を作って迫るような真似をすると大問題になる可能性があった。普通に女性の聖女の場合を考えれば想像は付くだろう。強引に関係をもったうえで、「責任を取って嫁にもらいます」などという真似を許すわけにはいかないのだ。

 これ以降、エリザベス嬢の奇行は鳴りを潜めることになる。


べたな恋愛物のネタを集めてみようと思いましたが、意外と難しかったです。最後のは時代劇だし。

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