対ドラゴンゾンビ戦3
遠くから歓声が響いてきた。ドラゴンゾンビの毒から避難していた兵士達だ。ドラゴンゾンビが斃れた後も、彼等は優太が毒を浄化するまでは近寄ることはできない。
大介は一度そちらに手を振ると、魔力の刃の消えた勇者の剣を鞘に納めた。
聖属性の魔力の刃で切断したためか、切断面からはほとんど毒は出てこなかった。
「ふう、何とかなったな。」
大介はフウっと息を吐いた。だが――
「まだだ! 気を抜くな!」
優太の鋭い声に、大介は慌ててドラゴンゾンビに向き直ると、ドラゴンゾンビの首の切断面が不気味に蠢いていた。
「何だぁ?」
大介は勇者の剣を抜き、ドラゴンゾンビの胴体に向けるが、このまま攻撃してよいものか、躊躇した。下手に斬りつけると高濃度の毒が溢れ出す可能性もあるのだ。
優太にしても、ドラゴンゾンビの体から瘴気が拡散して行かないことから斃し切っていないと判断しただけで、何が起こっているのか正確なところは分かっていなかった。
「まさか、首が再生するのか?」
ここは危険を覚悟で先制攻撃をするべきか、と大介が考え始めたところで、
――ボコッ!
切断面から頭が生えてきた。
「え?」
だが、斬り落とされたドラゴンの頭が再生したわけではない。ドラゴンよりもずっと小さな、獅子の頭であった。
――ボコボコッ!
さらにその隣に山羊の頭と蛇の頭も生えてきた。
「え? え?」
――ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコッ!
さらに無節操に大量の頭が生え出てきた。
狼がいた、熊がいた、鹿が、猿が、猪が、兎が、狐が、犀が、河馬が、鬼天竺鼠が、袋熊が、象が、豹が、馬が、駱駝が、獺が、猟虎が、鼬が、その他名も知らぬ様々な動物の頭が生えてきた。
動物だけではない。よく見れば鳥や虫、魚やよく分からない海の生き物まで見受けられた。頭だけではなく、腕や足、尻尾に羽に触手等々体の色々な部分も生えてきた。
もはやドラゴンゾンビの首の切断面では収まりきらず、それを押し広げる形で無数の生き物の一部が所狭しと並んでいた。
「なんじゃそりゃあー!」
混乱する大介に、それらは容赦なく襲い掛かった。
牙が、角が、嘴が、爪が、蹄が、肉球が、尾が、鼻が、鋏が、針が、棘が、触手が、吸盤が、一斉に大介を襲う。
毒を飛ばすもの、強酸をかけるもの、悪臭を放つ液体を吹き付けるもの、糸で搦め捕ろうとするもの、高圧水流を放つもの、魔法らしい攻撃を行うもの。
「くっ、数が多すぎる!」
襲い掛かる攻撃には即座に対応した大介であったが、相手の手数が多すぎた。防戦一方になってしまう。
「『魔法盾』! 『死霊葬送』!」
そこへ優太が割り込んでどうにか持ち直した。優太の魔法で数十体がまとめて消滅したが、その跡を埋めるように頭や体の一部が次々と生え続けている。
「やっぱりゾンビだったか。一体一体は雑魚だな。」
ドラゴンゾンビから生えてきただけあって、様々な生物の一部、それらは皆ゾンビであった。
「何なんだ、こいつは?」
優太が防御に加わったことで、少し余裕のできた大介が問う。
「たぶん、キメラのゾンビだ。ドラゴンの頭を落としたことでキメラの方が出てきたんだろう。」
ドラゴンゾンビは、キメラよりも聖竜の意思が上回り、竜峰――『竜の寝床』へとやって来た。ところが、ドラゴンの頭を斬り落としたことでキメラの側が優勢になったようであった。
「それで、どうやって斃す?」
「そうだな。中にキメラの本体がいるはずだ。俺が雑魚を潰していくから、大介君は本体を見つけて斬ってくれ。」
「分かった。」
そんなこんなで、即席だが作戦が決まった。
「それじゃあ、行くぞ! 聖女百裂拳!」
優太はドラゴンゾンビ改めキメラゾンビに向かって猛攻を開始した。
巨大なドラゴンゾンビ相手では今一つ効きの悪かった優太の魔法であるが、普通のゾンビには過剰なほどの威力を発揮する。キメラの能力で再現した雑魚ゾンビではどれほど数がいても優太を止められなかった。
牙だろうか爪だろうが甲羅だろうが、優太の拳に触れたとたんに砕け散り崩れ去る。遠距離攻撃に対しては魔法で防ぎ、無効化し、あるいは浄化してしまい、優太には届かなかった。
キメラゾンビは斃されるたびに新しいものを生やしていったが、さらに押し込んでいく優太の前進を止めることはできなかった。
一方大介は、勇者の剣を構えてじっとキメラゾンビを見据えていた。勇者の剣にはうっすらと魔力の刃ができていた。大介は既に勇者の剣から魔力の刃を自由に出せるようになっていた。
大介も優太も、キメラの本体の姿は知らない。アッカーマン教授の調査でもそこまでは分からなかった。だが、優太に殴られて消滅しない奴がいたら斬ればよい。そう考えて待ち構えていた。
優太一人に圧倒される形となったキメラゾンビであるが、このあたりは相性というものが関係している。
ドラゴンゾンビのような巨大な相手には聖女の力を持つ優太であっても簡単に浄化することはできない。だが大介の強力な攻撃力ならば十分に通用する。
一方、雑魚ゾンビを量産するキメラゾンビに対しては、範囲攻撃を持たない大介は手数の差で押し負ける。しかし、雑魚の攻撃を完全無効化する防御力と一撃必殺の攻撃を高速に連打する優太の攻撃は数の差を覆すのである。
このまま優太が押し切るかと思われたが、キメラゾンビもまだ諦めてはいなかった。
「のわぁ~~」
ひっくり返ったままだったドラゴンの胴体が突然起き上がり、尾で優太を叩いて大きく上空に打ち上げたのだ。完全に不意打ちとなった攻撃に、優太は為す術もなく空を舞う。
「優太! クソ、まだドラゴンの体を動かせたのか!」
一時的にせよ優太を追い払ったキメラゾンビは、今のうちにと大介に向き直った。しかし、そこに大介はいなかった。
「ハァー!」
大介が勇者の剣を振り下ろすと、ドラゴンの右の後ろ脚が切り離された。ドラゴンの脚を一本斬り落とされてキメラゾンビが再びひっくり返った。
脚を斬られた切り口からも雑魚ゾンビの頭やら足やらが出て来て大介を攻撃しようとしたのだが、大介は即座に移動していた。
次は尾、次は左腕と、大介は次々とドラゴンの体を切り離して行った。
そしてそこへ、優太が戻ってきた。空中で器用に軌道を修正し、キメラゾンビの真上へと落下する。
「おりゃー、聖女流星拳!」
再び雑魚ゾンビの殲滅が始まった。先ほど優太を打ち上げたドラゴンの尾も既に失っており、キメラゾンビには為す術が無かった。
そして、大介もまた方針を変更した。ドラゴンの四肢を全て斬り落とした後も走り回り、キメラゾンビの体を切断し続けた。
「斬り落とした手足や頭、尾からは雑魚ゾンビの頭は生えてこない。ならば雑魚ゾンビが生え続ける肉塊の中にキメラの本体がいる!」
優太の拳と大介の勇者の剣によってキメラゾンビの体はどんどん小さくなって行った。そして体が小さくなるにつれて生み出される雑魚ゾンビも少なくなって行った。いくらキメラの能力で再現できるといっても、材料となるものが無ければ生み出せないのだろう。
やがて、キメラゾンビの体が子犬サイズの肉塊にまで小さくなると、完全に沈黙した。その中から出てきたものは――
「こいつがキメラの本体なのか?」
小さなネズミのような動物であった。大介は勇者の剣を向けているが、優太の纏う聖属性の魔力の影響で身動き一つできずにいた。
これまでキメラゾンビの攻撃は再現した様々な生き物の能力を使用していた。キメラ本体はとても小さく、たいした攻撃能力も持たない弱々しいものだった。
「こいつも犠牲者だったのかもな。成仏しろよ。『死霊葬送』!」
こうして、キメラゾンビは静かに滅びて行った。
第二の世界の危機、ドラゴンゾンビの災禍はここに終結した。
鬼天竺鼠=カピバラ
袋熊=コアラ
和名があるとは知りませんでした。
本章は後一話で終わりです。




