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聖女無双  作者: 水無月 黒
第二章 ドラゴンゾンビ

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対ドラゴンゾンビ戦2

 「しっかし、ちっとも攻撃が効いている気がしないな。」

 ヒット&アウェイでドラゴンゾンビに斬りつけながら大介がぼやく。意外と素早いドラゴンゾンビの爪を掻い潜り、切り口から噴き出る毒を避けながら斬るので、どうにも攻撃が浅めだった。

 それ以前に兵士や魔導士たちから大量の攻撃を浴びていたというのに、ドラゴンゾンビの動きが鈍っている様子はなかった。逃げ出せないと悟ったのか、やる気満々のようだ。

 「まあ、アンデッドなんてそんなものだろう。」

 一応アンデッドの専門家である優太が答える。切っても血が出ないし、痛がりもしないのがアンデッドである。よく見れば、ドラゴンゾンビも体のあちこちに穴が開いていたり焼けただれていたりするのだが、体が大き過ぎるのでたいしたダメージに見えないのだ。

 もっとも、そういう優太もアンデッドとの実戦経験は『死者の谷』だけだ。雑魚ゾンビなどは一撃で終わりだし、バンパイアでさえも目に見えてダメージが入っていた。攻撃が効いているのか疑わしくなるようなしぶとい相手は初めてだった。

 「『速力低下(スロー)』! 『筋力低下(ウイークネス)』! ……うーん、やっぱり効きが悪いな。」

 優太はドラゴンゾンビを弱体化させるために魔法をかけるが、瘴気にさえぎられてほとんど効果が無かった。

 だがその辺りは想定内、ここまでは小手調べである。優太は武器を構え直した。

 因みに、本日の優太の武器は、斧槍(ハルバード)である。扱いの難しい武器の筈だか、優太に使いこなせるのだろうか?

 「こういうデカブツは、端から削って行くのがセオリーだろう。痛みは感じなくても手足を斬り落とせば動けなくなる。『魔法盾(マジックシールド)』!」

 まさに振り下ろされようとしていたドラゴンゾンビの前肢を、優太が魔法盾(マジックシールド)で受け止める。止めていられたのは一瞬だけで、すぐに魔法盾(マジックシールド)も破壊された。だがその一瞬の隙を逃さず大介が走り込む。

 「ハー、ヤァッ!」

 気合一閃振られた勇者の剣はドラゴンゾンビの爪の一本を捕らえ、根元から切り落とした。

 「よっ、と。」

 斬られても気にせず振り下ろされるドラゴンゾンビの腕を避けて、大介は距離を取った。

 ドラゴンゾンビの右手の爪は残りあと三本。再生したりはしないから、このまま少しずつでも削って行けば、ドラゴンゾンビは攻撃手段を一つ失うことになる。

 「Gyugagagaaaa!」

 だがそこで、なかなか捕らえられない大介に業を煮やしたのか、ドラゴンゾンビが方針を変更した。

 「ん、なんだ?」

 「動きが変わった?」

 優太と大介が訝しむ中、ドラゴンゾンビは四肢でしっかりと大地を踏みしめ、頭を持ち上げて口を大きく開いた。

 「これって、まさか!」

 「ブレスか? 『魔法盾(マジックシールド)』!」

 聖竜は炎のブレスを使ったらしい。大介はすぐに避けられるように身構えた。優太はブレスの射線を想定して魔法盾(マジックシールド)を展開する。

 二人が身構える中、ドラゴンゾンビの大きく開いた口に瘴気が集まって行き――

 「Guefuooo……」

 なんだか咳き込むような音と共に、なんだか黒い球のような物が飛び出した。

 「へ?」

 大介は理解が追い付かない。

 「Gyruraa?」

 ドラゴンゾンビ自身も何が起きたのか理解できないようで首を傾げている。

 「まずい! 『魔法盾(マジックシールド)』!」

 だが、優太はその危険性に気付き、放物線を描いて飛ぶ黒い球の前に魔法盾(マジックシールド)を出すと、自分も跳び上がった。

 「間に合え、『領域浄化(ホーリーフィールド)』! トリャー!」

 一瞬で黒い球に侵食されて破壊された魔法盾(マジックシールド)の背後から、優太は聖属性の魔力を纏った状態で斧槍(ハルバード)を振り上げ、黒い球に叩きつけた。

 「うわっ!」

 斧槍(ハルバード)で叩き割られた黒い球は、爆発的に広がり、黒い煙状になって優太を包んだ。黒い球は、ドラゴンゾンビの猛毒が凝集したものだったのだ。

 黒い煙の中から優太が落ちて来ると、片膝をついて着地した。よく見れば聖女の衣がボロボロだった。濃縮された猛毒は、聖女の衣の守りを貫いたのだ。

 「ペッ、ペッ、ひどい目に遭った。」

 「大丈夫か? おい!」

 大介が思わず優太に声をかける。優太がここまでダメージを受けるのを見たのは初めてだった。

 「大丈夫だ。『洗浄(クリーン)』! 『浄化(ピュリファイ)』! 『解毒(アンチポイズン)』! 『解呪(ブレイクカース)』! 『魔法解除(ディスペルマジック)』!」

 優太はすぐに立ち上がると、自分と周囲の毒を魔法で無害化して行った。聖女の衣も優太の魔力を受けて見る間に修復されていく。優太のしぶとさ、頑丈さもある意味怪物並みである。

 優太がわざわざ自身を盾にしてまで黒い球を止めたのは、その飛んで行った先に兵士達がいたからだ。弾速はさして速くなかったので直撃は避けられるにしても、周囲に毒を撒き散らすのだ。大勢犠牲になる危険が高かった。

 しかし、優太の様子を見て有効だと思ったのか、ドラゴンゾンビが再び口を大きく開いて踏ん張った。第二弾を打ち出すつもりだ。

 「させるか!」

 優太もそれを許すつもりはなかった。ものすごい勢いでドラゴンゾンビの下に走り込むと、

 「聖女昇竜拳!」

 そのまま垂直に跳び上がり、拳がドラゴンゾンビの顎を捉えた。

 「!!!」

 強制的に口を閉じ、上を向くことになったドラゴンゾンビ。毒の球を吐き出すことは阻止した。

 だが、その代償として優太は現在ドラゴンゾンビの目の前で無防備に自由落下中だ。それを見たドラゴンゾンビが前肢を持ち上げると、ペシッ、と優太を叩き落とした。

 「コノヤロー!」

 地面に叩きつけられた優太は、しっかりと両足で着地して無傷。本気でドラゴンゾンビとどつき合いをしている優太だった。

 「お前ら、無茶苦茶だぞ!」

 ドラゴンゾンビの注意が優太に向かっている隙に、右の後ろ脚を斬り続けていた大介がぼやく。何気に優太とドラゴンゾンビを同列に扱っていた。

 「無茶ついでにもう一つやってやる。」

 優太は、ドラゴンゾンビを殴るために左手に持ち替えていた斧槍(ハルバード)を両手で持つと、魔力を込め始めた。すると、斧槍(ハルバード)が光を放ち始めた。

 これは、過剰祝福と呼ばれる現象だった。神聖魔法による祝福でも、他の魔法によるエンチャントでも、武器に込められる魔法には限度がある。その限度を超えて魔法を込めると、一時的には威力が増したりするが、武器が負荷に耐えられずに壊れたり、魔法が暴走したりとろくなことにはならない。それが、過剰祝福とか過剰エンチャントとか呼ばれる状態である。

 優太は、既に祝福されていた斧槍(ハルバード)に更に魔力を込めてわざと過剰祝福状態にした。そして、

 「食らえ!」

 ドラゴンゾンビの喉元に向けで勢いよく斧槍(ハルバード)を投げつけた。

 さすがに脅威を感じたのか、ドラゴンゾンビは前肢――右腕を上げて防ごうとするが、斧槍(ハルバード)はドラゴンゾンビの爪を粉砕する。暴走した神聖魔法は一時的にドラゴンゾンビの腕から瘴気を吹き飛ばした。そこへ自壊した斧槍(ハルバード)の破片が突き刺さり、右腕全体をぼろぼろに傷つけた。

 「Gyugegaoooooo!」

 痛みを感じないドラゴンゾンビも、ダメージの大きさに悲鳴を上げた。

 「今だ!」

 前につんのめるように体勢を崩したドラゴンゾンビの、半分ちぎれかけた右腕めがけて大介は勇者の剣を振り抜いた。狙い違わず、ドラゴンゾンビの右腕は切り落とされた。

 だが、喜ぶ暇もなく、ドラゴンゾンビはその場で水平に身を捻った。

 「のわぁ!」

 ほぼ半回転して打ち付けたドラゴンゾンビの尾が優太を直撃した。今更この程度では死にそうにない優太だったが、遠くまで弾き飛ばされてしまえば戻って来るまでに時間がかかる。

 そして大介もまた巻き込まれて弾き飛ばされていた。攻撃直後で不意を突かれた大介は着地に失敗して地面を転がった。そして身を起こそうとしたところで、ドラゴンゾンビと目が合った。一瞬動きの止まる両者。

 どうやらドラゴンゾンビも優太を叩き潰すのに夢中で大介の存在を忘れていたらしい。一瞬の沈黙の後、ドラゴンゾンビは残った前肢――左腕を振り上げて襲い掛かってきた。

 「やべぇ!」

 体勢を崩していた大介は慌てて立ち上がるが、避けきれない。咄嗟に勇者の剣を盾にして衝撃に備えるが、

 「Guryaa?」

 突然ドラゴンゾンビの前進が止まった。まるで後ろから引っ張られたかのような唐突な停止だった。ドラゴンゾンビも、何が起きたのか分かっていないような顔をしている。

 ドラゴンゾンビの後方を見てみると……優太がドラゴンゾンビの尾をがっしりと掴んでいた。先ほど尾で叩かれた時に、優太は弾き飛ばされないように尾にしがみついていたのだ。

 しかし、あり得ない光景だった。通常綱引きをやって勝つのは力の強い方ではなく、重い方である。地面との摩擦は重さに比例するから、どれほど力が強くても軽い方は滑って重い方に引きずられてしまう。重量化(ヘビーウエイト)の魔法をかけたとしても優太がドラゴンゾンビの重量を超えることはできない。

 優太がドラゴンゾンビを引き止めていられる理由、それは周囲の地面にあった。地面に半ば埋まる形で作り出された無数の魔法盾(マジックシールド)。これが優太に力を与えていた。

 魔法盾(マジックシールド)の魔法は、盾に加わった力は術者に伝わる。アッカーマン教授の魔導列車が魔法盾(マジックシールド)で減速したのと同じように、大地にめり込ませた魔法盾(マジックシールド)が地面から受ける力を利用してドラゴンゾンビに対抗していた。

 もちろん優太は、ドラゴンゾンビを止めただけで終わらせるつもりはない。気合を入れてドラゴンゾンビの尾を引っ張ると、

 「うぉりゃー、聖女一本投げ!」

 ドラゴンゾンビの巨体が宙を舞った。しかし、何でもかんでも『聖女』を付ければよいというものではない。

 「嘘だろ……」

 大介が目を丸くする。間近で見ていても信じられない光景だった。

 そしてドラゴンゾンビが、轟音を立てて背中から地面に落ちた。

 「今だ! 『身体強化(フィジカルブースト)』百倍! 行け!」

 優太は、大介に向かって魔法をかける。短時間しか持続しない超強力な身体強化だった。優太がドラゴンゾンビを投げ飛ばすために使用したのもこの魔法である。

 「任せろ!」

 大介はその意図するところを即座に理解し、ドラゴンゾンビに駆け寄った。そして勇者の剣を大きく振りかぶる。

 「これで、決める!」

 大介の決意に呼応するかのように、勇者の剣が光を放つ。そして聖属性の魔力が溢れ出し、巨大な刀身を作り出した。

 これは勇者の剣に秘められた能力の一つ、相手の弱点属性に合わせた魔力の刃であった。

 「断ち斬れ―!」

 ――斬

 振り下ろされた勇者の剣は、ドラゴンゾンビの首を斬り落とした。


本章の山場その2。

その1は大気圏再突入でした。

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